GeneReviews著者: Peter H Byers, MD.
日本語訳者:池田和美(金沢大学遺伝カウンセリングコース) ,渡邉淳(金沢大学附属病院遺伝診療部・遺伝医療支援センター)
GeneReviews最終更新日: 2019.2.21 日本語訳最終更新日: 2021.11.27.
原文 Ehlers-Danlos Syndrome, Type IV, Vascular Type
疾患の特徴
血管型エーラス・ダンロス症候群(血管型EDS, vEDS)は,動脈・腸管・子宮の脆弱性,薄く透けて見える皮膚,易出血性,特徴的な顔貌(薄い口唇や,小さい顎,細い鼻,大きな眼),特に手先に現れる老人様の外観を特徴とする. 血管の解離や破裂,消化管穿孔や臓器破裂が血管型EDS成人の主症状となる.動脈破裂は動脈瘤,動静脈ろう,動脈解離に続発することもあれば,自然に発生することもある.18歳未満で診断された血管型EDS患者の多く(60%)は家族歴を基に診断に至っている.新生児では内反足や先天性股関節脱臼,四肢欠損,および/または羊膜帯を呈することがある. 検査を受けた小児の約半数は,血管型EDSの家族歴がないにもかかわらず平均11歳で主要な合併症を呈していた.これらの小児の多くは,主要な合併症が起きる前に,遠位関節の可動性亢進,易出血性,薄く透けて見える皮膚,内反足といった4つの小基準を認めた.
診断・検査
血管型EDSは,発端者にCOL3A1遺伝子における病的変異をヘテロ接合体で同定し,診断が確定する.あるいは分子遺伝学的検査でCOL3A1遺伝子に病的変異を同定できないときは,培養線維芽細胞を用いたⅢ型プロコラーゲンの生化学的分析により行われる.
臨床的マネジメント
症状の治療:
患者に,突然説明できない疼痛を生じた時には緊急的な医療に繋げる.治療には動脈や消化管の病変や破裂,妊娠中の子宮破裂に対する内科的または外科治療がある.
経過観察(サーベイランス):
超音波検査,磁気共鳴血管造影(MRA),静脈造影を伴う/伴わない 造影CT検査(CTA)による定期的な動脈スクリーニングが検討されうる.高血圧が進行する際には,早期に治療できるように定期的な血圧測定が推奨される.
回避すべき薬剤や環境:
外傷(身体接触を伴うスポーツや力仕事,ウエイトトレーニング);動脈造影(血管損傷のリスクがあるため推奨されず,外科的な介入前に重篤な出血源を特定する目的にのみ行われるべき);定期的な大腸内視鏡(症状がない,もしくは大腸がんの強い家族歴がない場合);待機的手術(有益性が相当であると判断できない)は回避すべきである.
リスクのある血縁者の評価:
リスクのある血縁者の遺伝学的状態は,分子遺伝学的検査あるいは病的変異が不明な場合は臨床所見によって明確にすることが推奨される.
妊娠管理:
血管型EDS女性は,妊娠ごとに5%の死亡リスクを有する.多くの妊婦と担当する医療者は,出産時や合併症の発症時に診断結果を知ることで,管理と推奨への対応が複雑となる.妊婦自身の診断が確定している場合,母体のリスクについて検討し,ハイリスク妊娠として管理することが推奨される.
その他:
患者は,遺伝学的診断の記録(例えばMedicAlert®,緊急用カードまたは血管型EDS「パスポート」)を携帯することを推奨される.訳注:Medical Alertについては, https://www.medicalalert.com/を参照のこと.
遺伝カウンセリング
血管型EDSは常染色体優性遺伝形式をとる.しかし,両アレルに病的変異を有する稀な報告もある.患者の約50%はCOL3A1遺伝子の病的変異を患者である親から受け継ぎ,約50%は新生突然変異による.患者の子どもはそれぞれ50%でCOL3A1遺伝子の病的変異を受け継ぎ,症状を呈する.COL3A1遺伝子に病的変異が確認された家系では,リスクの高い妊娠に対する出生前検査や遺伝学的検査が可能となる.(訳注:血管型EDSに対する出生前検査は,日本では行われていない.)
