腹腔内化学療法とは
抗癌剤を腹腔*の中に直接注入する治療法を腹腔内化学療法といいます。広い意味の腹腔内化学療法には、抗癌剤を温めて注入する腹腔内温熱化学療法や抗癌剤をエアロゾル化して注入し圧力を加える腹腔内加圧エアロゾル化学療法などもありますが、本サイトでは温熱や加圧を伴わない腹腔内化学療法についてご説明します。
(*腹腔:腹壁で囲まれ、腹膜で覆われた空間。内部に胃や腸などの臓器が位置しています。)
腹腔内化学療法の方法
腹腔ポート
・腹腔内化学療法の開始に先立って、腹部の皮膚の下に抗癌剤を注入するための腹腔ポートを留置します。腹腔ポートは本体とカテーテルからなります。本体は直径約3㎝のチタンとシリコンでできた器具で、皮膚の上から針を刺す際の受け皿となります。カテーテルは直径約5mm、長さ約30㎝の軟らかい管で、筋肉を貫いて腹腔の中に留置され、薬の通り道となります。
・腹腔ポートは通常審査腹腔鏡*と同時に行われます。(*審査腹腔鏡:全身麻酔下に腹部の壁に小さな穴を開け、カメラで腹腔内を観察する検査)
・腹水がたまっている患者さんでは、腹腔ポートの代わりにカテーテルを留置して、治療に使用することがあります。
腹腔内投与の実際
・腹腔ポートに針を刺し、生理食塩水500mlを1時間かけて注入します。同時にアレルギーや吐き気を予防するための薬を点滴静脈注射します。
・次に生理食塩水500mlに溶かしたパクリタキセルを1時間かけて注入します。同時にパクリタキセル(または他の抗癌剤)を点滴静脈注射します。
計1,000mlの生理食塩水は腹腔の全体に広がり、パクリタキセルが腹膜播種と直に接することになります。
・患者さんの状態にもよりますが、通常は外来通院で行うことができる治療です。また、投与の後に生活や食事などの制限はありません。
腹腔内化学療法の副作用・合併症
・抗癌剤の腹腔内投与により、まれに軽い腹部膨満感がみられることがあります。
・腹腔ポートに関連した合併症として、腹腔ポート感染や腹腔カテーテル閉塞などがみられることがあり、ポートの抜去や交換が必要になることがあります。
腹腔内化学療法の特徴
腹腔内化学療法のメリット
・腹腔内化学療法では、投与された抗癌剤が腹腔内全体に広がり、高い濃度のまま腹膜播種と直に接します。一般に抗癌剤は、多くの量・高い濃度の薬が癌に届き、その状態が長く続くほど、効果が高くなります。
(一方で、全身化学療法では、投与された抗癌剤のごく一部しか腹膜播種に到達しません。腹膜の血管は非常に細く、腹膜を流れる血液は約2m2の広さの腹膜全体で全身を循環する血液の1~2%に過ぎません。)
・パクリタキセルは、シスプラチンやマイトマイシンなどの薬剤と比較して、腹腔内投与後に非常に長い間腹腔内にとどまります。以前私たちが実施した臨床研究では、腹腔内の薬の濃度は3日間以上も有効な値を超えていました。
・腹腔内に投与されたパクリタキセルは少しずつゆっくり吸収されますので、吐き気、食欲不振などの全身的な副作用はほとんどありません。
腹腔内化学療法の限界
・腹腔内に投与された抗癌剤は、腹膜播種の表面から中に染みこんでいきますが、1mm以上の深いところまでは薬は届きません。また、胃の原発巣、リンパ節の転移などには効果はありません。
・手術後の患者さんなど、腹腔内に癒着がある場合は、薬が届かない部分があることがあります。
全身・腹腔内投与併用化学療法
前述の腹腔内化学療法のメリットと限界を考慮すると、パクリタキセル腹腔内投与を全身化学療法と併用して繰り返すことにより最大の治療効果が得られるものと考えられます。
パクリタキセル腹腔内投与の効果
パクリタキセル腹腔内投与併用化学療法により、治療前には腹腔内全体に広がっていた腹膜播種が見えなくなったり、非常に小さくなったりすることがあります。
実際に治療を受けられた3名の患者さんの写真です。治療前には多数の腹膜播種が見られていましたが(上段)、数か月間の治療の後にはほとんど分からないくらいに小さくなっています(下段)。
※カーソルを合わせると画像が拡大されます。
腹腔内化学療法の紹介記事
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Ishigami H, Kitayama J, Kaisaki S, et al. Phase II study of weekly intravenous and intraperitoneal paclitaxel combined with S-1 for advanced gastric cancer with peritoneal metastasis. Annals of Oncology 2010 Jan;21(1):67-70.