ケルビズム
(Cherubism)

Gene Reviews著者:eter Kannu, MB ChB, PhD, DCH, FRACP, FRCPC, Berivan Baskin, PhD, FCCMG, FACMG, Sarah Bowdin, BM, MSc, MRCPCH.
日本語訳者:沼部博直(東京科学大学),小川卓也(東京科学大学)

GeneReviews最終更新日:2018.11.21.   日本語訳最終更新日: 2024.12.19.

原文: Cherubism


要約


疾患の特徴

ケルビズムは小児期発症の,両側性かつ対称性の下顎と上顎に限局した増殖性線維性骨病変を特徴とする自己炎症性骨疾患である.腫大は通常,本質的に対称性である.表現型は,臨床症状の無いものから,呼吸,視覚,発語,嚥下障害を伴う重度の上顎ならびに下顎の過成長に至るものまで多岐にわたる.ほとんどの罹患者では,歯の位置異常,未萌出,または欠損,あるいは嚢胞状の空間に浮遊しているかのように見えることがある.不正咬合,乳歯の早期脱落,ならびに歯根吸収も報告されている.骨破壊の活性期の経過と期間は罹患者間でも異なる.発症は通常小児期早期で,典型的には思春期までに新病変が発生し得る.10代から20代の間に病変部が骨で満たされリモデリングされることに伴い,病変は退縮する.30歳までにはケルビズムに関連する顔面形態異常は認識できなくなるのが普通で,顎に遺残変形を残すことは稀である.通常,ケルビズムは孤発性の良性疾患であり,罹患者は正常の知的能力を有し,他の身体的異常は認めない.

診断・検査

発端者に典型的な臨床的,放射線学的および組織学的所見ならびに/または分子遺伝学的検査によりSH3BP2遺伝子にヘテロ接合性の病的バリアントが認められた場合,診断が確定する.

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
ケルビズムは時間経過とともに軽快する自己限定的(self-limited)な疾患であると考えられるため,治療は個人の症状と疾患の進行に合わせて行われるべきである.大規模な小児医療センターの頭蓋顔面チームによる継続的管理が推奨される.重症度によっては機能的ならびに審美的な懸念から手術が必要となることもある.

サーベイランス:
臨床的,放射線学的,歯科学的,歯科矯正学的,ならびに眼科学的な評価による長期フォローアップ.新しい嚢胞が継続的に形成されている,あるいは既存の嚢胞が拡大している間は,毎年の評価が望まれる.症状が沈静化した後は2〜5年毎のフォローアップ.

リスクを有する血縁者の評価:
家系内の病的バリアントが判明している場合には,分子遺伝学的診断により,早期介入による恩恵を受け得る軽度発症の親族の同定ができる.そうでない場合には,臨床的,放射線学的評価によりリスクのある親族を同定することができるであろう.

遺伝カウンセリング

ケルビズムは常染色体顕性遺伝形式で遺伝する.疾患の表現度は変動的であり,浸透率が低いため,新生の(de novo)病的バリアントにより発症する患者の割合は不明である.ケルビズムのある人の子どもは50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ.家系内で病原性バリアントが同定されていれば,リスクの高い妊娠の出生前診断と着床前診断が可能である.


診断

今のところ、口-顔-指症候群Ⅰ型(OFD1)に関するコンセンサスを得た臨床診断基準は公表されていない。

本疾患を示唆する所見

ケルビズムは小児期発症の,両側性かつ対称性の下顎と上顎に限局した増殖性線維性骨病変を特徴とする自己炎症性骨疾患である.骨破壊の活性期の経過と期間は罹患者間でも異なる.発症は通常小児期早期で,典型的には思春期までに新病変が発生し得る.10代から20代の間に病変部が骨で満たされリモデリングされることに伴い,病変は退縮する.ケルビズムの公式な臨床診断基準は現在までのところ発表されていない.
何名かの専門家は組織生検で十分に確定診断できると考えている.しかし,ケルビズムの表現型には別の治療法が必要となる他の顎腫瘍と類似する可能性もあり,組織学的解析は慎重に検討する必要がある[Friedrich et al 2016].

示唆的所見

以下の臨床的,放射線学的,ならびに組織学的所見のある者にはケルビズムが疑われるべきである.

臨床症候

放射線画像所見には,典型的には,通常は下顎角や下顎枝の両側性,多房性,放射線透過性領域が含まる.筋突起が罹患することが多いが,関節突起が罹患することは稀である.