血管型エーラス・ダンロス症候群(血管型EDS,vEDS)は,特に40歳より若い方において,以下の1つの大基準またはいくつかの小基準を有するとき疑うべきである.2017年に確立された臨床診断基準[Malfait et al 2017]は,遺伝学的検査を検討する際に有用である.
大基準
小基準
確定診断
血管型EDSの診断は,発端者において以下のどちらかで行われる:
注(1)臨床的に疑われるとき,COL3A1遺伝子の分子遺伝学的検査が検討される.(2) 血管型EDSの表現型は,臨床的な表現型模写や発現のばらつきがあるため,分子遺伝学的な診断を行うことは妥当である.
分子遺伝学的検査の手法は,表現型に応じて,特定の遺伝子を標的とした検査(単一遺伝子検査,多遺伝子パネル)と包括的なゲノム検査(エキソーム解析,エキソーム配列,全ゲノム解析)の組み合わせで考えることができる.
特定の遺伝子を標的とする場合,どの遺伝子を対象にするかは主治医の判断によるが,ゲノム解析はその判断を必要としない.血管型EDSの表現型は多様であるため,「臨床所見」に記載される特徴的な大基準の症状がある方は特定の遺伝子を標的とした検査(選択肢1参照)により診断される可能性が高いのに対し,他の遺伝性結合組織疾患と鑑別できない表現型を有する方は,包括的なゲノム解析により診断される可能性が高い(選択肢2参照).
選択肢1
表現型と検査結果から臨床的に血管型EDSを示唆している場合,分子遺伝学的検査のアプローチとしては,単一遺伝子検査や多遺伝子パネル検査が検討される
選択肢2
表現型が,他の多くの遺伝性結合組織障害の疾患と鑑別できない時は,包括的なゲノム検査(臨床医が特定の遺伝子を決定する必要は無い)が最良の選択肢である.エキソーム解析は最も一般的に使用されている.全ゲノム解析も可能である.
エキソーム解析で診断できない場合には,シーケンス解析では検出できない(複数の)エキソンの欠失や重複を検出するエクソームアレイを(臨床的に利用可能な場合)検討しうる 包括的なゲノム検査の導入に関してはここをクリック.ゲノム検査を指示する臨床医のためのより詳細な情報はここを参照.
表1
血管型エーラス・ダンロス症候群で行われる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | 検出可能な病的変異2をもつ発端者の割合 |
---|---|---|
COL3A1 | シーケンス解析 | >95%4 |
標的遺伝子欠失/重複解析5 | ~1%6 |
生化学的(タンパク質を基とした)分析
血管型EDSにおける生化学検査には培養皮膚線維芽細胞が必要となる.この細胞の蛋白は放射性同位元素で標識されたプロリンにより生化学的に合成され,SDSゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分析される.合成されたIII型プロコラーゲンの量,培養液中に分泌された量,構成鎖の電気泳動移動度が分析される.培養皮膚線維芽細胞のIII型プロコラーゲン合成の解析では,III型コラーゲン鎖の産生や泳動移動度の異常を同定できる.電気泳動の移動度の変化は,タンパクのゆっくりとしたフォールディングや翻訳後修飾の違いで導かれるトリプルヘリックスドメインにおけるグリシンの置換や,あるいは欠失/重複,スプライス部位変異で生じた結果により起きる.現在,この検査の多くはDNA解析によって同定されたスプライス部位変異の結果を確認するために利用されている.
臨床経過
本疾患の臨床的特徴と自然歴についての記載を総合的にみると,多くは診断確定時に得られた横断的・後ろ向き研究[Pepin et al 2014]と,フランスのあるグループによるほぼ15年にわたるコホート研究[Frank et al 2015]の2種類の研究から得られている.1,200人以上の血管型エーラス・ダンロス症候群(vEDS)の方の健康歴の後方的なまとめにより,この疾患の自然歴が明らかとなった [Pepin et al 2014].大多数の方は,平均30歳で主要な合併症 (70%)が確認された.この集団での生存期間の中央値は50歳代であり,男性は女性よりも5年ほど若く,20歳前の致死的な血管合併症を発生する割合が女性よりも男性に高いことによる.血管型EDS215名によるフランスのコホート研究では,合併症率は同程度報告されているが,生存期間の平均に男女差はなかった[Frank et al 2015].
