Gene Reviews著者: Nancy B Spinner, PhD, Melissa A Gilbert, PhD, Kathleen M Loomes, MD, and Ian D Kranz, MD.
日本語訳者: 和田宏来 (国際親善総合病院小児科/しんぜんクリニック小児科)
Gene Reviews 最終更新日:2019.12.12 日本語訳最終更新日: 2019.12.20.
アラジール症候群(ALGS)は臨床像に幅広いスペクトラムをもつ多臓器疾患である。同じ家族内でさえ患者間に多様性を認める。ALGSの主な臨床症候は、肝生検でみられる胆管減少、胆汁うっ滞、先天性心疾患(主に肺動脈疾患)、蝶形椎体、眼疾患(最もよく認められるのは後部胎生環)、および特徴的な顔貌である。腎異常、成長障害、発達遅滞、脾腫、血管奇形も認めることがある。
診断・検査
臨床診断基準を満たし、かつ/もしくは分子遺伝的検査によりJAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子の病原性変異のヘテロ接合体を認める場合にALGSと診断される。
臨床的マネジメント
症候の治療:
臨床症候(臨床遺伝、消化器、栄養、循環器、眼、腎臓、肝臓移植、小児発達)に対して多職種チームによる治療。利胆剤(ウルソデオキシコール酸)、その他の薬剤(コレスチラミン・リファンピシン・ナルトレキソン)。末期肝疾患に対して肝移植。循環器、腎臓、神経病変に対して標準的な治療。
サーベイランス:
循環器、消化器、栄養学の専門家による定期的な観察。
避けるべき物質/環境:
コンタクトスポーツ。肝疾患を認める場合はアルコール。
遺伝カウンセリング
ALGSは常染色体優性遺伝疾患である。患者の約30-50%は病原性変異を受け継ぎ、約50-70%はde novoの病原性変異である。両親の体細胞/生殖細胞モザイクが報告されている。それぞれの子どもがALGS関連遺伝子変異を受け継ぎALGSの徴候を示すリスクは50%である。家族内で原因となる遺伝子変異が判明している場合、リスクのある分娩に対する出生前検査や着床前診断を行うことは可能である。ALGSはサブクリニカルなものから重症なものまで臨床的特徴は極めて幅広いため、分子遺伝学的検査で臨床症候を予測することはできない。
診断
示唆的な所見
以下の所見を認めた場合、アラジール症候群(ALGS)を疑うべきである。
図1 アラジール症候群で典型的な特徴的顔貌。幅広い前額、深く窪んだ眼、尖った顎が認められる。
血縁者が罹患者である場合。臨床基準を完全には満たさないが血縁者に罹患者を認める場合はALGSも疑うべきである。一等親血縁者が罹患者である場合、臨床的には1つ以上の徴候があれば診断するのに十分であると考えられる。
診断の確定
臨床診断基準を満たし、さらに可能であれば分子遺伝的検査を行ってJAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子の病原性変異のヘテロ接合体を同定できた場合にALGSと診断される(表1を参照)。
注:ALGSと臨床診断された者のごく少数(3.2%)では、JAG1遺伝子およびNOTCH2遺伝子に病原性変異を認めない。
分子遺伝学的検査には、表現型に応じた標的遺伝子検査(単一遺伝子に対する連続的な検査、複数遺伝子パネル)と包括的ゲノム検査(エクソームシークエンス、エクソームアレイ、ゲノムシークエンス)の併用などがある。
標的遺伝子検査では臨床医がどの遺伝子が関連あるかを決定しなければならないが、ゲノム検査では必要ない。ALGSの表現型は幅広いため、“示唆される所見”で記載した特有の所見を認める者においては、標的遺伝子検査を用いた診断がなされる傾向にある(”オプション1”を参照)。一方で、ALGSと考えられていなかった者のほうがゲノム検査を用いてより診断される傾向にある(”オプション2”を参照)。
オプション1
表現型および検査所見でALGSが示唆されるときは、単一遺伝子に対する連続的な検査もしくは複数遺伝子パネルの使用などによる分子遺伝学的検査を行う。
注:(1)JAG1遺伝子全体の欠失を認める場合には、稀な染色体再配列(転座もしくは逆位)が存在するかどうかを調べるために全ての細胞遺伝学的検査を考慮することがある。(2)ALGSでよく認められる特徴に加えて発達遅滞および/もしくは難聴を認める場合は染色体欠失の疑いが増すため、染色体マイクロアレイ解析(chromosomal microarray analysis, CMA)の施行が推奨される。