組織学的所見:下顎および/または上顎の病変部の組織学的所見:多数の巨核多核球と時に嚢胞を含む非腫瘍性線維性病変.周辺部では類骨ならびに新生骨基質の増加が観察される.ケルビズムの表現型には別の治療法が必要となる他の顎腫瘍と類似する可能性もあり,組織学的解析は慎重に検討する必要がある[Friedrich et al 2016].

診断の確定

ケルビズムの診断は,典型的な臨床,画像診断,ならびに組織的所見および/または分子遺伝学的検査により同定されたSH3BP2遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントを有する発端者により確定する(表1参照).
分子生物学的検査手法には,表現型に応じた遺伝子標的検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と包括的遺伝子検査(エクソーム・シークエンス,ゲノム・シークエンス)の組合せがある.

遺伝子標的検査では,ゲノム検査とは異なり,どの遺伝子が関与している可能性が高いかを臨床医が判断する必要がある.ケルビズムの表現型は他の顎病変を伴う疾患と重複するため,「示唆的所見」に記載されている特徴的所見を有している人には遺伝子標的検査を用いて診断が下される可能性が高い(オプション1参照).一方,顎病変を伴う他の多くの遺伝性疾患と区別できない表現型を持つ人やケルビズムの診断が考えられていない人には,包括的ゲノム検査を用いた診断が行われる可能性が高い(オプション2参照).

オプション1

表現型所見からケルビズムの診断が示唆される場合,分子遺伝学的検査手法には,単一遺伝子検査やマルチ遺伝子パネルの利用が含まれる.

:疾患関連遺伝子バリアントの大部分はエクソン9内に報告されている.

オプション2

表現型が顎病変を特徴とする多くの他の遺伝性疾患の表現型との鑑別ができない場合や,患者が非定型的表現型を呈しておりケルビズムの診断が考えられない場合には,包括的ゲノム検査(臨床医がどの遺伝子が原因であるかを決定しなくて良い)が最良の選択である.ゲノム・シークエンスでも可能である.

表1. ケルビズムに用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 検出される病的バリアント2を有する発端者割合
SH3BP2 シークエンス(配列)解析3 〜80%4
遺伝子標的 欠失/重複解析5 不明6
不明7 不明
  1. 遺伝子と染色体座位とタンパク質に関するデータベースは表Aを参照.
  2. この遺伝子で検出されたバリアントに関する情報は,「分子遺伝学」を参照.
  3. シークエンス解析では,良性,良性の可能性が高い,病的意義不明,病的可能性が高い,病的のいずれかのバリアントが検出される.バリアントには,小さな遺伝子内欠失/挿入ならびにミスセンス,ナンセンス,スプライス部位のバリアントが検出される;通常,エクソンや遺伝子全体の欠失/重複は検出できない.シークエンス解析結果の解釈で考慮すべき問題については以下を参照のこと.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1137/
  4. Ueki et al [2001]
  5. 遺伝子標的欠失/重複解析では,遺伝子内の欠失または重複を検出する.使用される手法には,定量PCR,長鎖PCR,multiplex ligation-dependent probe amplification (MLPA)法,ならびに単一エクソンの欠失または重複を検出するよう設計された遺伝子標的マイクロアレイなどのさまざまな技術が含まれる.
  6. 遺伝子標的欠失/重複解析の検出率に関するデータはない.ケルビズムは機能獲得機構により発症する;従って大きな遺伝子内欠失や重複が疾患を引き起こす可能性は低い.
  7. 罹患者の20%でSH3BP2 遺伝子の病的バリアントが同定し得なかったことから,遺伝学的異質性の可能性が示唆される[Reichenberger et al 2012].

臨床的特徴

臨床像

ケルビズムに関連する所見は,臨床的には認識できない症状から,歯,眼窩/眼,呼吸器,ならびに嚥下の合併症を伴う重度の下顎および上顎の過成長に至るものまで多岐にわたる[Roginsky et al 2009].通常,顎の大きな腫大を示し,強度な疼痛を伴うこともある[Battaglia et al 2000, Timoşca et al 2000, Silva et al 2002, Gomes et al 2005, Wang et al 2006].
最初の家系ならびにその後の症例では,同一家系内でも顔症状には大きなばらつきがあることが報告されている[Jones et al 1950, Li & Yu 2006, Preda et al 2010, Stoor et al 2017].

発症と経過

ケルビズムのある患者は出生時には正常な外観を呈する.通常,ケルビズムは小児期早期(2〜7歳)に発症し,思春期まで進行し,その後安定し,以後消退し始める.30歳までにはケルビズムに関連する顔面形態異常は認識できなくなるのが普通で,顎に遺残変形を残すことは稀である[Von Wowern 2000].

