ロイス・ディーツ症候群
(Loeys-Dietz Syndrome)

[Synonyms: ロイス・ディーツ大動脈瘤症候群(Loeys-Dietz Aortic Aneurysm Syndrome) [Loeys-Dietz Aortic Aneurysm Syndrome. Includes: TGFBR1-Related Loeys-Dietz Syndrome, TGFBR2-Related Loeys-Dietz Syndrome]

GeneReviews著者: Bart L Loeys, MD, PhD, Harry C Dietz, MD
日本語訳者:武井眞(東京都済生会中央病院)

GeneReviews最終更新日: 2018. 3.1. 日本語訳最終更新日: 2021. 4.30.

原文 Loeys-Dietz Syndorme


要約

疾患の特徴 

ロイス・ディーツ症候群(LDS)は、血管系所見(脳動脈、胸部動脈、腹部動脈の動脈瘤・解離)と骨格系所見(漏斗胸または鳩胸、側彎、関節弛緩性、クモ状指趾、先天性内反足、頚椎奇形及び不安定性)、特徴的顔貌(眼間解離、斜視、二分口蓋垂・口蓋裂、頭蓋骨早期癒合症(あらゆる頭蓋縫合に生じる可能性がある))、皮膚所見(ビロード状で透過性の皮膚、アザができやすい、広範で萎縮性の瘢痕)に特徴づけられる疾患である。罹患者は広範で進行の速い大動脈瘤、子宮破裂や周産期死亡を含む妊娠中の合併症に罹患しやすい傾向にある。また、罹患者は喘息、湿疹、食物及び環境因子に対する過敏反応を含むアレルギー性/炎症性疾患に罹患しやすい傾向を示すこともある。さらに、好酸球性食道炎/胃炎や炎症性腸疾患の頻度が高いことも知られている。

診断・検査 

LDSの診断は、発端者及び家族における特徴的な臨床症状もしくはそれに加えて、SMAD2、SMAD3、TGFB2、TGFB3、TGFBR1、TGFBR2遺伝子における病的バリアントの同定によってなされる。

臨床的マネジメント 

症状に対する治療

二次的合併症の予防:
歯科治療等、血液中に細菌が混入する可能性のある医療行為を行う際には、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)の予防を検討する。頸椎不安定性のリスクが高く、挿管もしくは頸部操作を伴う手技に際しては前後屈の頸椎レントゲンを評価するべきである。

定期検査:
LDS患者は全て、頻回の心血管超音波検査により、上行大動脈の状態をモニターする必要がある。臨床症状に応じて、磁気共鳴血管造影検査(MRA)、あるいは、コンピュータ断層血管造影検査(CTA)も行う。頸椎不安定性や重度あるいは進行性の側彎症に対しては、整形外科医によるフォローを要する。

回避すべき薬剤や環境

遺伝的リスクのある血縁者の検査

妊娠の管理:
LDSの女性にとって周産期は大動脈解離、破裂、子宮破裂のリスクが高い危険な時期である。妊娠中、出産後数週間は大動脈の画像検査の頻度を増やすことが推奨される。

研究中の治療法:
アンギオテンシンⅡタイプ1受容体ブロッカー(ARB)のLDSに対する臨床的な安全性、効果は確立されていないが、ARBはマルファン症候群などほかの血管結合織疾患において安全でかつβ遮断薬と同等もしくは優れた治療効果が示されている。

遺伝カウンセリング 

LDSは、常染色体顕性遺伝形式で遺伝する。LDSと診断された患者の約25%は、罹患した親からの遺伝により発症する。約75%の患者は、新生突然変異により発症する。罹患者からその子どもに遺伝子変異が受け継がれる確率は、それぞれの子どもごとに50%である。LDSの罹患リスクの高い症例における出生前診断は、家系における病的バリアントが同定されている場合には可能である。


診断

過去にはLDSは臨床病型(遺伝子と表現型の相関を参照)を基にI型(頭蓋顔面病変を有する)、Ⅱ型(頭蓋顔面病変が認められないかほとんどない)、Ⅲ型(変形性関節症を有する)に分類されてきた。しかしながら、現在では原因遺伝子として知られている6つの遺伝子(表1)の単一のヘテロ接合病的バリアントによって惹起されるLDSは様々な程度で複数の病変をそれぞれの罹患者が呈する連続した疾患スペクトルを呈する病態であると認識されている。

臨床兆候

以下の血管系所見、骨格系所見、頭蓋顔面所見、皮膚所見、アレルギー性、炎症性所見、眼所見を有する患者ではロイス・ディーツ症候群(LDS)を疑って診療する必要がある。

血管系

骨格系

頭蓋顔面系 皮膚
  • 血管が透けて見える透過性の高い皮膚
  • 薄く滑らかな皮膚
  • 易出血性(アザができやすい)
  • 萎縮性瘢痕
  • 顔面優位の汗疹
アレルギー性/炎症性疾患
  • 食物アレルギー
  • 季節性アレルギー
  • 喘息/慢性副鼻腔炎
  • 湿疹
  • 好酸球性食道炎/胃炎
  • 炎症性腸疾患
  • 青色もしくは暗い強膜
確定診断

発端者(定義上既知のLDSの家族歴を有さない)におけるLDSの診断はSMAD2, SMAD3, TGFB2, TGFB3, TGFBR1, TGFBR2(表1)いずれかのヘテロ接合性病的バリアントの確認及び以下のいずれかの臨床兆候の確認によって確立される[MacCarrick ら、2014]

注:LDSの確立した家族歴がある場合、リスクのある親族については血管系の異常やそのほかの臨床兆候が顕在化する前であっても分子遺伝学的検査を基にしてLDSの診断が可能である。

分子遺伝学的アプローチとは遺伝子選択的検査(順次単一遺伝子検査、もしくは複数遺伝子のパネル検査)及びゲノム検査(全ゲノムシークエンス)の両者を含み、表現型によって選択される。

遺伝子選択的検査では医療者が疑わしい遺伝子を同定することが必要であるが、ゲノム検査では不要である。臨床的な兆候がしばしば重複するため、一般に特定の罹患者について既知のどのLDS関連遺伝子が原因となっているか予測するのは困難である。臨床兆候の項に記載されているようなLDS特異的な兆候を示す症例においては遺伝子選択的検査(オプション1)により診断がなされることが多い。一方、他の類縁疾患との鑑別が臨床兆候から十分に行えない症例ではゲノム検査により診断がなされることが多い

オプション1

臨床兆候からLDSの診断が示唆される場合、分子遺伝学的検査としては順次単一遺伝子検査もしくはマルチジーンパネルが用いられる

順次単一遺伝子検査:初期検査として表1にあげられている遺伝子のシークエンシングを順次、典型的には頻度の高い順(TGFBR2, TGFBR1, SMAD3, TGFB2, SMAD2, TGFB3)に施行することが可能である。臨床的に強く疑われる症例でシークエンス解析の結果が正常の場合、SMAD3, TGFB2, TGFB3遺伝子選択的な欠失/重複を確認すべきである。

 発端者もしくは血縁者において若年での変形性関節症が明らかである場合、SMAD3のシークエンスを最初に検討してもよい。
 臨床兆候が軽症である症例ではTGFB2もしくはTGFB3の解析を最初に行ってもよい。

