緩和ケアを学ぼう会 特別編 2017 鶴岡・三川/がん患者さんの療養を地域で支える
【基調講演】ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド
~作成の経緯と今後の展望~
渡邊 清高さん
このたびは庄内プロジェクトの皆さんと、このような研修会を行わさせていただくことを本当に感謝申し上げます。鶴岡・三川のいろいろな職種の方が、がん患者さんを在宅で支えるということはどういうことなのかを、いろいろな方を交えて議論したいということでご提案いただいたのが、今年に入ってからくらいでしたでしょうか。
これには伏線がありまして、2014年に東京で「がん医療フォーラム」 というのを開催しました。それは、東京でがんの在宅医療について議論するという会だったのですが、そのときに地方からのモデルとして仙台でのモデル、鶴岡・三川のモデルについてお話しいただきました。そのとき私は、東京ではなく、ぜひいろいろな取り組みをされている現場でお話をうかがいたいと感じました。
その会に参加された鶴岡・三川の方たちから今日お話をうかがい、さらに現場でがん患者さんやそれ以外の方も含めて、療養支援に関わっておられる医療者およびそれ以外の方たちに集まっていただいて、こういった研修会ができることを、本当に楽しみにしてまいりました。
前置きが長くなってしまいましたけれど、『ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド』(2024年に新版を発行しました)について、こういった情報をつくることについて、またどういった背景でつくられたのか、どのように今回の研修会につながったのかも含めて、ご紹介させていただきます。
がん患者さんとご家族に役に立つ情報
1981(昭和56)年に日本人の死亡原因第1位はがんになりました。最新のデータですと、年間37万人の方ががんで亡くなり、1年間に86万人の方が新しくがんと診断されているという状況です。高齢化が進んでいることで、がんで亡くなる方が増えるということが見込まれています。
そうした中で、今から10年前、2007年にがん対策推進基本計画ができました。患者さんに知っていただきたい情報を提供するというプロジェクトが始動し、がんになったときに必要な情報として『患者必携 がんになったら手にとるガイド』、そして患者さんが医療者と会話する際に利用していただける手帳などをつくるプロジェクトをやってまいりました。これらは今でもウェブサイトでもご覧いただけますし、本として書店でもご購入いただけます。
これらはがんになったときに必要な情報をまとめたものですが、情報をつくるだけでなく、実際にどういった方が情報を必要とされるのか、どうすれば現場の患者さんに関わられるのかといったことを考えてまいりました。がんになったときだけではなく、例えば再発したときとか、治療が一段落して地域で、在宅で過ごされることになったときに、地域の情報が必要になるということを感じていました。
地域の療養情報のニーズと期待
病気や治療についての情報は全国どこでもそんなに変わりはないと思います。しかし患者さんが暮らしている地域で、具体的にどこに相談すればいいのか、どういう窓口があるのか、ということが大事です。そういった情報を、自治体ごとにまとめていただくという取り組みをして、そうした情報が、実際の現場の療養支援につながるということを感じていました。各地にがん相談支援センターなどが整備されていますが、個別のお困りごとに応じた、役に立てていただける情報をきっかけに、患者さんの在宅療養につなげることができるのではないかと考えてきました。
患者さんに必要とされる情報は、治療のことだけでなくて、お金のこととか、在宅での暮らしのこととか、いろいろなことがあります。情報だけで解決するというのではなく、患者さん、ご家族の支えになる専門的な方たちが関わって、患者さんが安心して在宅療養を選択できるようにという情報づくりのプロジェクトをやってきました。
これまでに全国のいろいろな地域で、「地域の療養情報」 がつくられました。現在では36道府県で、改訂も含めると延べ80冊以上がつくられています。これらはインターネットで全部見ることができます。主に都道府県単位でつくられていますけれども、このような情報が市区町村ごとでも整備されて、冊子という形ではなくても、インターネット上でさまざまな情報がつくられていると思います。
がん患者さんを支えるチーム医療では、患者さんもご家族もチームの一員として位置づけられます。在宅であれば病院における医療職種に加えて、さらに多くの職種、介護に関連する職種の方も含めて関わってこられると思います。また、その姿は地域ごとに異なると思います。鶴岡・三川では先駆的なプロジェクトを進めておられるわけで、さらに多くの職種へのひろがり、地域のひろがりが増えるということで、緩和ケアによる在宅療養モデルを、学ばせていただきたいと考えております。
在宅療養を支えるための情報を届ける
患者さんとご家族の方を在宅で支えるための連携ということでは、関わるさまざまな職種の方たちが、いろいろな情報を共有していくことが重要です。そうした情報を広げていただくことで、実際の患者さんの安心につながる、支援につながると思います。また患者さんとご家族をつなぐ、ということも考えてきました。そうしたことから、在宅療養に関する情報をウェブサイトでも発信しています。ご家族の方が、がんと診断されたときの意思決定に関わることが多いものですから、そういった状況をふまえて、ご家族向けに在宅療養を考えるための情報をウェブサイト(がんの在宅療養 https://plaza.umin.ac.jp/homecare/) で伝えることをしております。
在宅療養についていろいろ考えたいというときに、ご本人ももちろん重要ですが、一緒に住んでいらっしゃるご家族や周りの支援者の方がどう感じていらっしゃるのか、不安にどう向き合っていくのかが、とても大切になります。そうしたことから、ご家族向けの本として、「ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド」(2024年に新版を発行しました)をつくらせていただきました。わかりやすく、親しみやすい言葉で、イラストなども交えながら会話形式でお伝えするものになっています。
この本は書店で購入していただけますが、ウェブ上で無料で見ていただくこともできます。在宅療養ではどのような心構えをしておけばいいのかといった一般的な知識とか、周りの医療従事者、在宅の医師とか看護師といった方との関係づくりなど、家族としてあるいは支援者としての関わり方のヒントにしていただけるものです。
情報というのは、あるだけでなく、それが使われて役に立つ。現場で利用していただくことで、お役に立てていただけるものだと思います。この本の活用普及に向けたアンケートでは、もっとコンパクトだとよい、現場で使いたいというご意見もありました。そうしたご意見を踏まえて、本日の資料にも入れさせていただいた「がんの在宅療養」というパンフレットができました。これはできたばかりです。こうしたものを活用して、在宅療養はこんなふうにできますということを知っていただきたいということで、つくらせていただきました。ぜひこういった資料もご活用いただければと思います。
情報があるということだけではなくて、普及するためのこういった取り組みを、主催をするこうした場でご提案させていただく。そういった意味では、最初にお話しましたとおり、庄内プロジェクトについてさまざまなことを学びたいと思っております。後ほど、情報の共有と連携の重要性について、鶴岡・三川の在宅療養を支える専門職の皆さんに話し合っていただきますが、全国で同じようなお悩みを抱えていらっしゃる方たちへのメッセージがあれば、そうしたこともお聞かせいただければと思っています。