論文リリース(無料):リーマンショックで貧困世帯・所得減少した世帯の子どもが肥満に

学術誌International Journal of Obesity (Nature Publishing)から、論文を出版しました。無料で閲覧可能です。

経済危機が訪れると、貧困層や特定の職業につく世帯など、特定の人々の健康状態が悪化し、健康格差が拡大することが知られています。近年懸念されている「子どもの肥満」に注目して、2008年後半に深刻となった「リーマンショック」が子どもの発育に与えた影響を検討してみました。

その結果、リーマンショック以前より、所得が一般よりも低い貧困世帯の子どもたちが、リーマンショック後に有意に太り、過体重となるリスクが上がったことがわかりました。リーマン前の平均の世帯所得別に4段階に分けると、最も所得が高い群に比べて、最も低い群の男児では、過体重となるリスクが1.12倍、女児では1.35倍高いという結果でした。さらに、リーマン前の所得水準にかかわらず、リーマン後に所得が減少した世帯(30%減少、20%減少、10%減少など、複数で評価)でも、同様に体重が過剰となる子どもが多いことがわかりました。
一見、貧困なら、食べるものが足りなくて痩せるのでは?と思うかもしれませんが、現代の日本において、「食べ物が足りない」という状況はあまりおこりません。むしろ、望ましい食生活や運動習慣を維持できなくなること、ストレスなどで、生活習慣が乱れることなどが問題となります。もともと貧困だった世帯の子どもや、貧困でなくとも、所得が大きく減少して、社会的なストレスを抱えた世帯の子どもの生活習慣が乱れ、体重が増えてしまった、ということが考えられます。

論文はこちら: URL: http://www.nature.com/ijo/journal/vaop/ncurrent/full/ijo201590a.html

The global economic crisis, household income and pre-adolescent overweight and underweight: a nationwide birth cohort study in Japan

Ueda P, Kondo N, Fujiwara T.

Background:

We hypothesized that children from lower income households and in households experiencing a negative income change in connection to the global economic crisis in 2008 would be at increased risk of adverse weight status during the subsequent years of economic downturn.

Methods:

Data were obtained from a nationwide longitudinal survey comprising all children born during 2 weeks of 2001. For 16,403 boys and 15,206 girls, information about anthropometric measurements and household characteristics was collected from 2001 to 2011 on multiple occasions. Interactions between the crisis onset (September 2008) and household income group, as well as the crisis onset and a >30% negative income change in connection to the crisis, were assessed with respect to risk of childhood over- and underweight.

Results:

Adjusted for household and parental characteristics, boys and girls in the lower household income quartiles had a larger increase in risk of overweight after the crisis onset relative to their peers in the highest income group. (Odds ratio (95% confidence interval) for interaction term in boys=1.12 (1.02–1.24); girls=1.35 (1.23–1.49) comparing the lowest with the highest income group.) Among girls, an interaction between the crisis onset and a >30% negative change in household income with respect to risk of overweight was observed (odds ratio for interaction term=1.23 (1.09–1.38)). Girls from the highest income group had an increased risk of underweight after the crisis onset compared with girls from the lowest income group.

Conclusions:

Boys and girls from lower household income groups and girls from households experiencing a negative income change in connection to the global economic crisis in 2008, may be at increased risk of overweight. Vulnerability to economic uncertainty could increase risk of overweight in preadolescence.

書籍(共著)発刊:「復興期における視点:ソーシャルキャピタルと社会格差」in 大規模災害時医療(長純一・永井康徳編)」)

「復興期における視点:ソーシャルキャピタルと社会格差」

東日本大震災の被災地での地域の健康に関するデータ分析の活動を基にまとめた拙稿が下記書籍として発刊しました。

主に地域医療に携わる医師向けの専門書です。

大規模災害時医療 スーパー総合医

専門編集:長 純一(石巻市立病院開成仮診療所)/永井康徳(医療法人ゆうの森)
B5 上製
300頁 写真・図・表:200点
定価:10260円(本体9500円+税)
ISBN:978-4-521-73904-5
発売日:2015/07

http://www.nakayamashoten.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-521-73904-5

