母性15q重複症候群
(Maternal 15qDuplication Syndrome)

[Synonyms:ADPKD]

Gene Reviews著者: LainaLusk,MMSc,CGC,VanessaVogel-Farley,BA,CharlotteDiStefano,PhD,andShafariJeste,MD
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2021.7.15  日本語訳最終更新日: 2023.7.17.

原文: Maternal 15qDuplication Syndrome


要約


疾患の特徴

母性15q重複症候群(母性dup15q)は、筋緊張低下と運動発達遅延、知的障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)、点頭てんかんをはじめとするてんかんを特徴とする疾患である。稀ながら、母性dup15qでは精神病や原因不明の突然死が生じることもあるようである。15q11.2-q13.1が過剰となる母性同腕ダイセントリック染色体をもつ例は、通常、中間部重複の例より罹患の程度が重度である。

診断・検査

母性dup15qの診断は、Prader-Willi/Angelmanクリティカル領域(15q11.2-q13.1内の約5Mbの領域)の母親由来の過剰コピーを1つ以上検出することをもって確定する。過剰コピーができるメカニズムは、ふつう、次の2つのうちの1つである。

この場合、通常、15q11.2-q13.1の過剰コピーが2つ現れ、15q11.2-q13.1がテトラソミーの状態となる(60%-80%)。

この場合、通常、15番染色体内の15q11.2-q13.1の過剰コピーは1つで、15q11.2-q13.1がトリソミーの状態となる(20%-40%)。

臨床的マネジメント 

症候に対する治療 :
集学的なチームの手で運動・言語発達の評価を行うこと、ならびに、適切な教育プログラムに向けた紹介を支援することが中心となる。支持療法としては、摂食治療、作業療法と理学療法、拡大・代替コミュニケーション、行動療法(例えば、応用行動分析)、行動の問題に対応するための向精神薬、てんかん発作に対する標準治療などがある。
定期的追跡評価:
成長と栄養に関する評価を来院ごとに行う。
定期的に行うこととしては、

の2つがある。

避けるべき薬剤/環境 :
てんかん発作の引き金となるもの(例えば、睡眠妨害やストレス)

リスクを有する血縁者の評価:
中間部重複を有する例を速やかに集学的チームの評価や発達支援に向けた紹介につなげられるよう、発端者の同胞(15q11.2-q13.1の母性の中間部重複の継承に関して高リスクであることがわかっている人)については遺伝学的検査の施行を検討する。

遺伝カウンセリング

現在までに報告されている罹患者は、その全例がdenovoである。そのため、同胞の有するリスクは低いものの、それでも一般集団よりはわずかに高くなると考えられる。それは、母親の生殖細胞系列モザイクの可能性が残るからである。

発端者の約85%はdenovo、約15%は母親からの継承例である。母親が15qの中間部重複を有していた場合、子がその重複を継承するリスクは50%である。
染色体マイクロアレイ(CMA)を用いた出生前検査あるいは着床前遺伝学的検査を行うことで、15qの中間部重複の検出は可能である。ただ、母性dup15qに関して高リスクであることが事前にわかっていたとしても、出生前検査の結果に基づいて、現れる表現型の重症度を信頼性をもって予測することまではできない。


GeneReviewの視点

母性15q重複症候群:ここに含まれる遺伝学的メカニズム
  • 母性同腕ダイセントリック染色体による15q11.2-q13.1の過剰[idic(15)]
  • これにより15q11.2-q13.1はテトラソミーもしくはヘキサソミーの状態となる。
  • 母性の15q11.2-q13.1中間部の重複(duplication)あるいは三重複(triplication)

同義語、ならびに過去に用いられた用語については、「疾患名について」の項を参照。


診断

本疾患を示唆する所見

以下のような臨床症候を有する例については、母性15q重複症候群(母性dup15q)を疑う必要がある。

診断の確定

発端者における母性dup15qの診断は、Prader-Willi/Angelmanクリティカル領域(15q11.2-q13.1内の約5Mbの領域)の母親由来の過剰コピーを1つ以上検出することをもって確定する(図1参照)。
15qの近位領域には、ゲノム分節重複(segmentalduplication)あるいは低コピー反復配列(lowcopyrepeats)と呼ばれる領域(切断点[breakpoint;BP]で分画される)が5つ存在する。そして、この部位でゲノム再構成を受けやすくなっている[Hogartら2010]。

この5つの領域は、それぞれBP1からBP5の名で呼ばれる。PWACRはBP2とBP3の中間に位置し(図1)、母性dup15qを引き起こす中間部重複やidic(15)の影響を常に受けることになる。PWACRはインプリンティングを受けた領域で、母性由来のコピー数増加が母性dup15q(本GeneReviewの取り扱っているものはこれ)を引き起こす一方、父性由来のコピー数増加によって生じる表現型はもっと幅広く、時にこれとは全く異なる神経発達上の表現型を呈することになる(「遺伝学的に関連のある疾患」の項を参照)[Cookら1997,Urracaら2013]。

1

―B.15q11.2-13.1の中間部重複
―C.15q11.2-13.1の同腕ダイセントリックによる三重複
注:切断点1(BP1)から切断点2(BP2)を水色、BP2からBP3を赤、BP3からBP5を緑で示した。
PWACRの過剰コピーは、次の2つのメカニズムのどちらかにより生じるのがふつうである(図1)。

