関節(過可動)型エーラス-ダンロス候群
(Hypermobile Ehlers-Danlos Syndrome)

[Synonyms:Benign Joint Hypermobility Syndrome, EDS Hypermobility Type, EDS Type III, Ehlers-Danlos Syndrome Hypermobility Type, Ehlers-Danlos Syndrome Type III, hEDS, Joint Hypermobility Syndrome]

Gene Reviews著者: BHoward P Levy, MD, PhD.
日本語訳者:鈴木 みづほ,運﨑 愛(東海大学医学部 基盤診療学系医療倫理学)

GeneReviews最終更新日: 2018.6.21.  日本語訳最終更新日: 2024.1.9.

原文: Hypermobile Ehlers-Danlos Syndrome


要約


疾患の特徴

関節(過可動)型エーラス-ダンロス症候群(hEDS)は一般に、最も重症ではないタイプのEDSと見なされているが、筋骨格の問題を中心に重大な合併症が生じうる疾患であり、実際に重大な合併症がみられている。皮膚はしばしば柔らかく、軽度の過伸展性がみられることがある。亜脱臼や脱臼はよく起こる;自然にもしくはわずかな外傷に伴って起こり、急性の疼痛を生じることがある。また、変形性関節症もよくみられる。慢性疼痛は急性の脱臼に伴う痛みとは明らかに区別され、深刻な合併症であり、身体的にも精神的にも障害となる。易出血性、機能性腸疾患、心血管自律神経機能障害もよくみられる。大動脈基部拡張がある場合、通常は軽度であり、著しい拡張がない場合は解離のリスクは増加しない。心理的機能障害、心理社会的、感情的な問題がよくみられる。

診断・検査

hEDSの診断は、臨床的評価と家族歴によってのみ行われる。hEDSの原因遺伝子は同定されておらず、マッピングすらされていない。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
個人に合わせた理学療法;補装具(関節の安定性を高める装具;下肢の関節に負担を軽減する車椅子やスクーター;睡眠の質を高める適切なマットレス);症状に合わせた鎮痛薬;胃炎/胃食道逆流/胃内容排出遅延/過敏性腸症候群に対する適切な治療;精神的および/または疼痛に対するカウンセリング。

一次症状の予防:
関節の安定性を向上させるために、体幹と四肢両方の筋緊張を高めるための低負荷な運動;指や手の負担を軽減するための適切な筆記用具。

二次的な合併症の予防:
骨密度を最大限にするために、カルシウム、ビタミンD、負荷の少ない自重を使った運動。

定期的追跡評価 :
骨量の減少が確認された場合はDXA検査を一年おきに行う。

妊娠に関する管理:
初産婦でさえ陣痛と分娩は急速に進行しうる。経膣分娩と帝王切開に明らかな有益性の違いはない。大動脈基部拡張のある妊婦は妊娠三半期ごとに心臓超音波検査を受けることが望ましい。

避けるべき薬剤/状況:
急性亜脱臼/脱臼、慢性疼痛、変形性関節症を起こす危険性のある高負荷な運動。

遺伝カウンセリング

関節(過可動)型エーラス-ダンロス症候群は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。この症候群と診断された人のほとんどは罹患した親を持つ。新生突然変異による症例の割合は不明である。hEDS罹患者の子はそれぞれ50%の確率でこの疾患を受け継ぐ。hEDSの原因遺伝子と病的変異は同定されていないため、出生前検査は不可能である。


診断

本疾患を示唆する所見

関節(過可動)型エーラス-ダンロス症候群は関節弛緩、柔らかい皮膚、易出血性を認める場合に疑われるべきである。他の臓器(特に消化管と心血管系)の症状もよくみられる。これらの特徴のうち、EDSに特徴的なものはなく、これらの特徴のみではEDSのいずれかの型と診断するのには不十分である[Malfait et al 2017]。

診断の確立
2017年、国際EDSコンソーシアムにより、hEDS(および他のEDSの病型すべて)の診断基準が改訂された[Malfait et al 2017]。hEDSは背景にある遺伝学的病因がまだ同定されていないため、診断は完全に臨床的な評価と家族歴に基づく。

関節可動性亢進は多くの遺伝性疾患や後天的な疾患で見られる所見であり(鑑別診断の項を参照)、症状としての自覚がなかったり、症候群性ではない所見として見られることもある。異質性を減らし遺伝学的病因同定のための努力を進めるために、hEDSの正式な診断は、すべての診断基準を満たした時にのみ、なされるべきである。遺伝性結合織疾患が示唆される徴候と症状を持っているが、hEDSや他の既知の疾患の診断基準を満たさない人は過剰運動症候群スペクトラム障害(HSD)とみなされるべきである[Castori et al 2017]。

hEDSの臨床診断は、3つの診断基準にある症状が同時にみられることを必要とする。
・全身の関節の可動性亢進(診断基準1)
・症候群性の徴候、筋骨格の合併症、および/または家族歴があること(診断基準2)
・他疾患が除外されること(診断基準3)

睡眠障害、易疲労性、体位性起立性頻脈、機能性消化管障害、自律神経障害、不安、うつ(これらに限定されるものではない)を含む多くの他の臨床徴候がhEDSに関連している。これらの徴候のいくつかは、以前はhEDSの診断基準の小項目に含まれていた[Beighton et al 1998]。しかし、それらはhEDSに対して特異性を欠くことから2017年のhEDSの診断基準から除外された[Malfait et al 2017]。

