GeneReview著者:Malanie G Pepin, MS; Peter H Byers, MD
日本語訳者:櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
GeneReview 最終更新日: 2006.6.7. 日本語訳最終更新日: 2007.9.1.
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原文 Ehlers-Danlos Syndrome, Type IV, Vascular Type
疾患の特徴
Ehlers-Danlos症候群,血管型(EDS IVとしても知られている)は薄く透けて見える皮膚,易出血性,特徴的な顔貌,動脈・腸管・子宮の脆弱性を特徴とする.罹患成人の70%で,血管の破裂や解離,消化管穿孔や臓器破裂が主症状となる.動脈破裂は動脈瘤,動静脈ろう,動脈解離に続発することもあれば,自然に発生することもある.新生児では内反足や先天性股関節脱臼を呈することがある.小児期にはそ径ヘルニア,気胸,反復性関節脱臼や亜脱臼がよくみられる.罹患女性の妊娠では患者は分娩前後の動脈破裂または子宮破裂により,最大12%の死亡リスクがある. 20歳までに1/4の患者が,40歳までに80%の患者が何らかの明らかな医学的問題を経験する.平均死亡時年齢は48歳である.
診断・検査
COL3A1遺伝子は血管型EDSとの関連が明らかになっている唯一の遺伝子である.血管型EDSの診断は臨床所見によってなされ,蛋白レベルの生化学的検査,および(または)分子遺伝学的検査によって確定される.罹患者の生化学的検討により,III型プロコラーゲンの合成異常,細胞内滞留,分泌低下,電気泳動パターン異常が認められる.生化学的に診断の確定した症例に対しては,遺伝カウンセリングを目的としたCOL3A1遺伝子の分子遺伝学的検査が提供される.
臨床的マネジメント
血管型EDSの治療には動脈や消化管の病変,破裂に対する外科治療がある.血管型EDSの妊娠女性は高リスク妊娠として管理する必要がある.罹患者に対しては,突然説明不明の疼痛を自覚した時にはただちに医療機関を受診するよう指導する.Medical Alertブレスレットを着用すべきである.定期検査ではサブトラクションアンギオグラフィーや造影剤を用いないMRIやCTで血管を評価する.ただし,血管損傷の危険があるので動脈造影は薦められない.罹患者は外傷のリスクを最小限にするために,身体接触を伴うスポーツや力仕事,ウエイトトレーニングを避ける必要がある.人工妊娠中絶や美容整形など,緊急性がなく本人の希望による手術はやめさせるべきである.
血管型EDSの治療には動脈や消化管の病変,破裂に対する外科治療がある.血管型EDSの妊娠女性は高リスク妊娠として管理する必要がある.罹患者に対しては,突然説明不明の疼痛を自覚した時にはただちに医療機関を受診するよう指導する.Medical Alertブレスレットを着用すべきである.
定期検査ではサブトラクションアンギオグラフィーや造影剤を用いないMRIやCTで血管を評価する.ただし,血管損傷の危険があるので動脈造影は薦められない.罹患者は外傷のリスクを最小限にするために,身体接触を伴うスポーツや力仕事,ウエイトトレーニングを避ける必要がある.人工妊娠中絶や美容整形など,緊急性がなく本人の希望による手術はやめさせるべきである.
訳注:Medical Alertブレスレットについては,http://www.medicalalert-bracelets.com/med-ale-bra.htm を参照のこと.
遺伝カウンセリング
血管型EDSは常染色体優性遺伝形式で遺伝する.約50%の罹患者は変異COL3A1遺伝子を罹患した親から受け継ぎ,約50%の罹患者は新生突然変異による.罹患者の同胞における罹患リスクは親の遺伝的背景による.もし親の一方が罹患しているならば,同胞の罹患リスクは50%である.罹患者の子どもが変異COL3A1遺伝子を受け継ぐリスクは50%である.親の体細胞モザイクや生殖細胞モザイクが報告されている.出生前診断は,胎児が50%の罹患リスクを有する場合に,III型プロコラーゲンの生化学的異常またはCOL3A1遺伝子の変異が見いだされている家系において実施可能である.
臨床診断
EDSにおける診断基準と標準的命名法は,Ehlers-Danlos Foundation(米国)とEhlers-Danlos Support Group(英国)の後援で1997年にVillefrancheで行われたカンファレンスにおいて,専門家グループによって提案された.ここでは,筆者の経験により修正したものを記載する.
家族歴がある状況で以下に示す特徴的な臨床所見を認める場合,あるいは以下の小項目を1つ以上認める場合は血管型EDSの診断が考慮される.