GeneReviewでは、母性15qの定義を、参照ゲノム(NCBIBuildGRCh38/hg38,これを見るにはここをクリック)のおおむね22,782,170-28,134,728の範囲にあるPWACRを含む形で、15q11.2-q13.1の過剰コピーが1つ以上存在することとする。重複のサイズはさまざまで、最も大きなものでは12Mbというものもある(確認はこちらをクリック)が、いずれにしてもdup15qの原因であるPWACRを含む重複であることがその条件である。
この4.5-12Mbの反復性重複内には、いくつか注目すべき遺伝子(例えば、ATP10ACYFIP1MAGEL2NECDINSNRPNUBE3AsnoRNA群,GABAA受容体サブユニットをコードする遺伝子群)が存在するものの、今のところ、重複が生じることで母性dup15qが生じる特別な1つの遺伝子というものは同定されるに至っていない(重複領域にある注目すべき遺伝子については、「分子遺伝学」の項を参照)。

ゲノム検査の手法

ゲノム配列のコピー数を調べるためのゲノム検査の手法としては、染色体マイクロアレイ(CMA)や標的型重複解析がある。
注:(1)15q11.2-q13.1の中間部重複は、通常のG分染法その他の従来の細胞遺伝学的手法では、ふつう同定することができない。ただ、idic(15)、ならびにPWACRの範囲を超える大きな中間部重複(5Mb超)については、細胞遺伝学的手法で同定可能なことがある。
(2)idic(15)については、モザイクの例が報告されており、これは、ある程度の有糸分裂の不安定性を示唆するものである[Wangら2008]。モザイクの場合は、表現型が変わってくる可能性があり、また、診断に用いるゲノム検査法の感度にも影響が及ぶ可能性がある。

CMA

オリゴヌクレオチドやSNPのアレイを用いたCMAを用いることで、発端者の15q11.2-q13.1領域のコピー数の増加を検出することが可能である。重複のサイズを同定する能力は、用いるマイクロアレイのタイプ、ならびに15q11.2-q13.1領域のプローブの密度によって変わってくる。idic(15)と15q11.2-q13.1の三重複とを信頼性をもって区別することは、CMAではできない。
注:(1)母性dup15罹患者の大多数は、発達遅滞、知的障害、自閉症スペクトラム障害の評価の一環として行われたCMAでこれが判明したものである。
(2)重複が過剰染色体によるものか中間部重複によるものか、あるいは、モザイクがあるかどうかといったことを調べるためには、FISHもしくは細胞遺伝学的検査が必要となる。

標的型重複検査

発端者が15q11.2-q13.1の反復性重複を有していることが判明している場合の血族に対する検査として、FISH解析、定量的PCR(qPCR)、MLPA法、その他の標的型の定量的手法が用いられることがある。
注:(1)15q11.2-q13.1領域を標的とする形で設計されたCMAで反復性の重複が検出されなかった例について、改めて標的型重複検査を行うことは適切ではない。
(2)標的型の手法で重複のサイズを定常的に把握することは不可能である。

母親起源の確認

15q11.2-q13.1の重複が母親起源のものに生じたものであることの確認は、次のいずれかの方法で行うことができる。

表1:母性15q重複症候群で用いられるゲノム検査

重複1 方法 感度
発端者 リスクを有する血族
15q11.2-q13.1領域の4.5Mb-12Mbの重複(PWACRを含む領域の重複)
ISCN:seq[GRCh38]dup(15)(q11.2-13.1)
chr15:g.22,782,170-28,134,728dup2
ClinGenID:ISCA-374043あるいはISCA-374784
CMA5,6 100% 100%
標的型重複解析7 利用不可8 100%
  1. この領域内で生じる重複の詳細、ならびに、ここに座位する主な遺伝子の詳細については「分子遺伝学」の項を参照されたい。
  2. ゲノムのバリアントに関するClinicalGenomeResource(ClinGen)プロジェクト(旧InternationalStandardsforCytogenomicArrays[ISCA]Consortium)の標準化された臨床的アノテーションと解釈。ここに挙げたゲノム座標は、ClinGenの示した15q11.2-q13.1の反復性重複の最小範囲を表記したものである。重複の座標は、検査機関の使用するアレイのデザインにより若干の幅が生じる可能性がある。切断点付近では複数のゲノム分節重複が存在するため、予測される重複のサイズと、この座標位置から機械的に算出される重複のサイズとの間には若干のずれが生じる可能性があることに留意されたい。この領域内に生じた重複の中で、これよりもはっきりと大きいもの、小さいものについては、15q11.2-q13.1の反復性重複とは、表現型が臨床的に全く異なるものである可能性がある。
  3. BP1からBP3までの、約6Mbにわたるクラス1の重複
  4. BP2からBP3までの、約5Mbにわたるクラス2の重複
  5. オリゴヌクレオチドあるいはSNPのアレイを用いた染色体マイクロアレイ解析(CMA)。現在、臨床で使用されているCMAは、15q11.2-q13.1領域を標的としたデザインとなっている。
  6. 注:母性15q重複は、以前のオリゴヌクレオチドや大腸菌人工染色体(BAC)を用いた手法では検出できなかった可能性がある。