マルファン症候群/LDS/家族性大動脈瘤・解離に対するマルチジーンパネル:検査ラボからSMAD2, SMAD3, TGFB2, TGFB3, TGFBR1, TGFBR2および大動脈瘤、解離と関連するそのほかの複数の遺伝子(鑑別疾患を参照)を含んだマルチジーンパネル検査が提供されていることがある。
注:1.パネルに含まれる遺伝子の種類及びそれぞれの遺伝子に対する診断感度は検査ラボにより異なり、継時的にも変化すると想定される。2.マルチジーンパネルの種類によってはこのGeneReviewで取り上げられている疾患と関連のない遺伝子を含んでいることがある。したがって、医療者は対象となる疾患に対して原因遺伝子を同定できる確率が最も高く、金銭的に妥当でかつ臨床的意義の不明なバリアントや対象疾患と関連がないと考えられる遺伝子の病的バリアントを検出する可能性が低いパネルを選択する必要がある。3.検査ラボによってはラボから提供されるパネル以外に表現型にフォーカスして医療者から指定された遺伝子のエクソーム解析パネルを提供しているものもある。4.パネルで用いられる検査手法にはシークエンス、重複/欠失解析、もしくはシークエンス以外の解析が含まれる。LDSに対するマルチジーンパネル検査としては重複/欠失解析を含むものが考慮される(表1)

マルチジーンパネル検査についてはこちらを参照。遺伝学的検査を行う医療従事者へのより詳細な情報についてはこちらを参照。

オプション2

LDSに認められる臨床兆候を有するほかの遺伝性疾患との鑑別が表現型からは困難な場合、遺伝学的検査の方法として全ゲノム解析(エクソームシークエンス及びゲノムシークエンス)を考慮する。

全ゲノム解析についてはこちらを参照。遺伝学的検査を行う医療従事者へのより詳細な情報についてはこちらを参照。

表1:LDSに用いられる遺伝学的検査

遺伝子 LDSにおける頻度 それぞれの手法による病的バリアントの検出割合
シークエンス 遺伝子選択的
重複/欠失解析
SMAD2 ~1%-5% 90%-95% 不明
SMAD3 ~5%-10% 90%-95%
TGFB2 ~5%-10% 90%-95%
TGFB3 ~1%-5% 90%-95%
TGFBR1 ~20%-25% ~100% 脚注10参照
TGFBR2 ~55%-60% ~100% 脚注10参照
不明11   N/A  

脚注

  1. 表A.遺伝子、染色体上の局在データベースおよびタンパクを参照
  2. Meester et al [2017b]
  3. 該当遺伝子で検出されるアレル頻度については分子遺伝学の項を参照
  4. シークエンス解析では病原性なし、病原性なしの可能性が高い、解釈不明、病原性ありの可能性が高い、病原性あり、のいずれのバリアントも検出される。遺伝子内の小欠失、挿入、ミスセンス、ナンセンス、スプライスバリアントは検出可能であるが、一般的にはエクソン単位、もしくは遺伝子レベルでの欠失/重複は検出されない。シークエンス解析の解釈に際して考慮すべき事柄に関してはこちらを参照。
  5. 遺伝子選択的欠失/重複解析では遺伝子内の欠失/重複を検出できる。用いられる手法としては定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、単一エクソンの欠失/重複検出のためにデザインされた遺伝子選択的マイクロアレイ等がある。
  6. 遺伝子選択的重複/欠失解析に関してはデータなし。
  7. Hilhorst-Hofstee et al [2013]
  8. Lindsay et al [2012], Gaspar et al [2017]
  9. TGFB3の欠失が観察されている [著者ら、論文化未]
  10. TGFBR2 [Campbell et al 2011]、TGFBR1 [Redon et al 2006]の遺伝子全体の欠失およびTGFBR1を含む周辺 14.6-Mb領域の重複[Breckpot et al 2010]が報告されている。しかしながら、これらの症例では大動脈の臨床兆候が観察されなかった。他にTGFBR1もしくはTGFBR2の遺伝子全体の欠失を有する症例でも現在までに大動脈瘤の報告はなく、大動脈瘤の形成には変異タンパクが一定以上存在していることが必要ではないかと考えられている[Lindsay&Dietz 2011]。したがって、TGFBR1もしくはTGFBR2の遺伝子全体の欠失もしくは重複はLDSとして典型的な表現型示さない。インフレームでの小欠失/重複はLDSの原因となると考えられるが、アウトフレームでの小欠失/重複はLDSの原因とならない。
  11. LDSの特徴的な表現型を有するにもかかわらず、既知の原因遺伝子に病的バリアントを検出できない症例が稀ではあるが存在するため、LDSに関連する未知の原因遺伝子の同定が必要である。[著者ら、論文化未]

臨床像

臨床的特徴

LDSは小児において血管系以外の重篤な全身兆候を症候群として示す症例から成人において胸部大動脈瘤/解離として発症するものまで広範な表現型のスペクトラムを示す。同一の病的バリアントを有する同一家系内においても表現型の差異が観察される。一般的に臨床兆候は血管系、骨格系、頭蓋顔面系、皮膚、アレルギー性/炎症性疾患、眼疾患として現れることが多い。[Loeys et al 2005, Loeys et al 2006]

心血管系

バルサルバ洞の大動脈拡張、大動脈解離及び破裂、僧帽弁逸脱症(逆流の有無にかかわらず)、肺動脈近位部拡大は、LDSの主要病変でもあり、若年期における主要な死因でもある。
LDSの症例ではマルファン症候群よりも血管系の病変(大動脈基部より遠位の血管病変が一般的に含まれる)の進行が速い。平均死亡年齢は26歳と報告されている[Loeys et al 2006]。Attlasら[2009]はTGFBR2のヘテロ接合性病的バリアントを有する症例とマルファン症候群の原因となるFBN1のヘテロ接合性病的バリアントを有する症例において大動脈拡張、大動脈解離の発症年齢、手術の必要性に差はなかったと報告した。一方、死亡率はヘテロ接合性TGFBR2病的バリアントを有する家系の方が高かった。同様に、TGFBR1もしくはTGFBR2のいずれかのヘテロ接合性病的バリアントを有する228家系において大動脈リスク(解離もしくは大動脈手術)のリスクは同等であったと報告されている。[Jondeau 2016]

動脈瘤は、鎖骨下動脈、腎動脈、上腸管膜動脈、肝動脈、冠動脈を含む(これに限らない)、大動脈のあらゆる動脈分枝で認められている。

大動脈解離は、幼児期早期(≥6ヶ月)の症例や、マルファン症候群のような他の結合組織疾患では解離リスクが低いと見なされるような小さい大動脈径の症例でも認められる。

動脈の蛇行性病変は全身性に起こり得るが、特に頭頸部の血管で認めることが多い。

僧帽弁逸脱症僧房弁閉鎖不全を伴う)もLDS患者で認められているが、マルファン症候群に比べると、合併頻度は低い。

その他、しばしばみられる心血管系所見としては、動脈管開存症、心房中隔欠損、大動脈二尖弁などがある。これらは、一般集団でもよく見られる所見であるが、LDSでの合併頻度は、一般集団に比べ、少なくとも5倍以上は高い。

大動脈病理組織所見

大動脈血管組織の病理学的検討では、弾性線維の断裂、エラスチン成分(弾性成分)の消失、中膜における無形基質成分の沈着を認める。構造解析では、血管平滑筋細胞とエラスチン間の密な空間的接合が失われ、大動脈壁コラーゲン成分が著明に増加している。これらの変化は、幼少児の症例や、炎症を認めない症例でも認められることより、弾性線維の破壊に伴う二次的な変化というより、弾性線維形成そのものが重度に障害されていると考えられる。
LDS症例の大動脈サンプルではマルファン症候群もしくは対象の大動脈サンプルと比較して中膜変性がより広範に広がっている。この変化は完全にLDS特異的というわけではないが、適切な臨床及び病理所見が得られる状況であれば、LDSを他の血管系疾患から鑑別する手助けとなる[Maleszewskt et.al.2009]

