抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬

序文 抗悪性腫瘍薬による薬物有害反応(adverse drug reactions: ADR)は医原性損傷でよくみられるものであり、肺が標的となることが多い[1-3]。一部の抗悪性腫瘍薬に起因する副作用(特に累積投与量に関連するもの)は予防できる可能性があるが、多くは特異体質性があり、予測できない。

癌治療は、分子標的治療と呼ばれる手法である、個々の腫瘍の分子的特徴に基づいて選択されることが増えてきている。例えば、ヒト上皮増殖因子2(HER2)を過剰発現する乳癌に対するモノクローナル抗体トラスツズマブ;KIT受容体チロシンキナーゼに変異を有する胃腸間質腫瘍(GIST)に対するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるイマチニブ、ならびに慢性骨髄性白血病(標的はBcr-Abl融合タンパク質);およびKras癌遺伝子に変異を欠く転移性結腸直腸腫瘍に対するセツキシマブなどの抗上皮増殖因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体の使用が挙げられる。これらの薬物の多くは肺毒性と関連している。

本項では、癌治療に用いられる分子標的治療薬で認められる肺毒性の発現率及び特異的パターンの概要を示す。抗悪性腫瘍薬の使用に関連する肺毒性の臨床像、病因、診断、鑑別診断、及び治療に関する一般的な考察は、従来の細胞傷害性化学療法薬に関連する肺毒性と同様に、別々に扱われる。(全身抗悪性腫瘍療法に伴う肺毒性: 臨床像、診断、及び治療、並びに抗悪性腫瘍療法に伴う肺毒性: 細胞傷害性薬剤を参照)。

低分子キナーゼ阻害剤

抗EGFR剤-ゲフィチニブ(Iressa)、エルロチニブ(Tarceva)、アファチニブ(Gilotrif)、オシメルチニブ(Tagrisso)、及びダコミチニブ(Vizimpro)は、上皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ(epidermal growth factor receptor: EGFR)チロシンキナーゼの経口活性を有する低分子阻害剤である。これらは主に進行非小細胞肺癌(advanced non-small cell lung cancer: NSCLC)の治療に用いられる。

ゲフィチニブ又はエルロチニブの投与を受けた患者の約1%及びオシメルチニブの投与を受けた患者の3%に肺毒性が発現し、通常は治療開始から2~3ヵ月以内に発現する。このリスクは、肺疾患の既往がある患者さんと喫煙者ではさらに高くなります。ゲフィチニブの投与中に間質性肺疾患(interstitial lung disease: ILD)を発現した患者の約3分の1は、この合併症で死亡する。オシメルチニブの投与を受けた患者の死亡率は低いと考えられる。813名のレビューの1件で、27名にILD/肺臓炎、及び4名(全体の15%)に死亡が認められた[4]。エルロチニブの投与中にILDを発現した患者の死亡率は、その特徴が十分に明らかにされていないが、入手可能な情報によればゲフィチニブとほぼ同様であると考えられる。

これらの薬剤の肺毒性の根底にある機序は不明である。EGFRはII型肺細胞で発現し、肺胞壁の修復に関与する。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR tyrosine kinase inhibitor: TKI)は、肺胞の修復機序を遮断することにより、敗血症、放射線療法、肺損傷の既往歴、及び他の薬剤など、他の原因による肺損傷の影響を増強する可能性がある[5-9]。

治療は主として支持療法であり、臨床的に必要に応じて直ちに薬物を中止、酸素補給、経験的抗生物質、及び機械的人工換気を実施する(「全身性抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 臨床像、診断、及び治療」の項を参照)。グルココルチコイドの全身投与が通常推奨されるが、これらの投与を支持するエビデンスの大部分は逸話的であり、高用量のグルココルチコイドの経験的投与にもかかわらず死亡が依然として認められる。

ゲフィチニブ-ゲフィチニブに関連するILDは全体的にまれである。理由は不明であるが、発現率は地域によって異なり、発現率はアジア人(2~6%)が白人(0.2~0.3%)と比較して高く[5,6,10-14]、アフリカ系米国人(15)では低い。31~45%に肺毒性が発現し、死亡に至る[5,10,16]。

ゲフィチニブ関連ILDのリスク因子には、高齢、全身状態不良、喫煙、非小細胞肺癌の最近の診断、CT上で広範な浸潤を認める慢性ILDの既往、及び心疾患の併発などがある[5]。また、線維化した肺疾患の既往歴又は胸部照射の併発も増悪因子となる可能性がある[5,6,10,17-20]。

NSCLCに対するゲフィチニブに起因するILD408例の市販後解析では、最もよく認められた症状は、咳嗽又は微熱の有無にかかわらず、急性呼吸困難であった[10]。症状は短時間で重症化することが多く、入院が必要となった。症状発現までの時間の中央値は日本人で24~31日、米国人で42日であった。3分の1は死亡に至った。

CTスキャンでは、主に4つのパターンが認められた。すなわち、非特異的スリガラス陰影(29名)、多巣性の気腔硬化(7名)、中隔肥厚を伴う斑状のスリガラス様浸潤(3名)、及び牽引性気管支拡張症を伴う広範なスリガラス状浸潤又は気腔硬化(20名)である(11名)。また、患者は非特異的なX線検査所見を示すことがある。びまん性肺胞損傷を反映すると考えられる所見であるスリガラス様浸潤又は気腔硬化が広範囲に及ぶ患者では、死亡率が特に高かった(75%)[11]。

生検を実施した症例のうち、最もよく認められる組織学的パターンはびまん性肺胞損傷、線維化を伴う又は伴わない間質の炎症、及び器質化肺炎であり、肺胞出血も報告されている[12, 16, 17, 19]。

治療は主に支持的であり、直ちに永続的に薬物を中止する。さらに、グルココルチコイド治療の早期使用が有益であることを示唆する研究もある[21]。しかし、グルココルチコイド治療の有効性はレトロスペクティブシリーズでのみ検討されている[17,19]。より詳細な報告では、ゲフィチニブに関連したILD70例について、グルココルチコイドが66例に投与された。ILDの改善が認められた患者の割合は、抗生物質による治療を追加しても増加しなかった(抗生物質の投与を受けた患者及び受けなかった患者の割合は、それぞれ18%及び61%)[17]。

ゲフィチニブに関連したILDを発現した患者にエルロチニブを使用したところ、成功したと報告されている[22,23]。

エルロチニブ-エルロチニブによる肺毒性に関する情報は限られている。ILDはときに致死的となることがあり、エルロチニブの投与を受けた患者の約0.8%で最初に報告された[24-27]。9907名を対象とした国内市販後調査(POLARSTER)では、ILDの発現率は約4%(グレード3以上: 3%)であり、死亡率は30%であった[28]。進行非小細胞肺癌を対象としたエルロチニブのプラセボ対照無作為化試験では、咳嗽、呼吸困難、及びILDの発現率はエルロチニブ群と対照群で同様であった[26,29]。しかしながら、ILDはいくつかの理由で過小診断されている可能性がある。ILDは診断検査を必要とするが、抗悪性腫瘍療法中に呼吸器症状を発現した患者では実施されていない可能性がある。これはおそらく、ILDが進行非小細胞肺癌によると想定されるためである。さらに、進行癌、特に鱗状腺癌亜型(以前は気管支肺胞癌と呼ばれていた)と薬物誘発性ILDとを鑑別することは困難である。(「肺悪性腫瘍の病理」の項参照)。

細胞傷害性化学療法とエルロチニブの併用がILDのリスクを増大させるかどうかは、不明である[30-32]。

臨床症状は典型的には急性の呼吸困難であり、ときに咳嗽や微熱を伴うが、これらは短期間で重度となり、入院が必要となることが多い[33]。本報告書では、ILD発現までの時間の中央値は47日(範囲: 5日~9ヵ月超)であった。ゲフィチニブと同様に、既存の肺線維症がリスク因子となる可能性がある[30]。

エルロチニブの投与中にILDを発現した患者の真の死亡率は不明であるが、死亡が報告されている[31,33,34]。1件の報告では、非小細胞肺癌に対するエルロチニブ単独療法中に肺毒性を発現した患者4名中1名が死亡した[35]。

治療は主にエルロチニブの投与中止による支持療法である。グルココルチコイド療法により臨床症状が改善する場合もある[36]。しかし、死亡は依然として認められる[30,31,34]。

