がん医療フォーラム 岩手 2016/気仙がんを学ぶ市民講座
【フォーラム】「支えたい」思いを支えたい ―チームで支える在宅療養―
田畑 俊之さん
在宅療養におけるケアマネジャーの役割
最近ではケアマネジャーという言葉を見聞きすることも多くなってきたのではないかと思いますが、その役割をご存じない方も多いかと思いますので、簡単にご説明させていただきます。例えばご家族ががんを宣告されたとします。がんにはいろいろな症状があり、治療のために入院されたり、通院だけで普段の生活を送れる方もいらっしゃいます。中には高齢や、体力の低下が原因で積極的な治療が行えない方もいらっしゃいます。状態にもよりますが、その場合は自宅での療養を行うことも多くなると思います。
ケアマネジャーは在宅療養、自宅での看取りのためのお手伝いをさせていただきます。まずご本人やご家族とお会いして、お話を伺うところから始まります。在宅療養を送る上で何が必要なのか、一緒に考えながら具体的な介護に関する計画を立てていきます。この段階では、介護保険を利用する前に、ご自宅で生活する上での課題や、ご家族の介護力などの事前評価を行わせていただき、利用できる介護保険のサービスをご説明するなどがあります。
実際に介護サービスを導入してその後の調整を行ったり、介護をする上でのご家族の悩みにその都度相談にのって問題や悩みの解決策を一緒に考えていったりするといった役割もあります。ケアマネジャーは在宅療養生活を送る上でのコーディネーター的存在、また相談者と考えていただければと思います。
患者さん、ご家族の不安を和らげる
ひとことで在宅療養といっても、患者さん、ご家族の思いは大変複雑だと思います。病気を告知された患者さんご本人のショックは当然のことですが、支えるご家族としても、「自宅で介護を続けることができるのか」「仕事を辞めなければならないのではないか」「通院のための移動手段がない」「もしも急に何かあったらどうしよう」「家族だけでは不安」「苦しむ姿を見たくない」などさまざまな思い、漠然とした不安が交錯すると思います。病院からご本人を家に帰すことがだんだん怖くなってくる、それは当然のことだと思います。
その不安を少しでも和らげるために、具体的にどんなことができるのか。その流れを、入院中の方を例にとって、介護保険の利用方法も含めてご説明します。
現在は入院中から在宅生活に戻るための支援が受けられます。岩手県立大船渡病院には地域連携室があって、自宅で介護が必要と思われる方は要介護認定を受けることを勧められます。そして市に要介護申請を出すと、患者さんやご家族の都合のつく日に認定調査を受けていただくことになります。これはご本人の状態を見て、要支援1から要介護5まで7段階の介護度のどの段階にあてはまるのかを決める調査です。この調査によって、介護度の認定結果が自宅に通知されます。
認定結果が出るまでには、少なくとも調査から1カ月くらいかかります。例えば申請が遅れたり、退院が早まるようなことで、認定結果を待てない場合もあります。調査を受けてからだいたい1週間くらいで、一次判定が出されます。多少の要件はありますが、一次判定が出た時点から段階的に介護サービスを利用していただくこともできます。必ずしも介護度の認定結果通知が出てからでないと、どのサービスも使えないというわけではありません。また介護認定を申請したときに、例えば病院からケアマネジャーを紹介してもらって、相談することもできます。
退院前に病院で、お医者さんや地域連携室、担当看護師さん、私たちケアマネジャーも出席して、今後自宅でどういうふうに療養生活を過ごすかという話し合い(カンファレンス)が行われます。ここで退院に必要な準備が検討されて、介護ベッドを用意するなどの準備が整うまでの時間を見積もって、退院の日程を決めていただきます。退院ありきということではなくて、ご自宅で受け入れる準備にかかる期間をみて、退院日程を決めていただくというようになります。
講演の様子
在宅療養を始めるためのお手伝い
カンファレンスでは、退院する患者さんの医療経過や、入院中の様子などに関する情報をケアマネジャーもいただけますので、退院してから使う介護サービスの事業所に、患者さんの様子を詳しく伝えることができるようになっています。退院するときに福祉車両の必要がないか、といったことも一緒に考えながらお手伝いをしています。
がんの方の在宅療養を支えるサービスには具体的にどのようなものがあるか、かいつまんでお話します。まずご家族が不安に思う通院、病状の悪化に関しては、ご自宅で医師の診療を受けていただくことができます。入院している病院から病状の引き継ぎを受けたお医者さんが、患者さんのご自宅を訪問して診療を行ってくださいます。訪問診療では普段の状態などをお話いただくことで、例えば痛みがひどいときなど、お薬の内容などを見直してもらえますし、医師からケアマネジャーに必要なサービスについての助言をいただくこともあります。
訪問看護は医師の指示を受けて、例えば点滴の管理や尿を排泄する管の交換など、医療的な対処を自宅で行ってくれます。また状態を観察してお医者さんに必要な報告をしたり、ご家族の医療的な相談にものったりしてくれます。体調が急変したら夜中でも訪問してくれますし、そうでなくても必要なアドバイスをしてくださいます。
車椅子や寝たきりの状態でもデイサービスに通えるのか、といったお問い合わせをいただくことがとても多いです。デイサービスだけでなく、そのほかの福祉サービスも、基本的にご本人とご家族の負担軽減、安心のためにという形で運営しています。施設に設備があり、ご本人が移動に耐えられるのであれば、リクライニング車椅子といって、背もたれが倒れる車椅子などで通所していただいて、入浴や食事の支援、介護を受けていただくことができます。
また寝たきりになって通所が難しい場合でも、訪問入浴によって、ご自宅で体調や痛みに合わせた入浴ができます。一時的に泊まるショートステイというサービスもありますが、ショートステイは病状が安定しない方は難しい場合もあります。それに代わるサービスとして、例えば県立高田病院では一定の手続きや主治医からの連携があれば、一時的に入院できる仕組みがあります。
そのほかにも、身体の機能をできるだけ維持、向上させるマンツーマンの訪問リハビリ、介護を代行する訪問介護もあります。飲み込みが悪い方のためのムース食を提供するお弁当屋さんなども増えてきています。介護保険以外の多くのサービスも在宅療養を支えています。
生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)の向上
在宅療養で患者さんとご家族を支える上で一番大事なのは、状態の把握、そして連絡・連携だと思っています。ご本人とご家族が今どういう状態で、何に困っているのか。それを関わっているサービスが把握して、連絡し合うことで、その都度ケアの内容を見直していくことが必要だと思っています。
患者さんご本人の思うところ、また支える人たちの最終的な目標というのは、その方の「生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)」の向上です。ご本人が希望する生活と人生の締めくくりを、いかにして迎えられるか、迎えていただくかということだと思います。人生の最期を自宅で迎えたい、ご家族も迎えさせてあげたいという気持ちが、その最たるものかと思います。
しかしながら、支える家族が疲れきってしまっては、ご本人が思うような生活につなげることはできません。私たちは、ご本人とご家族が二人三脚で行う療養生活を支えるために、地域の各サービスが同じ気持ちをもって手助けができるように、これからも一緒に考えていきたいと思っています。