骨格系

骨格系の所見としては、マルファン症候群に類似した特徴的体型と関節の弛緩あるいは拘縮を認める。[Erkula et.al. 2010]

骨格系の過形成は、マルファン症候群ほど顕著ではなく、長管骨より指趾で多く認める。

クモ状指趾を認める場合もあるが、真のクモ状四肢症(指間長/身長比の増大、上節/下節比の減少)を認める症例は、マルファン症候群に比べると少ない。

親指兆候

及び手首兆候は、LDSの3分の1の症例で認めた。

:(1)Walker-Murdoch手首兆候は、親指と小指で対側の手の手首を握った際に、親指の末節が小指の末節に完全に重なることをいう。(2)親指兆候(Steinberg兆候)は、親指を内側に折り曲げて手を握ったときに、親指の末節部分が手のひらの尺側に完全に突出することをいう。

肋骨の過形成により、胸骨が陥凹(漏斗胸)、突出(鳩胸)する。

関節の過可動性は、よく認められる所見で、先天性股関節脱臼や、頻回の関節脱臼もこれによる。逆に、関節の伸展制限を認めることもあり、屈指症や先天性内反足を呈する。

脊椎異常では、頸椎の先天奇形や頸椎不安定性をよく認め、特に頭蓋顔面所見の強い症例で多い。暫定的な解析結果ではあるが、少なくとも約3分の1の患者において頸椎骨の先天異常を認め、少なくとも50%で頸椎不安定性を認めた。

その他の骨格系症状

注:LDSの新生児症例では、筋緊張低下等の骨格筋症状を認めることがある。

頭蓋顔面症状

最も重症なLDSの頭蓋顔面所見は、眼間解離と頭蓋骨早期癒合である。頭蓋骨早期癒合は、矢状縫合の早期癒合(長頭症)が、最もよく認められる。冠状縫合(短頭症)、前頭縫合(三角頭蓋)の早期癒合も報告されている。

皮膚症状

皮膚所見は、血管型エーラスダンロス症候群(鑑別診断参照)にみられるものと似ており、ビロード状で、菲薄化し透過性の皮膚で、胸部ではしばしば皮下の静脈が透けて見える。アザができやすい(易出血性、下腿以外でも認める)、傷の治りが遅い、瘢痕化しやすい、などの所見を認める。

アレルギー性および胃腸症状

LDSの症例は喘息、食物アレルギー、湿疹、アレルギー性鼻炎、好酸球性胃腸疾患といったアレルギー性疾患を発症することが多い。罹患者ではしばしば血漿中のIgEや好酸球、Th2サイトカインの上昇を認める[Frischmeyer-Guerrerio et.al. 2013、Felgentreff et.al. 2014]

眼症状

近視は、マルファン症候群にくらべて合併頻度は低く、程度も軽い。屈折異常が強い場合には、弱視となりうる。網膜剥離の報告は少ない。その他、よく認められる所見として、斜視、青色強膜などがある。水晶体亜脱臼は認められていない。

その他

生命予後に関わる症状としては、脾臓や腸管の自然破裂、妊娠中の子宮破裂などがある。

神経放射線学的所見で重要な二つの所見は、硬膜拡張(LDS患者では、未検査のことが多く、合併率についてのきちんとした統計はでていない)と、Arnold-Chiari奇形I型の二つであるが、後者は、比較的稀であると思われる。

一部の患者では、発達遅延が認められる。その場合でも、多くは、頭蓋骨早期癒合症や水頭症に合併した発達遅延であり、学習障害がLDSの一次的症状としてあらわれることは非常に稀であると考えられる。

その他、時に認められる所見としては顎下部鰓嚢胞や、歯芽エナメル質欠損などがあるが、これらについては、さらに検討が必要である。

妊娠

LDS女性患者の妊娠は、危険を伴いうる。妊娠管理の項を参照。

遺伝子ごとの表現型との関連

過去には多様な表現型がLDS1型(顔面頭蓋所見が存在するもの)、2型(頭蓋顔面所見がほとんど、あるいはまったく存在しない)、3型(変形性関節症を有する)として分類されてきた。これらの分類は疾患の重症度スペクトラムにおける一般的な基準となっている。すなわち、もっとも重症なものから、LDS1=LDS2>LDS3>LDS4>LDS5となっている。

注:SMAD2のヘテロ接合病的バリアントに起因するLDSの表現型スペクトラムについては十分に解明されておらず、連続したスペクトラムとして捉えるかはっきりした結論が出ていない。そのため、表2にも記載していない。

表2. LDS; 関連する遺伝子と表現型

遺伝子 LDS分類1 コメント 参考文献
TGFBR1 LDS12   Loeys et.al. [2005]
Loeys et.al. [2006]
TGFBR2 LDS22  
SMAD3 LDS33 変形性関節症の合併率が高い4 van de Laar et al [2011]
TGFB2 LDS4 全身の表現型が軽症であることが多く、マルファン症候群に似る5 Lindsay et al [2012], Bertoli-Avella et al [2015]
TGFB3 LDS5  
  1. より重症な表現型を呈するものを上位においた
  2. TGFBR1もしくはTGFBR2のヘテロ接合性病的バリアントを有する症例では表現型に差異は認められない。
  3. SMAD3のヘテロ接合性病的バリアントを有する症例における大動脈病変の重症度はTGFBR1もしくはTGFBR2のヘテロ接合性病的バリアントを有する症例と同等である。
  4. SMAD3のヘテロ接合性病的バリアントを有しているが変形性関節症を呈しない症例も報告されている[Wischmeijer et al 2013]。
  5. Boileau et al [2012]
遺伝子型表現型関連

LDSでは疾患の重症度と原因と考えられる遺伝子との間には大まかに関連性が認められるが(遺伝子ごとの表現型との関連を参照)、一方で遺伝子型と臨床型の関連は、ほとんど認められない。同じ家系においても表現型が多様であることが報告されている。血縁関係にない、胸部大動脈に限局する表現型から典型的な重症LDSまで多彩な表現型を呈する複数の罹患者から全く同一の病的バリアントが検出されている。これらのデータから、病的バリアントそのものとは関係のない病態を修飾する遺伝的要因の強い影響が存在することが考えられる。

浸透率

同一家系内であっても臨床像には個人差が大きく、また少数ではあるが、非浸透例の報告もある。このうちの一例は、体細胞モザイクによるものであることが示されたが、他の例では、モザイクによるものであったという証拠はない。
家系内における表現型の差は、病態修飾遺伝子で説明される。TGFbシグナルの制御に関わる因子をコードする遺伝子が、こうした病態修飾遺伝子の候補にあげられている。

定義

MFS2という病名は、もともとは、Mizuguchiら[2004]により、TFGBR2遺伝子変異によって発症した「古典的」マルファン症候群の患者の病名として用いられた用語である。当時は、LDSに特徴的な所見というものは、明らかにされていなかった。TGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントを有する症例で、臨床的に、マルファン症候群の臨床的診断基準(LDSに特有の兆候を有さないことを含む)を満たす症例は報告されていない[Loeys et al 2006, Van Hemelrijk et al 2010]。マルファン症候群2型という病名をLDSに対して用いるべきではないと考えられる。

頻度

LDSの有病率は不明である。民族あるいは人種間の差、性差については報告されていない。

遺伝的関連のある疾患

SMAD3, TGFB2, TGFB3の病的バリアントについて、GeneReviewsに述べられている以外の表現型は知られていない。TGFB3に関してはRienhof症候群と関連するとされているが、臨床的にはこの表現型はLDSの類縁疾患である。