アファチニブ-アファチニブは、ErbB1(EGFR)、ErbB2(ヒト上皮増殖因子2[HER2])、およびErbB4を含む、ErbBファミリーの高度に選択的な不可逆的阻害剤である。非小細胞肺癌患者を対象とした2件の無作為化試験で、アファチニブ40mg/日が投与され、ILD発現率は以下のとおりであった[37,38]:

↓Lung LUX 3試験では、アファチニブの投与を受けた患者230名中3名にILD (1%)が発現し、この4名のうち2名は呼吸器代償不全により死亡した[37]。

↓肺LUX 6において、アファチニブの投与を受けた患者242名中1名でグレード4のILDが発現したが、抗生物質及びグルココルチコイドの投与後に回復した[37,38]。

オシメルチニブ-臨床試験を通じて、ILD/肺臓炎はオシメルチニブ治療を受けた患者の約2~3%に発現しており[4,39]、約15%(6名中1名)は死亡に至っている[4]。

米国サイメルチニブ処方情報では、ILDを示唆する呼吸器症状(例、呼吸困難、咳嗽、発熱)が悪化した場合には、本剤の投与を控えること、及びILDが確認された場合には本剤の投与を永続的に中止することを推奨している。EGFR発現患者253名を対象とした用量漸増試験では、肺臓炎に似た事象が6名発現したが、6名はいずれも治験薬の投与中止後に回復又は軽快した[39名]。

免疫チェックポイント阻害剤の投与後にオシメルチニブを投与すると、ILD/肺臓炎のリスクが増大する可能性がある:

● 抗プログラム細胞死1(PD-1)抗体(例、ニボルマブ、ペンブロリズマブ)の前後に異なる種類のEGFR TKIを投与された患者26人を対象としたレトロスペクティブ研究では、抗PD-1薬投与後にオシメルチニブ投与を受けた患者7人中3人がILDを発症したが(42.8%)、抗PD-1薬投与後に第一世代または第二世代薬を投与した患者、または抗PD-1抗体投与前にオシメルチニブを投与した患者ではILDのリスクは上昇しなかった[40]。ILDを発現した患者は、EGFR TKIによる治療中止後にグルココルチコイドの全身投与を受け、ILDは消散した。

↓抗PD-(L)1薬と抗EGFR TKIの治療を受けたEGFR変異を認める非小細胞肺癌患者126名を対象とした別のレトロスペクティブレビューでは、薬剤又は投与の順序にかかわらず、6名中15名(41名)に重篤な免疫関連有害事象(irAE)の増加が、抗PD-(L)1薬の投与後にオシメロチニブを投与した患者で認められ、6名中4名に肺臓炎が発現した[41]。IrAEは、オシメルチニブ開始後20日の中央値で発現した。興味深いことに、抗PD-(L)1剤を投与してから3ヵ月以内にオシメルチニブを開始した患者では、最後に抗PD-(L)1剤を投与してから3~12ヵ月を超えてオシメルチニブを開始する前に12ヵ月を超えて投与した患者と比較して、重度の虹彩有害事象が多くみられた。(「チェックポイント阻害剤による免疫療法に関連する毒性」の項参照)。

ラパチニブ-ゲフィチニブ、エルロチニブ、及びオシメルチニブとは対照的に、EGFR-I及びHER2(EGFR-2)のデュアル阻害剤であるラパチニブでは肺毒性は極めてまれであると考えられる。ラパチニブ及びカペシタビンの投与を受けた患者で、間質性肺臓炎が発現した報告は1名のみである[42]。

Dacomitinib-Dacomitinibは、EGFR/HER1、HER2、及びHER4のキナーゼ活性を不可逆的に阻害する薬剤であり、特定のEGFR変異を認める非小細胞肺癌の一次治療薬として承認されている。(「上皮細胞増殖因子受容体に活性化変異を認める進行非小細胞肺癌の全身療法」の項参照)。

全体として、ダコミチニブ投与患者394例中0.5%で致死的な可能性のあるILD/肺炎が報告され、0.3%が致死的であった[43]。1件の試験では、ILDのために1.8%[44名]が治験薬の投与を中止した。米国処方情報ダコミチニブでは、ILDを示唆する呼吸器症状の悪化を認める患者への投与を控えること、及びILDが確認された場合は治験薬の投与を中止することを推奨している。

Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤

イマチニブ-Bcr-Abl、KIT、及び血小板由来増殖因子受容体(platelet-derived growth factor receptor: PDGFR)チロシンキナーゼの経口活性阻害薬であるイマチニブは、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor: GIST)及びフィラデルフィア染色体陽性の慢性骨髄性白血病(Ph+CML)の有効な治療薬である。

イマチニブ治療中に報告された肺合併症のほとんどは、主な副作用である体液貯留と関連している[45-47]。しかしながら、末梢性および眼窩周囲の浮腫は、胸水または心膜液貯留、および肺水腫よりも、はるかに頻繁に体液貯留を発現する。

イマチニブでは、好酸球浸潤を伴う又は伴わない急性肺炎[48-50]、及び亜急性間質性肺臓炎[51,52]がまれに報告されている。100mg/日という低用量で肺毒性が報告されている[50]。

最大規模のシリーズは、日本でノバルティスに報告された27名のイマチニブ誘発性ILDである[53]。ILD発現までの期間の中央値は49日(範囲10~282日)であった。主な臨床症状は、低酸素症の有無にかかわらず、微熱、乾性咳嗽、及び進行性の労作時呼吸困難の亜急性発現であった[48,54,55]。本邦では27名中11名(41%)に肺疾患の既往が認められた[53]。

一般に、X線検査では両側のびまん性又は斑状のスリガラス陰影、硬化、及び/又は細結節性陰影が認められる[53]。気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)では、リンパ球、泡沫状マクロファージ、及び/又は好酸球増加症が認められる[52, 53, 55]。気管支生検では、肺胞蛋白症、間質の炎症と線維化、肺胞炎、又は組織化が認められることがある[50,53,55]。末梢性好酸球増加症がみられることがある[53]。

この症候群は薬物の投与を中止するだけで回復する可能性があるが[50,55]、大部分の症例は消散のためにグルココルチコイド療法を必要とする[48,51,54,56,57]。1名の死亡が報告されている[58]。

「再投与」-肺毒性を発現した患者に対しては、その事象の重症度及び他の治療法の有無に応じてイマチニブの投与を再開するか否かを個別に判断する必要がある。(「全身抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 臨床症状、診断、及び治療」の項参照)。

再投与によって必ずしも肺損傷の再発が促進されるわけではない[53,59]。以上の日本での集積により、11名のILD改善後にイマチニブが再投与された。4名に肺毒性が再発した[53]。しかし、他の治療選択肢がない限り、一般に再投与は推奨されない。

ダサチニブ-第2世代のBcr-Abl TKI(ダサチニブなど)は、Bcr-Abl、KIT、及びPDGFR、並びにSrcキナーゼを含む他のシグナル伝達経路を阻害する。これらのTKIはPh+CMLの治療にのみ用いられる。

ダサチニブは、Bcr-Abl TKIのうち、肺への副作用の発現率が最も高いと報告されている。ダサチニブの投与中に、胸膜、肺血管、及び肺実質の異常が別々に又は同時に発現することがある。

胸水-胸水は、イマチニブの投与を受けた患者と比較して、ダサチニブの投与を受けた患者で多くみられ、両側性又は片側性である。臨床試験でダサチニブの投与を受けた患者の10~35%に胸水が発現し、その大部分は滲出性でリンパ球優位であった[60~65]。(「慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害剤の臨床使用」、「肺の合併症」及び「慢性期の慢性骨髄性白血病の初期治療」、「肺の合併症」の項参照)。

Ph+CMLに対するダサチニブの投与を受けた高齢者172名の報告では、胸水の発現率は30%、再発率は15%、投与中止の必要が6%であった[62]。胸水発現までの平均期間は11ヵ月(範囲: 3.6~18.6ヵ月)であった。肺疾患の併発およびより高い初回1日用量(140mgと100mg)のみが、有意なリスク因子であった。また、低用量のダサチニブの投与を受けた患者を個別に解析した結果、原肺疾患はもはやリスク因子として特定されなかった。

DASISION試験では、胸水の発現はイマチニブと比較してダサチニブの投与を受けた患者で有意に多かった(28名対0.8%)[65]。胸水の発現率は、65歳以上の患者(25名中15名、60%)で65歳未満の患者(233名中38名、25%)と比較して高かった。胸水は、休薬(62%)、用量減量(41%)、利尿薬(47%)、グルココルチコイド(32%)、及び/又は胸腔穿刺(12%)により管理した。治療を中止せざるを得なかったのは15名(6%)のみであり、胸水に起因する死亡は認められなかった。

