第10回 公判傍聴記 平成19年11月30日
9時30分開廷、本日は、弁護側証人として宮崎大学医学部産婦人科 池ノ上 克(ツヨム)教授。
平成13年から本年まで16年間で前置胎盤?で癒着胎盤であった症例は12例(4700件の分娩のうち)あったと証言。前壁に癒着胎盤があった症例は10例で、後壁に癒着があったものは1例(4700の分娩に1例)であったと証言した。12例の癒着胎盤の中で子宮摘出したものは9例あり、9例中、胎盤剥離をせず子宮を摘出したものは5例であり、これらは開腹後子宮前壁に穿通胎盤と明らかに癒着胎盤とわかった症例と、術前の超音波診断で強く癒着胎盤が疑われ、子供さんが二人以上いてこれ以上子供さんを希望していない症例に子宮を摘出したと証言した。
胎盤を剥離後、やむをえず子宮を摘出したのは4例、子宮摘出前に胎盤を剥離するときは、途中で胎盤剥離を中止せず、すべて胎盤剥離を完了してしまうと証言、その方が子宮収縮が起き、出血が少なくなり、また止血操作がやりやすいことを説明した。逆に、もし胎盤の剥離操作を途中で止めて子宮摘出に移ると、出血が非常に多くなり、手術操作もやりにくい、そのために胎盤剥離を完了すると証言した。
術前診断について、超音波診断で、?クリアゾーンの消失、?プラセンターラクネの存在、?ブラッダーラインの途絶の3つの所見について検討すると、これら3つの所見がすべて存在した症例ではすべて癒着胎盤であったが、1又は2つの所見のみの場合はすべて癒着胎盤ではなく、術前の癒着胎盤の診断は困難であることを示した。後壁の癒着胎盤は超音波診断はできないこと、そのためMRIの有用性について検討したが現在の段階では、超音波診断を凌駕するまでの検査法ではないことを証言した。
胎盤剥離には、帝王切開症例はすべて用手剥離を施行しているが、剥離困難の場合に局所的にキュレットを使用していること、証人本人はクーパーを使用したことはないが、大阪の国立循環器病センターの池田先生はクーパーを使用していると聞いているし、また、Operative Obstetricsという教科書にも記載があることも証言した。
前置胎盤?では、子宮下部に胎盤が付着しているため、胎盤剥離後、その場所の子宮収縮は体部と比べて悪く、出血がどうしても多くなる。妊娠末期の子宮には、1分間450〜600 mlの血液が流れているので、短時間に大量の出血が起こることはしばしばあることも証言した。今回の症例は、出血量が8000 ml以上になった時にDICになった可能性が高いことを強調した。
今回の件で、加藤医師が応援を頼まなかった事について、止血操作のためになしえる処置が全て行われていること、他の産婦人科医師を頼んでも、それ以上できることはなく、一連の加藤医師の医療行為で、間違ったことはなかったと証言した。
午後は、13時15分より、検察側から池ノ上教授に尋問があった。午前中に証言したことを繰り返して尋問した。術中超音波検査の意義、および術前の超音波検査の写真について、キュレットの使用のこと、応援医師を頼まなかったことの是非、剥離を途中で中止して子宮摘出に移るべきであったのではないか、と尋問したが、午前中と同じ答えを、池ノ上教授は検察側に説明した。
とくに、DICについて、DICとはどのような病態なのか、また産科DICスコアについての尋問があったが、池ノ上教授は医学生に講義するように答えた。産科DICを作成したのが池ノ上教授であることを、尋問した検事は知っていたのであろうか。午後の検察側の尋問は迫力なく、午後4時10分頃に終了した。
公判後、期日間整理が行われ、弁護側が申請していた、医師法21条について、東京大学大学院法学政治学研究科の樋口範雄教授の証人喚問は拒否された。従って、今後の予定は以下の如く決まった。
12月21日 被告人尋問
1月25日 書証調べ
3月14日 論告求刑
5月9日 最終弁論 で結審する予定である。
文責 佐藤 章
第10回公判 傍聴記詳報 (2007/11/30)
(9:30開廷)、写真撮影・加藤医師入廷後、9:35証人入廷
裁判長: 氏名は。
証人: 池ノ上克です。
裁判長: 職業・経歴は記載の通りですね。
証人: はい
証人宣誓
【弁護側尋問】
弁護1: 兼川より質問します。まず経歴についてお尋ねします。経歴は略歴書に記載の通りですか?
証人: はい
弁護1: 現在は宮崎大学産婦人科の教授ですね
証人: はい
弁護1: 医学部長も兼任している
証人: はい
弁護1: 平成15年4月から平成17年3月は、日本産婦人科学会周産期部門の委員長を務められたのですね
証人: はい
弁護1: 証人のご専門はなんですか
証人: 産婦人科全般、特に周産期です
弁護1: 昭和45年鹿児島大学産婦人科に入局の後、静岡県の病院で外科、国立大村病院の小児科や国立がんセンターの麻酔科で研修されたのですね
証人: はい
弁護1: また、南カリフォルニア大産婦人科、カリフォルニア大アーバイン校産婦人科に留学されたということですね
証人:はい
弁護1: そして平成3年、宮崎医大(元宮崎大)産婦人科教授に就任されたということでよろしいですか
証人: はい
弁護1: 教授就任前は約20年間、鹿児島市立病院に勤務されていたということですね
証人: はい
弁護1: 鹿児島市立病院での立場はどのようなお立場でしたか
証人: 最終的には産婦人科部長です
弁護1: 平成3年、宮崎医大の教授になられた時は、どのような経緯でしたか
証人: 全国公募に応募し、教授会で承認されました
弁護1: 先生のご研究テーマは
証人: 周産期医療全般、特に胎児・新生児管理と、ハイリスク妊娠管理です
弁護1: 具体的にはどのような内容ですか
証人: 子宮内胎児低酸素症、胎児仮死、(以後書き取れず)・・・です。
弁護1: 先生は、産婦人科医として約36年間勤められているが、鹿児島市立病院での分娩取り扱いは何例くらいでしたか
証人: 病院ではこの頃1年間に1000~1800例の分娩を取り扱っていました。その中で自分が直接あるいは間接的に関与したのが何例かはわかりませんが。
弁護1: 間接的な関与とはどのようなことですか
証人: 最終的な責任者の立場である時期が長かったので、最終的なコンサルテーションが来るので、そういうことです。
弁護1: 宮崎大学ではいかがですか
証人: 年間300例程度に関与しています
弁護1: 宮崎大学で、扱われた分娩を計算しますと、300例×16年弱で4700例程度となりますか
証人: およそ、その程度です
弁護1: 先生が関与した分娩中帝王切開の症例はどのくらいありましたか
証人: 鹿児島市立病院・宮崎大学ともに周産期センターであり、30~40%が帝王切開でした。
弁護1: 周産期センターとはどういうものですか
証人: 地域の参加医療システムの拠点でリスクの高い患者が送られてくる。
弁護1: 周産期センターではハイリスク患者を扱うということですか
証人: はい
弁護1: 帝王切開率30~40%というのは、鹿児島市立病院・宮崎大学ともにそうですか
証人: 宮崎大学のほうが鹿児島市立病院より10%くらい高いと思う。鹿児島が30%、宮崎が40%強と思います
弁護1: 通常の帝王切開率はどのくらいですか
証人: 宮崎地域の病院の分娩例で、リスクの高い患者をはずした5500例で検討した結果は8~9%でした。
弁護1: ハイリスク・ローリスクを足して、全体ではどれくらいですか
証人: それが30~40%で、うちローリスクのものを抽出すると8~9%ということです
弁護1: 鹿児島市立病院・宮崎大学のような周産期センターでは30~40%でよいですか
証人: はい
弁護1: 先生は、帝王切開の経験は多いと伺ってよいですか
証人: 一般の産婦人科医よりは多いです
弁護1: 先生のご経験では、前置胎盤?は何例くらい経験されましたか
証人: 宮崎大では46例です
弁護1: その数は、多胎妊娠ははずしたものですか
証人: はい。純粋に前置胎盤?のものだけです
弁護1: 宮崎大学での分娩症例 約4700例中、癒着胎盤は何例ありましたか
証人: 12例です
弁護1: 先生がご経験になった症例中、前壁の癒着胎盤はどれくらいありましたか
証人: 10例です
弁護1: 他の癒着胎盤はいかがですか
証人: 後壁癒着が1例、側壁癒着が1例です
弁護1: つまり、後壁例は4700例中1例ということですか
証人: 宮崎大学ではそうです
弁護1: 証人が今お示しされた、宮崎大学でのデータはいつから取っているものですか
証人: 私が赴任した平成3年からです
弁護1: どんなデータですか
証人: 産科診療に関するフルデータ。母体に関しては、何週で生まれた、何人生まれた、合併症などです
弁護1: 画像もその中に含まれますか
証人: もちろんです
弁護1: 癒着胎盤は何%くらいの頻度ですか
証人: 本当の意味での頻度は難しいが、宮崎県内の分娩が年間約10000例で、うち2例前後が本学に来るので、おそらくそれくらいではと思います
弁護1: 10000人に2例くらいという感触ですか
証人: そうです
弁護1: 癒着胎盤と前置胎盤?と帝王切開の関係はいかがですか
証人: 癒着胎盤はどういう妊娠でも起こりうるが、前回帝王切開で今回前置胎盤?のときに問題になります。というのは、前回帝王切開の傷が瘢痕になっていたりすると、そこに胎盤がかぶさると、癒着胎盤の頻度が高くなる。そのため前回帝王切開と今回の胎盤の位置が重要なのです。
弁護1: 前回帝王切開創は前壁部分にあるのですか
証人: 前壁の子宮体部です
弁護1: 臨床上、癒着胎盤の診断はどのように行いますか
証人: 病理学的と臨床的な診断がありますが、後者は帝王切開で子宮を見て、腹膜(の異常?)、異常血管、胎盤剥離での出血、血液が固まりにくいなどの症状を総合して癒着胎盤と判断します。
弁護1: 臨床的診断は手術を始めてからわかるのですか
証人: 術前の画像も参考にするが、手術経過の所見で総合的に判断します
弁護1: 胎盤の用手剥離が困難あるいは不可能といったことで判断しますか
証人: 胎盤の用手剥離が困難・不可能ということは実際にはあまり関係ありません
弁護1: 関係ないとは?