診断基準1

全身の関節の可動性亢進

Beightonスコア[Beighton et al 1973]は現在も関節可動性亢進を評価するのに最も有効なツールである[Juul-Kristensen et al 2017]。Beightonスコアの偽陽性を減らすために、2017年のhEDSの診断基準は、Beightonテストを標準化された方法で実施することを推奨している[Malfait et al 2017]。下記の各項目を満たすとそれぞれ1点となる。

Beightonの原著論文では、5項目以上で全身の関節可動性亢進が示されると定義している[Beighton et al 1973]。しかし、典型的には関節可動域は年齢と共に低下するため、小児では過剰診断につながり、関節可動性亢進のある高齢者では過小診断につながる。hEDSの診断目的に、全身の関節可動性亢進は下記のスコアで確認する[Malfait et al 2017]:

民族、性別、外傷、手術、関節炎に伴う変化、体の状態、ストレッチ(これらに限定されるものではない)を含む多くの他の要素もまたBeightonスコアに影響する。全身の関節可動性亢進の評価にこの評価法を検証する方法はないが、2017年のhEDS診断基準には後天的な関節可動性の制限を考慮する基準があるは [Malfait et al 2017]。下記の5点の質問(5PQ)のうち2つ以上の陽性項目があった場合、Beightonスコアが年齢特異的なカットオフ値よりも1点低い人は全身の関節可動性亢進と判断される[Hakim & Grahame 2003]。5PQ陽性(2点以上の陽性項目)から過去に関節可動性亢進が示唆されるが、年齢特異的なBeightonスコアのカットオフ値よりも2点以上低い場合は、全身の関節可動性亢進がある見なすべきではなく、HSDとして評価されるべきである[Castori et al 2017]。

5PQ:

  1. あなたは今、膝を曲げることなく床に両手を水平に付けることができますか(あるいは、過去にできましたか)?
  2. あなたは今、親指を曲げて前腕につけることができますか(あるいは、過去にできましたか)?
  3. 子どもの頃、体を変わった形にねじ曲げて友達を面白がらせたりしましたか?あるいは、開脚ができましたか?
  4. 子どもの頃もしくは10代の頃、肩の関節や膝の皿が複数回外れたことがありましたか?
  5. あなたは自分のことを「二重関節」だと思いますか?

診断基準2

以下の徴候(A、B、および/またはC)のうち、少なくとも2つがみられること。

徴候A

下記の全身性結合織疾患の系統的症状のうち5つ以上を持つ。(系統的症状の評価法や各要素の詳細な記載の一部はNational Marfan Foundationのウェブサイト(https://www.marfan.org/dx/score)に掲載されている)

徴候B

家族歴がある、すなわち1人以上の第一度近親者が独立してhEDSの現在の診断基準を満たしていること。注意点としては、以前のEDS関節過可動型もしくはⅢ型の診断基準を満たしている第一度近親者の場合はこの徴候には含まれない。現在のhEDSの診断基準を満たしている必要がある。

徴候C

下記の筋骨格系の合併症の少なくとも1つを持っている(ただし、診断基準3、注を参照)。

診断基準3

以下の要件をすべて満たしていること。

注:後天性結合組織疾患(例:ループス、関節リウマチ)の患者において、hEDSの追加の診断には診断基準2の特徴AとBの両方を満たすことが必要である。診断基準2の特徴C(慢性疼痛および/または関節不安定性)は、この状況ではhEDSの診断に用いることはできない。

検査

hEDSの病因は不明である。遺伝的異質性がありうる。現在、hEDSの診断を確定または除外するため
の臨床的に利用できる生化学的あるいは遺伝学的検査はない。

既往歴または家族歴が、他のタイプのEDS、他の遺伝性結合組織疾患もしくは動脈脆弱症候群(鑑別診断の項を参照)のうち一つを示唆している場合、関連遺伝子の解析または多遺伝子結合組織疾患パネル検査が適切である場合がある。このような多遺伝子パネル検査で病的変異を同定できない場合、動脈脆弱症候群の可能性は低くなるが、特に動脈脆弱性の既往歴または家族歴がある場合は完全に除外することはできない。動脈脆弱症候群の検査結果が陰性であることもまた、hEDSの診断の証明ではない。したがって、当該疾患を示唆する特異的な徴候、症状もしくは家族歴がない場合はこのような検査は推奨されない。


臨床的特徴

臨床像

注:関節(過可動)型EDSと古典型EDSの臨床的な区別は時にとても難しい。皮膚や軟部組織の合併症を除き、この項(臨床的特徴)の情報のほとんどは関節(過可動)型EDSのある人と古典型EDSのある人をまとめて分析した報告から得られており、それらの報告では2つの型に症状の違いがあるかどうかについて記述されていない。

関節(過可動)型エーラス-ダンロス症候群(hEDS)は一般的に最も軽症型のEDSとされているが、主に筋骨格系の重大な合併症が生じるのも事実である。臨床的な多様性はかなりある。医療的ケアを求める人の多くは女性である。痛みや重大な関節の合併症は罹患男性にはあまり見られない。この偏りは性ホルモンの影響はもちろんのこと、痛みの感じ方の男女差、もともと備わっている関節安定性の男女差に起因する可能性がある[Castori et al 2010b]。