大項目のいずれか2つを満たす場合は血管型EDSが強く疑われ,確定診断のための生化学的検査が強く勧められる.
1つまたはそれ以上の小項目を満たす場合は,血管型EDSの診断を支持するが,確定診断には不十分である.大基準 には以下の所見が含まれる.
小項目には以下の所見が含まれる.
検査
生化学的検査 血管型EDSの生化学的検査には培養皮膚線維芽細胞が必要である.この細胞により合成された蛋白は,放射性同位元素で標識されたプロリンによって標識され,SDSゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分析される.合成されたIII型プロコラーゲンの量,培養液中に分泌された量,構成鎖の電気泳動パターンが分析される.血管型EDS罹患者の培養皮膚線維芽細胞では,III型プロコラーゲン産生や細胞内貯留の異常,分泌の低下,そして泳動パターンの異常が見られる.
生化学的検査によって,蛋白の構造異常を有する血管型EDS罹患者の95%以上を検出できるが,蛋白合成量を低下させるような変異を有する罹患者については感度が低いかもしれない.分子遺伝学的検査
遺伝子 COL3A1は血管型EDSに関連している唯一の遺伝子である.
分子遺伝学的検査:臨床応用
分子遺伝学的検査:検査方法
シークエンス解析 COL3A1遺伝子変異を同定する方法は2種類あり,その選択は利用できる検体による.
表1に血管型EDSに対する分子遺伝学的検査をまとめる
表1 血管型EDSの分子遺伝学的検査
検査方法 | 検出される変異 | 変異検出率 |
---|---|---|
cDNAまたはgDNAを用いた シークエンス解析 |
COL3A1シークエンス変異 | 98-99% |
発端者に対する検査手順
確定診断のための生化学的検査と分子遺伝学的検査は相補的であり,その選択は入手できる検体の種類によっても左右される.相対的な感度はおそらく両者同程度である.異なる種類の変異の検出はどちらの場合もより難しい.
遺伝学的に関連のある疾患
自然経過
生化学的に,または分子遺伝学的に確定診断した400例以上の血管型EDS罹患者の病歴を過去にさかのぼってまとめた報告によって,本疾患の自然経過が示されている.合併症があるために診断された罹患者のうちでは,25%は20歳までに,80%は40歳までに何らかの重大な医学的問題を経験した.主要な合併症または臨床的診断基準によって確認された罹患者(全例において,培養皮膚線維芽細胞のⅢ型プロコラーゲン産生異常を検出)では,死亡年齢の中央値は48歳であった.
EDS血管型を有する新生児の約12%に内反足を認め,3%に先天性股関節脱臼を認めた.小児期には,そ径ヘルニア,気胸,繰り返す関節脱臼(または亜脱臼)の頻度が高かった.罹患者はしばしば生涯にわたり易出血性を示した.円錐角膜,歯周病,静脈瘤も報告されている.小児期にはほとんど合併症がないため,家族歴がなければ小児期には本症に気付かれていない場合が多い.
血管の破裂や解離,消化管穿孔,臓器破裂は成人期になると70%の罹患者の主症状となる.これらの合併症は劇的に何の前触れもなく発症するので,しばしば突然死,脳卒中とその神経学的後遺症,急性腹症,後腹膜出血,分娩時の子宮破裂,そしてショック状態などの形で現れる.最初に重大な動脈または消化管の合併症が発症する平均年齢は23歳である.
血管性の合併症には破裂,動脈瘤,動脈解離が含まれ,大きな動脈でも小さな動脈でも発症しうる.動脈破裂は動脈瘤,動静脈ろう,動脈解離に続発して発症する場合もあるが,自然に発症する場合もある.動脈破裂の好発部位は胸部と腹部(50%),頭頚部(25%),四肢(25%)である.頻度は少ないが,若年成人における脳卒中の原因となる場合もある.頭蓋内動脈瘤破裂,自然発症した頸動脈海綿動静脈ろうの自然発生,頸動脈瘤の平均発症年齢は28歳である.
消化管の破裂は約25%の罹患者に見られる.消化管穿孔の多くはS状結腸に生じる.頻度は低いが小腸や胃の破裂の報告もある.消化管破裂は通常致命的とならない(死亡率3%).最初に破裂したS状結腸の口側で破裂を繰り返すことが多い.
消化管破裂に対する外科的介入は必要であり,通常それにより救命できる.術中術後の併発症は,動脈や消化管の破裂の再発,ろう孔,創傷治癒遅延,縫合離開など組織や血管の脆弱性に関連している.最初の合併症を救命しえた場合にも,破裂を繰り返すことがある.いつどの場所で再び破裂するか,最初の時点では予測ができない.