論文リリース:独居で孤食だと野菜摂取が減り、肥満にJAGES調査

英文医学誌Appetiteに、研究員の谷さんらとまとめた論文が掲載されました。

記事は無料で読めます。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195666315002925

高齢者約8万人のデータを分析し、独居か否か、誰と普段食事をしているかに加え、所得や健康状態、栄養摂取、体格などの関係を分析しました。

その結果、以下のことが主にわかりました。

・普段ほとんど一人で食事をする(孤食)の男女は食事内容がアンバランス
・孤食は肥満および痩せと関連
・男性では、孤食でさらに独居だと、これらの関連が強く
・女性では、誰かと一緒に暮らしているのにかかわらず孤食の状態が多いと、これらの関連が強い

食事は日に三度、生まれてからずーと繰り返す営みです。社会的な交流が健康の維持増進に重要なことが指摘されていますが、人と一緒にご飯を食べることが、健康の面でも重要かもしれません。

論文リリース:Relative deprivation in income and mortality by leading causes among older Japanese men and women: AGES cohort study

本日、論文がリリースされました。オープンアクセスです。
J Epidemiol Community Health 2015;69:680-685 doi:10.1136/jech-2014-205103

Socioeconomic factors and health
Relative deprivation in income and mortality by leading causes among older Japanese men and women: AGES cohort study

Open Access

Naoki Kondo1, Masashige Saito2, Hiroyuki Hikichi3, Jun Aida4, Toshiyuki Ojima5, Katsunori Kondo2, 3, Ichiro Kawachi6

http://jech.bmj.com/content/69/7/680.full

高アクセス! パートナーが禁煙すると自分もやめる?男女で違う禁煙行動の傾向

昨年12月に出版した以下の論文のアクセス数が500超と高くなっています。

東京近郊の自治体の若い夫婦へのインタビュー調査のデータをもとに、パートナーが禁煙すると、自分も禁煙するか否かを分析した結果、男性では、女性のパートナーが禁煙すると自分も禁煙する確率がぐっと高まるのですが、そのような関係は女性の場合、2人とも高学歴の場合のみ当てはまることがわかりました。

学歴は、健康リテラシー(健康に関する周囲からの情報等を的確に選び取って、解釈し、活用する力)を反映します。夫婦で禁煙を進めるような禁煙指導が、病院などではよく行われます。そういうとき、学歴などの情報も役立つかもしれません。

論文ウェブサイト:http://www.biomedcentral.com/1471-2458/14/1184

Differences in spousal influence on smoking cessation by gender and education among Japanese couples

Daisuke Takagi, Naoki Kondo, Misato Takada and Hideki Hashimoto

BMC Public Health 2014, 14:1184 doi:10.1186/1471-2458-14-1184

Abstract
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Background
Previous studies have reported that spousal non-smoking has a spillover effect on the partner’s cessation. However, discussion is lacking on the factors modifying that association. We examined whether the spillover effect of spousal non-smoking was associated with the couple’s educational attainment.

Methods
We used paired marital data from the Japanese Study on Stratification, Health, Income, and Neighborhood (J-SHINE), which targeted residents aged 25–50 years in four Japanese municipalities. We selected a spouse smoker at the time of marriage (target respondent), and set his/her smoking status change (continued or quit smoking after marriage) as an outcome, regressed on the counterpart’s smoking status (continued smoking or non-smoking) and combinations of each couple’s educational attainment as explanatory variables using log-binomial regression models (n =1001 targets; 708 men and 293 women).

Results
Regression results showed that a counterpart who previously quit smoking or was a never-smoker was associated with the target male spouse’s subsequent cessation. However, for women, the association between husband’s non-smoking and their own cessation was significant only for couples in which both spouses were highly educated.

Conclusions
Our findings suggest that a spouse’s smoking status is important for smoking cessation interventions in men. For women, however, a couple’s combined educational attainment may matter in the interventions.

所得格差は循環器疾患の死亡リスクを特に上げる可能性:論文出版

所得格差が拡大すると、自身の所得水準は変わらなくても、より高所得な人との所得の差が拡大します。それに応じて、みじめさやねたみ、あきらめといった負の感情を持つ機会も増えます。

高齢者3.3万人を長期間追跡している愛知老年学的評価研究(AGES、JAGES研究の一部)のデータを分析したところ、グループ内のうち、自分よりお金持ちの人と自分の所得との差の平均値が大きい(グループ内の相対的はく奪度)人ほど、自分の所得水準にかかわらず、その後循環器疾患(心臓病や脳卒中)で死亡するリスクが高まることがわかりました。