皮膚

皮膚はしばしば柔らかい。また、軽度の過伸展性を呈することがある。
圧迫丘疹(踵の体重がかかる所のみに起こる真皮からの皮下脂肪の小さなヘルニア)がよく見られるが、滅多に痛みを伴わない。
毛孔性角化症は一般集団よりもよく見られる[Castori et al 2010a]。
皮下の球状体、モルスクム様偽腫瘍はhEDSでは見られない。
臨床的に重大な皮膚疾患は生じない。生じた場合、直ちに他の鑑別診断を考慮するべきである。

筋骨格

関節不安定性。明らかな亜脱臼もしくは脱臼がなくても、関節弛緩と関節不安定性、過剰な関節の動きは日常の活動でよく見られる。

変形性関節症
関節の変性疾患は一般の人と比べて若年で起こる、おそらくは慢性的な関節不安定性による機械的ストレスの増大が原因である。

骨密度
hEDSの骨塩密度については、とても限定的で矛盾したエビデンスしかない。Dolanら[1998年]は、健常コントロールと比べてEDSでは骨密度が最大で0.9SD減少していると報告したが、この研究はhEDSを特別に調べたわけではない。Gulbaharら[2006年]は、年齢と性別を一致させたコントロールとの比較で、過剰運動症候群(現在はhEDSと同一とみなされている)を持つ閉経前の女性は骨密度が最大で0.5SD減少していると報告した。しかし、Carboneら[2000年]は、hEDSを持つ女性と、身長、体重、身体活動度を後に調整した健常コントロールとの間に骨密度の違いはなかったと報告した。

痛み

急性の脱臼に関連した痛みとは異なる、慢性的な痛みは本疾患の重大な合併症であり、身体的にも精神的にも障害となりうる[Sacheti et al 1997, Hagberg et al 2004, Rombaut et al 2010a, Voermans et al 2010a, Rombaut et al 2011a, Rombaut et al 2011b]。

痛みが発症する年齢(早ければ思春期から、遅くとも50〜60代まで)、痛む部位の数、痛みの期間・性質・重症度・治療に対する反応は様々である。

重症度は、典型的には身体検査や画像検査から予測されるよりも重度である。

重症度は、関節不安定性の度合いと睡眠障害に関連していることがある[Voermans et al 2010a]。

倦怠感と睡眠障害はしばしば関連している[Rombaut et al 2010b, Voermans et al 2010a, Voermans et al 2010b, Rombaut et al 2011a, Rombaut et al 2011b, Rombaut et al 2012b]。患者は関節弛緩性と正確な基礎疾患の存在を認識される前に、しばしば慢性疲労症候群、線維筋痛症、うつ病、心気症、および/または詐病と診断される。

頭痛、特に片頭痛はよく見られる[Rombaut et al 2010b, Rombaut et al 2011a, Rombaut et al 2011b]。その要因と思われるものとして、頚部の筋肉の緊張、顎関節機能不全(顎関節症)、ストレスがある。

以下のような認識されている疼痛症候群を生じやすい。

血液
易出血性はとてもよくみられ、しばしば明らかな外傷がないのに生じる[Anstey et al 1991, De Paepe & Malfait 2004]。軽度の出血時間の延長、鼻出血、歯肉からの出血(特に抜歯後)、および過長・過多月経も起こりうる。

血液の症状の根本的な原因は不明である。

 

消化管
機能性腸疾患はよくみられるが認識されておらず、hEDS患者の33%-67%が罹患している[Levy et al 1999, Castori et al 2010a]。

胃食道逆流および胃炎は、最大量のプロトンポンプ阻害薬に加え、H2ブロッカーおよび制酸薬を追加しても症状を呈することがある。

早期の満腹感と胃内容排出遅延が起こることがあり、オピオイド(および他の)薬物によって悪化することがある。

過敏性腸症候群は、腹部疝痛や直腸粘液と関連している下痢および/または便秘の症状で現れることがある。

心血管
自律神経機能障害。罹患者の多くに非典型的な胸痛、安静時または労作時の動悸および/または失神もしくは失神に近い状態を伴う起立性調節障害がみられる[Rowe et al 1999, Gazit et al 2003, Mathias et al 2011]。ホルター心電図は通常、正常洞調律を示すが、時に心房期外収縮または発作性上室性頻拍を示すことがある。チルトテーブル検査では神経調節性低血圧(NMH)および/または体位性頻脈症候群(POTS)を示すことがある。

レイノー症候群と肢端チアノーゼは高頻度でみられ、これは自律神経機能障害の別の症状かもしれない[Castori et al 2010a]。

大動脈基部拡張。通常軽度で、hEDS患者の11%-33%に起こる[Wenstrup et al 2002, McDonnell et al 2006, Atzinger et al 2011]。重症度はマルファン症候群よりもはるかに低く、著明な拡張がなければ大動脈解離が起こる危険性はない。拡張は小児期に起こり、通常は長期間安定している。進行するもしくは後年発症することは考えにくい[Atzinger et al 2011]。