証人: 胎盤を剥離をしないということはまずないので、経過の中であまり関係ないのです
弁護1: 癒着範囲が広いか狭いかは、関係しますか
証人: 剥離を始めたときにはわからない。臨床経過の剥離をはじめ(以後書き取れず)
弁護1: (書き取れず)
証人: 広さ・強さは指先である程度はわかりますが、それと臨床的診断については1対1ではないのです。剥離困難でも出血しないということもあります。全体の経過を総合的に判断します。
弁護1: するっと剥離できたところを癒着と判断することもあるのですか
証人: (書き取れていないが、「はい。」だと思う)
弁護1: 癒着胎盤12例中、子宮を摘出したのは何例ですか
証人: 胎盤剥離を行わずに子宮摘出を施行したのが5例、胎盤剥離して子宮摘出に至ったのが4例で、合計9例です
弁護1: 胎盤剥離を行わずに子宮摘出を施行した、その5例はどういうグループですか
証人: 12例中、術前所見や次の妊娠を望んでいないという状況、術中所見で胎盤が子宮表面に見えているなど、最初から胎盤を剥離しない方がいいだろうと判断した5例です。残り7例は胎盤を剥離しました。うち3例は子宮温存できましたが、4例は子宮温存を試みましたが、出血が多く子宮を摘出しました。
弁護1: 胎盤剥離して子宮摘出したもののうち、途中で胎盤剥離をやめたものはありますか
証人: ありません。全て胎盤剥離は完了しています
弁護1: 胎盤の剥離を中止しないのはなぜですか
証人: 胎盤の癒着の有無にかかわらず、その正常部分はすでに剥離されており、そこからの出血が進んでいくからです。
弁護1: 何故全て胎盤を取るのですか
証人: 先ほどお話ししましたように、癒着胎盤のうち3例は子宮が温存できていますし、胎盤を摘出すれば、多くは子宮筋層が収縮し、血管が押しつぶされて止血の機序が進みます。また、子宮摘出は新たな操作であり、胎盤が残っていると手術が非常にやりにくいし、胎盤剥離を途中でやめても出血が止まるということは全く期待できません。
弁護1: (質問書き取れず)
証人: 胎盤が残っているので子宮収縮しづらく、出血は止まりにくいのです
弁護1: (質問書き取れず。用手剥離についてと思われる)
証人: 剥離中に胎盤と子宮壁の間に手を入れ、「じょりじょり」とやっていく。「がちがち」ということはめったになく、剥離中に癒着を判断できることはまずありません。剥離後の出血で判断します。
弁護1: 剥離後の出血が診断の大きなファクターなのですか
証人: はい
弁護1: 胎盤剥離後の出血はよく起こるのですか
証人: 正常でも起こります
弁護1 : 癒着であったかもしれないが、それがわからなかった例はありますか
証人: 帝王切開手術にしろ、経膣分娩にしろ、当然あります
弁護1: 後でわかるとはどういうときですか
証人: 胎盤娩出後、胎盤の母体面を見て欠損部を確認した時です。ただし、出血していなければそのままにします。出血していれば止血処置を行います。
弁護1: 先生が先ほどお示しになった宮崎大学のデータについて、弁11号証「前置胎盤?における癒着胎盤の画像評価」という研究発表の資料がありますが、見たほうが証言しやすいですか
証人: はい
(モニタ上に供覧)
弁護1: これはどういう資料ですか
証人: 地域の研究会に発表したスライドです
弁護1: 別に論文にもしているということですか
証人: はい。日本産婦人科(なんとか・・・)誌に発表しています。
弁護1: いつ頃発表されましたか
証人: 2007年です
弁護1: 研究の対象となった症例はどのような症例ですか
証人: 宮崎大学産婦人科で扱った前置胎盤?の症例です
弁護1: いつからいつまでのデータですか
証人: 1993年~2006年7月までです
弁護1: この研究目的はどのようなものでしたか
証人: 画像、特に超音波診断と分娩後に癒着胎盤と診断されたものの関係というか、超音波診断の正確性について調査しました
弁護1: 対象はどのような症例ですか
証人: 前置胎盤?52例中、多胎妊娠や妊娠が早く終わったものをはずした46例です
弁護1: 前回帝王切開後の前置胎盤?の症例は何例ですか
証人: 13例です
弁護1: この間の分娩3757例中46例を検討されたということですね
証人: はい
弁護1: どういう項目を分析されましたか
証人: ヒストリーとの関係。エコー所見、一部はMRI所見、最終的な病理診断です
弁護1: 前置胎盤?46例中癒着胎盤は何例でしたか
証人: 7例です
弁護1: かいつまんで結論を言うと、どのような結論でしたか
証人: 前置胎盤?46例中、術前エコーで癒着胎盤が疑われる所見が1つでもあるものが13例、このうち実際に癒着があったものは7例でした。残り6例は術前エコー所見があっても癒着胎盤ではありませんでした
弁護1: その所見とはどのようなものですか
証人: 大きく3つであり、?clear zoneの消失、?placental lacunae、?bladder lineの途絶
(ここで、スライドの資料を見ながら説明していたところ、裁判長から「これは不同意の証拠ですよね」という指摘があり、写真などがわからなくてもわかるように話すように指示が入る。以後所見の説明)
弁護1: 46例中、これら3個の所見のうち1つを認めたものは何例でしたか
証人: 5例です
弁護1: そのうち癒着胎盤だったものはありましたか
証人: ありません
弁護1: 所見が2つあったものはありましたか
証人: 1例です
弁護1: 癒着胎盤はありましたか
証人: ありません
弁護1: 3つの所見が揃っていたものは何例でしたか
証人: 7例です
弁護1: うち癒着胎盤は何例でしたか
証人: 7例です
弁護1: この結果をまとめると、どのようになりますか
証人: 3つの所見が揃っていれば、癒着胎盤の可能性が極めて高いので、そういう心構えで手術に臨む。揃っていなければ(以後書き取れず)。
弁護1: (書き取れず)
証人: 1つまたは2つのエコー所見だけで子宮摘出を決定してしまうと、不要な子宮摘出をされてしまうものが約半数もあります。
弁護1: この研究でMRIを行ったのは何故ですか
証人: MRIがエコーを凌駕するような情報を与えるかという研究目的で行いました
弁護1: この研究でMRI検査が行われたのは、1999年からですか
証人: はい
弁護1: どういう症例で検査されましたか
証人: MRI検査の正確性が確立しておらず、また、一般化されたものではないし、保険診療も認められていない。そこで、エコーで癒着胎盤が疑われた中で同意を得られた患者さんに行いました。
弁護1: 疑われるとはエコー上どういう所見を認めたものですか
証人: 先ほどの3つのうち1つ以上の所見を認めたものです
弁護1: そのうち何例でMRIを施行されたのですか
証人: 8例です。
弁護1: 前置胎盤?でMRIは一般的な検査ですか
証人: 一般的ではありません
弁護1: なぜですか
証人: MRI所見の正確性は確立されておらず、一般化されていないからです
弁護1: MRIの癒着胎盤の所見とはどのような所見ですか
証人: エコー同様、子宮筋層と胎盤の境界(以後書き取れず)
弁護1: そういう所見は何例に認めましたか
証人: 7例です
弁護1: うち癒着胎盤は何例ですか
証人: 4例です
弁護1: これらの研究結果から何が言えるのですか
証人: 症例が少ないのではっきりとは言えないが、MRIがエコー以上の情報を与えるとは限らないということです
弁護1: 46例の中で、癒着胎盤の場所はどこですか
証人: 全て前壁です
弁護1: 胎盤は通常どこにあるのですか
証人: 前壁・後壁が半々です
弁護1: 半々のうち(以後書き取れず)
証人: 日常臨床では、前壁付着でないと診断できません。後壁付着については現状では診断できないのです。後壁付着の癒着胎盤は突発的な、エマージェンシーの状況です
弁護1: 後壁付着の癒着胎盤もありますね
証人: あるが非常にまれ。(途中書き取れず)いくつかの散発的な論文はあるが、コンセンサスが得られているわけではないです
弁護1: 前置胎盤?の患者で後壁に癒着胎盤が発生しやすいということはありますか
証人: いや、必ずしもそんなことはありません。あくまで前回帝王切開が問題です。後壁に関しては言えません
弁護1: 後壁の癒着胎盤を診断しにくい理由は、どのような理由ですか
証人: 超音波が後壁に届かないからです
弁護1: MRIでは、いかがですか
証人: 今後期待する部分です
弁護1: 今回の先生のご鑑定についてうかがいます。最高裁の医事関係訴訟委員会に鑑定人等候補者選定により、200数十名の鑑定団があり、ここに登録されているのをご存じですか
証人: はい
弁護1: それはどの分野でですか
証人: 周産期医療です
弁護1: 他には、どういう分野がありますか
証人: (産婦人科領域では)産期、腫瘍、内分泌があります
弁護1: 腫瘍分野で先生は登録はされていますか
証人: いや、されていません
弁護1: どういう人が(鑑定人に)登録されているのですか
証人: その分野の専門家です
弁護1: これまで鑑定依頼はありましたか
証人: 年間2件くらいです
弁護1: (書き取れず)