まれな合併症としては心室破裂を伴う心破裂,脾破裂,肝破裂がある.
女性罹患者の妊娠においては,分娩前後の動脈破裂または子宮破裂による死亡率は最大12%である.
遺伝子型と臨床型との関連
これまでに明らかにされたCOL3A1遺伝子変異の約2/3では,トリプルヘリカルドメインに存在する[Gly-X-Y]343配列におけるグリシンが他のアミノ酸に置換されている.それ以外の変異の大多数はスプライス部位にありエクソンスキップを生じさせるが,より複雑な変異も存在する.mRNAの安定性を低下させる変異や蛋白の三量体形成が障害される変異など,より頻度の低い変異も報告されている.変異の型が異なっても臨床像は類似している.
COL3A1遺伝子のnull変異を有する罹患者は最初の合併症発症の時期が比較的遅いかもしれない.ただし,null変異が報告されている家系は数が少ない.
早老症を呈する表現型とIII型コラーゲントリプルへリックスのC末端の塩基配列を変化させる変異とは関係がある可能性が指摘されている.浸透率
臨床症状に基づいて診断された家系においては,浸透率はほぼ100%である.しかし臨床症状の出現年齢はさまざまである.
COL3A1遺伝子上に同定された変異の検討で,少なくとも2つのタイプの変異,すなわちトリプルへリックスドメインに存在するグリシン残基の他アミノ酸への置換と早期終結変異は,血管型EDS罹患者の中での頻度が過小評価されている.COL3A1遺伝子のいくつかの変異は血管型EDSの原因とならない可能性がある.促進現象
血管型EDSでは促進現象は生じない.病名
血管型EDSは過去には以下のような病名でもよばれていた.
頻 度
最近15年間に著者は米国の家系で約800名の罹患者を診断した.この数字は本症頻度の低い見積もり,1/250,000人と一致する.
多くの家系は罹患者が重大な合併症を発症したあとに診断されるので,COL3A1変異を有するものの臨床症状が軽度の例や家系では,医療側の注意をひくことなく診断されないままになっている可能性が高い.
EDS血管型の頻度は1人/50,000~100,000人と推定されている.多くの家系において診断は重大な合併症の後になされているので,COL3A1遺伝子変異を有するが軽症の罹患者または家系は病院に受診する必要もなく,したがって気付かれない可能性もあるだろう.易出血性,関節可動性過剰,慢性関節脱臼または亜脱臼を呈するが,III型コラーゲンの生化学的異常が検出されない患者では,他のタイプのEDSを考慮すべきである.臨床所見が血管型EDSと重複する疾患は以下のとおりである.
最初の診断時に病変の程度を確認するために行う評価
現時点において,最初の診断時に行う評価に関するコンセンサスは存在していない.臨床評価はしばしば診断がなされた状況の違いに影響される.
臨床症状に対する治療
一次症状の予防
動脈破裂を予防する方法は知られていない.
高血圧がある場合にはその治療は必須である.
定期検査
定期的に動脈のスクリーニングを行う必要性は不確定であり,詳細な研究によってのみ明らかにされうる.もしそのようなスクリーニングを行う場合も血管造影は勧められない.カテーテル挿入部で動脈の破裂や解離を起こす危険があり,造影剤を投与する圧が動脈瘤形成の原因になりうるからである.定期検査としては,サブトラクションアンギオグラフィーや造影剤を使わないMRIやCTが推奨される.回避すべき薬剤や環境
リスクのある血縁者の検査
リスクのある親族に対しては臨床的あるいは遺伝学的に個々の状況が評価されるべきである.罹患していると判明した人に対しては,臨床症状に基づいて診断された人と同じ管理が行われる.
研究中の治療法
血管破裂や動脈瘤のリスクを低減させるためのβ遮断薬の有効性について,現在ヨーロッパで臨床試験が行われている.
種々の疾患に対する臨床試験の情報は,ClinicalTrials.govを参照のこと.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」
遺伝形式
常染色体優性遺伝。
家族のリスク
罹患者の親
注:血管型EDS罹患者の大多数には罹患した親がいるが,家族の病歴の情報が不完全であったり,発症が遅かったりするために,家族歴があることに気づかれない場合もある.
罹患者の同胞
罹患者の子 罹患者の子は50%のリスクでCOL3A1遺伝子変異を受け継ぎ,発症する.