僧帽弁逸脱症(MVPは、以前はEDSによくみられる特徴と考えられていた。現代の診断基準を用いた厳しい評価を行なっても次のように一貫していない。いくつかの研究では臨床的に著明な僧帽弁逸脱症の頻度は上昇しないと示している[Dolan et al 1997, McDonnell et al 2006, Atzinger et al 2011]のに対して、他の研究では僧帽弁逸脱症の頻度は28%-67%であると示している[Camerota et al 2014, Kozanoglu et al 2016]。診断基準を満たさない軽度の僧帽弁逸脱症(それゆえ特別な観察や治療を必要としない)は非典型的な胸痛や動悸の原因である可能性はある。

口腔/歯
高口蓋、狭口蓋、歯の叢生はほとんどの遺伝性結合組織疾患の非特異的な特徴である。二分口蓋垂、粘膜下口蓋裂、明らかな口蓋裂は、hEDSの症状ではなく、別の診断を迅速に検討する必要がある(鑑別診断の項を参照)。

脆弱な歯肉、歯肉炎、歯肉退縮などの歯周の症状の頻度はおそらく上昇するが、関節(過可動)型に特化して十分に研究されているわけではない[Hagberg et al 2004, De Coster et al 2005,Castori et al 2010a]。De Felice et al[2004]は、古典型または関節(過可動)型の12名に異常に複雑な口腔内の微小血管網を認めたと報告している;これと歯周病との相関の可能性は報告されていない。

産科/婦人科
妊娠は急速な陣痛と分娩(4時間未満)を合併することがあり、小規模な研究では頻度は28%-36%であると示している[Castori et al 2010a, Castori et al 2012]。

関節弛緩と痛みは、通常非罹患女性でも妊娠中に増加するように、典型的には妊娠期間中、特に妊娠第3三半期で増加する[Volkov et al 2007, Castori et al 2012]。

経膣分娩と帝王切開とでどちらが有利かは明らかでない。帝王切開は股関節脱臼のリスクを減らす可能性がある[Volkov et al 2007, Dutta et al 2011]が同時に、一般集団と同様に外科的合併症のリスクがある。

子宮頸管無力症のリスクは増加せず、予防的な子宮頸管縫縮術を支持するエビデンスはない[Volkov et al 2007]。

他にhEDSと関連した妊娠合併症はない。

骨盤臓器脱、月経困難症、性交疼痛症は、関節(過可動)EDSで頻度が増加する[McIntosh et al 1995, Castori et al 2010a, Castori et al 2012]。

精神
心理的機能不全、心理社会的障害、感情的問題はよくみられる[Hagberg et al 2004, Rombaut et al 2011a]。

特異的な症状にはうつ、不安、情動障害、低い自尊心、マイナス思考、絶望、自暴自棄が含まれる可能性がある[Hagberg et al 2004, Castori et al 2010a, Baeza-Velasco et al 2011, Branson et al 2011, Rombaut et al 2011a]。

倦怠感[Voermans et al 2010b]と痛み[Rombaut et al 2011a]は心理的機能不全を悪化させる。

心理的苦痛は疼痛を悪化させる[Baeza-Velasco et al 2011, Branson et al 2011].

痛みへの恐怖および/または関節不安定性への恐怖は回避行動(動作恐怖)に繋がり、機能障害と身体障害を悪化させる[Baeza-Velasco et al 2011, Branson et al 2011]。

罹患者は、誤解されている、信じてもらえない、疎外されている、孤独といった感情を抱えている可能性がある[Baeza-Velasco et al 2011]。

罹患者/家族と医療チームとの間(両方向性)に恨み、不信、敵意が生じ、治療関係に悪影響を及ぼすことがある[Branson et al 2011]。


hEDS罹患者22人の44眼に対する眼科的所見の詳細かつ体系的な評価は、年齢と性別を一致させた対照群と比較された[Gharbiya et al 2012]。結果は次に示す。

神経と神経筋
局所麻酔の効果発現が遅いおよび/または効かないといった訴えは頻繁にみられる[Hakim et al 2005, Castori et al 2010a]。

自律神経失調症は、機能性腸障害、心血管自律神経機能障害、および/またはレイノー症候群/肢端チアノーゼとして現れることがある。

平衡障害はよく見られ、転倒の発生率が増加し、時には転倒に対する恐怖を伴う[Rombaut et al 2011c]。

関節の位置覚の低下は膝関節でみられると報告されているが、肩関節では報告されていない。振動覚は正常である[Rombaut et al 2010a]。

筋力低下が関連する特徴であるかどうかは不明である。いくつかの研究では筋力は正常であると示唆している[Castori et al 2010a, Rombaut et al 2010b]、一方、他の研究では足関節の筋力低下を示しており[Galli et al 2011]、筋の受動的張力の減少、アキレス腱のコンプライアンスの上昇[Rombaut et al 2012a, Rombaut et al 2012b]を明らかにしている。ある研究では、下肢の筋力低下が報告されているが、この研究結果は、疼痛および/または疲労による二次的な運動努力の減少によって説明することもできるかもしれない [Rombaut et al 2012b]。

hEDSの患者は、通常よりゆっくりな歩行と狭い歩幅を持つ傾向がある[Cimolin et al 2011, Galli et al
2011, Rombaut et al 2011c]。