SMAD2
重症先天性心疾患を呈した362症例から、2つのSMAD2の病的バリアントが検出されている。これらのバリアントを有した2症例では右胸心を呈し、それに伴い複数の先天性心疾患を呈した[Zaidi et al 2013]。

TGFBR1およびTGFBR2
TGFBR1および2の病的バリアントにより複数の疾患が生じることが報告されている(鑑別疾患を参照)。TGFBR1のヘテロ接合性機能喪失バリアントにより引き起こされる疾患で、臨床的にLDSと関連付けられない唯一の疾患は多発性自然治癒性有棘細胞上皮腫であり、Ferguson-Smith 病としても知られる[Goudie et al 2011]。


鑑別診断

症候群性胸部大動脈瘤

マルファン症候群は、臨床的に多彩な症状を呈する全身性の結合組織障害である。眼系、骨格系、心血管系に特徴的な所見を認める[Judge & Dietz 2005]。心血管系病変は大動脈解離や大動脈破裂にもつながりうる大動脈基部、特にバルサルバ洞における大動脈拡張症や、僧帽弁逸脱症(僧帽弁閉鎖不全の有無に関わらず)、三尖弁逸脱症、近位肺動脈の拡張などが含まれる。マルファン症候群はFBN1遺伝子により引き起こされ、遺伝形式は、常染色体顕性遺伝である。

Shprintzen-Goldberg 症候群 (SGS)は、頭蓋骨早期癒合症、特徴的顔貌、骨格病変、神経系異常、軽度から重度の知的障害、脳奇形を伴う疾患である。心血管系異常(僧帽弁逸脱、僧帽弁閉鎖不全、大動脈弁閉鎖不全)を認めることがあるが、大動脈基部の拡張はLDSに比して低頻度で、より軽症である。SGSとLDSを鑑別する際SGSでは発達遅滞が必発であることは重要である。

典型的SGS症例を集めた遺伝学的解析では、TGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子には変異を認めなかった[Loeys et al 2005]。罹患者のほとんどは孤発例であるが、稀ではあるものの明らかな常染色体顕性遺伝の遺伝形式を示す家系も報告されている。SGSのほとんどの症例では新生突然変異と考えられるSK1遺伝子の病的ミスセンスバリアントを有している[Carmignac et al 2012, Doyle et al 2012]。SK1タンパクはTGFβシグナルの抑制因子であり、機能的なSGSとlDSの関連を示唆している。

注:Kosakiら[2006]により報告されたSGS症例は、蛇行性動脈、二分口蓋垂より、LDSであると思われる[Robinson et al 2006]。

表3

臨床所見 マルファン
症候群
Loeys-Detz 症候群 Shprintzen-
Goldberg症候群
FBN1 TGFBR1/
TGFBR2
SMAD3 TGFB2 TGFB3 SMAD2 SKI
発達遅滞 ++
水晶体亜脱臼 +++ - +
二分口蓋垂/口蓋裂 - ++ + + + + +
眼間解離 - ++ + + + + ++
頭蓋骨癒合 - ++ + - - - +++
長身 +++ + + ++ + + +
クモ状指趾 +++ ++ + + + + ++
胸郭奇形 ++ ++ ++ ++ + + ++
内反足 - ++ + ++ + - +
変形性関節症 + + +++ + + + -
大動脈基部拡張 +++ ++ ++ ++ + + +
大動脈瘤 - ++ + + + + +
動脈蛇行 - ++ ++ + + + +
若年発症動脈解離 + +++ ++ + + + -
先天性大動脈二尖弁 - ++ + + + + +
僧房弁異常 ++ + + ++ + + +
線状皮膚萎縮症 ++ + + + + + +
硬膜拡張 + + + + - - +

+は臨床所見を有することを示す。+の数が増えるともに頻度が増し、+++で頻度が最大となることを示す。-は臨床所見を有さないことを示す。

BGN関連大動脈瘤症候群はバイグリカンをコードするBGNのヘミ接合性病的バリアントによって生じるX連鎖の疾患である[Meester et al 2017a]。臨床表現型はマルファン症候群やLDSと一致する部分が多く、若年での大動脈基部拡張、眼間解離、関節の過可動性、拘縮、二分口蓋垂、胸郭奇形を呈する。家系によってはヘテロ接合性の女性が発症することもある。病的バリアントの種類から、BGNの機能喪失型の変異が疾患発症のメカニズムと考えられている。

MASS表現型は、僧帽弁逸脱(mitral valve prolapse)、近視(myopia)、境界型かつ非進行型の大動脈拡張(aortic enlargement)、非特異的な皮膚骨格所見(skin and skeletal findings)を呈するもので、マルファン症候群の症状と重複する。家系内において、複数世代にわたって同じ症状が認められた場合に確定診断される。しかし、こうした家系においても、一部の患者では、より重篤な血管症状を呈してくる可能性もあり、心血管系の画像検査は定期的に継続すべきである.弧発例の場合、特に小児例では、MASS表現型とマルファン症候群の新規例と鑑別することは難しい。FBN1遺伝子のヘテロ接合性バリアントにより発症する。遺伝形式は、常染色体顕性遺伝である。

エーラス・ダンロス症候群(EDS)

疾患名 遺伝子 遺伝形式 臨床所見
古典型EDS COL5A1
COL5A2
COL1A11
AD
  • 一部の症例大動脈基部拡張を呈するが、それが進行性であるか、大動脈解離のリスクとなるかについては確立されていない。2
  • 突然死の家族歴がないことは大動脈基部拡張が進行性ではないことを示唆する。
関節過可動型EDS 不明/
TNXB3
AD
血管型EDS COL3A1
COL1A14
AD5 以下の場合はLDSを考慮し、SMAD2, SMAD3, TGFB2, TGFB3, TGFBR1, TGFBR24の遺伝学的検査を考慮すること
  • 臨床的に血管型のEDSが疑われる
  • コラーゲン分子に構造的異常が認められない
  • COL3A1, COL1A1に病的バリアントが同定されない
心臓弁型EDS
OMIM 225320
COL1A2 AR 臨床的に特徴的な所見6
  • 関節の過可動性
  • 皮膚の過伸展性
  • 重度の弁膜症
後側弯型EDS PLOD1 AR
  • 中径動脈の破裂及び、後側弯が強ければ呼吸器系合併症のリスク
  • 大動脈瘤及び破裂の頻度は様々

AD=常染色体顕性遺伝; AR=常染色体潜性遺伝

  1. COL1A1の変異は古典型EDSの主要な原因ではない[Malfait et al 2005]。古典型EDSを参照
  2. Wenstrup et al [2002]
  3. ほとんどの関節過可動型EDSにおいて、その変異が病気を引き起こすような遺伝子は不明でマッピングも困難である。テネイシンX(TNXBにコードされる)の半量不全が一部の症例において関節過可動型EDSと関連しているとされる。
  4. 血管型EDSを想起させるような腹部大動脈及び腸骨動脈の動脈瘤を有する症例において、COL1A1のアルギニン-システイン置換をきたす病的バリアントが同定されてきた。コラーゲンの電気泳動により構造的な差異が検出される[Malfait et al 2007]。
  5. 血管型EDSはほとんどの場合常染色体顕性遺伝であるが稀ではあるが常染色体潜性遺伝も報告されている。
  6. Schwarze et al [2004]

先天性拘縮性クモ状指症(CCA)は、マルファン様体型(高身長、長く細い手足、しばしば指間長>身長)や細長い指趾(クモ状指趾)を特徴とする疾患である。バルサルバ洞部の上行大動脈の進行性拡大例も報告されているが、大動脈解離や破裂との明確な関連性は報告されていない[Gupta et al 2002]。幼児例では、典型的な骨格系症状に加え、心臓血管系や消化管系の多発奇形を伴った重症/致死的な病型も報告されている。るFBN2遺伝子がCCAの原因遺伝子として同定されている。遺伝形式は常染色体顕性遺伝である。