証人: 意見書なども含めれば(以後書き取れず)
弁護1: 刑事事件の鑑定はありますか
証人: 今、鑑定中のものが1件あります
弁護1: 事例は全て周産期ですか
証人: はい
弁護1: どんな内容ですか
証人: ほとんどは赤ちゃんの脳障害です。他、母体死亡に関してもあります
弁護1: 癒着胎盤についてはありますか
証人: あります
弁護1: どんな例ですか
証人: 帝王切開中の大出血での母体死亡の症例です
弁護1: 原因は癒着胎盤ですか
証人: はい
弁護1: どんなことについての鑑定ですか
証人: 過誤の有無や死因についてです。その鑑定で私が申し上げたのは、産科的に非常に特殊な病態であるということを盛り込んだつもりです。私の鑑定は患者側の立場でありましたが、代理人にはわかっていただけたと思います
弁護1: 弁155~156号証(?)を示します。この3通には鑑定の経過と結果を記載されて、確認後署名をされたのですね
証人: はい
弁護1: 内容を訂正すべきところはありますか
証人: ありません
弁護1: 誰に依頼されたのですか
証人: 平岩弁護士です
弁護1: 何を参考にされて書かれたのですか
証人: 入院・外来カルテ、供述調書、鑑定書、県の報告書などです
弁護1: 鑑定書とは
証人: 杉野先生のものです
弁護1: (書き取れず)
証人: 入院・外来カルテを主な資料としました
弁護1: これらを資料にしたのは何故ですか
証人: 周産期学的な検討には、より客観的なものが必要です
弁護1: 供述調書とは被告人のものですか
証人: 誰のどんな供述とか細かいところはわかりません
弁護1: 20455mlの出血は分娩手術としてはどうですか
証人: かなり大量の出血です
弁護1: 経膣分娩の出血は通常はどのくらいですか
証人: 羊水込みで1000mlまでは正常です
弁護1: 帝王切開ではいかがですか
証人: 基本的には同じですが、帝王切開ではやや多めで、1500ml程度まではあります
弁護1: 多い場合にはどのくらいの出血があるのですか
証人: 多ければ15000mlを超えることもあります
弁護1: 分娩でない婦人科手術でも、大量出血はありますか
証人: もちろんあるが、産科領域の出血では様相が異なります
弁護1: 婦人科領域ではどれくらいの出血量ですか
証人: 子宮筋腫で2000~3000mlなら多量と考えます
弁護1: 婦人科領域での出血の理由は、どのようなものですか
証人: 理由は、解剖学的にそこにある血管などの止血がうまくいかないということが多いです。どこから出血しているのかがわかっているので、そこに対応して止血します
弁護1: どのようにして止血するのですか
証人: この出血点に向かって処置します
弁護1: 例えばどんな風にですか
証人: 鉗子でつかんで糸をかけて括ります
弁護1: 帝王切開での出血はどのような出血ですか
証人: 子宮頚部の切開部からの出血は、他の婦人科手術と同じです。胎盤剥離部からの出血は、面からの出血で、婦人科手術とは異なります(以後書き取れず)。
弁護 1: 面からの出血とはどういう理由ですか
証人: 母親側から子宮動脈などから胎盤内のプールに血液が噴出しており、胎盤を通して母親と胎児は成分交換を行っています。胎盤がはがれると、それまで胎盤があったところから子宮内に、いわばシャワーヘッドから出てくるようにバーっと血液が出てくるのです。出血は血管の切れたところからではないので、バーッとシャワーヘッドから出てくる血を止めるにはシャワーの根元ともいうべき子宮筋層でぎゅっと締める必要があります。子宮筋層が収縮すれば、シャワーヘッドの根元が締まって、出血が少なくなります。さらにその間に凝固機序が進んで、血液が固まることによって、出血が止まるのです。ここがうまくいかないと大量に出血することになるのです。
弁護 1: シャワーを止めるような子宮収縮が悪いとか、凝固が進まないとかいう状況ではかなり大量に出血するのですか
証人: はい
弁護 1: 帝王切開で2000ml程度の出血では輸血は必要ですか
証人: 通常では輸血することは少ないです
弁護 1: 何か対応はあるのですか
証人: 補液で対応します
弁護 1: 補液とはどういうものですか
証人: 人の血中には、赤血球・白血球などの固形部と、電解質など固形でないものがあり、後者は(以後書き取れないが、科学的に作ることができるので、その溶液を体内に点滴することで、出血で失われた分を補います。)
弁護 1: 婦人科手術では出血が2000mlだと多いと考えるのですか
証人: はい
弁護 1: 輸血の基準は異なるのですか
証人: 当然です
弁護 1: 何故ですか
証人: 妊娠中には、出産時の出血に備えて血液量が約1.5倍に増えているのです。(ですから多少出血しても大丈夫です)
弁護 1: 生理学的に折り込み済みということですか
証人: はい
弁護 1: 他科の大量出血と帝王切開の大量出血とはけたが違うのですね
証人: はい
弁護 1: (聞き取れず)
証人: 分娩は危険なものと認識しています
弁護 1: 帝王切開で大量出血したときの対応はどのようなものですか
証人: 子宮切開時のものについては通常通りです。胎盤からの出血時には子宮収縮を促すためにマッサージや圧迫を行います。それでうまくいかなければ大きなガーゼで圧迫、さらには面を拾う形で糸をかけて筋肉同士を寄せて縛りこみます。Z縫合や8の字縫合などです。それでもうまくいかなければ、子宮動脈、卵巣からの血管が来るところなどを一時的に縛って止めます。
弁護 1: 婦人科とは違う止血をするとのことでしたが、出血のありようはどんな感じなのですか
証人: 他科の先生が見ると、出血量の多さにはびっくりします
弁護 1: 短時間に大量の出血というのは例えばどのくらいの量なのですか
証人: 妊娠満期の子宮に流れる血液量は450〜650 ml /分といわれています。(なので、胎盤が剥がれた瞬間、毎分450〜650 mlの血液が吹き出す)
弁護 1: 前置胎盤?の出血は一般の帝王切開に比べ多いのですか
証人: はい
弁護 1: それはなぜですか
証人: 前置胎盤?では、胎盤が子宮頚部に付着して子宮口を覆っていますが、子宮頚部は体部より筋層が十分でないので、胎盤剥離後に収縮しにくいため、出血量が多くなります
弁護 1: 子宮頚部で筋肉が少ないというのは、筋肉が薄いということですか、それとも硬いということですか
証人: 薄い方です
弁護 1: 前置胎盤?の出血の仕方の特徴は何かありますか
証人: 胎盤剥離面からの出血と同じです。シャワーヘッドのしまり具合が悪いので、出血量が多くなるという違いだけです。
弁護 1: 前置胎盤?では輸血は行うのですか
証人: 行います
弁護 1: 宮崎大学では輸血をどのくらい準備しますか
証人: MAP 10パックです
弁護 1: 本件ではMAPを5パック準備していましたが、これは不適切ですか
証人: どのくらい準備するかは施設によります。当施設では10パック用意していますが、血液センターからはできるだけ余計なものを準備するなといわれています。大学では他にいくつも手術が行われており、病院内で他の患者さん用にやり取りができるので、比較的多く用意しています
弁護 1: 癒着胎盤の出血の仕方はどうですか
証人: 癒着胎盤と診断されるのは、剥離後出血が止まらない場合です
弁護 1: 前置胎盤?と比べるとどう違うのですか
証人: 出血が多いのですが、前置胎盤?の部分に胎盤が癒着していることもあり、どちらによる出血かわかりにくいこともあります
弁護 1: 何故癒着胎盤の方が出血がはるかに多いのですか
証人: 止血機序が働きにくいからです
弁護 1: 血液の凝固作用とはどのような作用ですか
証人: 液が外に出ると、血液を固める因子が出て血糊のような感じになります。そのうち凝固因子が消費されてくると、血が固まらなくなるのです
弁護 1: 分娩後、胎盤剥離するとのことだが、経膣分娩での胎盤は自然にはがれるのですか
証人: 多くの場合はそうです
弁護 1: 経膣分娩で剥離しないときはどのような処置を行いますか
証人: 20〜30分経っても出てこなければ用手剥離を行います
弁護1: 用手剥離はどのように行うのですか
証人: 手を入れて(以後書き取れず)
弁護 1: 用手剥離では出血するのですか
証人: 用手だから大量に出血するということはありませんが、自然に出てくるときよりは少し多いと思います
弁護 1: 出血は自然に止まるのですか
証人: はい
弁護 1: 用手剥離しづらいときはどうするのですか
証人: 胎盤が一塊でとれず、一部欠如しているということはあります、もう一回とか、ガーゼで指を巻いてガーゼで子宮内をこすったり、キュレットを使用したりもします。
弁護 1: 胎盤をちぎって出してくるということですか
証人:(書き取れず)
弁護 1: 胎盤をちぎるというと、かなり強引にはいでくるというように聞こえるが、いかがですか
証人: 産科以外の人が見ればかなり暴力的にはがしているように見えるかもしれないが
弁護 1: 帝王切開では用手剥離を行うのですか
証人: はい
弁護 1: それは全例ですか
証人: はい
弁護 1: なぜですか
