靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

不可附席

『太素』26寒熱雑説(『霊枢』寒熱病篇)
皮寒熱,皮不可附席,毛髮焦,鼻槀腊,不得汗。取三陽之胳,補手太陰。
肌寒熱,肌痛,毛髮焦而脣槀腊,不得汗。取三陽於下以去其血者,補太陰以出其汗。
骨寒熱,病毋所安,汗注不休。齒未槀,取其少陰於陰股之胳;齒已槀,死不治。
 附は近に通じる。席はムシロ、敷物。どうして敷物に近づけないのかいささか腑に落ちないが、『太素』22五節刺(『霊枢』刺節真邪篇)にも「熱於懷炭,外重絲帛衣,不可近身,又可不近席」とある。突飛な修辞というわけではない。ただし、前が重絲帛衣を身に近づけることを云々しているのであれば、後も重絲帛衣を席に近づけることを云々しているのであって、身を席に近づけるかどうかの問題ではないのかも知れない。
 寒熱雑説の経文で、皮寒熱と肌寒熱を対比検討してみると、症状としては乾くのが鼻か唇かであって、皮不可近席と肌痛が対になっている。また骨寒熱の病毋所安は、『甲乙経』では病が痛になっている。してみると、不可附席も熱いからというばかりでなくて、皮膚が痛んで席に着けないのかも知れない。(上の「身を席に近づけるかどうかの問題ではないのかも」とは齟齬する。)
 皮寒熱の「三陽之胳」について、楊上善は「三陽胳在手上大支脈,三陽有餘,可寫之」と言う。うっかり読むと、手少陽脈の三陽絡穴と解しているようだが、そうではなさそうである。渋江抽斎『霊枢講義』に「手三陽の別絡を言うに似る、因って攷えるに三陽絡は、泛く手足三陽の絡脈を指す、蓋し陽経は表を主る、故に其の絡を刺すなり」と言っている。案ずるに三陽は太陽、陽明、少陽の三つの陽を言うに過ぎないであろう。陽の部の絡脈(細絡)を取る。手少陽脈の三陽絡穴と解するのは、おそらくは楊注の読み誤り。張介賓は、三陽は足太陽であって、その絡穴は飛揚穴であるというが、これも不審。また、『甲乙経』の三陽絡穴にも飛揚穴にもここに相応しいような主治は無い。
 肌寒熱の「三陽於下」についても、楊上善は「足三陽盛,故去其血也」と言い、足の太陽、陽明、少陽の部位に細絡を探して血を去るようである。少なくとも三陽という名の穴が有るようには言ってない。
 肌寒熱に三陽を「下に取る」と有るところからすれば、皮寒熱は「上に取る」で手の三陽で良いだろう。
 発汗させるために、皮寒熱では手の、肌寒熱では足の太陰を補う。
 つまり、皮寒熱と肌寒熱はほとんどぴったり対をなしている。解釈も対になるようにすべきである。
 骨寒熱は、その次の段階に入ってしまっている。それにしても痛と汗と槁を言っている。治療できるものは、やはり刺絡する。

雑病

 『霊枢』雑病篇は臨床経験の破片の寄せ集めみたいなものだし、こういうのが『甲乙経』の主治の材料だったと思うけど、なかなかぴったりというのは見つかりませんね。
 厥氣走喉而不能言,手足凊,大便不利,取足少陰。
+嗌乾,口中熱如膠,取足少陰。
=消癉,善喘,
 氣走喉咽而不能言,手足凊,溺黄,大便難
 嗌中腫痛,唾血,口中熱,唾如膠,太谿主之。
 材料はもう一つ有りそうなんだけど、見つかりません。足少陰というのはこれらの病症を診断し治療するポイントには違いないんだけど、それを大谿穴と決めたのは『明堂』の編者です。最初のこうした効果を経験した名医の本意とは限りませんからね。と言うことは、他の主治穴にも編者の色眼鏡がかかっているかも知れない。
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