靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

石門

 『甲乙経』巻三・腹自鳩尾循任脈下行至会陰凡十五穴第十九に「石門,……女子禁不可刺灸中央,不幸使人絶子」とあり、巻五・鍼灸禁忌第一下に「石門女子禁不可灸」とある。『甲乙経』には石門が主どる症候がいくつも見られるが、この「禁」は「女子」と断っている以上は、必ずしも誤りとは言えない。
 しかし、巻十二・婦人雑病第十に「絶子,灸臍中,令有子」とある。これは臍中に灸すれば子が有ると言っているのであるから、「絶子」は明らかに不妊症であり、その治療のための方である。同一の詞語を一方で医療の過誤と読み、一方で治療の対象と読むのは腑に落ちない。
 『甲乙経』の巻十二、つまり古の『明堂』からの採録と思われる婦人科の条項に、絶子は何度も登場する。
女子絶子,陰挺出,不禁白瀝,上窌主之。
絶子,灸臍中,令有子。
女子手脚拘攣,腹滿,疝,月水不通,乳餘疾,絶子,陰癢,陰交主之。
腹滿疝積,乳餘疾,絶子,陰癢,刺石門。
女子絶子,衃血在内不下,關元主之。
女子禁中癢,腹熱痛,乳餘疾,絶子内不足,子門不端,少腹苦寒,陰癢及痛,經閉不通,小便不利,中極主之。
絶子,商丘主之。
大疝絶子,築賓主之。
 石門の条自体は、「刺」と断ってあるのだから、刺すのはよいが灸は禁物と強弁できないことはない。しかし、他はともかくも、同じ腹部正中線上の二寸上の臍中に灸すれば子が有り、一寸上の陰交、一寸下の関元は絶子を主どるのに、石門だけが禁忌であるとは到底納得できない。「主之」は、『甲乙経』の凡例によれば灸刺いずれも可である。 
 乃ち「不幸使人絶子」という忠告は、「絶子」を読み誤った後人の老婆心であり、妄りに付け加えた贅言であると考える。

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