証人: 経膣分娩と違って帝王切開では、胎盤が目に見えています。直視下にハンドリングできる状況にあるためです
弁護 1: 帝王切開での用手剥離はどのように行いますか
証人: 基本的には経膣分娩のときと同じだが、子宮切開創から手を入れるのですぐに胎盤に触れる状況にあります
弁護 1: その時にも胎盤がちぎれたりすることはあるのですか
証人: ないことはないです
弁護 1: 胎盤を剥離しても出血が止まらないことはありますか
証人: それはあります
弁護 1: その時はどうするのですか
証人: 子宮をマッサージしたり、収縮剤を直接子宮筋層に注射したりするなど、処置します
弁護1: その他、Z縫合、8の字縫合、そのほか何かありますか
証人: 通常はマッサージと収縮剤で収まるので、これで収まらない時に別のことを考えます
弁護 1: 縫合や双手圧迫、動脈を止めるなどで出血が止まらない時はどうするのですか
証人: 究極には子宮摘出だが、簡単に子宮を取っていい訳ではないので、原因を検索しつつ、血圧とか(以後書き取れず 状況を総合的に判断し対応しながら、)最終的には出血源である子宮摘出を考えるが、産婦人科医としても非常に決断に苦慮する局面です
弁護 1: 子宮摘出の決断には、例えば出血量がどのくらいとか、目安はあるのですか(書き取れず)
証人: 何mlの出血で子宮摘出に移るとかいう数字的なものはありません。その時の患者の状況であるとか、いろいろなことを考えてやるので基準を考え(以後書き取れず)。
弁護 1: たとえば10000ml出血しても待つということはありますか
証人: まれではあるが、これで収まりそうだとか、ジリ貧だとか、その時の状況で決めます
弁護 1: 逆に5000mlでも止まりにくそうならば子宮を摘出することもあるのですか
証人: あります
弁護 1: 子宮温存するのは何故ですか
証人: 女性の健康など考えると、子宮を残すのは非常に重要であると思います。子宮喪失感や妊孕力の温存は多くの女性にとっては重要なことです
弁護 1: 子宮摘出後にも出血が続くことはありますか
証人: あります。往々にして、出血が続いていると凝固能が低下しているので子宮摘出後も止まらないことはあります
弁護 1: 凝固因子が減った状況を表す言葉があるということですが
証人: DIC、播種性血管内凝固症候群、です
弁護 1: 産科DICですか
証人: 産科のDICは他科のDICと病態が違うので、治療開始のタイミングを逃さないように産科DICスコアという、基準を作るために作った言葉です。DICとは凝固しすぎた瞬間、さらにその後凝固因子が足りなくなると消費性凝固障害となり、それを合わせてDICといいます
弁護 1: 癒着胎盤の術前診断についてお聞きします。本患者は前回帝王切開の前置胎盤?だが、癒着胎盤の可能性を疑いますか
証人: それは当然です
弁護 1: どのように気にするのですか
証人: 前回帝王切開創に今回の胎盤が重なっているかどうかです
弁護1: 前壁に胎盤がかかっていないかどうかが重要ということですね
証人: (書き取れず) 前回帝王切開創は前壁にあるので、そこに今回の胎盤がかかっていると、癒着胎盤の頻度が高くなるのです
弁護 1: 後壁癒着についても、同様に疑いますか
証人: それはありません
弁護 1: なぜですか
証人: 後壁癒着の癒着胎盤は頻度が少ないし、前置胎盤?で後壁癒着の可能性はby chanceであるからです
弁護 1: 癒着胎盤を診断するのに重要な、術前エコー所見は先の3つですか
証人: はい
弁護 1: 本件画像所見について、カルテ見ないで証言することはできますか
証人: (書きとれず)
(ここで鈴木検事より、今回の尋問の範囲を超えているとの異議があるも、やり取りの結果、異議棄却。ちなみに尋問の範囲とは、当初は前回の証人には術前診断について、今回の証人には術中処置についての尋問を行う予定になっていたということ)
弁護 1: カルテを見ずに本件術前エコー診断について証言できますか
証人: それは難しいと思います
弁護 1: 甲36号証、入院カルテをお示しします。12月3日、36週6日の画像2枚から、癒着胎盤の診断は可能でしょうか
証人: 難しいと思います
弁護 1: その理由は何ですか
証人: これは頚管長を測るための検査であり、前回帝王切開創との関係はこの写真からはわからないからです
弁護 1: 下の写真はいかがですか
証人: placenta lacunaeに似ていますが、位置関係からは・・・。
弁護 1:(書き取れず)
証人:(書き取れず)
弁護 1: この写真から、子宮前壁に癒着があることを疑ってもよいと言えますか
証人: この写真からはいえません
弁護 1: 12月6日の写真2枚を示します。(別の証人尋問で「芋虫状の血管」と表現されていた部分を指して)これは血流ですか
証人: おそらくそうです
弁護 1: どこの部分ですか
証人: 左側の丸いところが児頭に相当すると思われ、子宮の下の方と思います
弁護 1: この写真で癒着胎盤を疑うことはできますか
証人: こういう画像しばしば見られ、これだけで癒着を疑うことはできないと思います
弁護 1: このような血流があれば、次にMRIの検査を行うべきですか
証人: この写真からは、ありません。先ほど説明しましたように、超音波検査で3つの兆候が見られた時に次ぎのステップへ進むべきで、たとえMRIを実施したとしても、超音波検査を凌駕する情報が得られることはわかっていません
弁護 1: 加藤医師は、術中エコーを行っているが、これについてはどう思われますか
証人: 非常に慎重な態度で手術に臨んでいると思います
弁護 1: この検査で加藤医師は何を見ようとしたと思いますか
証人: 知りませんが、私がその立場としたら、胎盤の位置と前回帝王切開創の関係を見て、どこに創を入れるかを決めると思います
弁護 1: 先生は、先ほど癒着胎盤の診断は術後の総合診断と言われましたね
証人: はい
弁護 1: 開腹後すぐに、癒着胎盤とわかる所見としてはどのようなものがありますか
証人: 子宮前面の腹膜や膀胱(以後書き取れず)
弁護 1: 開腹後に癒着胎盤と明らかに判断できるとき、子宮の表面の色は
証人: (書き取れず)
弁護 1: 血管はどのように見えますか
証人: 通常妊娠でも静脈が浮き上がって見えることがある
弁護 1: どのように見えますか
証人: 通常でも手の甲に見えるような感じで見えることがあるが、前置胎盤?ではそれが多いとか、浮いているとか、です
弁護 1: プローベでなでると平らになったりするのですか
証人: はい。柔らかい血管ですから。
弁護 1: 開腹後すぐに癒着胎盤だと、見てわかる所見はありますか
証人: 一番は、胎盤の裏が子宮表面に見えることが多い。そうでなくても固くてごつごつした感じの強い構造物がこれから切開しようとする部分に見えることがあり、これは一見して明らかです
弁護 1: 一見して明らかとは
証人: 通常妊娠で見る血管とは異なります
弁護 1: 血管の浮き上がり方が大きいとか太いとか言うことですか
証人: 常日頃見ない感じの、固い感じで大きくて密という感じです。私の個人的な感じでどう表現してよいかはわからないし、これがなくても癒着胎盤のことはあります
弁護 1: 開腹してすぐに明らかに癒着胎盤の血管があるときは子宮摘出に移行するのですか
証人: こういう場合は穿通しているのが明らかなので胎盤剥離は行わないで子宮摘出を行います
弁護 1: 明らかではないときはどうしますか
証人: 用手剥離に入ります
弁護 1: 胎盤剥離を途中でやめることはありますか
証人: ありません
弁護 1: 術前診断で癒着の可能性がある場合は最初から子宮摘出を行いますか
証人: 画像だけではなく患者さんの社会的背景なども考慮します。胎盤が表面に出ていれば社会的背景は低く見る。最終的には開腹して、子宮を実際見て判断します。術前に決めておくということはありません
弁護 1: 麻酔チャートを示します。手術開始は14時26分ですか
証人: はい
弁護 1: このときに少し血圧が落ちていますね
証人: はい。14時25分ですね。
弁護 1: この血圧を異常と見ますか
証人: 一般にこの程度の変動はよくある
弁護 1: 麻酔の影響でしょうか
証人: そういうこともあろうかと思います
弁護 1: 脈拍数の異常はありますか
証人: 少し多いが特に異常とは思いません
弁護 1: 児の娩出は、備考欄によると14時37分とありますね。
証人: はい
弁護 1: 14時26分から37分の間の血圧や脈拍に異常はありますか
証人: チャート上はありません
弁護 1: 児を娩出すると、担当医師は次に何をしますか
証人: 臍帯・胎盤間を切断します。児の顔をぬぐって児の処置をする助産師に渡し、臍帯血採取をし、切開創からの止血をし、胎盤剥離に入ります
弁護 1: 切開創からの止血には何をするのですか
証人: ペアン鉗子で止血します
弁護 1: この後処置には何分かかるのですか
証人: (書き取れず)
弁護 1: 加藤医師は14時40分頃から用手剥離を始めたと思われるのですが、このあたりの血圧などに異常はありますか
証人: ないと思います