この疾患では、欠失/重複解析を含んだ複数遺伝子パネルが推奨される(表1を参照)。
複数遺伝子パネルのイントロダクションについてはこちらをクリック。遺伝学的検査を依頼する臨床医のためのさらに詳細な情報についてはこちらを参照のこと。
オプション2
臨床診断基準を満たさず、ALGSを考えにくい場合には、包括的ゲノム検査(この検査ではどの遺伝子が関連しているか臨床医が決定する必要がない)がベストな選択肢となる。エクソーム解析が最もよく用いられる。ゲノムシークエンスも可能である。
エクソームシークエンスで診断に至らなかった場合、シークエンス解析で同定できない(複数)エクソン欠失/重複を見つけるため、(臨床的に施行可能であれば)エクソームアレイを考慮することがある。
包括的ゲノム検査のイントロダクションについてはこちらをクリック。遺伝学的検査を依頼する臨床医のためのさらに詳細な情報についてはこちらを参照のこと。
表1 アラジール症候群で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1, 2 | その遺伝子の病原性変異によるALGSの割合 | その方法によって同定できる病原性変異3の割合 | |
---|---|---|---|
シークエンス解析4 | 標的遺伝子の欠失/重複解析5 | ||
JAG1 | 94.3%6 | 88%6 | 12%6 |
NOTCH2 | 2.5%6 | 100%6 | 不明7 |
不明8 | 3.2%6 | 利用できない |
臨床像
アラジール症候群(ALGS)は臨床的に幅広いスペクトラムを有する多臓器疾患であり、致死的な肝/心疾患から僅かなサブクリニカル(すなわち蝶形椎体・後部胎生環・特徴的顔貌)な症候まで認められる。この多様性は同じ家族内の患者間にさえ認められる。
重篤な肝/心病変を有する患者が診断を受ける時期で最も多いのは乳児期である。サブクリニカルもしくは軽症の肝症状を認める患者では、終生診断されない可能性がある。
現在まで、JAG1遺伝子またはNOTCH2遺伝子に病原性変異を有する患者は700人を超える。表2には、Emerickら[1999年]、Subramaniamら[2011年]、Salehら[2016年]の報告に基づき、この病態に関連する表現型の特徴をリスト化した。
表2 アラジール症候群の特徴
特徴 | その特徴を有する患者の割合 | コメント |
---|---|---|
肝病変:胆管減少、抱合型高ビリルビン血症、掻痒・黄色腫・脂溶性ビタミン欠乏を伴う慢性的な胆汁うっ滞、末期肝疾患 | ≤ 100% | |
心病変 | 90%-97% | 最もよく認められる心血管奇形は肺動脈狭窄およびファロー四徴症 |
後部胎生環 | 78%-89% | |
腎疾患 | 39% | |
椎体異常 | 33%-93% | |
特徴的顔貌 | 77%-97% |
肝症状
AG1遺伝子またはNOTCH2遺伝子の病原性変異を有する患者の一部は肝症状を認めないが、ほとんどの患者では生後3ヶ月以内に肝疾患を発症する。肝疾患の重症度は無症候性の肝酵素上昇から、黄疸、慢性的な胆汁うっ滞、そして末期肝疾患まで幅広い。
黄疸および抱合型高ビリルビン血症は新生児期から存在することがある。
血漿胆汁酸、ALP、GGT、トリグリセリド、アミノトランスフェラーゼ濃度の上昇もよく認められる。胆汁酸塩の排泄障害により、脂溶性ビタミン欠乏および栄養障害をきたしうる。
胆汁うっ滞により、掻痒、血漿胆汁酸値の上昇、成長障害や黄色腫をきたす。
様々な報告によると、18歳までに患者の20~70%は肝不全もしくは掻痒により肝移植を必要とする。現在のところ、末期肝疾患に進行するかどうかを予測することはできないが、臨床経過を予測するのに役立つバイオマーカーを発見しようという研究が進行中である。胆汁うっ滞を認める小児患者の肝疾患が改善するか進行するかを予測するのは難しいが、患者144人の後方視的研究によると、生後12~24ヶ月で血漿総ビリルビンが3.8mg/dLを超える場合、長期的な肝疾患の予後は不良であることを予測しうる。
肝生検では典型的には肝内胆管の減少を認め、それは進行することがある。生後6ヶ月未満の乳児では、胆管減少は必ずしも見られるとは限らず、肝生検では胆管増生を認め胆道閉鎖症と間違われる可能性がある。