ダサチニブレジメンを1日2回70mgから1日100mgに変更すると、抗腫瘍効果に影響を及ぼすことなく、胸水のリスクを軽減することができる[66]。ダサチニブとの関連性がある胸水が発現した場合の至適治療法は不明である。ケースシリーズでは、グルココルチコイドの全身投与、利尿薬、胸腔穿刺、及びダサチニブの中断又は中止が行われている[60,62,67,68]。まれに胸膜癒着術が施行される[68]。上記の療法の併用も用いられている。

肺動脈性肺高血圧症-Ph+CMLに対するダサチニブの投与を受けた患者における可逆性肺動脈性肺高血圧症(reversible pulmonary arterial hypertension: PAH)の症例報告[65,69-73]French Pharmacovigilance Agencyからのデータは、ダサチニブの投与を受けた患者におけるPAHの発現率は低い(0.45%)ことを示唆しているが、これは不完全な症例所見であるため過小評価されている可能性がある[73]。(成人肺動脈性肺高血圧症の治療及び予後(グループ1)の項参照)

DASISION試験では、ダサチニブの投与を受けた患者の14名(5%)に心エコー検査でPAHが疑われ、このうち9名に胸水が発現した。心カテーテル検査を実施したのは1名のみであり、PAHの診断は確定しなかった[65]。

PAHの患者は、典型的には労作性呼吸困難、疲労、頻呼吸、及び末梢性浮腫を発現し、ダサチニブ治療の8~48ヵ月後に発現する[69-73]。右心カテーテル法による肺動脈圧(pulmonary artery pressure: PAP)は、53~66mmHg (収縮期圧)[69~72]、25~50mmHg (平均圧)[71, 73]である。少数の患者では臨床的及び血行動態的に完全に回復したが、大部分は3~36ヵ月(中央値9ヵ月)の追跡調査後に完全に回復しなかった[69~73]。1件のケースシリーズでは、エンドセリン受容体拮抗薬が2名の患者に、カルシウムチャネル遮断薬が1名目の患者に投与された[73名]。その後の改善がこれらの治療法、ダサチニブの投与中止、又はその両方と関連するかどうかは不明である。

PAHはポナチニブでも報告されているが、他のBcr-Abl TKIでは報告されていない[73,74]。(下記「ポナチニブ」参照)

肺臓炎-肺実質の変化は、ダサチニブ投与中に呼吸器症状を発現した患者でまれに認められる[75,76]。CML患者40名の臨床試験では、9名(23%)にダサチニブ投与29~500日後に肺の異常が発現した[75]。3名は胸水を伴わない実質性変化(スリガラス様陰影又は肺胞の陰影及び中隔肥厚)を有し、5名は胸水と実質性疾患の両方を有し、1名は両側性胸水のみを有した。5名の患者では、BAL液の分析でリンパ球増加症又は好中球増加症が認められた。気管支生検は1名の患者でのみ実施され、診断は確定できなかった。

8名はダサチニブの投与を継続し、残りの1名はグルココルチコイドの投与を受けたが、ダサチニブの投与を中断することはなかった。ダサチニブに関連した肺の異常は7名の患者で完全に回復し、2名では部分的に回復した。X線学的に実質変化が認められた7名のうち、6名はダサチニブの中断(5名)又はグルココルチコイドの追加(1名)により3ヵ月以内に完全消失し、残りの1名は中隔肥厚が持続した。死亡は認められなかった。

治験薬の投与再開-ダサチニブ誘発性のPAHを発現した患者には、治験薬の投与を再開しないこと。他の第二世代TKIであるニロチニブによる安全な治療が、ダサチニブに関連したPAHの8名の患者で報告されている[69,70,72,73]。さらに、診察時に重度のPAHを発現した1名に、ダサチニブの投与中止後に進行性の呼吸不全が発現したが、ニロチニブの投与中にニロチニブの寄与の有無は不明であった[73]。

ダサチニブによるPAHを発症した患者に対するイマチニブ治療は報告されていないが、ダサチニブに関連するPAHに先立つイマチニブ治療が記載されている。1件の報告では、1名の患者はPAH発症前に2年間イマチニブの投与を受け、その後2年半のダサチニブの投与を受けた。PAH発症はイマチニブによるものではなく、ダサチニブによるものと推測される[69]。PAHは、40種を超えるキナーゼとの相互作用に関連するダサチニブの「オフターゲット」副作用である可能性があると仮定されており、これらの副作用の多くは、より選択的なニロチニブ及びイマチニブの影響を受けない[69,77]。

PAH以外の肺毒性を発現した患者には、重症度及び他の治療法の有無に応じてダサチニブの投与を再開するか否かを個別に判断する必要がある。(「全身抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 臨床症状、診断、及び治療」の項参照)。

1つの選択肢は、低用量で再開することである。以上のシリーズでは、X線像上の変化が消失した後に低用量のダサチニブを再投与した患者で、両側胸水として発現し、実質性の要素を伴わない呼吸器症状が再発したのは4名中1名のみであった[75]。

ニロチニブ-ニロチニブはBcr-Abl、KIT、及びPDGFRを標的とするが、Srcキナーゼは標的としない。ニロチニブで胸水その他の肺毒性が発現することはまれである。1件の試験では、Ph+CMLに対するニロチニブの投与を受けた患者の1%未満に胸水が認められた[78,79]。

ボスチニブは、Bcr-Abl経路及びSrc経路を標的とするが、KIT経路又はPDGFR経路を標的としない第二世代の薬剤である。ニロチニブ及びダサチニブと同様に、成人Ph+CMLに対する適応でのみ承認される。主な肺毒性は胸水であり、118名を対象とした1試験では、9名(8%)に胸水が発現し、このうち7名はダサチニブなどのBcr-Abl TKIによる治療歴があった[80]。

ポナチニブ-ポナチニブは、CML患者の約15%に認められるBcr-Ablタンパク質のT315I耐性変異を特異的に標的とする多標的TKIである。ポナチニブの投与を受けた患者で、PAHの発現はまれである。1件の症例報告では、CMLに対するポナチニブの投与開始から6ヵ月後にPAHが発現し、シルデナフィル及びアンブリセンタンの投与中止後にPAPの顕著な改善が認められた[74]。本症例は、CMLの経過中に2年間にわたりダサチニブ(多くの報告でPAHに関連する)を投与されたが、ダサチニブの投与中止6ヵ月後までPAHの徴候は発現しなかったことから、複雑であった。(前述「ダサチニブ」参照)

ALK阻害剤-クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、及びロラチニブは、未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase: ALK)の経口活性阻害剤である。腫瘍に特徴的なEML4-ALK融合癌遺伝子が存在する場合、これらの薬剤はいずれも進行性又は転移性の非小細胞肺癌の治療薬として承認されている。(「未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase: ALK)融合癌遺伝子陽性の非小細胞肺癌」の項参照)。

類薬ではいずれもILD/肺臓炎の発現との関連性が認められている:

↓臨床試験において、クリゾチニブは1719名中50名(3%)の患者にILD、及び26名(1.5%)に重篤な、生命を脅かす、又は致命的な肺臓炎を引き起こし、これらの事象は一般に治療開始から3ヵ月以内に発現した[81]。クリゾチニブは、肝細胞増殖因子受容体型チロシンキナーゼであるMET (間葉上皮移行)も阻害するため、肺毒性の一因となる可能性がある。(下記「MET阻害剤」参照)

↓に、セリチニブの投与を受けた患者255名の分析では、肺臓炎が4%にみられ、重症(グレード3又は4)が3%にみられた。このうち1名は死亡した[82]。1日50~750mgの用量で治療を受けた患者130名を対象とした第I相試験では、4名にセリチニブ治療との関連性が疑われるILDが発現したが、いずれも治験薬の投与中止及び対症療法により回復した[83]。

↓臨床試験では、アレクチニブに曝露された患者253名中1名(0.4%)に重度(グレード3)のILDが発現した[84]。

↓臨床試験において、ロラチニブの投与を受けた患者の2%未満にILD/肺臓炎に一致する重篤又は生命を脅かす肺の副作用が発現している[85,86]。

↓臨床試験において、ILD/肺臓炎はブリガチニブの投与を受けた患者の4~9%に発現し、グレード3~4の反応は3.7%[87,88]に発現した。この急性肺毒性は、他のALK阻害剤で発現するものとはやや異なる。それは速やかに発現し(治療開始後1~9日、中央値2日[87日])、肺臓炎が消失するまでブリガチニブの投与を中止すると、約半数が治療を再開することができる[87]。米国ブリガチニブ処方情報では、ILDの発現率を低下させるため、ブリガチニブの低用量(例、90mgを1日1回)から開始し、忍容性があれば7日後に用量を漸増することを推奨している。ブリガチニブの投与が14日間以上中断された場合は、治療を再開し、忍容性が確認された用量まで用量を漸増する。