  7. 中間部重複か過剰染色体内で生じたものかを特定するため、ほとんどの場合、CMAに続けてFISH法や細胞遺伝学的解析(例えば、G分染法による染色体検査)を追加する必要がある。CMAの結果だけで中間部重複であることがわかるような例もありうるが、それほど多くはない。
  8. 標的型の重複解析の手法としては、FISH法、定量的PCR(qPCR)、MLPA法、ならびにその他の標的型の定量的手法がある。
  9. 15q11.2-q13.1領域を標的としたデザインのCMAで重複が検出されなかった例の診断に、標的型重複解析を行うことは適切ではない。

臨床的特徴

臨床像

母性15q重複症候群(母性dup15q)は、筋緊張低下と運動発達遅延、知的障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)、点頭てんかんをはじめとするてんかんを特徴とする疾患である。
こうした臨床所見は、母性の中間部重複をもつ例と、母性の同腕ダイセントリック過剰染色体―idic(15)―を有する例とで大きく異なる(表2)。母性idic(15)の例のほうが中間部重複例より概して重症である。ただ、遺伝学的メカニズムは同じで単に重複量が増大した場合でも、重症度に変化が現れる。また、表現型としてみられる症候の中には(例えばASD)、母性idic(15)例や、PWACRを超えて延びる大きな(5Mb超の)中間部重複例では、ほぼ例外なく認められるといったものもある[Hogartら2010]。

表2:母性15qの中間部重複とidic(15):臨床症候の比較

症候 母性中間部重複 母性同腕ダイセントリック過剰染色体
筋緊張低下 軽度から中等度 重度
発達遅滞/知的障害 中等度 重度
自閉症スペクトラム障害 50%以上1,2 80%以上1,3
てんかん 25%近く4 65%近く4
  1. AlAgeeliら[2014]
  2. Urracaら[2013]
  3. Battagliaら[2010],Hogartら[2010]
  4. Conantら[2014]

筋緊張低下と運動技能
母性dup15qの新生児・乳児にみられる筋緊張低下は、摂食障害ならびに粗大運動発達遅滞の形で現れる[Depienneら2009,Hogartら2010,Urracaら2013]。
同時に、筋緊張低下は、便秘をはじめとする母性dup15qの消化器の問題にも関係してくる。
小児期の筋緊張低下により運動発達に障害が生じるものの、大多数の子どもは2歳から3歳で(中間部重複の子どものほうが早く)自立歩行ができるようになる[Hogartら2010,Piardら2010,AlAgeeliら2014]。
歩隔の拡大や失調性歩行が多くみられる[Bundeyら1994]。非症候群性の自閉症スペクトラム障害の子どもと異なり、母性dup15qの子どもの場合は、微細運動技能と粗大運動技能の両方に遅延と持続性の障害がみられるため、適応生活技能に悪影響が生じることになり、この点が両者の違いとなっている[DiStefanoら2016]。

発達遅滞と知的障害
小児期初期における発達遅滞は、ほぼあらゆる分野の遅滞として現れる。そして、5歳以降に、より特異的な形で、知的障害と診断されることが多い。
運動発達の遅延以外のものとしては、言語発達への影響が特に大きく、言語の全分野にわたって中等度から重度の遅延がみられる[Hogartら2010]。反響言語、代名詞転倒、常同性発話を呈する例がある一方、一部には言語機能の発達が全く生じない例もみられる[Battagliaら1997,Battagliaら2008]。
母性dup15qの小児や成人の大多数は、機能面では中等度から重度の知的障害を示す。ただ、ばらつきの幅もみられ、中間部重複例については認知機能が概して高めである[DiStefanoら2020]。
てんかんを有する母性dup15q罹患者は、てんかんを有しない母性dup15q罹患者に比べ、言語、日常生活、社会性、微細運動技能、粗大運動技能が低いとされている[DiStefanoら2016,DiStefanoら2020]。

自閉症スペクトラム障害(ASD)
母性dup15qの子どもや成人の大多数がASDの基準を満たす。ある研究によると、母性idic(15)の27人中25人が自閉症診断観察検査(ADOS)上の自閉症の基準を満たし、残りの27人中2人もASDの診断基準を満たしていたという[DiStefanoら2020]。一方、中間部重複の母性dup15qの例については、12人中10人が自閉症の基準を満たし、1人がASDの基準を満たしていたが、残る1人はどちらの基準も満たさなかった。ASDを引き起こすことが知られている他のコピー数多型(CNV)と比較したとき、母性dup15qは最大のリスクを示す(オッズ比2.6以上)[Malhotra&Sebat2012,Moreno-De-Lucaら2013]。ASDの症候、特に社会的相互作用の難しさは、幼児期から小児期後期にかけて顕著になることがある[Simonら2010]。
非症候群性のASDを有する子どもと比較して、母性dup15qの子どものASDは、反応としての社会的微笑や他者への指向性をもった顔の表情が保たれるといった形で、はっきり異なる行動プロフィールを示す。こうしたことは、行動に関する介入を行うにあたってのヒントになりうるものであるように思われる[DiStefanoら2016]。