小児
18歳未満で血管型EDSと診断された方の多く(60%)は,家族歴ありで同定された [Pepin et al 2014]. (リスクを有する小児に対して,主要な合併症への適切な介入とリスク低減を目的とする遺伝学的検査についての議論は,リスクのある血縁者の評価 と 遺伝カウンセリングを参照).
成人
COL3A1遺伝子に病的変異を持つ成人の70%において,主症状である血管の破裂や解離,消化管穿孔,臓器破裂を生じる [Rana et al 2011].
心血管系. 心血管系の合併症には大きな動脈でも小さな動脈でも動脈破裂,動脈瘤が含まれ,解離に至ることもある.
消化管. 消化管の穿孔(GI)はCOL3A1遺伝子の病的変異を持つ方の約15%に生じるが,ヌル変異を持つ方には滅多にない.
抗生物質と輸液管理による治療も有効であるが,消化管破裂に対する外科的介入は時に必要であり多くは救命できる. [著者私見].血管型EDSの穿孔修復に成功した外科的アプローチには,部分的な結腸切除術,人工肛門,ハルトマン手術や,術後数ヶ月後の再発も含まれる.一次修復の報告はほとんどない.
術中術後の併発症は,動脈や消化管の破裂の再発,ろう孔,創傷治癒遅延,縫合離開など組織や血管の脆弱性に関連している. 最初の合併症を救命しえた場合にも,破裂を繰り返すことがある. いつどの場所で再び破裂するか,最初の時点では予測ができない.再発性穿孔は大腸切除となるかもしれない.
肺.自然および/または再発気胸は,血管型EDSの最初の明らかな症状のことがある.
眼 円錐角膜は血管型EDSで報告されている.[Kuming & Joffe 1977].
血管型EDSの方の約10%に,頸動脈海綿静脈洞瘻を生じ女性に多い.[Adham et al 2018].
歯 症状には歯周病や歯肉後退などが含まれる. Ferréら[2012]の研究では,血管型EDSにおける歯肉の表現型は,薄く半透明で脆弱性の増大が特徴である.顎関節の症状および象牙質の形成不全は,血管型EDSの方により多く認める.
その他 まれな合併症としては脾破裂,あるいは肝破裂がある[Pepin et al 2000, Ng & Muiesan 2005].蛇行状穿孔性弾力線維症はまれだが,皮膚症状として報告された.[Ahmadi & Choi 2011, Ferré et al 2012].
遺伝型と表現型との関連
ClinVarに掲載する250を追加した600以上の特有なCOL3A1遺伝子の病的変異は,エーラス・ダンロス症候群バリアントデータベースとして集約されている. COL3A1変異体の約5%がハプロ不全を呈する.COL3A1遺伝子にヌル変異体を有する方では,合併症の発症は15年遅れ,平均余命の長期化(米国一般集団に近い),およびCOL3A1遺伝子の病的変異の他の変異体よりも有意に産科および消化管合併症が少ない[Leistritzら 2011, Pepin et al 2014, Frankら 2015].
Pepinら[2014]によって報告された血管型EDSを有する1,200人の内,生存期間は一部の病的変異の変異体群に左右された.生存期間は,ヌル変異体を有する人が最も長く,エキソンスキッピングを生じるスプライス供給部位の変異あるいはトリプルへリックスドメインに存在するグリシン残基(Gly-Xaa-Yaaの3アミノ酸の繰り返し)が他のアミノ酸に置換する変異体を有する人が最も短かった.トリプルヘリックス内は変異部位が異なっていても,生存期間に違いはなかった.生存期間の傾向は,COL3A1遺伝子に病的変異を有する126人に関するフランスのコホート研究においても似ていることが示された[Frank et al 2015]. 合併症を発症した年齢や生存期間は,同一の病的変異においても家系内または家系間に幅があり,カウンセリングに活用することは困難である.