治療に関連するILD/肺臓炎が発現した場合は、ブリガチニブを除き、ALK阻害剤の投与を中止することが推奨される。

トラメチニブ- トラメチニブはマイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素MEK1及びMEK2の経口活性阻害薬であり、特定のBRAF遺伝子変異を有する転移性黒色腫の治療薬として承認されている。(「転移性メラノーマに対する分子標的治療」の項参照)。

本薬の臨床試験では、ILD 又は肺臓炎の発現率は約2%であり、中央値は160日[89]であった。米国添付文書では、治療に関連するILD又は肺臓炎の発現まで、咳嗽、呼吸困難、低酸素血症、胸水、又は胸部X線写真の陰影が新たに発現した患者に対して、本薬の投与を差し控えることを推奨している。回復性に関する情報は得られていない[89]。

BRAF阻害剤

ベムラフェニブ-ベムラフェニブは、進行メラノーマ及びエルドハイム・チェスター病の治療薬として承認されている経口活性BRAF阻害剤(V600E)である。(「Erdheim-Chester病」、「BRAF阻害作用」及び「転移性メラノーマに対する分子標的治療」の項参照)。

また、サルコイドーシス様肉芽腫性反応の2例を含むILDの症例も報告されている。これらのまれな報告[90,91]では、治験薬の投与を中止すると転帰は良好であった。

エンコラフェニブ + エンコラフェニブ – エンコラフェニブは、BRAF変異を認める切除不能又は転移性黒色腫患者に対する、経口活性MEK阻害剤であるビニメチニブとの併用使用が承認されている経口活性BRAF阻害剤(V600E又はV600K)である。(「転移性黒色腫に対する分子標的治療」の項参照)。

臨床試験では、encorafenib及びimetinibの投与を受けた患者2名(0.3%)にILD(肺臓炎など)が発現した[92名]。米国処方情報では、ILDの可能性がある場合及びその副作用の重症度に応じて治療の中断、用量の減量、又は永続的な中止等の新たな又は進行性の肺症状の評価を推奨している。

さらに、encorafenib及びimetinibの投与中に6%の患者に静脈血栓塞栓症が発現し、そのうち3.1%は肺塞栓症であった。米国処方情報では、副作用の重症度に応じて、薬剤の投与を控える、用量を減量する、又は永続的に薬剤の投与を中止することを推奨している。

Idelalisib、copanlisib、duvelisib、及びalpelisib

● イデラリシブ-イデラリシブはホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)デルタの経口阻害薬であり、再発慢性リンパ性白血病、濾胞性リンパ腫、および小リンパ球性リンパ腫の治療薬として承認されている。

(「再発又は不応となった慢性リンパ性白血病」の項参照)、イデラリシブの投与を受けた患者で死亡又は重篤な肺臓炎が発現している[93]。不応性濾胞性リンパ腫患者を対象としたイデラリシブ単剤療法の第II相試験では、肺炎(感染性及び非感染性の原因を含む)の重症度にかかわらず、11~19%に発現し、7~17%は重症(グレード3以上)であった[94,95]。

新しい咳嗽、呼吸困難、低酸素症、間質性陰影、又は治療中に5%以上のパルス酸素飽和度低下が認められた患者には、薬剤の投与を中断し、肺臓炎の有無を評価すべきである[93]。イデラリシブに関連すると考えられる肺臓炎患者には、薬剤の投与中止及びグルココルチコイドの投与が行われている。

↓Copanlisib-Copanlisibは、悪性B細胞で発現するα及びデルタアイソフォームに対する阻害活性を有する静脈内PI3K阻害剤であり、不応性濾胞性リンパ腫に対して米国で承認されている。イデラリシブと同様に、致命的かつ重篤な肺臓炎が発現している。米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)により承認された米国処方情報によれば、コパンリシブ投与を受けた成人168名中23名(14%)に重篤な(グレード3又は4)下気道感染(ニューモシスチス・イロベチイ肺炎[Pneumocystis jirovecii pneumonia: PJP]を含む)が発現した。5%に重篤な非感染性肺臓炎が報告された。

本製造業者は、咳嗽、呼吸困難、低酸素症、又は間質性陰影などの呼吸器症状を発現した患者には、リスクのある患者に対して対処療法を開始する前に本剤の投与を中止するようPJPの予防投与を勧告する。P-JP感染が確認された場合は、回復するまで治療を行い、P-JPの予防投与を併用してコパンリシブを再開する。感染性の原因が特定されない場合、コパンリシブが原因と考えられる非感染性肺臓炎の患者は、薬物の投与を控え、グルココルチコイドの全身投与を受けることにより管理されている。製造業者は、グレード3または4の肺臓炎の場合はコパンリシブの投与を永続的に中止するが、グレード2の肺臓炎が回復した場合は、より低用量で再導入する可能性があると助言する。

↓Duvelisib-Duvelisibは、慢性リンパ性白血病及び濾胞性リンパ腫の治療薬として承認されている、PI3Kデルタ及びγの経口デュアル阻害剤である。(「再発又は不応となった濾胞性リンパ腫の治療」及び「再発又は不応となった慢性リンパ性白血病の治療」の項参照)。

明らかな感染性の原因がなく、ときに致命的となる重篤な肺臓炎が、duvelisibの投与を受けた患者の5%で報告されている[96]。発現までの期間の中央値は4ヵ月であった。United States Prescribing Information for duvelisibは、duvelisibによる治療中のPJP肺炎の予防投与を推奨している。新たな、あるいは進行性の肺の徴候や症状(例、咳嗽、呼吸困難、新たなX線上の陰影、又は酸素飽和度の5%を超える低下)が発現した患者は、病因の評価を待たずに治験薬の投与を中止すべきである。中等度(グレード2(表1)の非感染性肺臓炎は、グルココルチコイドの全身投与による治療が推奨され、消散後に減量しながら治療を再開するが、重度の場合は治療を中止する必要がある。

↓Alpelisib-Alpelisibは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、PIK3CA変異を認める進行性、又は転移性乳癌に対する内分泌療法との併用で承認されている、PI3Kαの経口活性阻害剤である。米国添付文書によれば、ILDを含む重篤な肺臓炎がalpelisibの投与を受けた患者で報告されている。臨床試験では、alpelisib投与患者284名の1.8%に肺臓炎が発現した[92,97]。呼吸器症状が新たに発現又は悪化した場合、又は肺臓炎の疑いがある場合、米国添付文書では、患者の評価のために直ちに治療を中止することが推奨されている。肺臓炎であることが確認された場合は、投与を中止すること[92,97]。

PDGFR-α阻害剤-アバプリチニブは、PDGFR-αエクソン18(D842V)変異を認める切除不能又は転移性GIST患者に対する承認を受けた、血小板由来増殖因子受容体α(platelet-derived growth factor receptor alpha: PDGFRa)を標的としたTKIである。(「高度消化管ストロマチに対するチロシンキナーゼ阻害療法」の項参照、「PDGFRA D842Vの遺伝子治療薬のアバプリチニブ」の項参照)。

第I相試験では、呼吸困難が17%に、胸水が12%に発現した(グレード3以上が2%)。United the United States Prescribing Informationによれば、肺毒性を含むグレード3又は4の毒性が発現した場合は、グレード2以下に回復するまで投与を継続することとされている。本剤の投与は、臨床判断により同一用量又は減量して再開することが可能である。

FLT3阻害剤

↓ミドスタウリン-ミドスタウリンは、fms関連チロシンキナーゼ(fms-related tyrosine kinase: FLT3)遺伝子の経口活性阻害薬であり、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)及びFLT3遺伝子変異を有する患者への適用が承認されている。第III相臨床試験では、midostaurin+化学療法を受けた28名(8%)にグレード3~5の肺臓炎又はX線上の肺陰影が発現した[98]。

米国処方情報では、ILDと肺臓炎の両方の症例が報告されており、一部は死亡に至ったと報告されており、感染性の原因がなくILD又は肺臓炎の徴候又は症状を発現した患者に対しては、ミドサウリンの投与を中止することが推奨されている。

