図1:中央にへこみのある水疱が多発している
図2:胸部腹部に水疱びらんがみられる乳児例
図3:アトピー性皮膚炎の不適切治療中に生じた例。膿痂疹も合併していた。
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カポジ水痘様発疹症は単純ヘルペスやコクサッキーウィルス、ワクチニアウィルスによる感染症で、通常これらのウィルス性の発疹は限局性にみられますが、カポジ水痘様発疹症の場合には、湿疹などの上に感染し、急速に拡大してきます。もとの皮膚病には湿疹、熱傷、ダリエ病などがいわれていますが、経験するのはほとんどがアトピー性皮膚炎の湿疹病変に合併した単純ヘルペスの例です。発疹の形は通常のヘルペスと同様に中央にへこみのある小水疱ですが、単純疱疹よりもやや大型で多発拡大する傾向が強く、すぐにただれて痛くなったり、リンパ節が腫れたり発熱などもみられます。教科書には単純ヘルペスの初感染と書かれていますが、再発例もしばしば経験します。表面に細菌感染が合併すると伝染性膿痂疹(とびひ)との鑑別が困難になります。特にアトピー性皮膚炎の不適切治療などにより皮疹のコントロールが悪い状態で、カポジ水痘様発疹症を発症して重症化した例も一時期はみられましたが、最近は若干少なくなった印象です。
典型的な発疹があれば診断は比較的容易ですが、疑わしい時はTzanckテスト(水疱内容をスライドガラスにつけて、数分染色して顕微鏡で検査)でウィルス性巨細胞が確認されれば、診断の助けになります。軽症、中等症では抗ウィルス薬の内服(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)が有効ですが、重症ではアシクロビルの点滴静注が必要になります。2次的に細菌感染が重複している場合には抗菌薬の全身投与も行われます。これら薬剤の使用により、皮疹は比較的速やかに改善しますが、現時点では再発を抑える治療法は残念ながら確立していません。再発の予防には基礎疾患となるアトピー性皮膚炎などのコントロールに心がけることと、風邪をひかないようにする、過労を避けるなど、一般的な単純ヘルペスの悪化因子に留意することが重要です。アトピー性皮膚炎の皮疹のコントロールのためには、ステロイドやタクロリムス軟膏の外用は必要ですが、ヘルペスの発疹部位には外用を控えた方が望ましいです。
いずれにせよ発熱などの全身症状を伴うため、ただちに医療機関を受診してください。
(神奈川県支部 川口 博史)
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