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がん医療フォーラム 岩手 2016/気仙がんを学ぶ市民講座
【フォーラム】がん患者さんを在宅で支える ―病院の相談員の関わり―

阿部 遼介さん(岩手県立大船渡病院 地域医療福祉連携室 気仙がん相談支援センター/医療社会事業士)
阿部 遼介さんの写真
阿部 遼介さん
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がんの拠点病院における地域医療福祉連携室の役割

私が所属する大船渡病院の地域医療福祉連携室の役割からご紹介します。連携室には「前方連携」といって、開業医さんなど、ほかの医療機関からの紹介で岩手県立大船渡病院を受診していただく際に、スムーズに受診していただくための連携の役割があります。これは主に事務員が担当して、ほかの医療機関の紹介状や検査データなどのやりとり、予約の連絡などを行っています。

相談員である私が担当させていただいているのは、「後方連携」と呼ばれる、退院や転院をスムーズに行う連携を図ることです。相談員のほかに、退院のお手伝いを専門に行っている退院調整看護師も一緒に働いています。

退院先を選ぶお手伝い

退院のお手伝いとして、まず、退院先を決めることがあります。ここが一番難しく、皆さん悩まれます。退院先の選択肢は大きく分けて3つあります。1つ目は自宅。これは患者さんのご自宅だけではなく、ご家族の自宅、親戚のお宅なども含みます。2つ目は施設。介護保険施設でいえば、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などがあります。そのほかに障害を持つ方が入る施設もあります。

3つ目は病院です。大船渡病院は救急医療やがん治療を行う、急性期の病院です。転院先としては療養病院と呼ばれる病院があります。療養病院というのは、長期にわたって療養が必要な方が入院する病院で、医療療養と介護療養の二種類があります。簡単に分類すると、医療行為が必要な方は医療療養、医療はあまり必要ではなく介護が必要な方は介護療養ということになります。いずれも積極的な治療や延命を行わない病院です。入院期間は病院によってさまざまで、1、2か月というところもあれば、長くて半年というところもあります。

療養病院に転院したからといって、ずっと入院している必要はなく、大船渡病院からおうちに帰るために準備期間が必要といった場合に、一時的に療養病院に移ることもあります。退院先は大きく分けて3つと申し上げましたが、そのほかにリハビリ目的で転院する場合や、治療目的で大学病院など急性期病院に転院する場合もあります。

在宅療養のお手伝いの実際 ご自宅へ帰られる場合

ご自宅に帰られる場合のお手伝いの具体的な内容をお話します。入院をきっかけに看護や介護が必要な状態になる方が、多くみられます。その際には、それぞれの状況に応じた社会資源を紹介し、活用することで、患者さんやご家族の不安、負担を減らした状態でご自宅に帰れるような形を目指します。社会資源の一例が介護サービスです。例外はありますが、65歳以上の方であれば介護サービスを利用できる可能性がありますので、まず利用を検討します。障害がある方であれば、年齢によりますが、障害福祉サービスの活用を検討します。

退院後の医療について確認・調整することもとても重要になります。ご自宅に帰られた後にどの医療機関にかかるのか、今まで通り自家用車などによる通院が難しい場合にはどうするのか、具体的に確認していきます。車椅子生活や寝たきりになった患者さんが病院に通うときは、介護タクシーを使う場合もあります。介護タクシーは車椅子やストレッチャーで寝たまま利用できます。介護タクシーを利用して通院される方もたくさんいらっしゃいますが、それでも通院するのが大変だという場合には、開業医の先生に自宅に来てもらう訪問診療があります。

一番大切なことは、おうちに帰ってから困らないように、入院している間に退院後の生活をイメージし、必要なサービスを検討することです。トイレに手すりがあったほうがいい、ご自宅のお風呂は深くて大変だから、デイサービスなどに入浴に行こうか。食事は朝と夜は家族が作れるけれど、昼はどうしたらよいか、など。ご家族が対応できないところは各種のサービスを利用できるようにして、退院後も継続して医療が受けられるように、すべてを準備してから、おうちに帰れるようにお手伝いをしていきます。