↓ Gilteritinib – Gilteritinibは、FLT3の2番目の経口活性阻害薬であり、AML及びFLT3変異を認める患者への使用が承認されている。米国処方情報では、ギルテリチニブ治療を受けた患者の35%に呼吸困難、28%に咳嗽が認められている。患者の12%にグレード3以上の呼吸困難が発現した。グレード3以上の毒性が発現した場合には、治験薬の投与を中断し、用量を減量することが推奨される。

MET阻害剤-MET(間葉上皮細胞移行)は肝細胞増殖因子受容体型チロシンキナーゼである。MET阻害剤であるcapmatinibは、METエクソン14のスキッピングをもたらす特異的なMET遺伝子変異を認める進行非小細胞肺癌の治療薬として承認されている。

(「進行非小細胞肺癌に対する遺伝子型を標的とした個別化治療」の項参照)、間質性肺疾患(interstitial lung disease: ILD)/肺臓炎は、本剤を投与したGEOMETRY単独1試験[99,100]で4.5%に発現し、患者の1.8%にグレード3の毒性が発現し、1名が死亡した。発現までの期間の中央値は1.4ヵ月であった。その他の肺毒性は、ゲオメトリーモノ-1試験[99,100]でカマチニブの投与を受けた患者でよく認められた。グレード3の胸水がカプマチニブの投与を受けた患者の4%に発現した。さらに、患者の24%に呼吸困難が発現し、7%にグレード3又は4の呼吸困難が発現した。

いずれの患者も、肺症状の悪化を新たに発見された場合にはモニタリングを実施し、ILD/肺臓炎の他の原因が発見されない場合には、本剤の投与を永続的に中止すべきである。

他のMET阻害剤であるクリゾチニブとの関連性を上記で考察した。

RET阻害剤-トランスフェクション(transfection: RET)中に再編成された遺伝子と種々の融合パートナーとの間の再配列が、NSCLCの1~2%で確認されており、これらは特異的RET阻害剤の標的となり得る。(「進行非小細胞肺癌に対する遺伝子型を標的とした個別化治療」の項参照)。

そのような薬剤の1つであるプラルセチニブは、転移性RET融合陽性の非小細胞肺癌の治療薬として米国で承認されている経口キナーゼ阻害薬であり、生命を脅かす重篤なILD/肺臓炎との関連性が認められている。複数の臨床試験で、肺臓炎が投与患者の約10%に発現しており、このうち2.7%はグレード3~4、0.5%はグレード5(致命的)の反応を示した[101]。米国処方情報では、グレード1又は2のILD/肺臓炎が回復するまで、及びILD/肺臓炎の再発又はグレード3/4の毒性が発現した場合には、治療を中止するよう勧告している。

興味深いことに、肺臓炎は2回目の経口RET阻害剤であるselpertatinibでは発現率が低かった(2%以下)[102]。

TRK/ROS1阻害剤‐神経栄養性チロシン受容体キナーゼ(NTRK)遺伝子、NTRK1、NTRK2、およびNTRK3は、膜貫通トロポミオシン関連チロシンキナーゼ(TRK)をコードする[103,104]。これらのRK遺伝子の1つを含む融合遺伝子は、癌で最初に報告された遺伝子転座の1つである。TRK融合陽性腫瘍は全体的にみてまれであるが、様々な悪性腫瘍で認められる。TRK特異的阻害剤が利用可能であり、TRK融合を有するあらゆる組織型の進行腫瘍に対して承認されている。

Entrecinibはc-ROS癌遺伝子1(ROS1)の阻害薬でもあり、ROS1遺伝子再構成を認める非小細胞肺癌患者に対する治療薬として承認されている。(「進行非小細胞肺癌に対する個人化遺伝子型指向療法」の「ROS1再構成」の項参照)。

これらの薬物では、肺合併症がよくみられるが、通常は軽度である:

↓Entrectinib-Entrectinib-TRK融合陽性又はROS1再構成を認める非小細胞肺癌患者を対象とした4件の試験を併合した解析では、呼吸困難が31%の患者に発現し、胸水が10%に発現し、呼吸不全が2%の患者に発現した[105]。

↓ラロトレチニブ-ラロトレクチニブを投与されたTRK融合遺伝子陽性腫瘍の患者を対象とした3件の第I/II相試験を統合した解析では、呼吸困難が患者の18%に発現し、咳嗽が患者の26%に発現した。これらの副作用は主にグレード1又は2であった[106,107]。

VEGF標的薬剤 血液供給の開発は、腫瘍増殖のための必要条件である。血管新生を制御する主な因子は血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)である。種々の方法によるVEGFの阻害は、顕著な抗腫瘍応答を生じる。(「血管新生阻害剤の概要」の項参照)

VEGF経路の阻害には、3つの異なるアプローチがある。VEGF受容体の細胞内ドメインを阻害するための低分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI、スニチニブ、ソラフェニブ、パゾパニブなど)の使用、VEGF受容体の細胞内ドメインの結合を阻害するモノクローナル抗体、VEGF受容体(VEGFR)の活性化を阻害するベバシズマブなどのモノクローナル抗体、並びにVEGFRの結合及びVEGFR1への胎盤増殖因子(placenta growth factor: PlGF)の結合を阻害するヒトIgG1のFc部分に結合した複数のVEGFRの結合ドメインからなる融合分子アフリベルセプトの使用、である。

ベバシズマブ-ベバシズマブの使用に関連するいくつかの合併症があり、そのうちの3つ(出血、気管食道(tracheoesophageal: TE)瘻孔、及び血栓塞栓性疾患)は肺に影響を及ぼす可能性がある。ベバシズマブは明らかに動脈血栓症のリスクを増大させるが、静脈血栓塞栓症のリスクも増大させるかどうかは不明である。これらのテーマについては、他項で詳述する。「分子標的治療薬の毒性: 心血管系以外の作用」、「肺出血及び空洞化」及び「分子標的治療薬の毒性: 心血管系以外の作用」の項参照、「気管食道瘻及び「分子標的治療薬の毒性: 心血管系作用」の項参照。

腫瘍の空洞化(扁平上皮がんでよりよくみられる)の存在が出血のリスク増大を意味するかどうかは不明である。

非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer: NSCLC)に対するスニチニブ及びソラフェニブの使用で、スニチニブ及びソラフェニブ(sorafenib)に伴う腫瘍空洞化及び出血性合併症がまれに認められている。しかし、他の悪性腫瘍に対していずれかの薬剤の投与を受けた患者における肺出血は報告されておらず、肺癌の治療薬として承認されていない。

スニチニブで、呼吸困難及び咳嗽が報告されている。消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor: GIST)又は進行性腎細胞癌の治療薬として承認された薬剤のレビューでは、重症(グレード3又は4)の呼吸困難が19%、咳嗽が13%[108]にみられた。スニチニブによる肺臓炎の報告はない。一方で、製造販売後に肺塞栓症が発現し、死亡に至った症例も報告されている[109]。

ソラフェニブの投与を受けた患者で、呼吸困難、咳嗽、及び発熱を伴う肺毒性がまれに報告されている。進行腎細胞癌又は切除不能肝細胞癌に対するソラフェニブの投与を受けた患者を対象とした市販後調査では、肺毒性は極めてまれであった(0.44%)[110]。しかし、これらの事象のうち、約50%に胸部画像診断でびまん性肺陰影が認められ、死亡率は41%(62名中25名)であった。このため、ソラフェニブの投与を受けている患者で肺毒性が疑われる場合は、早期に薬剤を中止することが最も賢明なアプローチである。

Pazopanib-Pazopanibは、VEGF受容体1、2、及び3、血小板由来増殖因子受容体、並びに腎細胞癌及び軟部組織肉腫の治療薬として承認されているKITを標的とした多標的TKIである。パゾパニブの投与を受けた患者で、気胸が報告されている:

↓局所進行性又は転移性の非脂肪肉腫患者を対象としたパゾパニブの有効性を評価した第III相試験(PaLETE試験)では、246名中8名(3%)に気胸が発現した[111]。

↓単一施設試験において、パゾパニブの投与を受けた43名中6名(14%)に気胸が発現した[112名]。いずれも胸膜または胸膜下に肺転移を認めたことから、この機序は肺胞-胸膜瘻孔に至る腫瘍壊死に起因するものと考えられた。

肺転移を認める悪性軟部腫瘍患者[111,112名]には、パゾパニブの投与を考慮する前に注意すること。

その他のモノクローナル抗体

EGFRを標的とする薬剤-セツキシマブ(erbitux)及びパニツムマブ(panitumumab: Vectibix)は、上皮細胞増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)を直接標的とするモノクローナル抗体であり、いずれも進行大腸癌の治療に用いられ、セツキシマブは頭頸部癌にも有効である。