弁護 1: 用手剥離後クーパーを使うことはありますか
証人: 私はクーパーを使ったことはないですが、私の教室ではキュレットを使うことがあります
弁護 1: 他の器具を使うことがあるのですね。
証人: はい。
(ここでキュレットの写真を示し、子宮内に残存した組織をこそげる道具であるというような内容の説明。)
弁護 1: クーパーを使っているというのを聞いたことはありますか
証人: あります
弁護 1: どのように使っているのですか
証人: かつての同僚が、国立循環器センターで使っていると聞きました
弁護 1: 論文や教科書の記載はありますか
証人: 雑誌Operative obstetricsにあります
弁護 1: 胎盤用手剥離開始を14時40分とした場合、このときの出血量はどうですか
証人: 記載によれば2000です
弁護 1: この出血量は多いか少ないか、いかがですか
証人: 羊水込みなのでそれほど多くはないです
弁護 1: 14時40分の血圧に異常はありますか
証人: 特にありません
弁護 1: 胎盤娩出は備考欄によれば14時50分ですね。
証人: はい
弁護 1: 14時50分の脈拍や血圧はいかがですか
証人: 血圧が80/40、脈拍数が110であり、この時点で大きな変動はありません
弁護 1: この間に何か剥離を中断して子宮摘出に移らなければならない状況はありますか
証人: そういうことはないと思います
弁護 1: 14時53分の出血量はいかがですか
証人: 2555と記載されています
弁護 1: この出血量はどう見ますか
証人: 多少出血は増えているが、それほど大量ではないです
弁護 1: 2000から2555に増えていますが(以後書き取れず)
証人: 通常の帝王切開、胎盤剥離を進めるということでよい。
弁護 1: この段階で胎盤剥離を中断し、子宮摘出に移るべきという考えはいかがですか(書き取れず)
証人: 私はそういう判断はしません
弁護 1: 新潟大学の田中教授は、14時40分ごろ胎盤剥離を中止して子宮摘出に移行すべきと証言されましたが、どう思われますか
証人: 子宮摘出しなければいけない状況とは考えません
弁護 1: 田中教授はまた、胎盤剥離を行わず、子宮を摘出すると証言されましたが、どう思われますか(書き取れず)
証人: 後方視的にみればそうかもしれないが、前方視的にはなかなか難しい。
弁護 1: 子宮摘出という決断はできないということですか
証人: できません
弁護 1: 剥離完了という判断に誤りはあると思われますか
証人: ないと思います
弁護 1: 先生なら胎盤剥離を中止しますか
証人: しません
弁護 1: 15時8分頃の7675という出血量はいかがですか
証人: かなりの出血が起こっています
弁護 1: 約15分間で5000mlの出血というのはありうる数字ですか
証人: ありえます
弁護 1: 子宮の血流量450〜600 ml /分からこの出血量を説明できるでしょうか
証人: 癒着胎盤の部分は通常の止血機構が働かないのでそういうことはある
弁護 1: こういう出血があることを予見できますか
証人: できません
弁護 1: 輸血開始がいつか、この記録からわかりますか
証人: ※を○で囲ったマークが14時55分と読めます
弁護 1: 何故これが輸血開始と読めるのですか
証人: チャート上部の記載からです
弁護 1: 14時55分から輸血が始まったと読むのですか
証人: はい
弁護 1: この時刻の血圧や脈拍はどうですか
証人: 血圧50/30、脈拍70くらいと記載されています
弁護 1: 血圧、脈拍ともに低下していますね
証人: はい
弁護 1: 通常は血圧が下がると脈が上がりますよね。
証人: はい
弁護 1: (今回このようになったのは)なぜかは、おわかりになりますか
証人: わかりません
弁護 1: この時点で何か容態が急変したと考えられるのでしょうか
証人: 昇圧剤の投与などでわからなくなっている。この背後に何かあったと思います
弁護 1: 出血の量が多いということですか(書き取れず)
証人: 癒着胎盤でいろんな止血をしている際に7000くらいの出血は起こります。通常はこの辺で止血が完了するが、それが完了していないということが考えられます。
弁護 1: DICが起こり始めているということですか
証人: 出血量や背景に癒着胎盤があったことから、DICの症状が出てきていると考えます
弁護 1: 胎盤剥離後止血操作としてガーゼ充填、Z縫合、双手圧迫、鉗子での止血を行っているが、他に行えることはありますか
証人: 一般的なものは全て行えています
弁護 1: 子宮摘出は16時30分とのことで、胎盤剥離から約1時間たっているが、このタイミングでの子宮摘出はどう思われますか
証人: この状況では出血があったことから、子宮摘出は輸血到着を待って行うのが妥当と思います
弁護 1: 1時間待つ意味はどんなことがありますか
証人: 新しい手術手技による出血も予想されており、血液その他の不十分な状況ではなく、血液が揃ってから行うべきです
弁護 1: 血圧が低いままで子宮摘出できないのは、どういう危険があるのですか
証人: 一番危険なのは子宮摘出中に患者さんが死亡するということです
弁護 1: 出血が増えた時点で応援を呼ぶ必要はあったと思われますか
証人: 応援を求めても求めなくても、出血のコントロールについては余り変わらなかったと思います
弁護1: それはどうしてですか
証人: スタンダードな医師がやるべき操作は行われており、誤りがあったようには思われません
弁護 1: 出血20000は予想できる数字ですか
証人:できません
弁護 1: 出血量を予想することはできますか
証人: できません
弁護 1: それは分娩時の出血の特性によるものですか
証人: はい
弁護 1: 加藤医師の施術に誤りはあったでしょうか
証人: 一般的な産科医療のレベルからいって、ないと思います
弁護 1: 何かできることはあったでしょうか
証人: ないと思います
弁護 1: 業務上過失致死で起訴されていることについて、先生はどう思われますか
証人: 産科医療の特殊性が十分理解されないまま物事が動いている感じがして、心穏やかではない。
弁護 1: 終わります。略歴書、キュレット写真を添付します。
弁護 2: 水谷から質問します。(以後書き取れず)
証人: はい
弁護 2: 妊卵着床部位と癒着胎盤の危険性については、どのような違いがありますか
証人: 着床は通常体部に起こるが、何らかの理由で子宮頚部におこると、前置胎盤?となる
弁護 2: 着床部位が前壁後壁で違いはありますか
証人: (書き取れず)
弁護 2: 外来カルテを示します。平成16年6月15日のところに、「10w3d PL post low」とあるが、この意味はどういう意味ですか
証人: placenta posterior low
弁護 2: これはどういう意味ですか
証人: posteriorは後ろなので後壁ということです
弁護 2: 平成16年8月3日の「PL post low」も同じ意味ですか
証人: はい
弁護 2: ここから癒着胎盤を疑うといえるでしょうか
証人: これが癒着胎盤につながるとはいえません
弁護 2: 前回帝王切開創にかかっていたかどうか、ここからわかりますか
証人: 術中所見や経過を見ないとわからない。総合的に判断するものです
弁護 2: 宮崎大学で認められた前壁付着癒着胎盤で、胎盤を剥離した経験はありますか
証人: ないです
弁護 2: 加藤医師のクーパー使用を不適切と思いますか
証人: 思いません
弁護 2: 終わります
裁判長: 終わります。12時10分終了、反対尋問は13時15分から。
(13:15再開)
【検察側反対尋問】
検察: 鈴木より質問します。証人が発表した研究内容についてですが、発表時期は何年ですか
証人: 2006年かと思います
検察: 2006年6月14日との記載がありますが
証人: その頃でしょうね
検察: その時期に合わせてまとめたのですか
証人: スタディは既に行っており、研究会のためにわざわざまとめたものではありませんが。
検察: 発表の理由というか経緯はどのようなものですか
証人: 以前に癒着胎盤の鑑定機会があったのでデータは蓄えていたが、数が集まったのと本件があったため、発表をしました
検察: 今回の発生と発表に関連があるのでしょうか
証人: 全くないとはいえないが、長い間積み重ねていた症例をまとめたものです
検察: エコー上3つの所見が集まると、癒着胎盤の診断価値が高いということですか
証人: 今回の我々のケースに限ってですが、結果はそうです
検察: 3つ揃わないと診断できないのか、1つでも診断できるのか、この研究前は証人は意識されていたのでしょうか
証人: 意識していませんでした
検察: 2006年以前に発表はなかったのですか
証人: placenta lacunaeについては平成の一桁に発表したことはあります
検察: 3つの所見が揃えば診断できるということですね
証人: はい。ただし、3つ揃えば必ず診断できるわけではなく、(以後書き取れず)
検察: 症例の中で術前エコー上3つ中1つのみ該当したもののうち、当てはまり方はどうですか?