運動学的研究では、股関節と膝関節は正常[Galli et al 2011]、しかし足関節は接地時に過剰な底屈を示
し、動作の間、背屈は減少している[Cimolin et al 2011, Galli et al 2011, Rigoldi et al 2012]。

キアリ奇形1型の患者2,813人の調査では、12.7%が遺伝性結合組織疾患を有しているように思われ、
その中にはhEDS患者も多かった[Milhorat et al 2007]。個別に確定されたEDS患者の中で、キアリ
奇形を認めたのはhEDS罹患者21人のうち1人(4.7%)[Castori et al 2010a]、分類不能なEDSで頭
痛を持つ18人のうち1人(5.5%)であった[Jacome 1999]。EDS罹患者の中でキアリ奇形を持つ頻度
は体系的に研究されておらず、この潜在的な関連の臨床的妥当性は不明である。

障害
機能的および心理社会的な障害はよくみられ、スポーツ関連の身体活動の減少、健康関連の生活の質の
低下、日常機能への重大な影響として現れる[Rombaut et al 2010b, Voermans et al 2010a, Rombaut et
al 2011a, Rombaut et al 2011b]。

痛み、疲労、睡眠障害はすべて、身体障害と機能障害の原因となりうる[Rombaut et al 2010b, Voermans
et al 2010a, Rombaut et al 2011a, Voermans & Knoop 2011]。

その他
内臓の自然破裂もしくは裂けるといった軟部組織の脆弱性は、定義上はhEDSの特徴ではない。このような症状は、速やかに他の遺伝性結合組織疾患を考慮する必要がある(鑑別診断の項を参照)。

浸透率

浸透率は100%と考えられているが、表現度は極めて変化に富んでおり、特に大きな関節の合併症もし
くは著明な痛みを経験したことのない成人男性では、典型的な特徴を明らかにするために注意深い診察
が必要である。

促進現象

表現促進現象は生じないと考えられている。

命名

1997年のVillefranche会議[Beighton et al 1998]で、エーラスダンロス症候群の分類と命名が単純化さ
れた。以前のEDSⅢ型はhypermobility(関節過可動)型と改名された。2017年に国際エーラスダン
ロス症候群コンソーシアムが改訂した診断基準を発表し、英語名称は少し修正され、hypermobileEDS
(hEDS)となった[Malfait et al 2017]。

現在では「良性家族性関節過可動症候群」と「関節過可動症候群」はhEDSと同一であると一般に考え
られており、もはや特有の状態を表すものとは考えられていない[Grahame 1999, Tinkle et al 2009]。

有病率

hEDSの有病率は不明で、5,000人から20,000人に1人と推定されている。臨床的な多様性と、罹患男
性が確認される率が低いことを考慮すると、有病率は推定されているよりもおそらくもっと高いと考え
られる。hEDSはもっともよく見られる遺伝性結合組織疾患である可能性がある。


鑑別診断

エーラス-ダンロス症候群(EDS)の全ての型で、ある程度の関節弛緩性と皮膚/軟部組織の徴候は共通している。

他の型のEDSは、別な結合組織の徴候によって区別される[Malfait et al 2017]。

関節弛緩は多くの他の疾患や症候群でも見られる非特異的な症状である。機能上、関節過可動性は靭帯の弛緩(遺伝性の結合組織疾患や骨異形成症で見られるようなもの)もしくは筋緊張低下(ミトコンドリア病や他の神経筋疾患で見られるようなもの)の結果として認める場合がある。これらの病理的機序を区別するのは特に成人の場合に難しいと考えられる。症候性の関節過可動性があり、他に特定の診断がつかない場合、過剰運動症候群スペクトラム症と診断するのが妥当である[Castori et al 2017]。

次に示すほとんどの疾患は、特有の特徴および/または関節と皮膚以外に関係する特徴によってEDSと容易に区別されるが、軽度の表現型の場合は時々hEDSと誤診されうる。

慢性疼痛疲労は、一般の人々にもよくみられ、これらの症状の鑑別診断は非常に長くかかる。hEDSと重複するもしくは合併する可能性がある疾患として下記が挙げられる。

臨床的には、EDSの血液学的な所見フォンウィルブランド病に類似しており、同様の治療に反応するが、フォンウィルブランド因子および血小板数はほとんど常に正常である。易出血性と出血時間の延長のみではEDSと診断するには不十分であり、このような所見の診断的評価においてはフォンウィルブランド病、特発性血小板減少性紫斑病、他の出血性疾患も考慮すべきである。フォンウィルブランド病の項を参照。


臨床的マネジメント

hEDSと診断された患者の疾患の程度とニーズを明確にするため以下の評価が推奨される。

以下の評価はルーチンではないが、状況によっては適切であると考えられる。

症状に対する治療 

理学療法

筋膜リリース(スパズムを軽減するあらゆる理学療法)は、数時間から数日間、短期的に疼痛を緩和する。効果の持続時間は短く、頻繁に繰り返す必要があるが、この痛みの緩和は、関節の安定性のための運動への参加を促すために重要である場合がある。方法は個人に合わせて調整する必要がある;一部挙げると、温熱、冷却、マッサージ、超音波、電気刺激、鍼治療、指圧、バイオフィードバック、意識のリラクゼーションがある。