てんかん
母性dup15q罹患者の半数超がてんかんを有し、点頭てんかんや、ミオクローヌス性発作、強直間代発作、欠神発作、焦点性発作といった複数の発作のタイプを含むことが多い[Conantら2014]。発作は、生後6ヵ月から9歳の間に始まることがほとんどである[Battagliaら2008]。てんかんの発生率は、中間部重複に起因する母性dup15q罹患者に比べ、idic(15)に起因する母性dup15q罹患者のほうが高い(それぞれ6%,57%)[DiStefanoら2020]。
点頭てんかんの原因として、母性dup15qは最もよく知られたものの1つである[Conantら2014]。母性dup15q罹患者でみられる点頭てんかんは、その後、LennoxGastaut症候群その他の複雑発作のパターンへと移行し、コントロールが難しいことが多い。発作を伴う例の40%が最初は点頭てんかんの形で現れ、そうしたグループの約90%がその後、他の発作のタイプへと移行する。
母性dup15q罹患者でみられる難治性てんかんにより、転倒や発達の退行といった二次的障害に至る場合がある。こうしたものは、制御できていない頻回の発作、あるいは非痙攣性のてんかん重積状態を有する罹患者の半数超に生じる[Battagliaら1997]。
てんかんを有する子どもは、てんかんのない子どもに比べ、認知機能や適応機能が低いことがわかっている[DiStefanoら2020]。

顔の形態異常
母性dup15q罹患者でしばしば報告されている軽微な形態異常としては、平坦な後頭部、眼瞼裂斜下、低い鼻梁、上向きの鼻尖を伴う短い鼻、耳介低位、長い人中、高口蓋、分厚い上下の赤唇、小下顎症などがある[Battagliaら1997,Borgattiら2001,Hogartら2010,Urracaら2013]。ただ、こうした症候はごく軽微であることが多いため、乳児期には見過ごされてしまうことがある。

精神病
統合失調症のコホートで母性idic(15)が報告されてはいるものの[Reesら2014]、精神病は母性dup15qで多くみられる併存疾患ではない。ただ、こうした所見は、ことによると認知機能が低く言語能力の限られた例において精神病を認識して診断することの難しさを反映したものである可能性も考えられる。例えば、同じく母親由来の15q11.2-q13.1に重複がみられる片親性ダイソミーに起因して生じたPrader-Willi症候群では、精神病が多くみられる併存疾患となっている[Bassett2011]が、この片親性ダイソミーに起因して生じたPrader-Willi症候群罹患者の場合は、概して母性dup15q罹患者より認知機能や言語能力が高いという事実がある。逆に、母性dup15q罹患者の場合はASDが高率にみられるため、気分障害を伴う精神病が統合失調症と誤診されていることが考えられる。

てんかんにおける突然死(suddenunexpecteddeathinepilepsy;SUDEP)
母性dup15q罹患者では、少数ながら有意な数のSUDEPがみられる[Friedmanら2016,Devinsky2011,Wegielら2012]。こうした突然死のほとんどは睡眠中に生じており、大多数(全例ではない)はてんかんを有するティーン世代や若い成人に生じたものである。自力歩行ができない状態、ならびに発作のコントロールがうまくいっていない状態が、母性dup15q罹患者におけるSUDEPのリスク要因であるように思われる[Friedmanら2016]。
SUDEPの背後にあるメカニズムについては、現段階ではよくわかっていないものの、今あるデータを見る限り、大多数の例は、強直間代発作に続いて脳機能の停止と心肺停止が生じている模様である。SUDEPは、てんかんを有する例の9%で生じる。母性dup15q罹患者におけるSUDEPの発生頻度はよくわかっていない。

浸透率

母性idic(15)の浸透率は100%である。
15q11.2-q13.1の母性中間部重複も完全浸透と思われるが、一部に、症候が軽症にとどまるため、あたかも非罹患者のように見える例がある。浸透率は男女とも同じである。

疾患名

母性15q重複症候群とその関連疾患を表す用語として用いられたものには、以下のようなものがある。

発生頻度

ASD罹患者の間でみられるものとしては、母性dup15qは最も多くみられる細胞遺伝学的異常の1つで、おおむねASD罹患者522人に1人の割合でみられる[Depienneら2009]。


遺伝学的に関連のある疾患

表3:遺伝学的に関連のある疾患

母性dup15qとの表現型の比較 遺伝学的メカニズム 疾患名/臨床的特徴
表現型が重なるもの 父性の15q11.2-q13.1重複
  • 発達遅滞,顔の形態異常,てんかんリスクの上昇,自閉症スペクトラム障害,睡眠時随伴症(parasomnia;睡眠中の異常行動)をはじめとする睡眠の問題など、さまざまな表現型。
父性の15q11.2-q13.1中間部重複を有する例の50%以下に臨床的所見(特に自閉症の症候)がみられるようである1
  • 母性重複と父性重複とで表現型が一部重なるため、発端者が母性dup15qか父性中間部重複かの親起源を調べる検査を行う必要がある。
表現型が異なるもの 父性の15q11.2-q13.1領域の喪失をきたす欠失,片親性ダイソミー,インプリンティング障害 Prader-Willi症候群:特徴的顔貌,乳児期の筋緊張低下,性腺機能低下,軽度の知的障害,過食,強迫性の行動。
罹患者は言葉をしゃべることができ、高次脳機能障害の程度は、通常、母性dup15qより軽度(平均IQは60から70台)。
母性のUBE3Aアレルの機能喪失をきたす欠失,片親性ダイソミー,インプリンティング障害,UBE3Aの病的バリアント Angelman症候群:特徴的顔貌,重度の知的障害,表出言語の極度の障害,てんかん発作,運動失調,不自然に愉快がったり興奮したりといった性質。
15q13.3の欠失(通常はBP4からBP5までの欠失) 高次脳機能障害,自閉症スペクトラム障害,てんかん,スピーチの問題,行動/精神医学的問題(例えば、統合失調症,注意欠如,適応能力の障害,気分障害)
15q11.2の欠失(BP1からBP2までの欠失) スピーチの遅延,高次脳機能障害,(これより少ないものとしては)てんかん,先天性心疾患,行動の問題(例えば、注意欠如,多動,自閉症スペクトラム障害)2
15q11.2あるいは15q13.3が係わるものの、PWACRは含まれない重複 発達遅滞と自閉症スペクトラム障害への関与が示唆される3ものの、意義不明バリアントと考えられている4