一方、がんや呼吸器疾患など、その他の原因による死亡とは統計的に有意な関連がみられませんでした。さらに、このような関係は男性でのみ観察されました。

以前より、所得格差が大きな社会では誰もが(富裕層ですら)不健康になる可能性が知られていますが、本研究結果は、その理由として、格差が大きな社会では周囲との生活水準の違いが強いストレスとなって、ストレスによって影響を受けやすい心臓や脳血管の病気による死亡のリスクを上げる、というメカニズムが関連している可能性を示唆するものです。

この結果は、英国の専門誌Journal of Epidemiology and Community Healthから出版されました:

Naoki Kondo, Masashige Saito, Hiroyuki Hikichi, Jun Aida, Toshiyuki Ojima, Katsunori Kondo, Ichiro Kawachi. Relative deprivation in income and mortality by leading causes AMONG older Japanese men and women: AGES cohort study. Journal of Epidemiology and Community Health. doi:10.1136/jech-2014-205103   Open Access.

論文はここから無料でダウンロードできます。
http://jech.bmj.com/content/early/2015/02/19/jech-2014-205103.full

論文出版:高齢の被災者―買い物環境までの距離が遠いと閉じこもりに:陸前高田市健康生活調査

2011年の東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では、同市が実施した調査データを分析したところ、小売店やバス停、移動販売などが行われる場所までの距離が遠い自宅に住んでいる高齢者ほど、外出頻度が少なく「閉じこもり」になりやすいことがわかりました。

一方で、一部の地域では、震災後、地元スーパーなどが開始した買い物バス等により、買い物環境までのアクセスが大幅に緩和しているケースも見られました。災害復興における、官民のパートナーシップが良い効果を生み出している事例といえるかもしれません。

復興住宅の建設が進むなど、コミュニティの再生が正念場を迎えています。新たな地域環境の整備を進める際の参考になればと思います。

論文は、15日に老年学の最高峰のひとつである英国のAge and Ageing誌から出版されました。

論文はこちら(無料でダウンロードが可能です)

所属研究グループより:(日経記事)男性のうつ7分の1に 趣味の集まりで中心メンバー

日本老年学的評価研究 高齢者の社会参加状況を調査し、その後の要介護の発生を観察しました。ボランティアやスポーツ関係、老人クラブなどのグループに参加しいること、さらにその中で世話役などをするなど、積極区的に参加しているほど自立した生活を長く営めることがわかりました。

日経新聞電子版記事: http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXLASDG0402Q_V00C14A9CR0000&uah=DF_SOKUHO_0010

新しい論文が出版されました:スウェーデンの就労世代の健康格差拡大

多くの先進国で、近年健康格差の拡大が懸念されています。

本日、英国の学術誌Journal of Epidemiology and Community Healthより出版され論文で、福祉国家として最も長い歴史を持つスウェーデンの就労世代の男女でも、所得階層間の死亡率が90年台から上昇していることが示されました。

論文はこちら(無料で読めます):http://jech.bmj.com/content/early/2014/08/20/jech-2013-203619.full

スウェーデンでは、一定の許可のもとで、全国民の様々な統計情報を研究等の目的で使用することができます。今回、1990年から2004年までの間の住民票の情報や所得情報等を、30歳以上65歳未満の全国民について取得し、3年後の生存の有無の情報と結合することで、繰り返しの追跡調査、というデザインの分析を行いました。その結果、男性では90年代以降、緩やかに所得階層による死亡率の格差が拡大たことがわかりました。つまり、低所得の人と高所得の人それぞれが3年以内に死亡する確率の差が拡大したということです。特に低所得者の死亡リスクが上昇している傾向が観察されました。

さらに、女性では、男性以上に、特に1995年以降上昇のスピードが高まったことがわかりました。

同国では90年台前半に深刻な経済不況が起こり、社会保障制度や税制改革が行われ、経済弱者への保護施策に一定の減弱が起きたことが知られています。今回観察された結果は、そういった制度の影響によるかのうせいが考えられ、今後検証を進めていくことが必要と思われます。

女性のほうで顕著に格差が拡大していることに理由としては、スウェーデンの女性は約8割が公的機関で働ていることが関係している可能性が考えられます。公的機関の労働者は、民間企業の労働者よりも、そういった制度の影響を直接受けやすいからです。