浸透率
臨床症状に基づいて診断された家系で,ミスセンスまたはエキソンスキップの変化を持つ成人においては,発症する浸透率はほぼ100%であるが,発症する年齢はさまざまである.COL3A1遺伝子にヌル変異を持つ血管型EDSの方の51%は診断基準の小基準がないため,ヌル変異は浸透率が優位に低下している[Leistritzら 2011].].
命名法
血管型EDSは過去には以下のような病名でもよばれていた.
頻 度
どの集団においても,血管型EDSの有病率を推定する良い値はない.米国では約1,500人の罹患者が,生化学的・遺伝学的検査と家系の分析に基づいて同定されており[著者私見],最低でも20万人に1人の割合で患者がいると推定される.病的変異のうち,ある種類では発症頻度が低下することから全体的なCOL3A1遺伝子の病的変異を有する割合(分子遺伝学を参照)は,COL1A1遺伝子の病的変異を有する人の罹患率である,5万人に1人に近いと推定される.多くの家系は重篤な合併症を発症したあとに診断されるので,COL3A1遺伝子に病的変異を有するものの臨床症状が軽度の例や家系では,医療側の注意をひくことなく診断されないままになっている可能性が高い.また,疾患の希少性のためにほとんど考慮されず,血管合併症以外の症状では血管型EDSの診断に至らない
関節過可動型エーラス・ダンロス症候群(EDSⅢ型)
EDSIII型の臨床的特徴を有し血管型EDSに一般的に関連するCOL3A1遺伝子に病的変異を持つ家系の唯一の報告(NM_000090.3: c.2410G>A,p.Gly804Ser;トリプルヘリックスドメインの中のGly637Ser) [Narcisiら 1994] は,COL3A1変異体とEDSIII型の因果関係の疑いにつながった.しかし,コラーゲンに関する生化学的な研究も,COL3A1のシーケンス解析も,関節過可動型EDSの臨床症状がある方にⅢ型コラーゲンの欠失を同定できなかった.同じ家系がPope et al [1996]の記録で引用されており,3世代で関節可動性亢進はあるが血管イベントはないことが示されている.
家族性大動脈瘤
家族性大動脈瘤を有する人においてIII型コラーゲンにおけるグリシンの置換,およびCOL3A1遺伝子にヌル変異が定期的に報告される [van de Luijtgaarden et al 2015]. このような報告において,血管型EDSに見られる表現型が存在するかどうかの確認には限界がある.これらのまれな報告にもかかわらず,表現型が家族性大動脈瘤のみを呈し血管型EDSの他の所見がない方に,COL3A1遺伝子に病的変異を有することはありそうもない[著者私見].
エーラス・ダンロス症候群(EDS)の他の病型は,易出血性,関節可動亢進,および/または慢性関節脱臼を有しⅢ型コラーゲンの生化学的研究ならびにCOL3A1分子遺伝学的検査で正常な方において考慮されるべきである.
表2.