心病変
90~97%のALGS患者に重篤な構造異常を含めた心病変を認める。最もよく見られるのは肺血管(肺動脈弁・肺動脈・およびその分枝)病変である。肺動脈狭窄(末梢および分枝)が最もよく認められる心病変である(67%)。最もよく認められる複雑心奇形はファロー四徴症であり、患者の7~16%に認められる。その他の心奇形には(頻度順に)心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、大動脈狭窄、大動脈縮窄症がある。
眼病変
眼科疾患で最もよく認められるのは後部胎生環である。後部胎生環は隆起したシュワルベ輪で、前房異常を呈し、ALGS患者の78~89%に認めると報告されている。最も正確に評価できるのは細隙灯顕微鏡検査で、後部胎生環では視力に影響はみられず、診断の一助となる。後部胎生環は一般人口のおよそ8~15%にも認められる。発端者の家族で後部胎生環以外の所見を伴わない場合、病原性変異を有する血縁者を見出す作業が複雑となりうる。
ALGSで認められるその他の前房異常にはアクセンフェルト(Axenfeld)奇形やリーガー(Rieger)奇形などがある。小児ALGS患者20人における眼超音波検査では90%に視神経乳頭ドルーゼンが認められている。網膜色素変性もよく認められる(報告によれば32%)。さらなる眼異常も報告されている。
軽度の視力低下が起こることはあるが、視力予後は良好である。ごく稀に特発性の頭蓋内圧亢進症を合併することもあるが、その機序については報告されていない。
骨格病変
最もよく認められる放射線学的所見は蝶型椎体で、これは椎体の癒合不全で胸椎に最もよく認められる。ALGS患者における蝶型椎体の頻度は33~93%と報告されている。通常、蝶型椎体は無症状である。一般人口における頻度は不明であるが低いと考えられている。ALGS患者で認められるその他の骨格病変に関する報告は少ない。
特徴的顔貌
小児ALGS患者で認められる顔貌の特徴には、幅広い前額、深く窪んだ眼と中等度の眼間開離、尖った顎、凹んだ/直線状の鼻堤と球状の鼻尖などがある。これらの特徴によって、顔は逆三角形のような見た目となる。この典型的な顔貌の特徴は、ALGSではほぼ例外なく認められる(図1を参照)。
ALGSにおける顔貌は特異的でしばしば診断を強く支持するものであるが、Linらは北米の異常形態学の専門家がベトナム人小児ALGS患者の特徴的顔貌を見分けられなかったことを報告し、その診断的価値が民族によって異なることが示唆された。
腎異常
構造異常(小さな高輝度腎・尿管腎盂閉塞・腎嚢胞)および機能異常(最もよく認められるのは尿細管性アシドーシス)はあわせて患者の39%に認められる(187人中73人)。成人患者で高血圧および腎動脈狭窄も報告されている。
その他の特徴
ALGS患者の寿命は短縮しており、主な死因は心疾患、重症肝疾患、頭蓋内出血である。長期にわたるフォローアップはほとんど報告されておらず、ALGS患者の寿命に関する情報は得られていない。
遺伝子による表現型の違い
現在までNOTCH2遺伝子変異を有する患者の報告はごく僅かだが、心病変・椎体異常・特徴的顔貌を呈する割合はJAG1遺伝子病原性変異を有する患者より低い。
遺伝子型と表現型の相関関係
JAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子における遺伝子型と表現型の相関関係は判明していない。
発達遅滞・難聴・自閉症などさらなる異常を認めるALGS患者では、JAG1遺伝子全体も他の遺伝子も包含する20p12の大きな欠失を認めることがある。
浸透率
既知のいずれかの原因遺伝子(JAG1遺伝子およびNOTCH2遺伝子)の病原性変異を有するALGSでは、サブクリニカルなものから重篤な臨床的特徴までその表現型には大きな差異を認める。
JAG1遺伝子変異 JAG1遺伝子変異患者における臨床所見の範囲や頻度を明らかとするため、Kamathら[2003年]は53人のJAG1遺伝子変異を有する血縁者における浸透率を調査した。ALGSの特徴を認めなかった患者は2名であり、浸透率は96%であった。
NOTCH2遺伝子変異 NOTCH2遺伝子変異を有する患者の浸透率は現在までのところ100%のようである。
有病率