重度の急性注入に伴う反応(気管支痙攣など)が、セツキシマブの投与を受けた患者の2.5%~20%以上で地域によって報告されている。パニツムマブでは、注入に伴う反応の発現率がはるかに低い(全体の4%、重症度1%)。本項では、他項で詳述する。(「癌治療に用いられるモノクローナル抗体の注入に伴う反応」の項、「パニツムマブ」及び「癌治療に用いられるモノクローナル抗体の注入に伴う反応」の項参照)。

ゲフィチニブ及びエルロチニブは、抗EGFR低分子チロシンキナーゼ阻害剤(anti-EGFR small molecule tyrosine kinase inhibitor: TKI)とは対照的に、セツキシマブでは肺実質毒性はまれであると考えられる[113-115]。進行大腸癌患者2006名のシリーズでは、セツキシマブに関連した肺損傷が24名(1.2%)に発現し、重症は15名[115名]のみであった。14名の患者はパルスグルココルチコイド療法を受け、10名の患者は薬剤性肺障害で死亡した。このうち8名はグルココルチコイドの投与を受けていた。セツキシマブ起因性肺損傷の発現率は、高齢患者、間質性疾患の既往歴のある患者、又は肺損傷の早期発現(投与開始から90日以内)のある患者で高かった。

当初の報告では、パニツムマブによる肺毒性はまれであることが示唆された。臨床試験に組み入れられた1467名中2名(1%未満)に肺線維症が発現した[116]。しかし、市販後調査において、致命的な間質性肺疾患及び肺線維症の発現件数の増加が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)に報告されたことから、2011年12月にこの問題について警告が出された。パニツムマブに関連する肺疾患が一部の患者で致死的となっているため、間質性肺疾患が発現した場合は、パニツムマブの投与を中止するのが典型的である。

(上記「抗EGFR剤」の項参照)、Moxetumab-Moxemumab pasudotoxは、不応性毛様細胞白血病の治療薬として承認されているCD22指向性細胞毒素である。(「有毛細胞白血病の治療」の項、「抗CD22抗体(moxetumab pasudotox)」の項参照)。

注入に伴う反応(主に悪寒、咳嗽、めまい、呼吸困難、熱感、潮紅、頭痛、高血圧、低血圧、筋肉痛、悪心、発熱、頻脈、嘔吐、又は喘鳴と定義される)は、各点滴静注前にH1受容体拮抗薬(H1 antihistamine: H2-receptor blocker: H2-receptor blocker)、アセトアミノフェン、及び経口コルチコステロイドの前投与を実施していたにもかかわらず、治療した全患者の半数で報告されている。(「癌治療に用いられるモノクローナル抗体の注入に伴う反応」の項参照)

さらに、低アルブミン血症、低血圧、体液過剰の症状、および血液濃縮を特徴とする毛細血管漏出症候群(CLS)が、併用安全性データベース解析で治療を受けた患者129例中44例(34%)で報告され、5例で重度(グレード3または4(表2))であった[117]。大部分の事象は治療cycleの最初の8日間で発現し、回復までの時間の中央値は12日であった。

米国添付文書では、患者の体重及び血圧、並びにアルブミン、ヘマトクリット、白血球数、及び血小板数などの臨床検査パラメータのモニタリングを事前に実施することを推奨している。CLSが疑われる場合は、パルス酸素飽和度を評価し、CLS患者には臨床的に必要な場合には直ちにグルココルチコイドの経口又は静脈内投与及び入院による治療を施すべきである。グレード2のCLSでは、回復するまで治験薬の投与を中止し、グレード3のCLSの場合は治験薬の投与を中止する。

リツキシマブ-リツキシマブは、マウス及びヒトの成分の両方を含む、B細胞を枯渇させる抗CD20モノクローナル抗体である。主にCD20陽性の非ホジキンリンパ腫の治療に用いられているが、リウマチおよび固形臓器移植の適応では、この薬剤に曝露される患者の数が増加している。

リツキシマブの最も予測可能な副作用の1つは、初回投与から30~120分以内に50%を超える患者に発現する注入に伴う反応である。主な症状と徴候は、頭痛、発熱、悪寒、発汗、皮膚発疹、呼吸困難、軽度の低血圧、悪心、鼻炎、蕁麻疹、そう痒症、無力症、並びに舌及び咽喉の腫脹(血管浮腫)の感覚であり、気管支痙攣が発現するのは症例の10%未満である。注入に伴う反応は、その後の注入に伴う反応として顕著に少ない。

(「癌治療に用いられるモノクローナル抗体の注入に伴う反応」の項参照)、肺実質毒性はまれである[118-120]。リンパ腫に対するリツキシマブの投与を受けた患者での発現率については、以下の報告で取り上げている:

↓107名の患者を対象としたシリーズでは、非ホジキンリンパ腫に対するリツキシマブを含む化学療法中に9名(8%)に間質性肺炎(interstitial pneumonia: ILD)が発現した[119名]。来院前のリツキシマブ治療cycle数の中央値は2回であった。臨床症状は、呼吸困難又は乾性咳嗽を伴う又は伴わない高熱であった。治療は、非定型病原体に対してゆっくりと漸減し、経験的に抗生物質を投与する高用量のグルココルチコイドで構成された。8名はグルココルチコイドに反応し、1名は二次感染で死亡した。4名中2名は治験薬の投与を再開した結果、間質性肺臓炎が再発したが、一般に推奨されない。

↓1件のランダム化試験で、ILDはリツキシマブ+CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン+プレドニゾン)で治療された患者で、CHOP単独の患者と比較してより高い割合で報告された(14名対0%)[120名]。しかし、これらの症例の一部はPneumocystis jirovecii又は真菌感染による日和見感染であった。

本剤の投与を中止し、速やかにグルココルチコイドを投与開始することにより、典型的に肺の症状が消失するが、死亡例も報告されている。公表されている文献をシステマティックにレビューしたところ、リツキシマブに関連した肺障害を発現した患者31名中9名(29%)が死亡した[121]。

特に、リツキシマブに関連するILD患者に対してグルココルチコイド療法が検討されている場合には、しばしばBALを含む適切な培養物を用いて感染性の原因を除外することが必須である。診断手順と培養を実施しながら、病原体に対する経験的抗菌療法がしばしば適応となる。

Tafasitamab – Tafasitamabは、移植適応のない再発又は不応のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療薬として、レナリドミドとの併用で承認されているCD19を標的とした細胞溶解性抗体である。(「再発又は不応となったびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療」の項参照)。

併用療法の試験では、咳嗽の頻度は高かったが、典型的には軽度(26%、1.2%でグレード3または4)であり、呼吸困難(12%は全グレード、1.2%は重度)であった[122]。治療期間中に発現した気道感染、気管支炎、及び肺炎は、それぞれ24%、16%、及び10%であったが、重症度は5%未満であった。特に、この治療に関連する毒性の一部は、肺臓炎との関連性が約15%に認められるレナリドミドに起因すると考えられる。

(「抗腫瘍療法に伴う肺毒性:細胞毒性薬」の項を参照)トラスツズマブ-トラスツズマブ(ハーセプチン)は、乳癌細胞表面のヒト上皮増殖因子2(HER2)タンパク質の特異的エピトープに結合するヒト化モノクローナル抗体である。トラスツズマブの初回投与期間中に、20~40%の女性に注入に伴う反応が発現し、呼吸困難、発熱、悪寒、悪心、頭痛、及び腹痛などの症状が発現する。ほとんどの反応は軽度である。アナフィラキシーを特徴とする重篤な注入に伴う反応(気管支痙攣、低血圧、血管浮腫)を発現するのは患者の約0.3%にすぎない。(癌治療に用いられるモノクローナル抗体の注入に伴う反応」の「トラスツズマブ及びその他のHER2を標的とした治療薬」の項参照)。

トラスツズマブの投与を受けた患者で、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)、亜急性間質性肺炎、及び器質化肺炎の孤発例が報告されている(発現率1%未満)[123-127]。まれに、トラスツズマブによる肺毒性が致死的となることがある[125~127]。治療中に肺炎又はARDSを発現した患者は、いずれもトラスツズマブの投与を中止することが望ましい。グルココルチコイドによる治療後の改善が報告されているが、トラスツズマブによる肺毒性におけるグルココルチコイド療法の役割は、正式には検討されていない[123,124,126,128]。

