治療法開発
AAVを用いたGLUT1治療法開発
これまでの研究により、AAVもとに人工的に作られたAAVベクター(運び屋)は、体内に効率よく目的の遺伝子を導入することで、長期にわたって目的のタンパク質を合成することができるということがわかっています。
AAVベクターは、ウイルス由来のタンパク質の遺伝子を取り外して空いた部分に治療用遺伝子を載せることで、治療用ベクターとして治療に使用することができます。治験責任医師および共同研究を行っている製薬企業は、AAVベクターにGLUT1欠損症の治療用としてSLC2A1遺伝子を組み込み、体内でGLUT1をこのGT0006Xを、GLUT1欠損症のモデルマウスに投与したところ、GLUT1欠損症の症状の1つである運動機能の向上に成功しました。また、このGT0006X投与マウスではSLC2A1遺伝子の活性が長期に渡り持続し、副作用も特に認められませんでした。このことから、GT0006XはGLUT1欠損症の患者さんに対しても同様に効果を発揮することが期待されます。
今回の治験では、GT0006Xを治験製品として、あなたの髄腔内に投与します。
なお、今回使用するGT0006Xは、人に対して初めて使用することになる治験製品です。AAVベクターを利用した他の遺伝子治療用製品としては、オナセムノゲン アベパルボベクという再生医療等製品があり、脊髄性筋萎縮症という病気に対して既に承認されています。今回使用するGT0006Xは、オナセムノゲン アベパルボベクで使用されているAAVベクターと同じ種類のAAVベクターを使用していますが、ベクターの外側のアミノ酸を一部改良しており、その点が少し異なります。
GT0006Xの投与は、背中から腰椎の間に注射用の針(髄注針)を穿刺してくも膜下腔(脊髄腔)まで挿入します。続いて、針の中に通したカテーテルを胸椎上部から頸椎のあたりの高さ(大槽)まで挿入して行います。投与後は、カテーテルを抜きます(図2)。
手術及び投与は手術室で行います。投与の際は局所麻酔をかけて行います。投与までの流れは、その時の状況に応じて多少変更する場合があります。
手術及び投与にかかる時間の目安は、麻酔を含めて1~2時間ほどです。また、GT0006Xの投与を行うのは治験期間を通して1回だけです。
なお、今回治験で使用するカテーテルは国に承認されている医療器具ではなく、このGT0006Xや類似の治療用ベクターを投与するために開発された器具で、人に対して使用されたことはありません。このカテーテルときわめて似ている別の医療器具(他のお薬を腰椎から刺して脊髄に投与するためのカテーテル)があり既に国から承認されていますが、その医療器具は体内に留置(埋め込み)をして脊髄に継続的にお薬を投与することを前提に設計されているという違いがあります。今回使用するカテーテルは、GT0006Xのような治療用ベクターを投与する目的で開発されました。GT0006Xの投与量は、どれくらいの量を投与すると安全で効果があるのかを調べる目的で、2段階に設定されています。まず、この治験に参加いただいた最初の3名の患者さんでは、第1段階として少ない量(2 × 1012 vg/kg)を投与します。そして、その後に治験に参加いただいた別の3名の患者さんでは、第2段階として多い量(6 × 1012 vg/kg)を投与します。なお、多い量の投与に際しては、髄液の量が急に増えることのないように、GT0006Xを注入する前に3~20 mL程度の髄液を採取します。
投与にあたっては安全を期して、最初の患者さんにGT0006Xを投与してから少なくともおおよそ1ヵ月が経過するまでは、次の患者さんへGT0006Xを投与することはありません。GT0006Xの投与後1ヵ月間の患者さんのデータ(検査結果等)から、患者さんの経過に問題が無かったか、重大な副作用が発生しなかったかといったような安全性を治験担当医師が検討し、問題が無いと判断された場合にのみ、2番目以降の患者さんへの投与を行います。
また、この治験が第2段階の多い投与量に進む前には、第1段階の少ない量を投与した3名の患者さんのデータを独立安全性評価委員会と呼ばれる第三者委員会が総合的に検討し、第2段階の投与量を投与しても問題が無さそうかについて審査を行います。問題が無いと判断された場合にのみ、この治験は第2段階の投与量に進むことができます。
この独立安全性評価委員会は、この治験とは関わりのない専門家や医師で構成されているので、公正な立場で審査を行います。