血管型EDSの鑑別診断で考慮すべき疾患
鑑別すべき疾患 | 遺伝 | 遺伝形式 | 鑑別疾患の臨床的特徴 | |
---|---|---|---|---|
血管型EDSと相同な点 | 血管型EDSと鑑別される点 | |||
古典型EDS | COL5A1 COL5A2 1 |
AD | 通常,血管,消化管,または臓器の破裂を伴うことはない | ・平滑でビロード状の肌 ・異常な瘢痕形成 |
エーラス・ダンロス 古典/血管型 | COL1A1 | AD | COL1A1の病的変異(いずれもトリプルヘリックスドメインのアルギニンをシステインで置換したもの)は,古典型EDS,動脈瘤,および大血管の解離で報告されている1 | 従来のEDSと同様 |
後側彎型EDS(FKBP14-kEDS & PLOD1-kEDS参照) | PLOD1 FKBP14 |
AR | 血管破裂を起こしうる | |
歯周型EDS (OMIM 130080, 617174) | C1R C1S |
AD | 易出血性と皮膚の色素沈着,特にむこうすね | |
単発性の動脈瘤 | 脚注2参照 | 通常,Ⅲ型のコラーゲン欠損の結果ではない | ||
ロイス・ディーツ症候群 | SMAD2 SMAD3 TGFB2 TGFB3 TGFBR1 TGFBR2 |
AD | ・薄い半透明の皮膚と易出血性 | |
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD) | PKD1 PKD23 |
AD | 血管異常:脳動脈瘤,大動脈根拡張と,胸部大動脈解離;僧帽弁逸脱 |
|
マルファン症候群(Marfan syndrome) | FBN1 | AD | 血管合併症が大動脈瘤または解離である場合,マルファン症候群を考慮する |
|
AD =常染色体優性.AR =常染色体劣性 EDS = エーラス・ダンロス症候群
最初の診断時に行う評価
最初の診断時に行う評価に関するコンセンサスは,現時点において存在していない.血管型EDSと診断された方において,疾患や病変の程度を確認するために,この章に要約された評価(一部は実施されないとしても)が推奨される.:
臨床症状に対する治療
管理の最も重要な点は,かかりつけ医,血管外科医,および一般外科医を含む組織化されたケアチームの構築である.このチームは,通常の診察も特別なケアも組織として責任を負う.さらに,血管型EDSと診断された方は,本疾患であることを示す文書,すなわちMedicAlert®,緊急用カード,血管型EDS「パスポート」の携帯が推奨される.
患者に,突然起きた説明できない疼痛を生じた時には緊急的な医療へ繋げるべきである.
消化管の破裂,動脈破裂,または臓器破裂(例えば,妊娠中の子宮)に直面した場合,外科的介入が救命に繋がる可能性がある.
消化管破裂の迅速な外科介入は,通常感染を抑え,腸の連続性を保った状態で早期回復するために不可欠である.
経過観察(サーベイランス)
動脈血管系のサーベイランスは,効果的な介入が動脈解離または破裂のリスクを減少させ,寿命を延ばすことを前提とする.開腹手術が唯一の選択肢であったときは,サーべイランスの恩恵は得られなかった.動脈瘤および動脈解離の血管内治療ができるようになり,より早期の介入が考慮され,サーベイランスはより大きな恩恵をもたらすこととなった.しかしながら動脈血管系の最もリスクの高い部位を特定するためのスクリーニングの有効性を評価したデータは公表されていない. 逆に,動脈系血管の懸念される部位で進行せずに,より離れた他の部位で動脈破裂が起こった事例もある.このように,対照研究で示された利点は過度に強調することができない.
もし実施する場合,超音波検査,磁気共鳴血管造影(MRA),または静脈造影を伴う/伴わない造影CT検査 (CTA)のような非侵襲的な画像化は,動脈瘤,動脈解離,および血管破裂を同定するには好ましい[Chu et al 2014].動脈の裂傷/解離はカテーテルの侵入部位および高圧注射部位で生じる可能性があるため,従来の動脈造影は推奨されない.サーベイランスが行われる場合,検査を行う間隔は同定された病変部位に依存するが,正常な血管樹でのスクリーニングは18ヶ月間隔で行われることが多い.
高血圧が進行する際には,早期に治療できるように定期的な血圧測定が推奨される.そうすることで血管へのストレスや損傷のリスク低減につながる.
回避すべき薬剤や環境
リスクのある血縁者の評価
一見無症状だが高齢もしくはリスクのある若年の血縁者に対して,できるだけ早期に経過観察(サーベイランス)や,潜在的な合併症に対する治療に目を向け,適切にリスクの高い身体活動の制限へと繋がる評価が適切となる.評価には次のようなものがある.:
リスクのある血縁者を対象にした検査に対する遺伝カウンセリングは,「遺伝カウンセリングに関連した課題」を参照.