証人: 表に書いたはずですが。
検察: clear zone消失のみが5例とあるが、その通りですか
証人: 書いてあるならそうでしょう
検察: 他の2つのうち1つのみが当てはまったものはなかったのですか
証人: はい
検察: 2つのものはlacunaeとbladder lineが当てはまったとあるが、他の組み合わせはなかったということですね
証人: はい。
検察: 3つ当てはまったのはどのような症例だったのですか(書き取れず)
証人: 私たちがやったこの研究の目的は、エコー上所見を認めた症例を集めて検討することでした。所見を認めたもののうち実際に癒着胎盤であったのは、3つの所見が揃ったものだった、という結果です。
検察: 3つ揃わなければ癒着胎盤とは限らないということですか
証人: (書き取れず)
検察: MRIで所見のあった7例については、癒着胎盤の診断はどうだったのですか
証人: MRIの所見を検討した目的は、エコー上1〜2つしか所見がない場合、MRIを追加すると癒着胎盤の診断率が上がるかということであったが、実際には精度は上がらなかった。
検察: 今後、MRI検査の質が上がれば、MRIで診断率が上がると考えられますか
証人: はい
検察: エコーでは後壁を観察しにくいということですね
証人: はい
検察: MRIでは後壁は見やすいのですか
証人: 理論上はそうです
検察: エコー検査は連続した画像でモニタに表れ、その一部を写真に残す、ということでよろしかったですか
証人: はい
検察: カルテに付いた写真は、エコー所見の全てを表すものではないわけですね
証人: 必ずしも全てはいえない
検察: 術者がどう見ていたか、というのは写真の検討で判断できますか
証人: 一般にはポジティブの写真を残すようにトレーニングされている
検察: 術中、子宮にエコーを行っているが、その理由は胎盤の位置や前回帝王切開創との関係を見るためですか
証人: じゃないかと想像します
検察: 何故証人はそう考えたのですか
証人: 前回帝王切開で前置胎盤?であれば、胎盤に触れるような切開を避けたいということと、胎盤の位置が創にかかっている可能性があれば、癒着の所見があるかどうかを見る。私はやらないのでわからないが、そういうことだろうと思います
検察: そこで見たことについてカルテに記載があったかどうか、記憶にありますか
証人: 記憶にはないですね
検察: (書き取れず)
証人: (書き取れず)
検察: 鑑定書では術中エコーについて癒着の有無を調べるのではないかとあったが、そう伺ってよろしいですか
証人: そう思います
検察: 3所見までは含みますか
証人: 所見のあるなしは不明だが、通常あのタイミングでエコーを行うならば、やはりまずは位置関係、かぶっているかどうか、自然の流れとして術者であればそうするだろうと思います
検察: 前回帝王切開創と今回胎盤の位置関係についてはどう理解していますか
証人: 明らかに、後壁からまわってきた胎盤は創にかかっていなかったと思います
検察: かかっていなかったという根拠はなんですか
証人: 術中所見です
検察: 術前のエコー所見などからは、予測できましたか
証人: それはなかったと思います
検察: 手術所見のどの辺に書いてあるかは、言うことができますか
証人: カルテにある手術所見。見せてもらえればわかります。
検察: 甲15号証、12月17日のカルテの手術所見をお示しします。この記載のことですか
証人: はい。ここにある「スムーズに児を娩出した」という記載があります
検察: 端的な記載があったわけではないのでしょうか
証人: 一般的な手技で児の娩出が困難でなければ、そう判断します。前置胎盤?がかかっていたならば、一般的な方法とは別の方法で児の娩出を考える必要があるからです
検察: 今回創についてはどうでしたか
証人: 右側に書いてありますよね
検察: (書き取れず)
証人: (書き取れず)と手術所見の記載からです
検察: 12月17日、帝王切開当日の、中央の図は何のための図ですか
証人: そこまではわかりませんよね
検察: 他の資料からでも記憶はありませんか
証人: ありません
検察: 癒着胎盤について、意見書にも記載されていますし、出血量についても記載してありますね。通常分娩でも胎盤剥離である程度出血はあるということでしたよね。
証人: はい
検察: 証人は先ほどの証言で、シャワーヘッドから出てくるように出血がバーッと出てくるという表現をされました。前置胎盤?では出血はそれよりもさらに多いといわれましたね。シャワーヘッドのしめ方が弱いといわれましたが、その理由は何ですか
証人: 前置胎盤?は子宮頚部に付着しています。その部分は子宮の筋肉が薄いので、根元のところをぎゅっとしめる筋肉が少ないということです。
検察: 癒着胎盤でも出血が多い理由として、このときも収縮しづらいとかおっしゃったと思うが、どういうことですか
証人: 基本的には、一緒です。前置胎盤?の部分と同じ部分に癒着がある場合は同様に収縮しないので、出血が多くなります。前置胎盤?でないところに癒着がある場合は、剥離部の筋肉が薄くなるため、子宮頚部と同様のことが子宮体部でも起こるということです
検察: その部分は収縮が期待できないということですか
証人: 胎盤を剥ぐ前はどの程度子宮が収縮するかしないかわからない。結果的には子宮が薄くなった部分で収縮が弱くなるということです
検察: 体部の癒着を剥がしたときに、その範囲が広ければ出血源が広がるということですか
証人: 理論的にはそうです
検察: 頚部に癒着がある場合、もともと薄い筋層がさらに薄くなるということはあるのでしょうか
証人: ありうると思う
検察: 出血点が多いと多いだけ止血困難になると理解してよろしいですか
証人: いいと思います
検察: 前置胎盤?でも出血するし癒着部からも出血する。通常の前置胎盤?よりも出血するということですね
証人: そうですね
検察: 証人が経験した癒着胎盤12例中、剥離せず摘出した5例は術前検査をふまえ剥離に至る前に癒着がわかったものですか
証人: 開腹して、血管や色々の所見がほぼそろっているということ、妊婦さんの条件、家庭的・社会的なところを含めて決めています
検察: 症例ごとに違うだろうが、剥離できなさそうというのがわかっていたということですね
証人: はい。胎盤がすでに透けて見えていた5例。完全にわかっている限られた症例です
検察: 剥離できないとわかっていたということですね
証人: 剥離できないというか、剥離したらある程度の出血は覚悟しなければならない。常にリスクと安全を考えますが、産科では妊孕性や子宮喪失感をも考慮します
検察: 剥離したときのリスクが非常に高いということですか
証人: 剥離できないというわけではないし、できるかもしれないが、数千ccを覚悟することと本人の(以後書き取れず)。できないからやらないのではなく、結果とのバランスでの判断です
検察: 癒着胎盤ですから出血5000とかいうこともあるわけですよね
証人: やってみなければわからないです。剥離を試みたうち3例は剥離できているし、4例は結果的に取ることになった。産婦人科医にとって剥離せずに子宮摘出にいけるという条件が5例だったということです
検察: これは術前に患者や家族に説明されるのですか
証人: それは当然です
検察: はじめからはがさなかったのは穿通胎盤でしょうか
証人: 殆どが穿通胎盤です。あとはすでに児が2人おられたとかいうことですね
検察: 子宮摘出した症例と、その症例での癒着の程度についてはいかがでしたか
証人: 病理でどうであったかと、手術中の所見は必ずしもパラレルではないのです。穿通胎盤でなくても術中所見で子宮摘出やむなしとしたことはあります。病理の所見は後からフィードバックされるものなのです
検察: 前提として、宮崎県ではハイリスク患者は大学に集めるということになっているのですか
証人: ・・・(笑)、そうですね
検察: (書き取れず)
証人: (書き取れず)
検察: 最初から癒着胎盤と考えられるものが殆どなのですか
証人: 半分近くが癒着胎盤を疑われている。切迫流早産などその他が8例です
検察: 癒着胎盤の診断はどのようにされるのですか
証人: エコーの3所見のうち1つ以上。前回帝王切開例であやしまれたものです
検察: 大学病院では、産婦人科医のほか、看護師も助産師も麻酔科医もハイリスクになれているのですか
証人: 大学はそういうトレーニングの場ですからね。地域全体のレベルを維持するために(以後書き取れず)
検察: 大学として、分娩体制について(以後書き取れず)
証人: 1つは手術する人がある程度の力がある、1つは全身管理については産婦人科医だけでなく看護師やICUスタッフなど(以後書き取れず)
検察: どういう患者であるとかいう(以後書き取れずだが、情報共有しているかというような内容)
証人: 次の手術がこういうの、とかはリストアップしてありますから。
検察: 緊急時の応援についてはどのようになっていますか
証人: 大学は最後の砦ですから、我々のチームで完結する。2次の施設では2次同士とか3次からとかいう人的なものはある。
検察: チーム(以後書き取れず)
証人: ハイリスク妊娠についてはある程度常時維持しておく必要がある
検察: 大学内で輸血が不足した場合には、どのようにするのですか
証人: 2次施設の場合には、周辺の血液センターに連絡し、来るまで止血しながら待ちます
検察: 大学病院ではどのようにするのですか
証人: 大学にキープしてある血液がなくなれば血液センターに発注します。
検察: その場合、輸血はどれくらいの時間で到着しますか
証人: 30分から1時間ではないでしょうか。宮崎市内ですが色々手続きがありますから。産婦人科では突発的な出血ってのは時々あります(以後書き取れず)。
検察: キュレットは12例中何例に用いられていますか
証人: 1例です
検察: なぜ使ったのですか
証人: 胎盤が一塊になって出てこなかったので使いました
検察: それは帝王切開例ですか
証人: はい
検察: キュレットは普段から使う手術器具ですか
証人: しばしば使います
検察: どんな時に使いますか
証人: 子宮内膜の除去に使います
検察: 人工妊娠中絶のときとかですか
証人: はい
検察: 元々、子宮内容を取り出すための道具ですね
証人: はい。そのための器械です
検察: キュレットで胎盤を出した時には用手剥離をしたのですか
証人: 最初用手でやったらちぎれてぼろぼろになって、あわせてみても取りきれていなかったので。
検察: キュレットで剥離した部分は癒着胎盤の癒着部分ですか
証人: はい
検察: キュレットについては鑑定書には記載はなかったのですが
証人: 鋭的な器具という点ではキュレットもクーパーも同じこと。キュレットを意図的にはずしたのではなく、今回はクーパー使用が問題となっていますので、クーパー等と書きました。
検察: 麻酔記録を示します。14時2分に麻酔開始とありますね。