症状

この疾患は通常,下顎および上顎領域に限定される急激な骨の変性から始まり,多発性の対称性嚢胞性変化をきたす.これらの嚢胞は間質細胞と破骨細胞様細胞から構成される線維性組織塊に満たされ,典型的な顔の表現型を呈する[Ozkan et al 2003].

病変の病理学

病変組織のNFATc1免疫組織染色は,この疾患の悪性度の高い病型を明確にするのに役立つかも知れない[Kadlub et al 2016].ケルビズムの線維性骨病変は下顎と上顎に限局しているが,骨の炎症所見は,慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)やインターロイキンⅠ受容体拮抗分子欠損症のような他の骨病変を伴う自己炎症性疾患に類似している[Wipff et al 2011, Morbach et al 2013, Kadlub et al 2015, Bader-Meunier et al 2018].CRMOと比較したケルビズムの病理像の主な違いの一つは,骨溶解の程度であり,ケルビズムでは明らかに重度である[Wipff et al 2011].

合併症 ケルビズムの合併症としては以下のものが挙げられる:

遺伝型と臨床型の関連

ケルビズムでの遺伝型と臨床型の連関は知られていない.

浸透率 

ケルビズムの浸透率は体系的には研究されていない.男性に比較して女性で浸透度が低いという以前の報告[Anderson &McClendon 1962]は,成人女性の未罹患状態をどのように評価するかという点でバイアスのあることが後に示されている[Reichenberger et al 2012].

命名

ケルビズムは最初にJonesにより「家族性顎多房性嚢胞疾患」として記載された[Jones 1933]が,その後すぐに彼は,罹患者がルネサンス期の絵画に描かれた天使(訳註: Cherubini Little Angels Of Sistine Madonna By Raphael)との類似性があることから病名を「ケルビズムcherubism」と改名した.

有病率 

有病率は知られていない.医学文献中には約300例が報告されている.ケルビズムの表現型の多様性により小児での症状が未診断となっていたり,成人期にかけて骨のリモデリングが起きるためにSH3BP2遺伝子の病的バリアントを有しているにもかかわらず,成人の画像診断では以前の疾患の証拠が無い可能性がある.

遺伝子レベルでの関連疾患

他のSH3BP2遺伝子の病的バリアントに関連する表現型は知られていない.


鑑別診断

表2. ケルビズムの鑑別診断において考慮すべき疾患

疾患名 遺伝子 遺伝形式 臨床症状
重複症状 特異的症状
RASopathies 1 以下を含む: BRAF
MAP2K1
NF1
PTPN11
SOS1
KRAS
LZTR1
MAP2K2
NRAS
RAF1
RASA2
RRAS2
RIT1
SOS2
AD 顎に高頻度で見られる骨ならびに軟部組織の巨細胞病変 RASopathies:
  • 特徴的顔貌ならびに神経皮
  • 膚病変
  • 多組織・多器官の先天異常
中心性巨細胞肉芽腫 2 不明 3 不明
  • 通常,下顎と上顎に生じる
  • 良性病変
  • 組織学的には,中心性巨細
  • 胞肉芽腫をケルビズムと区 することはできない

病変:

  • 中心性巨細胞肉芽腫の大部
  • 分は単房性
  • ケルビズムは通常,多房性
線維性骨異形成/ McCune-Albright症候群 (FD/MAS) GNAS1 脚注4.参照 Craniofacial form of FD/MAS の頭蓋顔面型はケルビズムの臨床・放射線学的所見が重複し,鑑別困難 5 線維性骨異形成:
  • 大腿骨,脛骨,肋骨を含む他の部位に病変が生じる(ケルビズムでは稀)
  • 顔面下部の典型的対称性腫
  • 脹がない(ケルビズムでは
  • 一般的)
  • 単純写真で特徴的なすりガ
  • ラス状パターン
MAS:
  • カフェオレ斑
  • 内分泌異常
  • 思春期までに改善しない慢
  • 性骨病変
副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(HPT-JT) (CDC73-Related Disorders 参照.) CDC73 AD
  • 下顎と上顎の良性骨形成線
    維腫
  • 時に両側性,多発性,再発性
HPT-JT: 副甲状腺機能亢進
家族性孤発性副甲状腺機能亢進症
(OMIM PS145000)
CDC73
MEN1 6
CASR
GCM2
AD
AR
  • 副甲状腺機能亢進の患者に
    おける骨組織への副甲状腺
    ホルモンの効果による褐色
    腫(稀な良性の巨細胞病変)
  • 上顎骨,下顎骨いずれにも
    生じる 7
副甲状腺機能亢進:
血清カルシウム,副甲状腺ホルモン,ならびにアルカリホスファターゼ値上昇 6
Ramon症候群
(OMIM 266270)
不明 不明 歯肉線維腫症 Ramon症候群:
  • 低身長
  • てんかん
  • ・知能障害