妊娠管理
血管型EDS女性にとって報告されている高い死亡リスクのために,妊娠は躊躇させていた.最も大規模な研究[Murrayら 2014]では,253人の女性500回以上の妊娠の評価を含み,妊娠1回あたりの死亡率が約5%であった.これは,以前の報告よりも低く,今回対象となった女性の大多数が診断結果を妊娠または出産前に知っていたためと考えられる.多くの妊婦と担当する医療者は,出産時や合併症の発症時に診断結果を知ることで,管理と推奨への対応が複雑となる. 報告された女性の約半数は合併症を発症しなかった.残りの約半数は,未熟児,子宮,子宮頸部,膣の裂傷を起こし罹患率の上昇につながった.
経膣分娩に伴う広範な組織損傷を避けるために,36-38週で帝王切開による出産を計画することが徐々に行われている.この方法は,出血のリスクが高まり,近くの腹部臓器への不用意な損傷を与える可能性がある. 診断が確定している妊婦の場合,母体のリスクを議論し,すべての選択肢を考慮する必要がある.妊娠を続行と決めた場合は,ハイリスク妊娠を扱う産科部門まで拡大したケアチームを組む必要がある.早期出産の計画には,血管外科医と一般外科医が加わることが推奨される. 合併症の可能性と綿密なモニタリングの必要性について妊婦を教育することが不可欠である.
研究中の治療法
セリプロロールにアンジオテンシン受容体遮断薬を添加することによる動脈合併症の減少や延命について判断するフランスの臨床試験が現在進行中である.
米国のClinicalTrials.govとEUの臨床試験登録を検索し,幅広い疾患および状態に関する臨床試験に関する情報にアクセスする.
注: この疾患の臨床試験が行われていない場合がある.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
血管型エーラス・ダンロス症候群(血管型EDS)はほとんど常染色体優性遺伝形式をとる.COL3A1遺伝子に関して,両アレルに病的変異を有する稀な報告がある[Jørgensen et al 2015].
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞のリスクは,発端者の親の臨床的・遺伝的状況によって異なる.
発端者の子
他の家族構成員
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期の診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価については,管理,リスクのある血縁者の評価を参照.
明らかに新生突然変異による家系において考慮すべきこと 常染色体優性遺伝形式の患者の両親がいずれも病的変異を有していない,あるいは臨床的に罹患していない場合は,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高い.しかし,代理父や母(例:生殖補助),非公開の養子縁組などを含めた追加の要素の検討を要す.
家族計画
リスクのある無症状の18歳未満の小児に対する検査
血管型EDSの診断が確定した家系では,症状のある方に対して年齢に関係なく検査を検討することが推奨される.詳細については,全米遺伝カウンセラー協会が発出している成人発症型の疾患に対する未成年者の遺伝学的検査に関する立場声明 および 米国小児科学会と米国医学遺伝学・ゲノミクス政策声明:子供の遺伝子検査とスクリーニングにおける倫理的および政策的問題を参照.
出生前診断と着床前診断
分子遺伝学的検査 COL3A1遺伝子に病的変異が見いだされた家系においては,血管型EDSにとってリスクがある妊娠に対する出生前検査や着床前診断を実施することは可能である.分子遺伝学的検査の効率と基本的に血管型EDSでは生化学的分析 で診断された方すべては既知のCOL3A1遺伝子に病的変異を有するという状況を考えると,出生前検査として分子遺伝学的検査が推奨される.血管型EDS女性に対して生殖補助技術を使用した経験は限られている [Bergeron et al 2014].
生化学的分析 III型コラーゲンの生化学的異常のみが明らかになっている稀な家系では,培養した絨毛細胞の分析が分子遺伝学的出生前検査の代替として使用できる.血管型EDSの出生前診断において生化学的検査は,分子学的病因を特定できない場合にのみ行われるべきである.
訳注:血管型EDSに対する出生前ならびに着床前診断は,日本では行われていない.