低負荷の筋緊張を促す運動は関節の安定性を向上させ、将来の亜脱臼、脱臼、疼痛を軽減できる可能性がある。“一次症状の予防”の項を参照。

経膣的骨盤理学療法および筋膜リリース(経膣的アプローチにより骨盤筋組織にマッサージまたは超音波を当てる)は、性交疼痛、腹痛、背部痛、時には下肢の神経根痛を改善する可能性がある。これは骨盤底理学療法の訓練と専門知識を持つ理学療法士のみが患者の同意を得て行うべきである。

補装具
装具は関節の安定性を向上させるのに有用である。整形外科医、リウマチ専門医、理学療法士は膝関節や足関節といった、よく問題の起こる関節に適切な装具を推奨する手助けをすることができる。肩関節と股関節の装具にはより課題がある。
作業療法士は、小関節が不安定な患者にリングスプリント(指節間関節を安定させるため)、手首もしくは手首/母指の装具の相談を受けるかもしれない。首の痛みや頭痛には、許容できる場合は柔らかいネックカラーが有用かもしれない。

下肢の関節の負担を軽減するため、車椅子やスクーターが必要な場合がある。骨盤と上肢の問題に対応するため、軽量および/または電動の椅子、シートパッド、特製の車輪と取手といった特別な車椅子のカスタマイズが必要な場合がある。

ウォーターベッド、調節可能なエアマットレス、または低反発の気泡マットレス(および/または枕)は、睡眠の質を改善し、痛みを減らすのに役立つかもしれない。

鎮痛剤
鎮痛剤はしばしば十分に処方されておらず、身体所見と画像検査所見ではなく患者の主観的症状と客観的な痛みの評価に応じて個別に調整されるべきである。軽度から中等度の痛みがある人は頓用で十分に痛みを除去できるだろう。より重度の痛みがある人には、通常より高用量で複数の薬剤の組み合わせが必要である。定期的な投薬による痛みの予防やコントロールは、頓用による急性期の治療よりもしばしばうまくいく。多くの臨床医は疼痛管理の専門家に依頼しているが、望まれれば、かかりつけ医が痛みの管理をすることもできるだろう。

注:下記の推奨投与量はすべて肝疾患も腎疾患もない成人に対するものである;それ以外の人に対しては調節が必要な場合がある。

薬剤の使用上の注意

手術とその他の処置 
多くの患者は、診断前にいくつかの整形外科的処置を経験している。関節のデブリードマン、腱移行、関節包縫合、関節形成術がよく行われている。安定化の程度、痛みの減少、総合的な患者の満足、改善している期間はさまざまであるが、通常はEDSのない人よりもそれらが少ない[Aldridge et al 2003, Rose et al 2004, Rombaut et al 2011b]。一般的に、理学療法と装具を選択し、整形外科手術は遅らせるべきである。手術が行われる時、患者と医師はある程度の改善は見込めるが、最善の結果には満たないであろうということを慎重に認識すべきである。hEDS患者で、アキレス腱の同種移植による関節包の再建で肩関節の安定性が長期間改善したという報告が一つある[Chaudhury et al 2012]。この方法が他の患者にも成功するかどうかはまだ不明である。古典型EDS、血管型EDSとは異なり、hEDSは周術期の皮膚と軟部組織の合併症のリスクが上昇することはない。

プロロセラピーは、生理食塩水および/または他の刺激物を腱または関節の周囲に注入して瘢痕形成を誘導し、安定性を高めるものであるが、客観的な研究はされていない。おそらく安全であるだろうが、おそらく整形外科手術と同様効果は限定的であろう。

局所の痛みと急性炎症に対する麻酔薬/副腎皮質ステロイドの注入はしばしば有用であるが、無制限に繰り返すことはできない。何の物質も注入しない「ドライニードル」も同様の効果をもたらす場合がある。

麻酔の神経ブロックは、神経障害性疼痛を一時的に緩和することができる。外科的な神経根の破壊および/または埋め込み型電気刺激装置(感覚または運動神経)を続いて行うことがあるが、結果はさまざまである。

麻酔薬および/またはオピオイドの髄腔内持続投与は経口/全身投与の必要性を減少させる可能性があるが、最終手段としてのみ考慮されるべきである。

骨密度
治療法は、カルシウムとビタミンDの補充を含め、他の骨密度の低い人に対するものと同じである。ウォーキングまたはエリプティカルトレーナーの使用のような単純な自重運動は、骨密度の維持だけでなく安静時の筋緊張の向上にも役立つと認識するべきである。

血液系
容易に、自然にできたあざは治療を必要とせず、NSAIDsを避ける必要もない。

重度の出血(例:鼻出血、機能性子宮出血)または手術時の予防として、デスモプレシン酢酸塩(ddAVP)がしばしば役に立つ[Stine & Becton 1997、Mast et al 2009]。

消化管
胃炎および逆流症状には、プロトンポンプ阻害薬1日2回食前、高用量H2ブロッカー就寝時(例:ファモチジン20-40mgもしくはラニチジン150-300mg)、スクラルファート1gを1日4回、OTC医薬品の制酸薬を含む、集中的な治療が必要となりうる。ヘリコバクター・ピロリの感染のような、他の治療可能な原因は調べられるべきである。上部消化管内視鏡は難治性の症状に対して提示されるが、他の慢性胃炎と比べると正常であることが多い。