PWACR=Prader-Willi/Angelmanクリティカル領域

  1. Urracaら[2013]
  2. Cox&Butler[2015],Vanlerbergheら[2015]
  3. Millerら[2009],vanBonら[2009],Burnsideら[2011]
  4. Kaminskyら[2011],Chasteら[2014]

鑑別診断

母性15q重複症候群(母性dup15q)で現れる表現型の特徴は、それだけで診断に結びつくようなものではない。したがって、知的障害(ID)の現れる染色体異常や遺伝子がすべて、母性dup15qと鑑別の対象となる。
OMIM Autosomal DominantAutosomal RecessiveNonsyndromic X-Linked, and Syndromic X-Linked Intellectual Developmental Disorder Phenotypic Series.」を参照されたい。


臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

母性15q重複症候群(母性dup15q)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表4にまとめた評価を行うことが推奨される。

表4:母性15q重複症候群罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価

評価 コメント
体格
  • 成長パラメーターの測定
  • 栄養状態ならびに口から安全に食物を摂れるかどうかの評価
筋緊張低下に起因する摂食の問題の評価を目的として行う。
神経 神経学的評価 発作の懸念がある場合は、脳波を検討する。
運動失行 整形外科/物理療法・リハビリテーション/理学療法・作業療法面での評価 下記の評価を含むものとする。
  • 粗大運動技能と微細運動技能
  • 可動性,日常生活動作,補装具の必要性
  • 理学療法(粗大運動技能の改善目的),作業療法(微細運動技能の改善目的)の必要性
発達 発達評価
  • 運動,適応,認知,言語の評価を含むものとする。
  • 早期介入/特別支援教育に向けた評価
精神/行動 神経精神医学的評価 12ヵ月超の罹患者について:睡眠障害,注意欠如多動性障害,不安,自閉症スペクトラム障害をうかがわせる特徴等、行動上の懸念に関するスクリーニング
遺伝カウンセリング 遺伝の専門医療職1の手で行う。 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、母性dup15qの本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。
家族への支援/情報資源 以下の必要性に関する評価
  • 地域、あるいはParenttoParentのようなオンラインの情報資源
  • 親の支援に向けたソーシャルワーカーの関与
  • 在宅看護への紹介
 
  1. 臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師をいう。

症候に対する治療

運動とスピーチの発達評価のため、また、その後の適切な教育プログラムへの紹介に役立てるため、集学的チームの手で乳児期初期から評価を始めることが推奨される。

表5:母性15q重複症候群罹患者の症候に対する治療

知的障害>
症候/懸念事項 治療 考慮事項/その他
体重増加不良/成長障害 摂食治療;摂食の問題が持続する場合は、胃瘻造設が必要になることもある。 嚥下障害の臨床的徴候・症候がみられるときは、臨床的摂食評価やX線嚥下検査を躊躇なく行う。
「発達遅滞/知的障害の管理に関する事項」の項を参照  
てんかん
  • 抗痙攣薬,迷走神経刺激薬,経験豊富な栄養士のもとで行うケトン食などの標準化された治療
  • 両親/介護者への教育1
抗痙攣薬の有効性は、発作のタイプや重症度によって変わってくる。
母性dup15qの抗痙攣薬治療に関するランダム化比較試験のデータは得られていない。
さまざまな薬剤,治療法の有効性に関する親からの報告については、Conantら[2014]を参照されたい。
家族/地域社会
  • 家族を地域の情報資源・息抜き・支援活動へと導くため、ソーシャルワーカーが適切な形で関与する体制を確保する。
  • 複数のサブスペシャルティ(訳注:より細かな専門分野に分けられた診療科をいう)の予約、機器、薬、物品を管理するケアコーディネーション
  • 緩和ケアや在宅看護の必要性に関する継続的評価
  • 障害者スポーツやスペシャル・オリンピックスへの参加を検討する。
  1. 両親/介護者に対し、てんかん発作の一般的な現れ方に関し、教育しておくことが望ましい。