AD = 常染色体顕性;  AR = 常染色体潜性;  XL = X連鎖性

  1. RASopathiesはRAS-MAPK 経路の障害を指す.
  2. De Lange & Van den Akker [2005]
  3. SH3BP2遺伝子の体細胞病的バリアントが中心性巨細胞肉芽腫の1患者で同定されている[Carvalho et al 2009].
  4. 線維性骨異形成/ McCune-Albright症候群は,散発発生する疾患であり,GNAS (cAMP 経路関連G-proteinであるGsαをエンコードする)の初期胚における受精後体細胞活性化(機能獲得型)病的バリアントにより罹患する.
  5. Zohar et al [1989]
  6. 家族性孤発性副甲状腺機能亢進症(FIHP)は,副甲状腺種または他の関連する内分泌障害を伴わない過形成を特徴とする.FIHPの家系において,ヘテロ接合性MEN1生殖細胞系列病的バリアントが20%[Miedlich et al 2001, Villablanca et al 2002]から57%[Pannett et al 2003]に報告されている.
  7. Lessa et al [2005]

ケルビズムは冠状ならびに矢状頭蓋縫合早期癒合症の単一症例に関連して(おそらく偶然)報告されている[Stiller et al 2000].


臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

ケルビズムの診断を受けた患者の疾患の程度を確認するために,まだ完了していない場合には以下の評価を行うことが推奨される.

症候に対する治療

ケルビズムの合併症に対する治療指針は十分に確立してはおらず,この骨疾患の自己炎症性の近年の理解の進歩とともに変化している.ケルビズムは時間経過とともに軽快する自己限定的(self-limited)な疾患であると考えられるため,治療は個人の症状と疾患の進行に合わせて行われるべきである.重症度によっては機能的ならびに審美的な懸念から手術が必要となることもある.

サーベイランス

サーベイランスにより,視力障害,上気道閉塞,閉塞性睡眠時無呼吸,ならびに不正咬合などの二次的合併症のリスクを軽減できる可能性がある.臨床的,放射線学的,歯科学的,歯科矯正学的,ならびに眼科学的評価を含む,長期のフォローアップが必要である[Silva et al 2007].専門家の執筆によるガイドラインでは,新生嚢胞が継続的に形成されている,あるいは既存の嚢胞の拡大している間は,毎年の評価が推奨され,症状が沈静化した後は2〜5年毎のフォローアップが推奨される[Papadaki et al 2012].

リスクを有する血縁者の評価

サーベイランスと早期介入による恩恵を受け得る人をできる限り早く同定するために,明らかに無症状のリスクのある親族を評価するのが適切である.評価には以下が含まれる.

リスクのある親族を遺伝カウンセリング目的で検査することに関する問題は「遺伝カウンセリング」を参照.

研究段階の治療

広範囲の疾患や症状に関する臨床試験に関する情報にアクセスするには,米国のClinicalTrials.gov,欧州のEU Clinical Trials Register を検索せよ.注: この疾患に関する臨床試験は⾏われていない可能性がある.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ケルビズムは常染色体顕性遺伝形式をとって遺伝する.

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状態により異なる.

発端者の子

ケルビズムの人の子は,病的バリアントを受け継ぐ可能性がそれぞれ50%ある.

他の家族構成員

他の家族のリスクは発端者の両親の状況に依存する:もし親にSH3BP2遺伝子病的バリアントがあり,かつ/または臨床的に罹患している場合,その親の家族にはリスクのある可能性がある.

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、「管理」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。

明らかにde novo変異による家族における考慮

常染色体顕性遺伝形式の疾患のある発端者の両親いずれにも発端者で同定された病的バリアントや疾患罹患の臨床的証拠がない場合,発端者は新生の病的バリアントを持っている可能性が高い.しかしながら,代理父や代理母(すなわち補助生殖による)や非公開の養子縁組などの非医学的説明も考慮され得る.

家族計画

DNAバンキング

検査技法や,我々の遺伝子,病理メカニズム,ならびに疾患の理解が将来的に向上する可能性が高いことから,分子遺伝学的診断で診断されていない(すなわち発症病理メカニズムが不明である)発端者のDNAバンキングを検討する必要がある,Huang et al [2022]を参照.