証人: はい
検察: 14時5分、7分あたりで血圧低下があるが、この理由は何ですか
証人: おそらく脊椎麻酔に伴うことかと思います
検察: 一度下がった血圧は、その後どういう処置をするのですか
証人: 通常は補液で、それ以上下がらないように調節します
検察: 14時10~15分で血圧安定したのはそういうことですか
証人: そういうことかと思います
検察: 血圧が低下するとどうなりますか
証人: 血圧が80を切りますと、子宮の血流が減り、児に影響が出ます。80前後で維持されていれば問題はない。
検察: 血圧には個人差があるが、セーフティーゾーンはどう考えるのですか
証人: 妊娠高血圧症候群の人は特殊な病態ですので危ないが、正常な人では許容範囲です
検察: この患者の術前血圧についてはどうだったのですか
証人: チャート上は入室時130台であり、高血圧ではない。緊張していてこの辺ですから、まず正常と考えていいでしょう
検察: 児娩出後の14時40~55分は血圧低下傾向にあるが、いかがですか
証人: はい。極端ではないが下がってきています
検察: その要因としてはどういうことが考えられますか
証人: 出血と輸液量のバランスです
検察: 補液使用量や理由から、14時45分ごろ何かあったと考えられますか
証人: 少なくとも今見て、ヴィーンやヘスパンダーが入り始め、出血2000~2500とありますから、これを補うためのものかと思います
検察: パンピングという手法については知っていますか
証人: はい
検察: どういう時に使いますか
証人: 点滴の量が追いつかない時です
検察: それは循環血液量維持の手段という理解で良いですか
証人: はい
検察: 輸液欄の??のあと※となり上に記載されているが、こういう書き方だといつどういう製剤が入ったかがわかりませんよね
証人: 内容はわかるが、時期はわからないです
検察: たとえばMAP25単位とあるが、いつ入ったかはわかりませんよね
証人: ここには記載はないが、輸血と外液はバランスを取りながら行うので適当なバランスで行ったと考えます
検察: 鑑定に当たり、この麻酔科医の供述調書は読んでいませんか
証人: 読んでいません
検察: パンピングをいつ行ったとかいうことは、鑑定の前提にはならないのですか
証人: なっていません
検察: 輸血オーダーのタイミングはここからはわかりますか
証人: わかりません
検察: いつオーダーしていつ来たかは把握していないのですか
証人: 何時何分にオーダーしたとかいつ届いたとかはわからない。ただ輸血でクリティカルな状況から改善したのはわかります
検察: クリティカルな状況を回避(以後書き取れず)
証人: 輸血だけでなく様々な輸液等の処置によって(以後書き取れず)
検察: それはいつの時点ですか
証人: 16時30分頃に、クリティカルな状況からよい方向に行ったんだろうと思います
検察: 最初の鑑定書で、大野病院での手術の是非に関して「当時の大野病院の実情が把握できないので判断できない」と書いてあるが、何故ですか
証人: 地域の中での妊婦にリスクに応じた診療体制作りについては全国一律ではないので、大野病院の位置づけがわからなかったので
検察: 場合によっては高次の医療機関で手術を行うことを考えるということですか
証人: 検査できないとか言うことがあるならば、そういうことも考えられたかもしれない
検察: 再び麻酔チャートを示します。手術開始は14時26分ですね
証人: はい
検察: 証人は先ほど、癒着胎盤を判断する根拠の中に子宮の色をあげていましたね
証人: 異常血管などにより全体的にうっ血し、きれいなピンクより紫色っぽくなるのと、胎盤が透けて見えればその色も
検察: 紫というのは暗紫色ということですか
証人: はい
検察: (書き取れず)
証人: 穿通性の高い胎盤ならわかるが血管構築だけが増加している場合は、前置胎盤?が癒着胎盤かを見ただけで判断するのは難しい
検察: 14時37分に児娩出していますが、特に問題ない例で用手剥離にはどれくらいの時間がかかるのですか
証人: 1〜2分ないし2〜3分です
検察: 胎盤剥離中に用手剥離に加えクーパー使用されていることはご存知ですか
証人: はい
検察: どういう資料から把握しましたか
証人: 最初に意見書をおそらく起訴前に書いておりますが、県の報告書や学会関係者との話、弁護士が接見時に書いた報告書などから意見書を書きました
検察: 意見書提出は3月9日ごろですか
証人: はい
検察: その時点では医師記録等はご覧になりましたか
証人: いえ、その時点ではぜんぜん。一番は事故報告書です
検察: クーパー使用しての胎盤剥離についてはどこでご覧になりましたか
証人: 有名なことなので知っていましたが、どこに書いてあったかは・・・
検察: 手術記録を(証人に)示します。医師記録にはクーパー使用については書いていないですよね。
証人: そうですね
主任弁護士: 異議でもないけど、「膀胱子宮間の索状物を、クーパーを使って剥離し」とありますよね
検察: ここを見て、胎盤剥離のためにクーパーを使ったと理解したのですか
証人: そうではないですね
検察: 胎盤剥離にクーパーを使ったことについては事故報告書から知ったのではないですか
証人: おそらくはそうではなかったかと思います
検察: どんな風にクーパーを使ったかはおわかりですか
証人: 通常は切るだけでなく組織と組織を分けたりする。へらのような形で使うのでそういう形かと思います
検察: どういうところで使ったとか、使った時期のこととかはわかりますか
証人: (書き取れず)
検察: クーパー使用範囲は局所的という理解ですか
証人: はい
検察: ということは、癒着の範囲は狭いということですか
証人: そうでもない。用手剥離とクーパーを使い分けながらだろうと思います
検察: 使い分けながらという記載はあるのですか
証人: 胎盤剥離にクーパーを使ったといえば、一般的な産婦人科医ならクーパーを持ったり一度置いて用手剥離したりと思う
検察: 通常だったらそうだろうという推測ですか
証人: 推測というか、常識ですね
検察: (書き取れず)
証人: 病理の細かいことはわかりません
検察: 杉野先生の病理では前壁にも癒着があったというが
証人: 間接的にはそう聞いているが、それを吟味するバックグラウンドはありません
検察: 中山先生の鑑定書はご覧になっていますか
証人: 見ておりません
検察: 鑑定の際に参考にしたものはどの資料ですか
証人: 医師記録、手術記録です
検察: 誰のものを見たとかは、いかがですか
証人: いやあ、誰のかは
検察: 術前説明について、たとえば患者さんのご主人の供述はご覧になりましたか
証人: あまり、これまでの鑑定でも供述調書は見ておりませんので
検察: 加藤医師が供述調書に違うことを書かれたとかいっているのはご存じですか
証人: そういう情報は来ておりませんから
検察: 他の方の意見書や鑑定書は
証人: 読んでいないですね
検察: 児娩出から胎盤娩出までの時間はいかがですか
証人: 15分くらい?ああ、13分。少し長いと思うが、術野で臍帯血採取などやっていますので、このくらいかかってもおかしくないと思います
検察: 10分とかかかることもあるのですか
証人: (血液の)採りようによっては。また止血や他の処置もあるから長いとは思いません
検察: 再び麻酔記録を示します。出血量について、14時40分に2000、14時52分頃に2555、15時7~8分頃に7675の記録があるが、この出血ペースについて、2555から7675に至る部分は2000から2555と比較してどうですか
証人: 2555から7675はかなり大量が短時間の間なので、胎盤剥離に伴うものだろうと思います
検察: 14時50分頃に胎盤剥離されていますね
証人: その後はDICが背後に迫っていて出血が続いているものと考えます
検察: この出血量の計測についてはどのようにされますか
証人: 我々のところでは吸引嘴管で吸いながら瓶にたまっていく。目盛りがついていますので、だいたいそれを見ていく。また、ガーゼに何gの血液がついているかを測ります
検察: ガーゼの計測と時差についてはいかがですか
証人: カウントする人がどれくらいの頻度かによるが、見たらある程度わかるし、(術者も)気にして何度も聞くでしょうから
検察: ガーゼ出血は蒸発などにより20%くらい減るといわれていますが、いかがですか
証人: それはある程度時間がたってからのことですよね
弁護3: 異議あり。チャートを見せている意味がない。時間を確認した後はチャートと関係ない、一般的な尋問をしています
裁判長: 異議ってほどでもないでしょう。まあ、うまくやってください
検察: 止血について、標準的操作は行われているといったが、さらに元の血管を結紮するとかいうことについては、いかがですか
証人: よく言われるのですが、こういう状況で内腸骨動脈結紮とかいうところ(以後書き取れず)
検察: 止血の方針としてこういうのもあるというのはよろしいですか
証人: 内腸骨動脈結紮がきわめて有効とは本例では当てはまりません
検察: 止血処置がどのタイミングで行われたかについてはいかがですか
証人: 手術をやる人間の段取りっていうのがあるので、具体的に何(以後書き取れず)
検察: 応援を拒絶、いや、頼まなかったことについてお聞きします。外科医が助手を勤めていたが、この人の経験等は証人はご存じですか
証人: 止血するということについてはほかの産婦人科医がいたからといって流れが大きく変わるということはありません。非常に基本的な処置ができるのであれば。
検察: 外科医のキャリアについてはいかがですか
証人: ある程度の止血とかができればいい。加藤先生が子宮摘出できないレベルの人だというなら話は別ですが
検察: 近隣の医師を呼ぶ予定だったことはご存知ですか
証人: 知っています
検察: その先生を呼ばなくていいといったのはどうしてですか
証人: 知りませんけれど、それは止血に際してはハンディにはなりません
検察: ちなみに応援を頼まれていた医師がどのレベルであったかについてはご存知ですか
証人: 知りません
検察: どうして産婦人科医師に応援の可能性があったかは、いかがですか
証人: 産婦人科の手術ですから、最初から他科の先生に頼むということはない。産婦人科医の応援がかなわない場合に外科とかいうことになる
検察: 平岩弁護士からの依頼はいつでしたか
証人: 提出が正月頃(1月4日付らしい)なので、その2〜3ヶ月前ではないかと思います
検察: 鑑定依頼の経緯はどのようなものですか
証人: どうして僕に、ですか?わからないですね。立場的に学会で周術期関係の仕事をしていたからでしょうかね
検察: 鑑定依頼時に先の資料を渡されていたのですよね
証人: はい
検察: 意見書と鑑定書で資料は違いますか
証人: いやあ、わかりませんけれど、カルテは鑑定の時に見たんじゃないですかね
検察: 供述調書は?