動脈蛇行症候群(ATS)は、大動脈及び中サイズの動脈の重度の蛇行、狭窄、動脈瘤を主症状とする稀な常染色体潜性遺伝性疾患である[Wessels et al 2004]。加えて、骨格系や皮膚症状を認める場合も多い。原因となる遺伝的変異は、促進性グルコース輸送体であるGLUT10をコードするSLC2A10遺伝子のホモ接合性の機能喪失である。グルコース輸送体の欠損により、動脈走行に異常を生じるという事実は意外ではあるが、その裏には、LDSやマルファン症候群の病態生理でもみられるようなTGFbシグナル伝達系の亢進があることが明らかとなっている[Coucke et al 2006]。

上行大動脈瘤に関連する他の疾患群

ターナー症候群は、X染色体の1本が欠損する(45,X)ことにより発症し、最も頻度の高い性染色体数的異常症の一つである。表現型の特徴で重要なのは、低身長、性腺形成不全、翼状頚、腎および心血管異常の合併頻度が高いことである。心血管異常では、大動脈二尖弁、大動脈縮窄、胸部大動脈瘤があげられる。大動脈基部の拡張は、ターナー女性の最大40%で認められるとされるが、そのうちどの程度が大動脈解離に到るかについては不明である。現在では、ターナー症候群における健康管理に関しては、少なくとも5年に1度は、大動脈基部径および上行大動脈径を心エコー検査あるいはMRI検査にて評価することが勧められている。

ヌーナン症候群は、低身長、先天性心疾患、幅広あるいは翼状頚、鎧状胸(上胸部が突出、下胸部が陥凹し、乳首が一見低位に見える)、種々の程度の発達遅滞、停留睾丸、特徴的顔貌などを主症状とする疾患である。先天性心疾患の合併は患者の50-80%で認める。肺動脈弁狭窄は、時に弁異形成を伴い、先天性心疾患の中では最も合併頻度が高く、患者の20-50%で認められる。肥大型心筋症も患者の20-30%で合併するが、生下期に認められる場合もあれば、乳幼児期あるいは小児期に明らかになることもある。その他の構造異常では、心房中隔欠損、心室中隔欠損、分岐肺動脈狭窄、ファロー四徴などがしばしば認められる。稀ではあるが、大動脈瘤も報告されている。ヌーナン症候群はBRAF, KRAS, MAP2K1, NRAS, PRPN11, SOS1, RAF1, RIT1の変異により引き起こされる。遺伝形式は、常染色体顕性遺伝である。

皮膚弛緩症(cutis laxa)。歴史的に常染色体顕性遺伝性の皮膚弛緩症(ADCL; Autosomal dominant cutis laxa)は、皮膚に限局した疾患でその他の身体症状は伴わないが、常染色体潜性遺伝性の皮膚弛緩症(ARCL; Autosomal recessive cutis laxa)は、肺気腫や大動脈瘤等の合併を認め、重症で予後が悪いととらえられてきた。

疾患名 遺伝子 OMIM 遺伝形式 臨床所見
皮膚弛緩 肺気腫 動脈瘤 精神発達遅滞 消化管/生殖器奇形
FBLN5関連皮膚弛緩症 FBLN4 219100 AR +++ +++ - - +
EFEMP2関連皮膚弛緩症 EFEMP2
(FBLN4)
614437 AR ++ ++ +++ - -
ADCL ELNもしくは
FBLN5
123700
614434
AD + + + - -

AD=常染色体顕性遺伝; AR=常染色体潜性遺伝

非症候群性家族性胸部大動脈瘤/解離

大動脈二尖弁に合併した胸部大動脈瘤(BAV/TAA)

上行大動脈拡張は、二尖弁に合併したものが多い。大動脈二尖弁は、一般人の1-2%でも認められる。大動脈解離で死亡した患者の死後解剖例の約8%で認められる。病理組織学的検査では、大動脈壁や弁の組織においてエラスチンの変性と嚢胞性中膜壊死を認める。歴史的に、大動脈瘤は、上行大動脈の狭窄後拡張(post stenotic dilatation)機序によるものであると考えられてきた。しかし、機能的異常の認められない二尖弁の若年者においても、心血管エコー検査により大動脈基部拡張が高頻度(52%)で認められることが示されている[Nistri et al 1999]。大動脈拡張は、バルサルバ洞より上部で起こることが多い点は重要である。
大動脈二尖弁には家族集積性があり、患者の第1度近親の9%で認められる。二尖弁と大動脈瘤を合併した患者の血縁者では、弁異常がなくても大動脈瘤/解離の発症を認めることがあり、これらの所見は大動脈二尖弁と大動脈瘤はそれぞれが背景遺伝子異常の直接的な表現型であり、二尖弁が大動脈瘤の原因となっているわけではないことを示唆している[Loscalzo et al 2007]。家族発症の場合、遺伝的浸透率は高くないのが普通である。
これまでに、その他の先天性心奇形に合併した稀な症例において、NOTCH1遺伝子(OMIM 190198)およびKCNJ2遺伝子(OMIM 602931)の病的バリアントが同定されている。NOTCH1病的バリアントは、ほとんどの二尖弁/大動脈瘤の家族例では通常みられないような弁の石灰化や強い狭窄を示す症例および家族でのみ認められ、これらの所見に特徴的な変異であると考えられる。連鎖解析では、染色体上、18q、5q、13qの領域に関連を認める[Martin et al 2007]。SMAD6の機能喪失バリアントが全BAV/TAA症例の2%に認められる[Gillis et al 2017]。

動脈管開存を伴った胸部大動脈瘤(PDA/TAA

PDAと胸部大動脈瘤/解離(TAAD)を高率に認める179家系の解析により、このふたつの血管病変が、共通する新規の遺伝子異常によるものであるという報告がなされた。連鎖解析では、家族性大動脈瘤あるいは常染色体性潜性遺伝性PDAの既報遺伝子・遺伝子座には相関を示さず、責任領域は16q12にマップされた[Khau Van Kien et al 2005]。この原因遺伝子は、平滑筋細胞特異的な収縮蛋白質の一つ、ミオシン重鎖蛋白11をコードするMYH11である。これによる構造異常が、大動脈コンプライアンスの減少、平滑筋細胞の減少、弾性線維の破壊消失につながるとされるが、詳細な病態生理学的機序については不明である[Zhu et al 2006]。

線維筋性異形成(FMD; Fibromuscular dysplasia OMIM 135580)は、非動脈硬化性,非炎症性の血管病変で、いずれの動脈にも起こり得るが、特に腎動脈や内頚動脈が侵されやすい。一般的には、動脈血管中膜の肥厚により、古典的な「数珠状」狭窄が生じる。より大きな動脈の動脈瘤や解離の合併もみられる。その発症には遺伝的要因が関与している可能性があり、腎動脈の線維筋性異形成症患者の第1度近親で動脈瘤や解離が認められたという報告がある。無症候性FMDの背景となる遺伝子異常は明らかではないが、PHACTR1がFMDに対して遺伝的感受性のある領域として報告されている[Kiando et al 2016]。

家族性胸部大動脈瘤/解離(FTAAD; Familial thoracic aortic aneurysm/dissection)