胃内容排出遅延は、存在するのであれば明らかにし、EDSを持たない人と同様に治療するべきである。消化管運動障害の管理についての経験を持つ消化器専門医の支援は有益となるだろう。

過敏性腸症候群は通常通り、必要に応じて食生活の修正、食物繊維、鎮痙薬、止痢薬、緩下剤で治療される。ルビプロストンは消化管運動促進剤で、便秘のみの症状の人に有用となりうる。三環系抗うつ薬は神経障害性疼痛と下痢を両方持つ人に有用となりうる。

心血管系
β遮断薬はめったに必要とされないが、進行性の大動脈拡張がある場合は考慮すべきである。まれではあるが、重度の拡張(4.5-5.0cmを超える)の場合は外科的治療を視野に入れた評価が必要である。そのような重度の拡張を指摘された場合、他の遺伝性結合組織疾患を考慮するべきである(鑑別診断の項を参照)。

神経性低血圧と体位性起立性頻脈は通常通り治療される。具体的には、急な姿勢変化の回避、下肢および/または腹部の圧迫帯の検討、筋緊張を高めるための運動、血液量を増やすためのナトリウムと水の補給、時にはβ遮断薬、ミドドリン、フルドロコルチゾンおよび/または他の薬剤による薬物治療が行われる [Mathias et al 2011] 。市販で手に入る電解質タブレットを水に加えることにより、経口摂取で血液量を促進することも可能である。

歯科
歯列矯正および口蓋の矯正は逆戻りする傾向があり、保定装置の使用期間の延長を必要とする可能性がある。

歯周病は見つけて、治療すべきである。

顎関節の弛緩と機能不全は治療が困難である。効果が証明されている特定の介入方法はない。口腔内装置は時に有用である。口腔安静(咀嚼と会話の最小化)、局所筋膜リリース、筋弛緩剤の投与は急性増悪に対して有効な場合がある。外科的な介入はしばしば期待通りとならないため、最終手段としてのみ検討されるべきである。

精神科
多くのhEDS患者は前医で詐病であると非難されたり、原発性の精神疾患と診断されているため、患者の症状を検証することは非常に有用であるだろう。

患者と医療従事者の間に信頼、ラポール、支持的な関係を築くことは重要である。急性期よりも慢性期の痛みの管理に重点を置くべきである。気晴らしと催眠はしばしば有用である [Branson et al 2011]。

うつ病は、慢性的な痛み、障害、その他の合併症の結果としてよくみられるものである。心理学的および/または痛みを重視したカウンセリングは、これらの問題と必要とされる身体的制限に対する適応と受容を促進させるだろう。認知行動療法は特に有用であるが、患者の能動的な参加が必要である [Baeza-Velasco et al 2011]。抗うつ薬も大きな効果がある。多くの患者は、彼らの問題が単なる精神的なものとして片付けられるという懸念から、当初はうつ病の診断もしくは治療に抵抗を示す。

消費者サポートグループが利用可能で、非常に有益である。

一次病変の予防

筋力(随意の自発的な力)とは対照的な、筋緊張(無意識の安静時の筋収縮)を高めるための負荷の少ない運動によって関節の安定性向上が実現するだろう。体幹と四肢の筋緊張両方ともに重点をおくべきである。例えば、ウォーキング、自転車、負担の少ないエアロビクス、水泳もしくは水中での運動、負荷をかけない単純な関節可動域を改善させる運動である。腹部、腰部、肩甲骨間の筋肉に焦点を当てたバランス運動や反復運動のような体幹の筋緊張を向上させる運動も重要である。負荷ではなく、徐々に反復回数、頻度もしくは時間を増やすことによって進歩させるべきである。明らかな進歩が見られるまでには何ヶ月または何年もかかることが多い。

幅広いグリップの筆記用具は、指と手関節の負担を軽減することができる。一般的ではない握り方であるが、筆記用具の柄の部分を母指と示指の間の水かき部分に優しく置き、示指と中指の(指の先端を使うよりもむしろ)遠位指節間関節または中手指節関節で先端を固定すると、指節間関節、中手指節関節、手根中手関節への軸性ストレスを十分に減らすことができる。これらの調節で示指と母指の付け根の痛みが大幅に減少することが度々ある。

二次的合併症の予防

骨密度を最大限に増やすために、カルシウム(500-600mgを1日2回)、ビタミンD(1日400単位もしくはそれ以上)、負担の少ない負荷運動が推奨される。

定期的追跡調査

骨量の減少が確認された場合、およそ隔年でDXAを繰り返すべきである。そうでなければ、骨密度の定期的な集団サーベイランスが必要である。

初回の心エコー図が正常の場合は毎年の心エコー検査は必要ではない[Atzinger et al 2011]。大動脈基部径が正常な小児および青年では、若年成人期(〜25歳)までは2〜3年ごとに繰り返すのが筆者のやり方である。大動脈基部径が体表面積よりも大きくなる、もしくは拡張が加速している場合は、より頻回の観察が適切である。成人で大動脈基部径が正常な場合はさらなる観察は不要である。

