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 開発の経緯(コンセプト)
近年,厚生労働省の指導により医療機関は在院期間短縮の流れにあり,リハビリテーション(理学療法)も効率よく行う必要性がある.しかし,現状をみると科学的根拠に基づいた理学療法サービスが十分提供されているとは言い難い.例えば,運動器疾患の廃用性筋萎縮に対する筋力強化訓練法として,主に重錘負荷等によるトレーニングのみを実施している医療やその関連施設等は少なくない.しかしこれら訓練により,ある程度筋力の回復が得られても,実際の動作,例えば股関節疾患患者であれば,歩行動作の異常の一つとして中殿筋跛行や荷重時の関節・体幹の不安定性が残存し,動作障害が十分改善されていない症例をしばしば経験する.このことは単純に「筋力の回復」=「有効に活用しうる筋力の向上(筋の質的向上)」にはならないことを意味している.そこで今,リハビリテーションに必要なものは従来の量的な筋力増強訓練に加え,別の質的な筋力向上を図る訓練プログラムを作成することであり,その筋の質的評価法の確立である.しかし,現状では動的な質的筋活動能力を客観的に計測する評価方法がない.そこで,近年我々は世界に先駆けてwavelet変換とよばれる新しい工学技術を表面筋電図(EMG)周波数解析に応用し(図1),股関節疾患患者を対象に歩行時立脚期の時々刻々と変化する中殿筋の動的EMG周波数特性の評価註1)(筋の質的評価)を行った.その結果,跛行の顕著な患者ほど,立脚期初期(踵接地時)の平均周波数(MPF)の上昇が認められず,その原因として主にtypeU線維を支配する運動単位の動員数と発火頻度の減少の可能性が示唆された註2).さらに本研究結果を検証するため筋生検を行い組織形態学的分析から同特性の意義について検討した結果,動的EMG周波数特性はtypeU線維の線維径と深く関連しており,wavelet周波数解析はtypeU線維の非侵襲的廃用性筋萎縮評価に有効である結論を得た.本プロジェクトの最大の特徴は,最先端の工学技術であるwavelet変換を世界に先駆けてEMGに応用した医学と工学分野に根ざした独創的学際研究であること.また上記の結果は,あらゆる日常生活動作に直結した動作時における筋の質的評価を可能にするものであり,股関節疾患のみならず,多くの運動器疾患,高齢者の転倒予防,スポーツ領域でのパフォーマンス評価等に応用が期待され,今後のリハビリテーションの治療技術を大きく発展させていく科学的評価法になりうるものである.本プロジェクトの目的は,これまでの研究成果を臨床に広く還元するべく,安価・機能的・実践的な質的筋機能評価システム(世界初)を開発,製品化し,EMG評価の臨床普及化を目指すものである.

註1: 従来,筋の質的評価としては高速フーリエ変換(FFT)を用いた周波数解析があった.しかし,FFTは解析する信号波形の定常性が前提となるため測定法が静的なものに制限され,そのため例えば下肢筋において歩行や階段昇降,或いはジャンプ動作といった瞬時に筋活動が変化する動的な筋の質的評価には適さなかった.
註2:EMGパワースペクトルの高周波帯領域は主にtypeU線維の活動を反映し,低周波帯領域は主にtypeT線維の活動を反映すると言われている.また,解析指標として平均周波数(MPF)がしばしば用いられる.typeU線維の運動参加比率が高まれば,MPFは上昇する.
図1 wavelet変換を用いたEMG周波数解析の特徴
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