FTAADの心血管系病変としては、以下のものがある。

FTAADの診断は、胸部大動脈の拡張・解離の所見、マルファン症候群等の他の結合織異常がないこと、家族歴に基づいてなされる。

心血管系症状が唯一の所見であるという場合が多い。典型的には、上行大動脈が徐々に拡大し、上行大動脈部の解離(A型解離)もしくは、大動脈中膜破裂や破裂に到る。大動脈拡張の発症時期や進行度は、非常に個人差が大きい。しかし、家族性TAADの患者における大動脈症状の平均発症時期は56.8才であり、弧発性TAAD(64.3才)に比べると若いが、マルファン症候群(24.8才)に比べれば有意に遅い[Coady et al 1999]。

遺伝子/領域1,2 遺伝性胸部大動脈瘤に占める該当遺伝子変異の割合 臨床所見
ACTA2 12-21%3 一部の症例において網状皮斑、iris flocculi (虹彩嚢胞の一種(訳者注))、脳動脈瘤、大動脈二尖弁、動脈管開存を認める。
MYH11 1%4 そのほかの心血管系所見として動脈管開存を認める5
MYLK 1%6 少数例において大動脈拡張が軽度であるにもかかわらず解離をきたしたと報告されている。他特徴的所見なし。
PRKG1 1%7 動脈蛇行、高血圧と関連するA型及びB型大動脈解離
MAT2A 1%8 そのほかの心血管系所見として大動脈二尖弁を認める
FOXE3 1%9 男性例のみ報告あり
MFAP5 <1%10 全身表現型は軽度。
若年でほかに原因のない心房細動との関連が報告されている。
LOX 1%11 大動脈二尖弁、軽度のマルファン様所見との関連が報告されている。
(AAT1もしくはFAA1) 12 不明 TAAD1と比較してより瀰漫性の血管病変を示し、胸部、腹部、およびその他の部位の血管に動脈瘤を形成する。
(AAT2もしくはTAAD1)13 不明  

家族性胸部大動脈疾患(HTAD)とは胸部大動脈瘤及び解離に対するリスクを高める遺伝子変異によって惹起される胸部大動脈の異常を指す。(家族性胸部大動脈疾患の概観を参照)

  1. 遺伝子が特定されない場合は領域を含む
  2. 同一のコドン(p.Arg460His および p.Arg460Cys)に影響するTGFBR2の病的バリアントが血縁関係にない80家系の家族性胸部大動脈疾患のうち4家系に認められた。これらの家系患者でみられたほとんどの血管病変は上行大動脈を含むA型解離であったが、下行大動脈の病変、他の動脈分枝(例として、大脳動脈、頚動脈、膝窩動脈)の動脈瘤、その他の結合織異常症状(胸郭異常、関節過伸展)など、LDSに特徴的な所見も認められている。さらに、FTAADとして報告されたものと同じTGFBR2遺伝子変異が、典型的なLDS症状を認めたいくつかの家系例で検出されている。現時点では、TGFBR2遺伝子変異が、大動脈瘤病変に限局した表現型(すなわちFTAAD)を呈しうるか否かは不明である。従って、TGFBR2遺伝子変異を認める家系をFTAADとすることは適当でないと思われる。
  3. Guo et al [2007], Morisaki et al [2009], Disabella et al [2011], Hoffjan et al [2011], Renard et al [2013]
  4. Pannu et al [2007]
  5. Glancy et al [2001], Khau Van Kien et al [2004], Khau Van Kien et al [2005], Zhu et al [2006], Pannu et al [2007]
  6. Wang et al [2010], Luyckx et al [2017]
  7. Guo et al [2013]
  8. Guo et al [2015]. AAT1 (FAA1) [Vaughan et al 2001]および AAT2 (TAAD1) [Guo et al 2001] の2領域が胸部大動脈瘤及び解離との関連を示唆されているが、遺伝子は同定されていない。
  9. Kuang et al [2016]
  10. Barbier et al [2014]
  11. Guo et al [2016]
  12. Guo et al [2007]

臨床的マネジメント

最初の診断時に病変の程度を確認するために行う評価

患者がロイス・ディーツ症候群(LDS)と診断された時には、病状を把握するために(診断の過程で行われていなければ)以下の評価を行うことがすすめられる。

病変に対する治療

LDSの治療・管理には、臨床遺伝医、循環器科医、眼科医、整形外科医、胸部心臓血管外科医など、多くの分野の専門医の協力のもとに行うチーム医療が最も効果的である。マネジメントのガイドラインも発表されている。[MacCarrick et al 2014]

心血管系 骨格系 頭蓋顔面系

口蓋裂および頭蓋骨早期癒合に対しては、頭蓋顔面治療チームによる治療管理が望まれる。口蓋裂および頭蓋骨早期癒合の治療は、他の疾患に合併した場合と同様である。

眼系

LDSの眼科的病変については、結合織疾患に詳しい眼科専門医による治療・管理を必要とする。年少児では弱視になる危険性もあるため、注意深くかつ積極的に屈折異常・視力障害の矯正治療を行うことが必須である。

その他 二次的合併症の予防

一般的に、結合織異常症や、僧帽弁・大動脈弁閉鎖不全症を基礎に持つ患者は、歯科治療等、血液中に細菌が混入する可能性のある医療行為に際しては、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)に対する抗生剤の予防的投与が考慮される。
頸椎不安定性が高率に認められるため、挿管などの頸部領域の処置が必要な際には、あらかじめX線検査等で頸椎の評価をしておく。

定期検査

LDS患者については、全例、頻回の心血管エコー検査により上行大動脈の状態をモニターしていく必要がある。MRAあるいはCTA検査の間隔は、個々人の臨床経過に基づいて決定する。
頸椎不安定症や、重度あるいは進行性の側彎症を認める患者は、整形外科による経過観察が必要である。

回避すべき薬剤や環境

以下の状況は避けるべきである。

リスクのある血縁者の検査

表面上無症状であっても罹患者のリスクのある親族(高齢、若年を問わず)では大動脈瘤を検知するための定期的な心血管系のスクリーニングおよび内科的、外科的な介入を開始する必要のある症例を可能な限り早期に見つけ出すためにLDSについて評価することが適切である。

LDSに対する評価は以下のものを考慮する。

リスクのある血縁者の遺伝学的検査に対する遺伝カウンセリングに関連した問題については、遺伝カウンセリングの項を参照。

妊娠管理

LDSに罹患してる女性の妊娠は危険である。妊娠中、出産中における大動脈解離、破裂、子宮は列および産褥期における大動脈解離、破裂を合併することがある。妊娠中及び出産後数週間は大動脈の画像検査の頻度を増やすことが勧められる。一方で、適切な経過観察及び高度の周産期管理により、LDS女性においても妊娠、出産が可能であるとも報告されている。[Gutman et al 2009, Frise et al 2017].