講演の様子の写真
講演の様子

在宅療養のお手伝いの実際 施設に入所する場合

患者さんの退院先となる施設の種類はたくさんあります。介護保険制度で入所できる施設は2種類あります。1つ目は特別養護老人ホーム、2つ目は介護老人保健施設です。障害者総合支援法に基づく施設もあります。そのほかに有料の老人ホームなどもあります。こうしたさまざまな施設がありますが、どういった施設が自分たちに適しているのかというのも、なかなか難しいと思います。患者さんの状態に応じて、対象となりそうな施設について私たちから説明をさせていただきます。

どこの施設の場合にも、入りたいと希望したら申し込みが必要になります。情報のやりとりは私たちでもできますが、申し込み自体はご家族でないとできません。また、せっかく申し込みをしても、入所に至るまでに1か月から数か月、長い場合は年単位で順番を待つことも珍しくありません。ただ申し込みをしないと、入所に至ることはありませんので、入所を希望する場合には、まず申し込みをしておくことが必要です。

申し込みをしてから入所するまでの期間がどのくらいなのかは、誰にもわかりません。長くかかるであろう入所までの期間をどのように過ごすのかについても、一緒に考えていきます。順番待ちの方法は基本的に2つあります。1つはおうちで暮らして入所まで待つ。もう1つは療養病院に転院して待つことです。自宅で待機する場合は、さきほどお話ししましたようなお手伝いをします。

療養病院への転院の場合の支援

療養病院への転院の場合は、どこにどのような病院があるのかを、まず説明させていただきます。気仙地域の療養病院は陸前高田市にある希望ヶ丘病院です。その次に近い病院は釜石市、一関市、奥州市などの地域になります。療養病院の説明を聞いていただいて、患者さんご家族に転院したいと思う病院を選んでいただき、そこに転院できるように相談を行っていきます。

病気や治療について患者さん、ご家族の希望などを伝え、転院を受け入れてもらえるかどうか、その病院に相談します。多くの病院では転院の相談をする際に、実際にご家族に行っていただいて、面談や施設見学をしていただきます。転院相談先に伝えた情報や面談などの情報をもとに、受け入れできるかできないかを先方の病院が判断します。受け入れできると連絡がきた場合には、日程調整になりますが、ベッドが混んでいる場合もあります。数か月待つということもありますので、その場合は待機する間どうするのかを検討しなければなりません。

残念ながら受け入れできませんと言われることもあります。その場合は地域を広げるなど、ほかの病院を探していくことになります。転院が決まった際には、移動手段なども確認させていただいています。必要であれば手配させていただくこともあります。

気仙がん相談支援センターでの相談支援

私たち病院の相談員には、そのほかにも役割があります。相談支援業務全般と、気仙がん相談支援センターとしての役割です。相談内容は問いません、あらゆる相談を受け付けています。例えば病院では医療費に悩まれる方が多いのですが、高いものですので、それが毎月かかるとか、いつもより高い、急に病気になって出費で困るとか、いろいろな不安や悩みがつきものだと思います。公的な制度を利用するだけでも負担軽減につながることがありますので、まずは相談してみてください。

そのほか生活に関すること、病気に関すること、内容は問いません。通院のついでに相談室に寄っていただくのでもよいです。困っている知り合いやご家族の方がいらっしゃいましたら「病院の相談室に行ってみたら」と教えてあげてください。大船渡病院の相談室は「気仙がん相談支援センター」を兼ねています。これは大船渡病院だけのものではなく、気仙地域のがん相談支援センターですので、大船渡病院に通院していなくても、気仙地域の方であればどなたでもご利用いただけます。

相談室を利用していただくにあたって、秘密は守られます。必要なことでも、言ってほしくないことがあれば、言ってほしくないと教えてください。相談には費用はかかりません。話したくないことは、話していただかなくてもかまいません。相談員だけで解決できることは限られていますが、患者さんやご家族が抱えられている不安や問題の解消・解決を目指して、今日の講師の方々をはじめとする専門職の方たち、ほかの医療機関やケアマネジャーさん、行政職員の方、施設職員の方など、さまざまな方々と連携しながら相談支援をさせていただいています。

何でも解決しますと言うつもりはありませんが、まずは、何でもご相談ください。中には解決できないこともあるかもしれませんが、不安が解消できるように、問題が解決に向かうように、状況が改善するように努力しています。

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掲載日:2017年2月6日
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