靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

行路遠也

 これだけを見て、「麤」であると分かる、というのは結構きついところだと思いますよ。でも、「文傳得口傳得妙」という文脈の中でなら、まあなんとか見当はつく。
 『干禄字書』に「麁麆麤 上中通,下正,此与精粗義同,今以粗音才古反,相承已久」と有ります。つまり、この麁の変形したもの、筆の勢いといったことではないかと思うわけです。精粗の粗です。で、後のほうでごちゃごちゃ言っているのは、実は『竜龕手鏡』には「麁麄 倉胡反,踈也,大也,不精也,不善也,二」と「麤 倉胡反,浙韻云,行路遠也,又驚防也,鹿之性相背而食,慮人獸之害也」と二本立てになっているんです。『竜龕手鏡』の「麤」の「行路遠也」は『説文解字』の「行超遠也」からきているんだろうけど、それが粗の意味をもつのは、鹿の群れが奔ると、羊なんかの群れとは違ってバラバラになるからだそうです。で、結局、「麤」と「麁」は同じ字なのかどうか、よく分からなくなってしまう。それにそもそも「鹿」の下部の「比」、『干禄字書』でも『竜龕手鏡』でも「厸」になっているんです。しかも『竜龕手鏡』では鹿の部に「比」に作る字も平然と並べてなにも説明しない。まあ、こういった変形はどうでも良いことなんでしょう。
 結局、「麁」から上に掲げた画像まではまだ結構距離がありそうで、さてどこまで説明する必要があるのかしら。「比」あるいは「厸」をさらに省略したというあたりまでは見当がつくけれど。というわけで、銭教授の『新校正』はこういうのをどう解決するのか、とまあ待ち遠しいわけです。

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