てんかんと診断された子どもに対する非医療的介入と対処法に関する情報については、「EpilepsyFoundationToolbox」を参照されたい。

てんかん発作の管理

最重度の例における脳の損傷、発達の退行、てんかんにおける突然死(SUDEP)[Devinsky2011]などの二次的合併症を予防する上で、てんかん発作の管理は重要である。
発作関連死の約半数は、SUDEPによるものではなく、てんかん重積状態、溺死、転倒、事故といった他の原因によるものである。こうしたものの多くは予防可能である。例えば、てんかん重積状態は、ジアゼパムの直腸内投与、ミダゾラムの鼻腔内投与をはじめとする緊急用薬剤の使用により予防できる可能性がある。発作の迅速な確認と発作後の基本的ケア(例えば、うつ伏せではなく横向きに寝かせる)によりSUDEPの防止につなげられるとするデータが存在する[Ryvlinら2013]。それでも、わかっている範囲で唯一の予防的治療はというと、可能な範囲で最良の発作コントロール法を実践することである[Ryvlinら2011]。SUDEPの発見に役立つものとして、さまざまな監視機器(例えば、手首型とバンド式の加速度計)があるものの、どれ1つとして予防に役立つものはない[Devinskyら2011]。

発達遅滞/知的障害の管理に関する事項

以下に述べる内容は、アメリカにおける発達遅滞者、知的障害者の管理に関する一般的推奨事項を挙げたものである。ただ、そうした標準的推奨事項は、国ごとに異なったものになることもあろう。

0-3歳
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療、乳児のメンタルヘルスサービス、特別支援教育、感覚障害支援といったものが受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が推奨される。これは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して、罹患者個人の治療上のニーズに対する在宅サービスが受けられる制度で、すべての州で利用可能である。
3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて発達保育園に入ることが推奨される。入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で、運動、言語、社会性、認知等の機能の遅れをもとに認定された子どもに対し、個別教育計画(IEP)が策定される。通常は、早期介入プログラムがこうした移行を支援することになる。発達保育園は通園が基本であるが、医学的に不安定で通園ができない子どもに対しては、在宅サービスの提供が行われる。
全年齢
各地域、州、(アメリカの)教育関係部局が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、発達小児科医とよく話をすることが推奨される。押さえておくべき事項がいくつかある。

それを超える部分については、罹患児のニーズに基づいて、自費での支援治療が検討されるようなこともある。
行う治療の種類については、発達小児科医が個別に推奨を行う。

IEPサービスを受ける人たちのため、公立学区はその人が21歳になるまでサービスを提供しなければならないことになっている。

運動機能障害

粗大運動機能障害
可動性を最大限確保することを目的として、理学療法が推奨される。

微細運動機能障害
摂食、身だしなみ、着替え、筆記などの適応機能に問題が生じる微細運動技能の障害に関しては、作業療法が推奨される。

口腔運動機能障害
口腔運動機能については、来院ごとに評価を行うようにする。そして、摂食時の窒息/嘔吐、体重増加不良、度重なる呼吸器疾患への罹患、特別な理由の見当たらない摂食拒否といった状況がみられる場合は、臨床的摂食評価やX線嚥下検査を行うようにする。罹患児が、口からの摂食を安全に行える状況にあるということが前提ではあるが、協調運動の改善、あるいは、感覚の関係した摂食の問題の改善を支援する手段として、摂食治療(ふつう、作業療法士あるいは言語治療士がこれを担当する)が推奨される。安全性を確保するため、食餌にとろみをつけたり、冷やしたりといったことが行われることがある。摂食機能の障害が重篤な場合には、経鼻胃管あるいは胃瘻造設が必要になることもある。

コミュニケーションの問題
表出言語に障害をもつ罹患者に対しては、それに代わるコミュニケーション手段(例えば、拡大代替コミュニケーション[AAC])に向けての評価を検討する。AACに向けた評価は、その分野を専門とする言語治療士の手で行うことが可能である。この評価は、認知能力や感覚障害の状況を考慮に入れながら、最も適切なコミュニケーションの形を決めていこうというものである。AACの手段としては、絵カード交換式コミュニケーションシステムのようなローテクのものから、音声発生装置のようなハイテクのものまで、さまざまなものがある。一般に信じられていることとは反対に、AACはスピーチの発達を妨げるようなものではなく、むしろ理想的な言語発達に向けた支援を与えてくれるものである。

社会/行動上の懸念事項

小児に対しては、応用行動分析(ABA)をはじめとする自閉症スペクトラム障害の治療で用いられる治療的介入の導入に向けた評価を行うとともに、実際にそれを施行することがある。ABA療法は、個々の子どもの行動上の強みと弱み、社会性に関する強みと弱み、適応性に関する強みと弱みに焦点を当てたもので、ふつう、行動分析に関する学会認定士との1対1の場で行われる。
発達小児科医を受診することで、両親に対し、適切な行動管理の指針を指導したり、必要に応じ、注意欠如/多動性障害の治療に用いられる薬を処方したりといったことも可能になる。
深刻な攻撃的、破壊的行動に関して懸念があるときは、小児精神科医への相談という形での対応が考えられる。

定期的追跡評価

表6:母性15q重複症候群罹患者で推奨される定期的追跡評価

系/懸念事項 評価 実施頻度
摂食
  • 成長パラメーターの測定
  • 栄養状態ならびに口から安全に摂取できるかどうかの評価
来院ごと
神経
  • てんかん発作を有する例について、臨床的必要性に応じたモニタリング
  • 発作,筋緊張の変化,運動障害など、新たな症候に関する評価
発達 発達の進行状況、ならびに教育上のニーズのモニタリング
精神/行動 不安,注意力,攻撃的あるいは自傷的行動に関する行動評価
筋骨格 物理療法,作業療法/理学療法面からの可動性と自助能力の評価
家族/地域社会 ソーシャルワーカーの支援(例えば、緩和/息抜きのためのケア,在宅看護,地域の情報資源)やケアコーディネーションについての家族のニーズに関する評価