研究中の治療法

LDSの特徴的臨床症状の多くは、成長因子であるTGFbシグナルの過剰な活性化に関係していることが実験により示されている。

動物実験においてはTGFbシグナル系を抑制する薬剤、たとえばアンギオテンシンIIタイプ1型受容体遮断薬(ARB)が、LDSの症状の進行抑制あるいは予防に効果があることが示されている。ARBはLDSのマウスモデルにおいて動脈壁の生物化学的異常を緩和すると報告されている。このような介入治療の安全性や効果について、LDS患者における検討はまだされていないが、マルファン症候群などのほかの血管結合織疾患においてはARBはβ遮断薬と同等もしくはより有効であると証明されている。

種々の疾患に対する臨床試験に関する情報は、米国ではClinicalTrials.gov、欧州ではEU Clinical Trial Registerを参照。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ロイス・ディーツ症候群(LDS)は、常染色体顕性遺伝病である。

血縁者のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

発端者のその他血縁者

発端者の他の血縁者のリスクは,発端者の両親の遺伝学的状況に依存する。もし、いずれかの親に罹患が認められた場合は、その血縁者はリスクがあるかもしれない。

関連する遺伝カウンセリング上の問題

リスクのある血縁者に対する早期診断および治療については、「臨床的マネジメント」の「リスクのある血縁者の検査」の項を参照。

一見新生突然変異によると思われる家系において考慮すべきこと

LDSの発端者の両親のいずれにも、発端者において同定された病的バリアントや臨床所見を認めない場合、発端者の症状は、新生突然変異によるものであると予測される。しかし、生物学的な父親が異なる、生物学的な母親が異なる(生殖補助医療など)、関係性が秘匿されてきた養子である可能性など、非医学的要因も調べてみる必要がある。

家族計画 

遺伝的リスクの評価や出生前、着床前遺伝学的検査が可能かどうかについての議論は妊娠前に行われるのが望ましい。
罹患している、もしくはリスクのある若年成人に対しては自らの子供に対する潜在的リスク、生殖に際してのオプションなどについての遺伝カウンセリングを提供することが適切である。

DNAバンキング  

DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する。

出生前及び着床前の遺伝学的検査

分子遺伝学的検査

家系内の罹患者においてSMAD2, SMAD3, TGFB2, TGFB3, TGFBR1, TGFBR2の病的バリアントが同定されている場合、リスクのある妊娠に対する出生前および着床前の遺伝学的検査が可能である。

超音波検査

妊娠初期から中期における胎児超音波検査では、LDSの臨床所見を検出することは難しいが、胎児期に大動脈拡張と認めたという報告もある。

特に遺伝学的検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は、医療関係者間と家族間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが、この問題については注意深い検討が求められる。

訳者注:一般には、LDSに対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず、日本では行われていない。


資料

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分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. LDS: 遺伝子及びデータベース

遺伝子名 染色体領域 タンパク 領域特異的なデータベース HGMD ClinVar
SMAD2 18q21.1 Mothers against decapentaplegic homolog 2 Loeys-Dietz Syndrome Mutation Database - SMAD2 SMAD2 SMAD2
SMAD3 15q22.33 Mothers against decapentaplegic homolog 3 Loeys-Dietz Syndrome Mutation Database - SMAD3 SMAD3 SMAD3
TGFB2 1q41 Transforming growth factor beta-2 proprotein Loeys-Dietz Syndrome Mutation Database - TGFB2 TGFB2 TGFB2
TGFB3 14q24.3 Transforming growth factor beta-3 proprotein ARVD/C Genetic Variants Database (TGFB3)Loeys-Dietz Syndrome Mutation Database - TGFB3TGFB3 @ LOVD TGFB3 TGFB3
TGFBR1 9q22.33 TGF-beta receptor type-1 Loeys-Dietz Syndrome Mutation Database - TGFBR1 TGFBR1 TGFBR1
TGFBR2 3p24.1 TGF-beta receptor type-2 Loeys-Dietz Syndrome Mutation Database – TGFBR2 TGFBR2 TGFBR2

表の内容は以下の標準的なデータベースから編集した
遺伝子(HGNC)、染色体領域(OMIM)、タンパク(UntProt)、データベースの詳細な内容は別のリンクを参照

表B. OMIMでのLDS

190181 TRANSFORMING GROWTH FACTOR-BETA RECEPTOR, TYPE I; TGFBR1
190182 TRANSFORMING GROWTH FACTOR-BETA RECEPTOR, TYPE II; TGFBR2
190220 TRANSFORMING GROWTH FACTOR, BETA-2; TGFB2
190230 TRANSFORMING GROWTH FACTOR, BETA-3; TGFB3
601366 SMAD FAMILY MEMBER 2; SMAD2
603109 SMAD FAMILY MEMBER 3; SMAD3
609192 LOEYS-DIETZ SYNDROME 1; LDS1
610168 LOEYS-DIETZ SYNDROME 2; LDS2
613795 LOEYS-DIETZ SYNDROME 3; LDS3
614816 LOEYS-DIETZ SYNDROME 4; LDS4
615582 LOEYS-DIETZ SYNDROME 5; LDS5

分子機序

マルファン症候群と類似した表現型を示すTGFBR2の病的バリアントの報告[Mizuguchi et al 2004]初期からTGFβ受容体を有しない細胞でこの変異受容体の組み換えタンパクを発現させてもTGFβシグナルが伝達されないことが観察されていた。加えて、変異を有さない野生型タンパクとの共発現を行っても、明らかな顕性阻害作用を示さないことから、半量不全によるTGFβシグナルの減弱が疾患発症のメカニズムと解釈されてきた。
この仮説と一致して、マルファン症候群様の表現型を呈するとして初期に報告された症例はTGFBR2遺伝子内に染色体転座の切断点を有していることが示されていた。しかしながら、LDSや関連する表現型を示す症例においてTGFβ受容体のいずれにおいても明確なナンセンスバリアントやフレームシフトバリアントを示す症例が明らかなに少ないという観察結果が問題を複雑にした。変異レセプターサブユニットは細胞膜表面へ移送されない、もしくは循環されないことにより機能的な半量不全をきたす可能性がある。唯一報告されているナンセンスバリアントは最後から2番目のエクソンの遠位端に変異を有する。より近位での病的ナンセンスバリアントと異なり、この変異はナンセンス変異依存性mRNA分解機構を惹起せず、変異転写産物は分解されないと考えられる。結果として、すべてではないにしろほとんどの血管系に表現型を有するTGFβ遺伝子群の病的バリアントは細胞表面に運ばれ、細胞外リガンドとの結合能も有するが細胞内へのTGFβシグナル伝達を行うことができない変異受容体タンパクを生じると予想される。この仮説と一致して、TGFBR1TGFBR2における病的バリアントは細胞内ドメイン(セリン―スレオニンキナーゼドメイン)に集積しており、細胞外ドメインにはほとんど認められない。しかしながら、LDSの疾患モデルとして単にTGFβシグナルの減弱のみを援用するモデルはLDSでも認められるマルファン症候群の多くの臨床的側面はTGFβシグナルの過剰によって生じ、TGFβアンタゴニストによって緩和されるという動物実験結果とは相いれない。

変異受容体のみを細胞に発現させ、そのTGFβシグナルを解析する実験は罹患者が対象となる病的バリアントに対してヘテロ接合である場合には有用ではないかもしれない。減弱しているが、完全には消失していないTGFβ受容体の機能は慢性的に代償メカニズムの調節機構の破綻をきたし、TGFβシグナルの過剰を引き起こすかもしれない。実際に、LDSのヘテロ接合の症例から樹立された繊維芽細胞を用いた実験では、リガンド投与に対する急性期反応に関しては機能不全を認めなかったがリガンドを遮断して24時間後にはTGFβシグナルが過剰となり、再度リガンドを投与すると徐々にTGFβシグナルが低下した。さらに、マルファン症候群やLDS症例の大動脈壁では核内へのpSmad2の集積、コラーゲンやCTGFといったTGFβ依存性遺伝子産物の発現増加が認められた。これらの研究結果から、LDS症例においては血管系において生体内の恒常性の維持や組織発達に不可欠なTGFβシグナルが過剰となっていることが示唆されている。こうした研究結果の機序は完全には理解されていないが、シグナル調節不全をきたすためにはTGFβリガンドに結合はするがキナーゼ機能の欠失により細胞内へのシグナル伝達を行えない受容体が細胞表面に発現することが必要なのではないかと考えられている。この仮説と一致して、細胞内キナーゼドメインを欠失したTβRⅡを発現するトランスジェニックマウスでは細胞内シグナルカスケードの刺激、TGFβ反応性遺伝子の発現増加を含むTGFβシグナルの増加が観察され、LDSにおいては変異TGFβ受容体の機能獲得が病態のメカニズムとなっている可能性を示唆している。

SMAD2

遺伝子構造NM_001003652.3 が最も長い転写産物 (11 エクソン, 10 コード)であり、最も長いアイソフォームをコードしている。 NP_001003652.1. 詳細な遺伝子及びタンパクの情報についてはTable A, 遺伝子を参照。

病的バリアント:現在知られている SMAD2 の病的バリアントは機能的に重要なMH2ドメインに影響することから機能欠失型変異であると予想されている。 [Micha et al 2015].