トラスツズマブは、肺に転移が認められる患者又は肺に広範囲に及ぶ患者には慎重に投与する必要がある[127]。

アド-トラスツズマブ エムタンシン-アド-トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)は、トラスツズマブと細胞傷害性微小管阻害剤であるDM1を結合させた抗体薬物複合体である。トラスツズマブは、過去にトラスツズマブ及びタキサンに曝露されたことのある進行乳癌患者に対する適応で承認されている。(「HER2陽性の転移性乳癌に対する全身療法」の項参照)。

T-DM1で急性肺臓炎(重症例、生命を脅かす症例を含む)が報告されることはまれである。臨床試験では、全体的に発現率は低い(0.8~1.2%)[129]。臨床症状、徴候は、呼吸困難、咳嗽、疲労、及び肺の陰影であった。進行性の悪性腫瘍又は他の併存疾患のために、呼吸困難が既存する患者は、リスクが増大する可能性がある。グルココルチコイドの有無にかかわらず、回復性に関する情報は得られていない。T-DM1の投与は、肺毒性を発現した患者には投与を中止すべきである[130]。

Fam-trastuzumab deruxtecan-Fam-trastuzumab deruxtecanは、トラスツズマブが細胞傷害性トポイソメラーゼ1阻害剤に結合する第二の抗体薬物複合体である。トラスツズマブは、過去にトラスツズマブ及びタキサンに曝露されたことのある進行乳癌患者に対する適応で承認されている。(「HER2陽性の転移性乳癌に対する全身療法」の項参照)。

9~14%に肺臓炎などの重篤で、ときに致命的なILDが発現し、本剤の投与を受けた患者の2.2~2.6%に死亡に至ったと報告されている[131,132]。米国添付文書では、ILDの徴候及び症状を注意深くモニタリングし、呼吸器系愁訴の初期のX線検査による評価、グルココルチコイドの早期投与開始、及びグレード2以上のILDに対する薬剤の永続的投与中止を実施することが重要である(表1)。

KECKINT Inhibitor RScheckpoint阻害剤は、免疫系を増強する免疫調節抗体である。主な標的は、プログラム細胞死1(PD-1)受容体(例、ペンブロリズマブ、ニボルマブ)、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1;例、アテゾリズマブ)、および細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4;例、イピリムマブ)である。これらの薬剤は、疾患状態の中でもとりわけ、進行性黒色腫及び進行性非小細胞肺癌に対して承認されている。これらの薬剤で肺毒性のスペクトラムが報告されており、症状、重症度の分類、推奨される診断的精密検査、及び管理については別途考察する(表3)。

(「免疫チェックポイント阻害を伴う進行性黒色腫の免疫療法」および「ドライバー変異を欠く進行性非小細胞肺癌の管理:免疫療法」および「チェックポイント阻害性免疫療法に伴う毒性」の項を参照) CDK 4/6 INHIBITORSサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬であるパルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブは、進行性ホルモン受容体陽性ヒト上皮成長因子2(HER2)陰性乳癌に対する第一選択療法として内分泌療法と併用される。(「転移性ホルモン受容体陽性、HER2陰性乳癌に対する治療アプローチ: 内分泌療法及び分子標的治療薬」の「フルベストラント+CDK 4/6阻害剤」の項参照)。

市販後調査では、これら3剤の投与を受けた患者で、重篤な肺の炎症を発現する可能性がわずかにあることが確認されている[133]。特定のリスク因子は特定されていない。米国処方情報では、3剤ともに、低酸素症、咳嗽、呼吸困難、又はその他の原因不明の間質性陰影などの肺の徴候又は症状を定期的にモニタリングし、新たな症状/徴候が発現した場合又は悪化した場合には、治療を中断し、可能であれば中止することを推奨している。グレード2のILD/肺臓炎が持続又は再発した患者(表1)には、治験薬の投与を中断又は減量することが推奨される。グレード3又は4のILD/肺臓炎のある患者では、いずれも治験薬の投与を中止すること。

パラマイシン及びアナリシス肺臓炎は、mTOR阻害剤(以前は哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の副作用として知られている。固形癌患者(2233名)を対象としたテムシロリムス及びエベロリムスのメタアナリシスでは、肺毒性の発現率はそれぞれ3%及び12%であった(134,135名)。臨床像は、無症候性のX線像上の異常から重大な呼吸器障害まで様々であり、大部分の症例は治験薬の投与を中止することにより回復する。(「哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤の薬理作用」の項参照)

エベロリムス及びテムシロリムスは抗増殖特性を有するマクロライド系mTOR阻害剤であり、進行性腎細胞癌及び非分泌性進行神経内分泌腫瘍の治療に有効である。これらの薬剤の投与を受けた患者で、まれに致命的となる可能性のある間質性肺疾患(Interstitial lung disease: ILD)が発現することが以下の項[136~139]で述べる。

テムシロリムス-テムシロリムスは、臨床試験に組み入れられた癌患者の0.5~5%に肺臓炎との関連性が認められており、まれに死亡するなど、重篤な毒性を有する患者もいる[138,140~143名]。肺臓炎が疑われる症状及び徴候には、胸水、低酸素症、咳嗽、呼吸困難、及び倦怠感がある。

軽度の肺臓炎は重度の肺臓炎よりもよくみられる[144]。反応評価のために実施した連続的なX線検査の独立したレビューで、テムシロリムスの投与を受けた進行神経内分泌腫瘍患者及び子宮内膜癌患者の36%に薬剤性肺臓炎と一致するX線所見が認められた[145]。X線検査では、スリガラス陰影又は硬化が認められた。半数は無症候性であった。また、薬剤の投与を継続したが、肺臓炎の悪化はみられなかった。

一方で、再投与後に肺臓炎が再発する割合が高いことが報告されているものもある。第II相試験では、テムシロリムスで治療した患者208名中4名(2%)にグレード3及び4を含む様々な重症度のILDが発現した(表1)[139]。抗生物質及び/又はグルココルチコイド並びに/又はテムシロリムスの減量又は投与中止により管理した。症状消失後に再治療を実施した4名のうち、2名に再発性肺臓炎が発現した。

テムシロリムスの投与中にX線像の変化が発現した患者(ILDを示唆する症状の有無は問わない)に対するモニタリング及び管理ガイドラインは、現時点では確立されていない。これまでに、第III相試験の経験を踏まえたアプローチ(表4)が提案されている[142]。しかし、本治験では、テムシロリムスの投与中に重症度にかかわらず肺臓炎を発現した患者は4名のみであり、このうち1名のみが重症であった。

我々の見解及びその他の見解では、症候性の薬剤起因性の肺毒性が臨床的に疑われる場合には、通常、治療を中止し、別の薬剤を検討する必要がある[136,137]。グルココルチコイド療法の使用経験は公表されていない。

エベロリムス-エベロリムスは経口投与用のmTOR阻害剤である。エベロリムスの全身投与を受けた患者の8~14%に臨床的肺臓炎が報告されている。テムシロリムスと同様に、低悪性度肺臓炎の発現率は高悪性度肺臓炎よりも高いと考えられる[143,144,146-151]。所見の範囲を以下に示す:

↓進行腎細胞癌に対するエベロリムスのプラセボ対照無作為化試験[146]では、エベロリムス投与患者274名中37名(14%)に臨床的肺臓炎が疑われた。10名は重症(グレード3)の肺臓炎であり(表1)、このうち5名は薬剤投与前に放射線学的に肺臓炎の所見が認められた。

↓別の第III相試験では、進行腎細胞癌に対してエベロリムスの投与を受けた患者22名(8%)に何らかのグレードの肺臓炎が発現し、その重症度はグレード3(表1)であったのは8名[137]であった。

↓同様に、進行カルチノイド患者429名を対象としたオクトレオチド単剤療法又はエベロリムス単剤療法の無作為化試験では、併用療法を受けた患者18名(8%)で何らかのグレードの肺臓炎が検出されたのに対し、対照群では肺臓炎は認められなかった。このうち、3名[152名]は重篤(生命に関わる状態であり、入院又は治療介入が必要であり、機能障害又は永久的損傷の原因となる)であった。

↓非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer: NSCLC)に対してエベロリムスを投与された64名の患者を対象としたレトロスペクティブレビューでは、24名(38%)に治療中に肺臓炎と一致する新たなX線像の発現又は悪化が認められ、21名は治療開始後3ヵ月以内にILDを発現した[147]。大部分の患者で、肺臓炎は治療の中止なしに同じ又はより低いグレードに留まった。