ALGSの有病率は30,000-50,000出生に1人と推定されている。分子学的検査の発展により疾患の発見率は向上してきている。しかし、表現型が多彩であるため、まだ過少診断の傾向は脱していない。民族ごとの有病率は同程度のようである。
JAG1
このGeneReviewで記載した以外の表現型にJAG1遺伝子の生殖細胞系列変異と関連するものは知られていない。
注:JAG1遺伝子の病原性変異を有する患者の一部では、ALGSの特徴の一部しか示さない可能性があり、診断を受けていないことがある。臨床的に最も重要なのは、JAG1遺伝子変異を有し孤発性の心疾患を呈している患者群である。
NOTCH2
胆管減少はALGSにおいてのみ認められるとは限らない。胆管減少を起こすそのほかの原因には、代謝性疾患(α-1-アンチトリプシン欠損症・下垂体機能低下症・嚢胞性線維症・トリヒドロキシコプロスタン酸過剰)染色体異常(ダウン症候群)、感染症(先天性サイトメガロウイルス感染症・先天性風疹症候群・先天梅毒・B型肝炎)、免疫疾患(移植片対宿主病・慢性同種肝移植片拒絶反応・原発性硬化性胆管炎)、およびその他の疾患(ゼルウィガースペクトラム障害・イヴェマルク症候群)などがある。これらはALGSと病歴やその他の所見の存在、もしくは遺伝学的検査で鑑別することができる。
肝内胆汁うっ滞を伴う遺伝性疾患には、α-1-アンチトリプシン欠損症、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC1型と2型[バイラー病]など)、胆汁酸代謝異常、新生児硬化性胆管炎、ノルウェー胆汁うっ滞症(Aagenaes症候群)や北米インディアン胆汁うっ滞症(North American Indian cholestasis, NAIC)などがある。これらは主に肝臓の疾患であるが、一部は肝外症状を呈する。
新生児胆汁うっ滞の特異的な原因は100を超える。臨床症候によって感染症、代謝疾患、遺伝疾患、内分泌疾患および構造異常などを鑑別する。一般的には、敗血症・甲状腺機能低下症・古典的ガラクトース血症のような単一遺伝子疾患といった治療可能な原因を評価する。胆道閉鎖症は最もよく認められる新生児胆汁うっ滞の原因であり、早期の外科的治療により予後改善が期待できるため早期に診断を行うべきである。
後部胎生環は多くの遺伝性疾患で認められるが、アクセンフェルト・リーガー症候群で頻度の高い所見である。一般人口の8-15%でも認められる。その他の所見の存在もしくは遺伝学的検査によってALGSと鑑別できる。
肺血管系の異常は孤発性に認める場合とヌーナン症候群・ワトソン症候群(肺動脈狭窄および神経線維腫症1型)・多発性黒子を伴うヌーナン症候群・ダウン症候群・ウィリアムズ症候群などの症候群に伴う場合がある。これらの症候群は、合併するその他の臨床所見および/もしくは分子遺伝学的/細胞遺伝学的検査によって鑑別することができる。
ALGSで報告されている心疾患のいくつか、特に心室中隔欠損症やファロー四徴症は22q11.2欠失症候群患者でよく認められる。同疾患患者でも蝶形椎体や成長障害といったALGSの2つの特徴を認めることが報告されている。肝疾患は22q11.2欠失症候群の症候ではない。遺伝学的検査によってこの2つの疾患を鑑別することができる。
表3 アラジール症候群(ALGS)との鑑別のため関心のもたれる遺伝子
重複する重要な 臨床的特徴 |
遺伝子 | 疾患 | 遺伝形式 |
---|---|---|---|
胆管減少 | AMACR | トリヒドロキシコプロスタン酸過剰 (OMIM 214950) |
常染色体劣性遺伝 |
CFTR | 嚢胞性線維症 | 常染色体劣性遺伝 | |
GDF1 | イヴェマルク症候群(OMIM 208530) | 常染色体劣性遺伝 | |
NEK8 | 腎・肝・膵異形成2型 (OMIM 615415) |
常染色体劣性遺伝 | |
PEX1, PEX6, PEX12 1 | ゼルウィガースペクトラム障害 | 常染色体劣性遺伝 | |
SERPINA1 | α-1-アンチトリプシン欠損症 | 常染色体劣性遺伝 | |
肝内胆汁うっ滞 | ABCB4 | 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)3型(OMIM 602347) | 常染色体劣性遺伝 |
ABCB11, ATP8B1 | 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC) 1型・2型 (ATP8B1欠損症を参照) |