正常遺伝子産物:参照配列はNP_001003652.1 で、467アミノ酸からなる。 SMAD タンパクはシグナル伝達因子、転写因子であり、複数のシグナル経路を仲介する。このタンパクはTGFβによって活性化されるシグナル伝達の転写因子として働く。(RefSeq, Apr 2009).

異常遺伝子産物:機能解析の報告は現在までない。

SMAD3

遺伝子構造NM_005902.3 が最も長い転写産物 (9 エクソン)であり、425アミノ酸の最も長いアイソフォームをコードしている。 NP_ 005893.1. 詳細な遺伝子及びタンパクの情報についてはTable A, 遺伝子を参照。

病的バリアントほとんどのSMAD3 の病的バリアントは機能欠失型変異であると予想されている。これは現在報告されている病的バリアントのうち約半数がナンセンス変異もしくはアウトフレームのフレームシフトバリアントであるからである。[Wischmeijer et al 2013]

正常遺伝子産物参照配列はNP_001003652.1 で、425アミノ酸からなる。 SMAD タンパクはシグナル伝達因子、転写因子であり、複数のシグナル経路を仲介する。今タンパクはTGFβによって活性化されるシグナル伝達の転写因子として働く。(RefSeq, Apr 2009).

異常遺伝子産物:SMAD3の病的バリアントの多くは機能欠失と予想されるにもかかわらず、罹患者の大動脈壁では奇異性にTGFβシグナル全般の活性化が認められると報告されている。[van de Laar et al 2011].

TGFB2

遺伝子構造TGFB2 は8エクソンからなる。 (NM_001135599.2). 詳細な遺伝子及びタンパクの情報についてはTable A, 遺伝子を参照。
病的バリアント:SMAD3と同様に、機能欠失型変異が疾患のメカニズムと考えられている。この仮説は全遺伝子欠失、ナンセンスバリアントの観察、病的バリアントにおいてTGFB2サイトカイン活性化に重要な部位が影響を受けていることから支持されている。[Lindsay et al 2012].

正常遺伝子産物参照配列は442アミノ酸からなる。 (NM_001135599.2)TGFB2 は TGFBリガンドスーパーファミリーに属し、3つのアイソフォーム(TGFB1, TGFB2, and TGFB3)を有する. TGF-βファミリーは、増殖、分化、遊走、状況に特化した細胞内合成などの細胞挙動の複数の側面を調節する3つのサイトカインで構成される。出生後、TGF-β活性は、創傷治癒、免疫系の調節、および癌の進行や組織線維化を含む複数の病理学的プロセスに密接に関与する。

異常遺伝子産物SMAD3と同様、TGFB2タンパクでは機能欠失が起こっているにもかかわらず、ヘテロ接合罹患者の大動脈壁では奇異性にTGFβシグナル全般の活性化が認められると報告されている。[Lindsay et al 2012].

TGFB3

遺伝子構造TGFB3 の最も長い転写バリアントは7エクソンからなる。(NM_003239.4). 詳細な遺伝子及びタンパクの情報についてはTable A, 遺伝子を参照。

病的バリアントTGFB2と同様に、機能欠失型変異が疾患のメカニズムと考えられている。この仮説は全遺伝子欠失、ナンセンスバリアントの観察、病的バリアントにおいてTGFB3サイトカイン活性化に重要な部位が影響を受けていることから支持されている。[Bertoli-Avella et al 2015].

正常遺伝子産物参照配列は412アミノ酸からなる。 (NM_003239.4)TGFB3 は TGFBリガンドスーパーファミリーに属し、3つのアイソフォーム(TGFB1, TGFB2, and TGFB3)を有する. TGF-βファミリーは、増殖、分化、遊走、状況に特化した細胞内合成などの細胞挙動の複数の側面を調節する3つのサイトカインで構成される。出生後、TGF-β活性は、創傷治癒、免疫系の調節、および癌の進行や組織線維化を含む複数の病理学的プロセスに密接に関与する。

異常遺伝子産物TGFB2と同様、TGFB3タンパクでは機能欠失が起こっているにもかかわらず、TGFB3病的バリアントのヘテロ接合罹患者の大動脈壁では奇異性にTGFβシグナルの活性化が認められると報告されている。[Bertoli-Avella et al 2015].

TGFBR1

遺伝子構造TGFBR1 (activin receptor like kinase 5; ALK-5) は9エクソンからなる。 詳細な遺伝子及びタンパクの情報についてはTable A, 遺伝子を参照。

良性バリアントTGFBR1 のコード領域における変異は病的であることが多い。例外としてエクソン1のポリアラニンコード部位のリピート数の変化があげられる (参照配列NM_004612.2).

病的バリアントこれまで同定されている病的バリアントのほとんどは細胞内セリンースレオニンキナーゼドメインをコードするエクソンに認められる。これらのおおくは病的なミスセンス変異であり、ナンセンスバリアントの報告は少数である。

正常遺伝子産物TGFBR1は503 アミノ酸をコードする。 (NP_004603.1). TGFβ は I型, II型, III型として知られる3つのサブタイプの細胞表面受容体に結合する. I型 およびII型受容体はどちらも セリンースレオニンキナーゼ受容体であるが、I型受容体が活性化に重要なGSドメインと呼ばれるグリシン/セリンに富んだ細胞膜貫通ドメインを有していることが異なっている。リガンドが校正的に活性化しているⅡ型受容体に結合すると、TβRIがリクルートされ、GSドメインのリン酸化を受け、プロテインキナーゼ活性を有するようになる。活性化されたI型受容体は SMAD2やSMAD3といった受容体調節性SMAD (R-SMADS),を介して細胞内へシグナルを伝達する。リン酸化され活性化した R-SMADはSMAD4 と結合し、核内へ移行して遺伝子発現を調節する。

異常遺伝子産物分子機序を参照

TGFBR2

遺伝子構造TGFBR2 は7エクソンからなる (NM_001024847.2). 詳細な遺伝子及びタンパクの情報についてはTable A, 遺伝子を参照。
病的バリアント:これまで同定されている病的バリアントのほとんどは細胞内セリンースレオニンキナーゼドメインをコードするエクソンに認められる。これらのおおくは病的なミスセンス変異であり、ナンセンスバリアントの報告は少数である。

正常遺伝子産物TGFBR2 は567 アミノ酸をコードする (NP_001020018.1).

異常遺伝子産物分子機序を参照


更新履歴:

  1. Gene Review著者: Bart L Loeys, MD, PhD, Harry C Dietz, MD
    日本語訳者: 森崎裕子(国立循環器病センター研究所)
    Gene Review 最終更新日: 2008.4.29. 日本語訳最終更新日: 2009.11.10.
  2. GeneReviews著者: Bart L Loeys, MD, PhD, Harry C Dietz, MD
    日本語訳者:武井眞(東京都済生会中央病院)
    GeneReviews最終更新日: 2018. 3.1. 日本語訳最終更新日: 2021. 4.30. [in present]

原文 Loeys-Dietz Syndorme

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