 

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査(訳註: 以下は米国における判断であり日本では状況が異なる)

罹患家系内の一員にSH3BP2遺伝子の病的バリアントが同定されていると,リスクの増加した妊娠における出生前診断と着床前遺伝学的検査が可能となる.

出生前検査の利用に関しては,医療専⾨家の間や家族の間でも見解の相違がある場合がある.ほとんどのセンターでは出生前検査の利用は個⼈の決定であると考えているが,これらの問題について話し合うことは有用かも知れない.


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A.ケルビズム: 遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 座位特異的データベース HGMD ClinVar
SH3BP2 4p16​.3 SH3 domain-binding protein 2 SH3BP2 database SH3BP2 SH3BP2

データは以下の標準的参照データベースより引用した: 遺伝子 HGNC; 染色体座位 OMIM; タンパク UniProt.

表B.ケルビズムのOMIM 登録項目

118400 CHERUBISM
602104 SH3 DOMAIN-BINDING PROTEIN 2; SH3BP2

遺伝子構造

SH3BP2遺伝子の転写産物は約2.4kbであり,13のエクソンから構成される.この遺伝子は腫瘍抑制遺伝子の検索中に特定された[Bell et al 1997].遺伝子とタンパク情報の概要は表A.の遺伝子の項を参照のこと.

病的バリアント
SH3BP2遺伝子のエクソン9のシークエンス解析により,検査を受けた者の約80%に病的バリアントが検出された[Ueki et al 2001, Reichenberger et al 2012].報告されている病的バリアントはミスセンス変異であり,主としてp.Arg415 から p.Gly420 までの6アミノ酸配列内に密集している.他のエクソン内の病的バリアントは稀れである[Ueki et al 2001, Lo et al 2003, Lietman et al 2006].Pleckstrin相同ドメインであるエクソン4内の病原性ミスセンスバリアントが1名のケルビズム患者でCarvalho et al [2009] により報告されている.

表3. 本GeneReviewに述べられているSH3BP2遺伝子の病的バリアント

DNA核酸変化

予測されるタンパク変化

参照配列

c.1253C>G

p.Pro418Arg

NM_003023​.4
NP_003014​.3

本表に掲げたバリアントは著者によるもの.GeneReviewsのスタッフは変異の分類を独自には検証していない.
GeneReviews は,Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準命名規則に従う.

正常遺伝子産物

SH3BP2遺伝子はアダプター・タンパクであるSH3ドメイン結合性タンパク2 (3BP-2) をコードする.これは造血細胞の分化と機能する過程でいくつかの細胞内タンパクのチロシンキナーゼ依存性シグナル伝達において必要とされるものである[Foucault et al 2005].3BP-2は破骨細胞形成に関与する転写因子であるNFATの活性を正に制御する[Lietman et al 2008].3BP-2には以下が含まれる.

異常遺伝子産物

ケルビズムは,PHとSH2ドメインの間に位置するペプチド配列RSPPDG内に主に密集する病的バリアントにより生じる.なぜ異常3BP-2が主に顎に限局した過剰な骨吸収ならびに軟部組織増殖を引き起こすのか,そしてなぜケルビズム病変が思春期後は消退するのかは不明である.最も多いヒトの病的バリアント3BP-3 (p.Pro418Arg)をノックインしたマウスモデルでは,高度に活性化した破骨細胞による重度の骨粗鬆症を発症し,このペプチド配列内の病的バリアントが機能獲得活性を得ていることが示された[Ueki et al 2007, Wang et al 2010].

骨の自己炎症は,トル様受容体(Toll-like receptor: TLR)が顎のリモデリング中に口腔内細菌叢とダメージ関連分子パターン(訳注: damage associated molecular patterns;DAMPs)に反応した結果であると提唱されている.ケルビズム病変は通常思春期後にTLR-骨髄分化初期応答遺伝子88(MYD88)パスウェイが関与する可能性のあるメカニズムにより,消退を開始する[Yoshitaka et al 2014, Prod'Homme et al 2015].


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者:eter Kannu, MB ChB, PhD, DCH, FRACP, FRCPC, Berivan Baskin, PhD, FCCMG, FACMG, Sarah Bowdin, BM, MSc, MRCPCH.
    日本語訳者:沼部博直(東京科学大学),小川卓也(東京科学大学)
    GeneReviews最終更新日:2018.11.21.   日本語訳最終更新日: 2024.12.19.[in present]

原文: Cherubism

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