他の家族メンバー
遺伝カウンセリングに関連した問題
明らかに新生突然変異によると思われる家系において考慮すべきこと 常染色体優性遺伝性疾患罹患者の両親がいずれも遺伝子変異を有していない,あるいは臨床的に罹患していない場合は,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高い.しかし,父が異なるとか公表していない養子であるといった医学的でない要素によることもある.
家族計画 遺伝的リスクを評価したり,出生前診断の可能性について検討するのは妊娠前に行うことが望ましい.
リスクのある無症状の小児に対する検査 血管型EDSの検査を小児期に行う利点としては,(1)親に見られたCOL3A1遺伝子変異を持っていない子は罹患している心配がなくなり,(2)一方変異を持つことがわかった子に対してはよりよい形で定期的な経過観察が行われ,起こりうる合併症に対する治療法を認識し,衝突の多いスポーツへの適切な制限できるということがあげられる.
ほとんどの合併症が成人期に現れる疾患において,リスクのある無症状の小児に対し検査を行うかどうかは倫理的な問題をはらんでいる.成人期発症の疾患のリスクがある小児は,診断によって早期治療ができたり経過観察が改善されたりといった利点がないのであれば,症状がないうちは検査を受けるべきでないというのがコンセンサスである.無症状の小児に検査を行わないという考えの根拠は,彼らがこの情報を知るまたは知らないでいる選択権を奪ってしまう,家族や社会において烙印を押される可能性がある,そして教育や就職において障害となるかもしれない,といったことである.DNAバンキング DNAバンキングはDNA(通常は白血球から調製する)を将来の使用のために保存しておくことである.検査方法やわれわれの遺伝子,変異,疾患に対する考え方が将来進歩していく可能性があるので,罹患者に対してはDNAを保存しておくことが考慮される.特に現在行われている検査法の感度が100%に達していない疾患では考慮する価値があるかもしれない.
出生前診断
生化学的検査 リスクのある家系において,Ⅲ型コラーゲンの生化学的な異常が明らかになっている場合には出生前診断が可能である.生化学的検査による出生前診断は,絨毛穿刺(妊娠10-12週)により得られた胎児細胞を培養して行う.
分子遺伝学的検査 COL3A1遺伝子変異が見いだされた家系においては,リスクがある胎児に対し出生前検査を実施することは可能である.絨毛穿刺(妊娠10-12週)または羊水穿刺(妊娠16-18週)によって得られた胎児細胞からDNAを抽出し,遺伝子検査を行う.検査前の時点で変異が明らかにされている必要がある.
着床前診断 着床前診断は家系内の変異が明らかとなっている場合に可能である.
訳注:vEDSに対する着床前診断は,日本では行われていない.
遺伝子記号 | 遺伝子座 | 蛋白名 |
COL3A1 | 2q31 | コラーゲンα-1(III)鎖 |
血管型EDSのOMIM登録
120180 | ollagen, type III, Alpha-1; COL3A1 |
130050 | Ehlers-Danlos syndrome, type IV, autosomal dominant |
血管型EDSの遺伝子データベース
Gene Symbol |
Locus Specific |
Entrez Gene |
HGMD | GeneCards | >GDB | GenAtlas |
COL3A1 | COL3A1 | 120180 | COL3A1 | COL3A1 | 118729 | COL3A1 |
正常多型 COL3A1遺伝子は51エクソンからなり,44 kb以上のサイズがある.
病原性変異 これまでに400種以上の血管型EDSの原因となるCOL3A1遺伝子変異が同定されている.最も多い変異は,トリプルヘリカルドメインに存在するGly-X-Y反復配列におけるグリシンが,他のアミノ酸に置換されたものである.変異の約1/3はスプライス部位にあり,その多くはエクソンスキップを生じさせる.一部のスプライス部位変異では,潜在的なスプライス部位を認識することによってエクソンの一部が除かれたり,イントロンの一部が転写されたりする.エクソンスキップをきたす変異の大多数は5’ドナー部位に生じており,3’部位の変異は少ない.部分的な遺伝子欠失例も報告されている.より頻度の低いものでは,終止コドンを生じてCOL3A1のハプロ不全をきたすものもある.この変異では正常なIII型プロコラーゲンが約半分量しか産生されない.
正常遺伝子産物 コラーゲンプロα1III)鎖蛋白.COL3A1遺伝子はIII型プロコラーゲン鎖をコードしており,これは皮膚や血管,中空性臓器の主要構成蛋白である,III型プロコラーゲン分子はホモ3量体であり,1467アミノ酸長を有する.
異常遺伝子産物 COL3A1遺伝子変異ははIII型プロコラーゲン鎖の構造変化をきたし,これはコラーゲン鎖の細胞内貯留や分泌不全を生じる.サポートグループ