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表 A
血管型エーラス・ダンロス症候群:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の位置(遺伝子座) | タンパク質 | 遺伝子特有のデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
COL3A1 | 2q32.2 | Ⅲ型コラーゲンα-1鎖 | 骨形成不全とIII型コラーゲン変異のデータベース | COL3A1 | COL3A1 |
データは,次の標準参照からまとめられている:
遺伝子はHGNCから;染色体の位置はOMIMから;タンパク質はUniProtから. リンクが提供されるデータベース(遺伝子特有の,HGMD,ClinVar)の説明については,ここをクリック.
表 B
血管型EDSのOMIM登録
120180 | collagen, type III, Alpha-1; COL3A1 |
130050 | Ehlers-Danlos syndrome, type IV, autosomal dominant |
遺伝子構造 COL3A1遺伝子はゲノム DNA 上で44 kb以上にわたり,51エキソンから構成される (参照配列 NM_000090.3) 遺伝子とタンパク質情報の詳細な概要については,表A, 遺伝子を参照.
遺伝子とタンパク質の命名法に関する注記. 線維性コラーゲン遺伝子という1つの同じ系統群 (COL1A1,COL1A2,COL2A1,COL3A1,およびCOL5A2)には,すべての遺伝子がCOL1A2の構造に由来する52個のエキソンを有する「旧式の」命名法がある.COL3A1遺伝子の場合,COL1A2のエキソン4と5に相当する2つのエキソンの融合があり,融合エキソンはエキソン4/5と呼ばれる.さらに,第2のタンパク質の「旧式の」命名法として,p.Met1標準表記法に加え,トリプルヘリックスドメインの最初のグリシンをトリプルヘリックスの残基1と呼ぶ方法がある. いくつかの研究室からの古い報告では,タンパク質の旧式の表記は,ヌクレオチド位置の標準的な記述と組み合わせて使用され,明らかな混乱を招く可能性がある.
病的変異 これまでにCOL3A1遺伝子に600種以上の血管型EDSの原因となる病的変異が同定されている.最も多い変異は,トリプルドメインに存在するGly-X-Y反復配列におけるグリシンが,他のアミノ酸に置換されたものである.変異の約1/4はスプライス部位にあり,その多くはエキソンスキップを生じさせる.一部のスプライス部位変異では,潜在的なスプライス部位を認識することによってエキソンの一部が除かれたり,イントロンの一部が転写されたりする.エキソンスキップをきたす変異の大多数は5’ドナー部位に生じ,3’部位の変異は少ない.遺伝子の部分的欠失例も報告されている.より頻度の低い変異として,終止コドンを生じてCOL3A1遺伝子のハプロ不全をきたす “ヌル変異”がある)[Schwarze et al 2001, Leistritz et al 2011] ([osteogenesis imperfecta & Ehlers-Danlos syndrome variant databases]参照)
注意すべきは,COL3A1遺伝子変異の少なくとも2種類は,血管型EDSの臨床特徴を有する方の間で(予測頻度の観点から)過小評価されている:
したがって,COL3A1遺伝子の病的変異のいくつかは,典型的な血管型EDS臨床像を呈さない可能性がある.これらの病的変異を有する方が,表現型が軽微または無症候性であるか,または後に症状を示すかどうかは不明である.病的変異で特定の種類の表現型が欠如する分子遺伝学的説明があるかどうかも不明である.
正常遺伝子産物 コラーゲンプロα1(III)鎖蛋白.COL3A1遺伝子はIII型プロコラーゲン鎖をコードしており,これは皮膚や血管,中空性臓器の主要構成蛋白である,III型プロコラーゲン分子はホモ3量体をとり,1467アミノ酸長を有する.
異常遺伝子産物 COL3A1遺伝子変異はIII型プロコラーゲン鎖の構造変化をきたし,これはコラーゲン鎖の細胞内貯留や分泌不全を生じる.少数の方では,III型プロコラーゲンの産生は正常の半分となる.
GeneReviews著者: Peter H Byers, MD.
日本語訳者:池田和美(金沢大学遺伝カウンセリングコース) ,渡邉淳(金沢大学附属病院遺伝診療部・遺伝医療支援センター)
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