常染色体劣性遺伝 | |
良性反復性肝内胆汁うっ滞症 (BRIC, OMIM PS243300) |
常染色体劣性遺伝 | ||
新生児胆汁うっ滞 | GALT | 古典的ガラクトース血症 | 常染色体劣性遺伝 |
後部胎生環 | FOXC1, PITX2 | アクセンフェルト・リーガー症候群 (OMIM PS180500) |
常染色体優性遺伝 |
肺血管系の異常 | ELN | ウィリアムズ症候群 | 常染色体優性遺伝 |
NF1 | ワトソン症候群 (肺動脈狭窄および神経線維腫症1型) |
常染色体優性遺伝 | |
PTPN11, SOS1, RAF1, RIT1 2 | ヌーナン症候群 | 常染色体優性遺伝 (常染色体劣性遺伝3) |
|
PTPN11, RAF1, BRAF, MAP2K1 | 多発性黒子を伴うヌーナン症候群 | 常染色体優性遺伝 |
初期診断につづく評価
アラジール症候群(ALGS)と診断された患者において、疾患の広がりやニーズを把握するため、(診断につながる評価の一部として施行されていない場合)表4に要約された評価を行うことが推奨される。
表4 アラジール患者で診断後に推奨される評価
対象となる 系統 |
評価 | コメント |
---|---|---|
消化器 | 消化器専門医による以下の評価
|
消化器専門医が必要あると判断した場合、 以下の検査を追加する。
|
心臓血管 | 完全なる心臓の評価 | 心エコーなど |
眼 | 眼科診察 | 前房異常を精査する |
骨格系 | 胸部X線のAP像および側面像で 蝶形椎体の有無を評価する |
|
腎 | 腎機能検査および腎エコーで評価する | |
成長 | 成長指標の測定および成長曲線への記入 | |
発達 | スクリーニングの発達評価 | 著しい遅れを認める場合には さらに詳細な評価を行うべきである |
その他 | 臨床遺伝専門医および/ または遺伝カウンセラー を紹介する |
症候の治療
ALGSは多臓器疾患であるため、患者のマネジメントを多職種が連携して行うことはしばしば有益である。患者個人の年齢や重症度に応じて、臨床遺伝学・消化器・栄養学・循環器・眼・腎臓・肝臓移植・小児発達の各専門家による評価が必要となる可能性がある。
多くの合併症(心血管系異常・腎異常・血管系イベント)は標準的な方法で治療されるが、その他は治療が必要となるのはまれな所見(眼病変)もしくは極めて稀にしか症状を呈さない所見(椎体異常)である。
本疾患患者の肝疾患の治療はアラジール症候群に精通した肝臓専門医によって行われることが推奨される(表5を参照)。
表5 アラジール症候群患者の肝症状に対する治療
対象となる症状 | 治療 | その他に考慮すること |
---|---|---|
掻痒および黄色腫 | 利胆剤(ウルソデオキシコール酸)およびその他薬剤(コレスチラミン・リファンピシン・ナルトレキソン) | 治療の併用がしばしば必要となる。内科治療に不応の重篤な掻痒に対して胆汁分流(biliary diversion)が行われることがある。 |
末期肝疾患 | 肝移植 | |
成長障害 | 最適化された栄養、必要に応じて脂溶性ビタミンの補充 | カロリー摂取に経鼻胃管もしくは胃瘻チューブが必要となることがある |
サーベイランス
必要な栄養を摂取できるように標準成長曲線を用いて成長の評価を行うべきである。
循環器科医・消化器科医・栄養士による定期的な評価がのぞましい。
現時点で、ALGS患者に対する血管病変の発症前スクリーニングの効果について正式に評価されていない。
何らかの症状を呈する患者では血管系イベントの可能性を考慮すべきであり、必要なら積極的にMRI・MRA・血管造影を施行し、動脈瘤・解離・出血を認めないか精査すべきである。
避けるべき物質/環境
コンタクトスポーツはすべての患者、特に慢性肝疾患・脾腫・血管病変を有する患者では避けるべきである。
肝疾患を認める場合はアルコール摂取を避けるべきである。
リスクのある血縁者の評価
治療や予防手段の迅速な開始が有益となる患者を可及的速やかに見出すため、罹患者の血縁者でリスクはあるが一見無症候である年長者や年少者の遺伝学的状況を明らかにすることがのぞましい。
以下のような評価が施行できる。