避けるべき薬剤/環境

てんかん発作の引き金となるもの(例えば、睡眠妨害,ストレス,薬の服用を遵守しないこと)を避ける必要がある。

リスクを有する血縁者の評価

母性の15q11.2-q13.1中間部重複を継承により有していることが判明している発端者については、同じくそれを有することとなった同胞を迅速に発達評価や早期介入サービスに紹介できるよう、同胞に対し遺伝学的検査の施行を検討する。
注:15q11.2-q13.1の母性同腕ダイセントリック過剰染色体―idic(15)―については、発端者の同胞への再発はきわめて稀である。
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

研究段階の治療

さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

母性15q重複症候群(母性dup15q)は常染色体顕性遺伝疾患で、通常はdenovoの遺伝学的変化に起因して生じる。

家族構成員のリスク

15q11.2-q13.1の母性同腕ダイセントリック過剰染色体―idic(15)

発端者の両親

注:この領域の過剰部分トリソミーの伝達例が、これまでに1例報告されている[Michelsonら2011]。

発端者の同胞 

発端者の子

idic(15)の罹患者が生殖能力を有するということは知られていない。

他の家族構成員

idic(15)に起因して母性dup15qに至った発端者は、これまでに報告された全例がdenovoの遺伝学的変化に起因して発症した例であったことから、他の血縁者の有するリスクは低いものと推定される。

母性15q中間部重複

発端者の親

発端者の同胞

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の母親の遺伝学的状態によって変わってくる。

発端者の子

発端者の子が15q中間部重複を継承する可能性は50%である。

他の血縁者

他の血縁者の有するリスクは、発端者の母親の遺伝学的状態によって変わってくる。発端者の母親も15q中間部重複を有していたということになると、その血族にあたる人もその重複を有する可能性があることになる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、「臨床的マネジメント」の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。

家族計画

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

母性idic(15)

これまでに報告されているidic(15)が全例denovoであることから、今後の妊娠に伴うリスクは低いものと推定される。ただ、母親の生殖細胞系列モザイクの可能性があって、リスクが一般集団より若干高くなる可能性があることから、出生前検査や着床前遺伝学的検査を希望するカップルもあろう。

母性15q中間部重複

発端者で母性15q中間部重複が同定されている場合は、15q中間部重複の検出が可能なCMAを用いて出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。

idic(15)や15q中間部重複に関し高リスクであることがわかっていない妊娠

母性dup15qに関し高リスクであることがわかっていない妊娠について行ったCMAで、中間部重複あるいはidic(15)に起因する15q11.2-q13.1のコピー数増加がたまたま検出されるといったことがある。
注:母性dup15qに関し高リスクであることがわかっている場合でもわかっていない場合でも、出生前検査の結果によって、表現型の重症度を信頼性をもって予測することはできない。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:母性15q重複症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 ClinVar
対象外 15q11.2-q13.1 対象外  

データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:母性15q重複症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)

608636 CHROMOSOME 15q11-q13 DUPLICATION SYNDROME

分子レベルの病原

PWACRのコピー数の過剰は、次の2つのメカニズムのいずれかで生じることがほとんどである(図1)。

この場合、通常、15q11.2-q13.1の過剰コピーが2つ現れ、15q11.2-q13.1がテトラソミーの状態となる(60%-80%近く[Dup15qAllianceInternationalRegistry,3-8-21ならびに3-14-14])。

この場合、通常、15番染色体内の15q11.2-q13.1の過剰コピーは1つで、15q11.2-q13.1がトリソミーの状態となる(20%-40%近く[Dup15qAllianceInternationalRegistry,3-8-21ならびに3-14-14])。
15qの近位領域には、ゲノム分節重複(segmentalduplication)あるいは低コピー反復配列(lowcopyrepeats)と呼ばれる領域(切断点[breakpoint;BP]で分画される)が5つ存在する。そして、この部位でゲノム再構成を受けやすくなっている[Christianら1999]。この5つの領域は、それぞれBP1からBP5の名で呼ばれる。Prader-Willi/Angelmanクリティカル領域(PWACR)はBP2とBP3の中間に位置し(図1)、母性dup15qを引き起こす中間部重複やidic(15)の影響を常に受けることになる。BP1からBP3までの重複はクラスⅠの重複、BP2からBP3までにとどまる重複は、クラスⅡの重複と呼ばれる。PWACRはインプリンティングを受けており、母性由来のコピー数増加は母性dup15qとなって現れる一方、父性由来の増加は、通常、これより表現型の幅が広く、時には全く異なる神経発達の表現型を呈することがある[Cookら1997,Urracaら2013]。
15q11.2-q13.1の母性同腕ダイセントリック染色体―idic(15)―は、通常は減数分裂時のU型交換によって生じるバイサテライト染色体である。idic(15)は、15pter-q13.1(15番染色体の短腕,セントロメア、q11.2-q13.1)が2つ、鏡像の形でつながったもので、15番染色体逆位重複[invdup(15)]と呼ばれることもある。遠位の切断点はふつう、真性の同腕ダイセントリックでは両側ともBP3(おおよその位置は、[hg38]28,300,000)、非対称型の過剰染色体ではBP4とBP5(おおよその位置は、[hg19]30,600,000と[hg38]32,200,000)である(図2)[Hogartら2010]。idic(15)では、ふつう、15q11.2-q13.1がテトラソミーとなる。