証人: 供述調書はあまり気をつけてみていないので
検察: 鑑定事項(以後書き取れず)
証人: (書き取れず)
検察: 鑑定にかけた時間はどれくらいですか
証人: 難しいですね。普通の仕事をしながらですから、言えないですよねえ、正味何時間とか言うのは・・・。鑑定事項は頭に入っていますから、他の仕事しながら考えていましたし。
検察: 鑑定意見書作成にはどれくらいかかりましたか
証人: 書き上げるのにはということですか?1週間ぐらいはかかっているかと
検察: 鑑定意見書を提出前にある(以後書き取れず)
証人: 大まかなイメージはありました
検察: カルテ等を見てそのイメージは変化しましたか
証人: そうでもない
検察: 追加鑑定書は12月に出ていますが、依頼はいつでしたか
証人: 9月頃でしょうかね
検察: 何故追加の依頼があったのですか
証人: さあ。
検察: 追加鑑定に際し、新たに参考にされた資料はありますか
証人: いや、カルテ中心ですから。手元に置いたままですから
検察: 裁判中の証人の証言などを受け取ったことはありますか
証人: 岡村先生が証言したというのは聞きましたが、その内容などは・・・
検察: 加藤医師の尋問内容をまとめたものとかは?
証人: ありません
検察: 渡されていないのですか
証人: 渡されていないのか、私が要らないといったのか。基本的にカルテだけで書きたいということです
検察: 鑑定前に加藤医師との面識はありましたか
証人: 学会ですれ違ったりとかはあるかもしれませんが、本人は知りません
検察: 佐藤教授とは?
証人: それはもちろん
検察: 何か意見とか話は聞いていますか
証人: 困った困ったとかは聞いていますけれど、核心に迫るようなことは何も
検察: カルテ等に記載されていないことについてはどのように考えたのですか
証人: 一般的な場合はこうだろうという(以後書き取れず)
検察: 先生のように場数を踏まれている場合ですか
証人: 場数というか(以後書き取れず)
検察: これまで鑑定で癒着胎盤についても依頼あったと言いました。患者側と言いましたが、どのような鑑定ですか
証人: ある弁護士から依頼を受けました
検察: いつ頃ですか
証人: 平成4〜5年、あるいは5〜6年ごろかと
検察: 鑑定書の結論はどのようなものでしたか
証人: 話していいんですか?(と裁判長に確認、OKののち)手術中の大量出血で患者さんが死亡した症例で、死亡回避可能性について意見を求められました。先ほど述べたようなことで、短時間で大量出血することでもあり、回避することは難しいのではないかと述べました
(ここで20分間の休憩)
検察: 最初の鑑定書の鑑定事項「用手剥離困難な時点ですみやかに子宮摘出すべきか」に対し、「胎盤剥離を中止するより速やかに胎盤剥離を終了して」と書いたのは、ご記憶ですか
証人: 記憶しております
検察: 「終了して」とは「完了」ということですか
証人: はい
検察: その速さは
証人: 速ければ速いほどいい
検察: DICを発症したと思われる時点について、主尋問で7650出血の時点といったが、それでよいですか
証人: はい
検察: その根拠は出血量のほかにはありますか
証人: 私の経験で、7000~8000の時点で血液が固まりにくくなってくるということと、その後も出血が続いている点からです
検察: 産科DICの評価の方法はどういうものですか
証人: 出血量がどんどん増えてくる。母体の血圧、脈拍、尿量などの異常で点数を増やしていく。生化学的変化は間に合わないことが多いです
検察: 産科DICは産科婦人科でよく知られたことですか
証人: はい、当然です
検察: 産科DICと判断したという記載はありますか
証人: 記載はなくとも、これだけ激烈な症状があれば
検察: 出血した血液の特徴で違いはあるのですか
証人: DIC発症後は固まりにくくさらさらしています
検察: 他、縫合箇所や針穴からも出血するのですか
証人: はい
検察: 今回は出血7650でDICと判断されたということですか
証人: 今おっしゃった縫合箇所や他のところから出るというのはDICができあがった状態であり、産科DICスコアリングはその前段階を把握しようというものですから
検察: 産科DICの治療はどのようなものですか
証人: 麻酔記録ではFFPが投与されています。あれが一番の凝固状態を立て直すものです
検察: 子宮摘出時のDIC状況については、どう考えられますか
証人: 血圧低下は全身の循環動態が安定したということ。凝固能はこれとパラレルではないし、見たわけでないのでわからないが、出血状況から(以後書き取れず)
検察: 産科DICが改善していない時点で、子宮を摘出することについてはいかがですか
証人: DICの状態で摘出するとさらなるストレスを与え、さらに凝固障害に傾くこともあり判断が難しいが、循環が落ち着いていてDICだけがあるならば、子宮が原因であり、原因除去の目的で摘出します
検察: 循環血液量低下はどういう影響が起こりますか
証人: 末梢組織で酸素が十分供給されなくなります
検察: どういうことが起こりますか
証人: 末梢組織の機能不全です
検察: 末梢組織の機能不全があってもショックを離脱すれば全身状態は改善するのですか
証人: 産婦さんは通常何の合併症も持っていないことも多いので、循環が改善すれば離脱できることが多いです
検察: 離脱できない場合として、循環不全の時間も関与するのですか
証人: 長ければ長いほど離脱が難しくなります
検察: 患者の属性、年齢なども関係しますか
証人: それにその病気そのものが関係します
検察: 最初の鑑定書で「到着した血液で輸血が再開され血圧が上昇した後に最初の心停止」とありますが、どういうことですか
証人: 記録を見ないとわからない
検察: 麻酔記録を示します。血圧上昇と心停止の時刻はいつですか
証人: 血圧上昇は16時30分、心停止の記載はVTのところです
検察: 最初の心停止とはどこですか
証人: 18時過ぎの?VTのところ・・・ですね。その前にはそういう記載が・・・ないですね
検察: すると証人の「最初の心停止」は結局18時過ぎのものか?
証人: 間違えたとは思っていないですが、血圧が上昇し、子宮摘出になった後、心停止したと。
検察: 血圧が上がったころというのは16時30分頃のことですが、このあたりに心停止があったということではないのですか
証人: その辺に心停止という記載がなければ、18時過ぎのもののことだと思います
検察: 追加鑑定書の中で「ヘモグロビン値が上昇し7.4となっていて、この程度なら出血のために死亡することはない」とあるが、ヘモグロビン値と死亡との関係はありますか
証人: 急性に出血したときにはヘモグロビン値と死亡との関連はなかなか言えません
検察: 7.4だからそれで死亡するということはないということですか
証人: 7.4なら普通の妊婦でもありうる貧血程度です
検察: この血液検査がどのあたりの血液を取ったかはいかがですか
証人: 静脈です
検察: 末梢から採ったのかどうかはいかがですか
証人: 静脈血を意味していると思います
検察: (書き取れず)
証人: MAP血だけを入れれば(書き取れず)だが、他の外液などもバランスを取りながら入れるので
検察: 末梢循環が悪い際に末梢採血が中心部と違うということはありますか
証人: 例えば倍近く違うというような大きな差にはならないと思います
検察: どの程度末梢組織がダメージを受けているかについては、わかりますか
証人: それは別のパラメータ。pHとかによると思います
検察: 終わります
(終了16:00)
次回は12月21日10時から。
**今回事務局が公判に行けず、K先生が傍聴記詳報を担当してくださいました。ありがとうございました。