回避すべき薬物/環境

関節の過伸展は必ずしも避ける必要はない。関節可動性亢進と膝の疼痛のある26人の小児と青年を対象とした理学療法の無作為化比較試験において、過伸展する運動を行った人は、関節を本来の位置に制限した人と比べて、疼痛スコアの向上と同様に心理社会的スコアもより向上を認めた[Pacey et al 2013]。

レジスタンス運動は関節の不安定性と疼痛を悪化させる可能性がある。一般的に、抵抗を増やすよりも運動の反復回数を増やすことが望ましい。

負荷のかかる運動は、急性の亜脱臼/脱臼、慢性疼痛、変形性関節症のリスクが高まる。タックルのあるフットボールのようないくつかのスポーツはそれゆえ禁忌である。しかしほとんどのスポーツと運動は適切な予防策をとれば許容である。

カイロプラクティックでの調整は厳密には禁忌ではないが、医原性の亜脱臼または脱臼を避けるために慎重に行う必要がある。

リスクのある親族の評価

すべての第一度近親者はhEDSを持つリスクが50%であり、正式な臨床的評価を受けることを望む可能性がある。著しい臨床徴候がない人は、自分が罹患していることを知ることは直接的な利益ではないかもしれないが、自分の子のリスクを知ることは利益となるかもしれない。10歳未満(特に5歳未満)の児の評価は、その年齢層では関節弛緩が正常であるため困難である。

遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者の検査に関連した問題は、遺伝カウンセリングを参照のこと。

妊娠の管理

陣痛と分娩は非常に急速に進行しうる。初産婦でさえも、どんな陣痛の認識でも深刻に受け入れ、分娩を予定している施設に迅速に報告すべきである。

経腟分娩と帝王切開で明確に優位な点はない。帝王切開は股関節脱臼のリスクを減らすかもしれないが[Volkov et al 2007, Dutta et al 2011]、一般集団と同様に外科的合併症のリスクをもたらす。

子宮頸管無力症のリスクは増加せず、予防的頸管縫縮術を支持するエビデンスはない[Volkov et al 2007]。

大動脈拡張が既知である妊婦は各妊娠期間に心エコー図を受けるべきである。妊娠前に大動脈基部径が正常であれば心エコー検査は不要である。

研究中の治療法

幅広い疾患や症状に対する臨床研究の情報へのアクセスには、米国のClinicalTrials.gov、ヨーロッパのEU Clinical Trials Registerを検索する。注:この疾患に対する臨床試験はない可能性がある。

その他

ビタミンCはコラーゲン線維架橋の補因子である。1日500mgまでの補充でいくつかの徴候が改善するかもしれないが、まだ研究はされていない。より多い用量では排泄される可能性が高く、おそらくさらなる臨床的利益はない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

関節(過可動)型EDS(hEDS)は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

・hEDSと診断された人のほとんどに罹患した親がいるが、家系員の中で障害が認識されていなかったために家族歴がないように見えるかもしれない。

発端者の同胞 

発端者の兄弟姉妹のリスクは発端者の両親の遺伝学的な状況による:

発端者の子

hEDSを持つ人のどの子どもも、50%の確率で同じ病的バリアント(つまり、同じEDSの型)を受け継ぐ。しかし、著明な臨床的多様性のため、罹患した子の重症度を予測することは困難である。

他の家系員

他の家系員のリスクは発端者の両親の遺伝学的な状況による:発端者の親のいずれかが罹患者である場合、その人の家系員は罹患者である可能性がある。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

早期の診断と治療を目的にリスクのある血縁者を評価するには、「管理」「リスクのある親族の評価」を参照。

罹患者もしくはその子孫のどちらであってもhEDSは他の型に移行することはないこと、関節(過可動)型は若年で死亡するリスクをもたらすわけではないことを罹患者とその家系員に対して強調する価値がある。

明らかな新生突然変異を持つ家系の検討事項

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患を持つ発端者の両親がどちらもその疾患の臨床所見を呈していないとき、病的バリアントはおそらく突然変異である。しかし、代理の父もしくは母を含む、非医学的な理由(例えば生殖補助医療)や、未公表の養子縁組である可能性も検討される。

家族計画

DNAバンク

検査方法と、遺伝子、発症機序、疾患の理解は将来高まっていくと考えられるので、分子診断が裏付けられていない(すなわち、原因となる発症機序が不明である)発端者のDNAを保存することは検討すべきである。

出生前診断

hEDSの責任遺伝子と病的バリアントは同定されていないため、出生前検査は現時点では不可能である。


更新履歴:

  1. Gene Review著者:Howard P Levy, MD, PhD
    日本語訳者:渡邉 淳 (日本医科大学付属病院 遺伝診療科)
    Gene Review 最終更新日: 2010.4.27. 日本語訳最終更新日:2010.5.31.
  2. Gene Reviews著者: BHoward P Levy, MD, PhD.
    日本語訳者:鈴木 みづほ,運﨑 愛(東海大学医学部 基盤診療学系医療倫理学)
    GeneReviews最終更新日: 2018.6.21.  日本語訳最終更新日: 2024.1.9.[in present]

原文: Hypermobile Ehlers-Danlos Syndrome

印刷用

grjbar