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がん医療フォーラム 岩手 2016/気仙がんを学ぶ市民講座
【フォーラム】松原苑訪問リハビリテーションの取り組み ―在宅でのリハビリの実際―

安達 健太郎さん(医療法人勝久会 松原苑 訪問リハビリテーション/理学療法士)
安達 健太郎さんの写真
安達 健太郎さん
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医療・介護における訪問リハビリテーション

理学療法士が訪問リハビリテーションでどのようなことをしているか、お話ししたいと思います。医療法人勝久会は大船渡施設と高田施設があり、職員数は490名です。気仙管内で唯一の介護老人保健施設(老健)と、併設する透析センター、有床診療所を拠点にグループホーム、小規模多機能ホームなどの地域に根差した医療・介護施設を運営しています。リハビリ部門の業務内容は大きく分けて、施設に入っている方の入所リハビリ、通いでリハビリを行う通所リハビリ、自宅で行う訪問看護・訪問リハビリ、そのほか外部の委託事業などがあります。普段、私は理学療法士として訪問リハビリに従事しています。

理学療法士の役割と訪問リハビリ

理学療法士の役割の一つとして、基本的動作能力の回復があります。基本的動作能力とは寝返り・起き上がり・座る・立つ・歩くことを意味しています。もう一つの役割は痛みを緩和することです。医学的な根拠に基づいた運動指導や電気治療などによって、痛みを緩和する方法があります。訪問リハビリを開設して5年がたちますが、松原苑の訪問リハビリの関わり方や、老健の訪問リハビリ、在宅でのがんのリハビリについて、症例を通してご紹介します。

訪問リハビリについて意識していることは、次の3点です。まず、個々の目的を明確にすることにより、機能回復に偏るのではなく、日常生活の動作や、生活の質を高めるための助言の糸口をみつけます。次に、多職種が連携して関わること。多職種とは医療者とセラピスト、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などです。3点目はご家族、ご本人、療養に関わる多職種の人たちに、患者さんについての評価・助言を伝えて、共同して患者さんの日常生活を維持するためのリハビリを行うことです。さまざまな職種が患者さん個人の生活を一緒に考えて、よりよい生活を支援するように心がけています。

ポイントとしては、自立した生活を目指して、生活の活動範囲の拡大を考えながら、自主訓練指導を中心に行っています。訪問リハビリが介入しなくても生活の中で活動量が確保できるアプローチが重要で、機能訓練だけでなく、生活リハビリを考えなければなりません。

老健の訪問リハビリの強みとして、多職種と連携が取りやすいことがあります。トップダウンのピラミッド型ではなく、多職種が連携しやすいドーナツ型の環境であると考えます。ある特定の職種の意見だけでなく、利用者を中心とした利用者目線のアプローチをしています。医療モデルのピラミッド型、生活モデルのドーナツ型、さまざまなアプローチの方法があります。患者さんの生活を考えながら支援を行う場面では、ドーナツ型の連携が大切になります。

講演の様子の写真
講演の様子

がん患者さんのリハビリテーションの考え方

がん患者さんのリハビリテーションは、患者さんの残っている能力の維持・向上、今までと変わらない生活を取り戻すことを支援することによって、生活の質を大切にしようとする考えに基づいて行われます。がん患者さんのリハビリは、がんと診断されたときから、あらゆる状況に応じて行われます。

予防的なリハビリとして、がんと診断されてから早期に開始し、手術や抗がん剤、放射線治療の前に行い、機能障害の予防を目的としたものがあります。回復的リハビリとして、治療が始まってから機能障害、筋力や体力の低下がある患者さんに対して、最大限の機能回復を図ります。次に、治療や療養の時期における維持的リハビリがあります。がんが増大し機能障害が進行しつつある患者さんに、運動能力の維持や改善を試みます。自助具の使用や動作のコツを考えたり、筋力低下の予防などを行います。

さらに病状が進んだ患者さんに対する緩和的リハビリがあります。積極的な治療が受けられなくなった段階でも、緩和ケアと同様に緩和的リハビリも、余命の長さに関わらず、患者さんとご家族の要望を十分に把握した上で、できる限り可能な日常の動作を考えて、生活の質を高く保てるように援助します。

訪問リハビリテーションの事例

訪問リハビリテーションで実際に関わった患者さんの例をご紹介します。事例1の患者さんは60歳代男性、脳出血の後遺症がある肺がんの方です。訪問リハビリでは、できるだけベッドから離れて過ごしてもらうために、歩いてもらうように支援しています。ご本人だけでなく、ご家族にも介護の指導を行っています。また呼吸状態や生活の状況、リハビリの程度などについての情報があったときには、その都度医療機関や付託事業所に連絡し、情報の共有を図っています。

次の事例は70歳代女性、急性骨髄性白血病の方です。この方は腰痛や疲労の訴えがあり、疼痛緩和のストレッチや腰痛体操を行いました。ベッド上の生活でしたが、日常生活の範囲の拡大を図り、ご本人の希望として台所で料理がしたい、歩いて庭を散歩したいという目標があり、それに向けて訓練を行いました。最終的には台所でご自身の朝食をつくることができたと喜ばれていました。

次はパーキンソン病の70歳代の男性です。患者さんの希望として、転ばないように歩けるようになりたいとのことでした。ご家族からは、部屋で寝ている時間が長いために身体機能の低下、また認知症になるのではないかと心配する訴えがありました。訪問リハビリ介入時はトイレに行くとき以外はベッド上生活でした。松原クリニックの訪問診療による服薬管理や精神面のケア、訪問リハビリによる自主訓練指導や、生活範囲を拡大する生活リハビリを行い、3年半後には一人での散歩、庭の手入れ、車に乗せられての買い物や旅行など、生活範囲の拡大が図れたため、訪問リハビリを終了しました。

リハビリは在宅療養・介護の助けになります

がんの患者さんに限らず、もし在宅療養でリハビリを受けたい方がいらっしゃいましたら、地域のかかりつけ医やケアマネジャーさんに相談してください。リハビリは介護の助けにもなります。その方に合った介護の方法や、患者さんが動きやすいように手すりをつけるなど、生活環境を整備するためのアドバイスもできます。

リハビリだけでなく、理学療法士は介護者が自宅で看病する際の介護負担軽減につながるアドバイスもできます。自宅で療養する際には、介護保険制度の各種サービスなども積極的に活用していただきたいと思います。リハビリテーションによって、理学療法士もできる限り在宅で生活をする患者さん、ご家族のお手伝いができたらと考えています。

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掲載日:2017年2月20日
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