図2:dup15qでみられる非対称の例
A.15q11.2-q13.1の中間部三重複
B.15q11.2-q13.1の同腕ダイセントリック三重複

注:BP1からBP2を水色、BP2からBP3(PWACR)を赤、BP3からBP4を緑で示した。
母性dup15qを引き起こす中間部重複は、2つの異なる切断点領域(例えば、BP1とBP3)間で非同一アレル間相同組み換え(nonallelichomologousrecombination;NAHR)が生じることによってできる。母性中間部重複における遠位の切断点は、通常、BP3(おおよその位置は、[hg38]28,300,000)で、近位の切断点は、通常、BP1あるいはBP2(おおよその位置は、それぞれ[hg38]22,300,000と[hg38]23,300,000)である。中間部重複の場合は、ふつう15q11.2-q13.1がトリソミーとなる。

こうした主要なメカニズム以外のバリエーションとしては、次のようなものがある。

この場合、15q11.2-q13.1はテトラソミーとなる。
この場合の表現型は、通常の15q11.2-q13.1の母性中間部重複より重症となり、15q11.2-q13.1の母性同腕ダイセントリック過剰染色体の場合の表現型に近づく傾向がある[Ungaroら2001,Hogartら2010](図3)。

この場合の表現型は重症で、極度の知的障害、難治性てんかん、より顕著な顔の形態異常(ミオパチー顔貌と耳介低位)などを呈する[Mannら2004](図3)。

この場合、通常、15q11.2-q13.1はテトラソミー、15q13.2-q13.3はトリソミーとなる。
こうした非対称なコピー数変化は、同腕ダイセントリック型と中間部型の染色体の約10%-15%に認められる([Dup15qAllianceInternationalRegistry,3-14-14])(図2)。

稀に、PWACRを含む過剰環状染色体がみられることがある。通常、これはモザイクであるが、これは環状染色体が不安定であるということを示すものである[Wangら2008]。

図3:dup15qでみられる稀なコピー数変化
A.15q11.2-13.1の中間部三重複
B.15q11.2-13.1のヘキサソミーで、2つの同腕ダイセントリック染色体の形で現れる。
C.より大きい同腕ダイセントリック染色体
注:BP1からBP2を水色、BP2からBP3(PWACR)を赤、BP3からBP4を緑で示した。

この領域にある注目すべき遺伝子

UBE3Aは、Angelman症候群関連遺伝子で、母性dup15qにおいては、知的障害、不安、発作閾値の低下に主要な役割を果たしていると考えられている[Coppingら2017]と同時に、本疾患でみられる自閉症の症候についても一定の役割を果たしている[Glessnerら2009,Greerら2010,LaSalleら2015]と考えられている。UBE3Aを過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、学習障害、不安を思わせる行動、発作閾値の低下がみられたものの、社会的相互作用は正常で、常同運動の亢進もみられなかった[Coppingら2017]。UBE3Aは、出生後の神経細胞において母性特異的発現が生じるようにインプリンティングがなされており、そのため、母親由来の重複を有する例の脳では、これが過剰発現することとなる[Hogartら2010,Urracaら2013]。

これらはGABAA受容体サブユニットをコードする遺伝子で、母性dup15でみられる発作に関与している[Menoldら2001,Samacoら2005,Hogartら2007,Frohlichら2019]。これらの遺伝子のノックアウトマウスでは、てんかん発作を含む神経学的問題の発生が認められている[DeLoreyら1998,DeLoreyら2008]。さらに、母性dup15q罹患者では、発達中の子どもに対しGABAA修飾薬の1つであるミダゾラムを投与した後に多く現れる脳波のパターンに類似した特徴的脳波パターンがみられる[Frohlichら2019]。GABRB3については、母性dup15qの表現型としての自閉症にも関与している可能性があると考えられている[Conantら2014]。というのは、この遺伝子の1塩基多型が自閉症と関係があり[Menoldら2001]、さらにASD罹患者の脳組織のサンプルでは、この発現が低下している[Samacoら2005,Hogartら2007]ことがわかっているからである。GABRB3については、ゲノムワイドのdenovo1塩基多型研究により、ASDとの関連が判明している[Sandersら2015]。

HERC2はE3ユビキチンリガーゼの1つである。HERC2に両アレル性の病的バリアントを有する例では、知的障害[Puffenbergerら2012]、あるいは重度のAngelman症候群様神経発達障害[Harlarkaら2013]が現れることがある。母性dup15q罹患者の神経細胞においては、この遺伝子の発現亢進がみられる[Urracaら2018]。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: LainaLusk,MMSc,CGC,VanessaVogel-Farley,BA,CharlotteDiStefano,PhD,andShafariJeste,MD
    日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2021.7.15  日本語訳最終更新日: 22023.7.17.[in present]

原文: Maternal 15qDuplication Syndrome

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