京都大学腫瘍生物学講座

京都大学 医学研究科 腫瘍生物学講座

Department of Pathology and Tumor Biology, Kyoto University

脳腫瘍について

脳腫瘍は肺がんや乳がんなどに比べ発症頻度は低いですが、発生部位の特性から極めて治療が困難な病期です。 現在のがん治療は主に「手術」「放射線治療」「化学療法」が中心となっておりますがいずれも脳腫瘍には高いハードルがあります。 脳におけるほとんどの領域は切除により重大な機能障害を引き起こしてしまいます。 悪性脳腫瘍は脳の中に染み込むように増殖していくため手術による完治が困難なことが多いです。 放射線治療も限度を超えた投与量は認知機能の障害を引き起こすため、照射量に制限がかかります。 また、脳の血管は特殊な構造をしており多くの薬は腫瘍に到達できません。 このように脳腫瘍の治療は極めて困難です。

成人に起こる原発性脳腫瘍は神経膠腫(glioma)がほとんどです。 低悪性度神経膠腫は緩徐に増殖しますが完治は困難であり、数年から数十年を経てより悪性度の高い腫瘍として再発し治療抵抗性となります。 高悪性度である神経膠芽腫(Glioblastoma)は発症すると集中的な治療を行ってもほとんどが2年以内に亡くなってしまいます。 私たちはこのように治療困難な脳腫瘍の病態を解明し、新規治療の発展の礎を築くことを目指しております。



研究内容

私達は神経膠腫(glioma)における遺伝子異常がどのように起こっているか解明するため次世代シークエンサーを用いたシークエンス解析を行っております。 国内の多施設から腫瘍検体の提供をうけ現在までに500を超える脳腫瘍検体の遺伝子変異解析を行っております。 特に低悪性度神経膠腫においては300例以上の解析をしており、最近までよくわかっていなかった遺伝子変異の全貌を解明することができました。 さらに、詳細な解析を行うことにより腫瘍が進展していく中でどのように遺伝子異常が蓄積されていくか明らかにしました。 低悪性度神経膠腫は多様性が強い腫瘍であることがわかり、一人の患者さんでも場所により起こっている遺伝子変異は異なることがわかりました。 この結果は将来の診断や治療選択にとても有用なデータであり、遺伝子変異の役割がわかったため今後の新規治療の開発に寄与する結果と考えてます。

現在もさらに詳細な解析を加え、神経膠芽腫(Glioblastoma)などの疾患も積極的にシークエンス解析を行っております。