・家族内で原因となる遺伝子変異(JAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子、もしくは20p12の微小欠失)が既知である場合、分子遺伝学的検査。
・家族内でJAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子の変異が判明していない場合、肝酵素の測定、心臓検査、眼検査、骨格系X線撮影や顔貌の特徴を評価する。
遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある血縁者への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
妊娠管理
門脈圧亢進症や心機能障害が妊娠中に悪化しないか確かめるため、肝臓および心臓病変をモニターすべきである。
研究中の治療法
回腸の胆汁酸トランスポーターを阻害するマラリキシバット(maralixibat)が掻痒に対する治療候補薬として研究されている。初期の結果ではALGS患者において安全で掻痒を改善させる可能性が示唆されたが、効果に対するさらに徹底した調査が必要である。
さまざまな疾患や病態に対する幅広い臨床試験に関する情報は、米国ではClinicalTrials.govを
欧州ではEU Clinical Traials Registerを参照されたい。注:この疾患に対する臨床試験は行われていない可能性がある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
ALGSは常染色体優性遺伝形式で遺伝する。
患者家族のリスク
発端者の両親
JAG1遺伝子関連ALGSの家系における研究において、親の体細胞/生殖細胞系列モザイクの頻度は約8%であった。ALGSの原因遺伝子変異の体細胞モザイクを有する親は軽症/ごくわずかの症候しか示さない可能性がある。
発端者の同胞
発端者の同胞におけるリスクは、発端者の両親の臨床的/遺伝学的状況によって異なる。
発端者の子
ALGS患者の子どもでALGS関連遺伝子変異を受け継ぐ確率は50%である。ヘテロ接合体を保有する子どもの臨床症候は予測できず、軽症/サブクリニカルな特徴から重症心/肝疾患まで幅広い。
その他の家族
その他の家族におけるリスクは発端者の両親の状況によって異なる。親が罹患者である/ALGS関連遺伝子変異を有している場合、その家族はリスクがある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断・治療目的のリスクのある親族に対する検査についての情報については「臨床的マネジメント」「リスクのある血縁者の評価」の項を参照のこと。
一見de novo病原性変異を有する家族で考慮すること 常染色体優性遺伝疾患患者である両親に発端者で同定された病原性変異もしくは臨床的な徴候を認めない場合、その変異はおそらくde novoである。
しかし、(生殖補助医療など)代理父母や公にされていない養子縁組など非医学的な要因が潜んでいる可能性がある。
家族計画
DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、アレル変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、罹患者のDNA保存を考慮すべきである
出生前診断および着床前診断
分子遺伝学的検査
家族内で原因となる遺伝子変異(すなわちJAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子、もしくは20p12の構造変異)が判明している場合、リスクのある分娩に対する出生前検査や着床前診断を行うことは可能である。注:JAG1およびNOTCH2遺伝子関連ALGSの臨床的特徴はサブクリニカルなものから重篤なものまで極めて多様であるため、分子遺伝学的検査では臨床症候を予測できない。
胎児エコー検査
胎児のALGSリスクが50%である場合、胎児エコーによって重大な心臓の構造異常を認めることがある。しかし、胎児エコーで正常でもALGSや心臓の構造異常の可能性は除外できない。特に早期診断ではなく妊娠中絶を考慮した検査である場合に、医療従事者や家族の間でも出生前検査に関して視点の違いが存在する可能性がある。ほとんどの施設において、出生前診断に関する決定は両親の選択によると考えるが、これらの問題に関して話し合うことがのぞましい。