↓エベロリムス溶出冠動脈ステント留置後に肺臓炎も報告されているが、その発現率は不明である[153]

ILDのベースラインはエベロリムスに関連する肺臓炎のリスク因子であると考えられる。1件の臨床試験では、ILDは治療期間中に肺臓炎を発現した患者及び発現しなかった患者のそれぞれ29%及び8%に認められた[146]。重症(グレード3又は4、(表1)と判定された6名のうち、4名はベースライン時にILDを発現し、2名は死亡に至った。

最もよくみられる症状は、呼吸困難、咳嗽、疲労、及び発熱である[146,147]。最もよくみられるX線像の特徴は、肺底部の限局性の硬化またはすりガラス様陰影であるが、患者によってはびまん性のすりガラス様陰影または硬化性陰影を呈する[146,147]。

気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)での所見は、進行性腎細胞癌に対してエベロリムスの投与中に間質性肺疾患を発現した患者7名の報告で報告されており、このうち4名はBALでリンパ球増加症(43~82%)を発現し、2名は好酸球数増加(10%及び14%)を発現した[150]。3名の患者から得られた経気管支肺生検では、間質のリンパ球性炎症と肺胞壁の軽度の中隔肥厚がみられ、一部の肺胞では線維素性滲出液が認められた。

エベロリムス関連ILDの臨床経過は2件の報告で記述されている:

↓37名に臨床的肺臓炎が疑われる進行腎細胞癌に対するエベロリムスのプラセボ対照無作為化試験では、16名[146名]にグルココルチコイド療法が開始された。37名中20名(54%)はフォローアップ期間内に回復した。グレード3の肺臓炎を発現した10名のうち、6名にグルココルチコイドが投与された。エベロリムスを継続した3名のうち、1名は軽快、1名は軽快、1名は死亡した。薬剤毒性ではなく、疾患の進行によるものと考えられた。治療を中止した7名のうち、全例で完全寛解が得られた。グルココルチコイド治療の回復への寄与は不明であった。

↓上記のレトロスペクティブシリーズの1件において、エベロリムスによる治療中にILDを発現した7名の患者のうち、2名は軽度のILDであったが、この薬剤の投与は成功した。しかし、4名のグレード3のILDでは、薬剤の投与が中止され、グルココルチコイドが投与され、X線検査及び症状が2ヵ月以内に消失した[150名]。薬剤中断又はグルココルチコイド療法が肺臓炎に及ぼす相対的影響を判定するには患者数が少なすぎた。

エベロリムスの投与中に症状又はX線像の変化が発現した患者については、肺臓炎のグレードに基づきモニタリング及び管理ガイドラインが提案されている(表1)[146,151,154]。

↓グレード1の肺臓炎-エベロリムス療法を継続しながら、患者を注意深く観察する(例、胸部X線写真/コンピュータ断層撮影[CT]スキャンを2cycle毎に繰り返す)。

↓グレード2の肺臓炎-エベロリムスとして5mgを1日1回減量し、グレード1以下に改善がみられた場合は3週間以内に治験薬の投与を中止する。グルココルチコイドは、咳嗽が問題となる場合にのみ投与する。胸部CTスキャン及び肺機能検査を各cycleで実施する。

↓グレード3の肺臓炎-感染後にグルココルチコイドを全身投与しない。改善後は忍容性があればグルココルチコイドを漸減する。肺臓炎がグレード1以下に改善するまで、エベロリムスの投与を中断する。臨床的ベネフィットが明らかな場合は、5mg/日に減量し、2週間でエベロリムスの投与を再開する。胸部CT及び肺機能検査をその後の各cycleでモニタリングする。

↓グレード4の肺臓炎-感染後の全身性グルココルチコイドの投与は除外する;改善後は忍容性があればグルココルチコイドを漸減する。エベロリムスを中止する。

要約及び推奨事項

↓分子標的治療に関連する肺毒性は比較的頻度が高いため、日和見感染、放射線誘発性肺障害、又は肺転移を含む他の原因が除外されたならば、診断には注意を払う必要がある。(「全身性抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 臨床症状、診断、及び治療」の「鑑別診断」の項参照)。

↓薬物性肺疾患の明確な基準はない。徴候や症状は一般に非特異的であるため、診断は通常除外すべきである。推定診断は、肺臓炎が治療開始直後に発現した場合に下すことができる。肺臓炎が推定薬剤の投与中止後及び/又は糖質コルチコイドの投与後に速やかに回復し、呼吸器障害の別の説明ができない場合に実施する[155]。

↓分子標的治療薬による治療中に肺毒性を発現した患者にとって、治療の継続、治療の中断、又は代替薬に変更する決定は、臨床状況、及び肺毒性の性質と重症度に基づき、慎重に考慮しなければならない。一般に、重篤な肺毒性が疑われる場合には、投与を中止する必要がある。

↓被疑薬の投与中止以外に有効であると証明された特異的治療はない。より重症な症例では、逸話的報告に基づき、グルココルチコイドの使用がしばしば推奨される。これらの状況では、日和見感染のリスクがわずかに増大する可能性があるが、短期間の高用量グルココルチコイド投与が適切であると考えられる場合が多い。(「全身抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 臨床症状、診断、及び治療」の項参照)。

 

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全身性抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性の臨床像、診断、及び治療

序文
抗悪性腫瘍薬による薬物有害反応(adverse drug reactions: ADR)は医原性損傷でよくみられるものであり、肺が標的となることが多い[1-4]。一部の抗悪性腫瘍薬に起因する副作用(特に累積投与量に関連するもの)は予防できる可能性があるが、多くは特異体質性があり、予測できない。

本稿では、抗悪性腫瘍薬に関連する肺毒性の臨床像、病因、診断、及び治療について概説する。個々の薬剤で認められた肺損傷の特異的パターン(1)を別々にレビューする。(抗悪性腫瘍療法に伴う肺毒性: 細胞傷害性薬剤、及び「ブレオマイシンによる肺傷害」並びに「ブスルファンによる肺傷害」及び「クロラムブシルによる肺傷害」、「シクロホスファミドによる肺毒性」及び「メトトレキサートによる肺傷害」並びに「マイトマイシン肺毒性」及び「ニトロソ尿素による肺傷害」及び「タキサンによる肺毒性」の項参照。

疫学情報
一部では、抗悪性腫瘍薬の投与を受けた全患者の1020%に何らかの形で肺毒性が発現すると推定されるが、発現率は薬剤、用量、及びその他の要因により異なる[5-9]。ある集団ベースの試験では、薬剤性肺障害に起因する呼吸不全の発現率は100,000患者・年あたり6.6[9]であり、53%は化学療法剤と関連していた。肺毒性の発現率が高いのは、肺が血液供給全体を受けているためであり、他の臓器に対する有害な抗悪性腫瘍薬の曝露が増大する可能性がある[10]。薬剤性急性呼吸窮迫症候群は、薬剤起因性のものでない場合[11]と比較して、経過が良好である可能性があることを示すエビデンスがある一方で、抗悪性腫瘍療法に起因する肺毒性(少なくとも進行非小細胞肺癌の場合)を認める患者の予後は不良であり、生存期間の中央値は3.5ヵ月(95% CI2.37.2ヵ月)である[8]

抗悪性腫瘍薬起因性肺障害の発生機序はほとんど解明されていない。大部分の毒性作用は直接的な細胞毒性によると考えられる。以下の病態生理学的機序が提唱されている[12-14]:

肺細胞又は肺胞毛細血管内皮細胞への直接的な傷害とそれに続くサイトカインの遊離及び炎症細胞の動員

サイトカインの全身性放出(例、ゲムシタビンによる)は、内皮機能不全、毛細血管漏出症候群、及び非心原性肺水腫を引き起こす可能性がある。(「抗悪性腫瘍療法に伴う肺毒性: 細胞傷害性薬剤」の項参照)

リンパ球及び肺胞マクロファージの活性化による細胞性肺障害(「薬物過敏症: 分類及び臨床的特徴」の項参照)

遊離酸素ラジカルによる酸化的損傷(例、ブレオマイシン関連肺損傷)(「ブレオマイシンによる肺障害」の項参照)

免疫系の意図しない調節不全と免疫チェックポイント遮断によるT細胞の活性化。(「チェックポイント阻害剤免疫療法に関連する毒性」の「肺臓炎」の項参照)

上皮細胞増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)型肺細胞で発現し、肺胞壁の修復に関与する。また、EGFRを標的とする薬剤は肺胞の修復機構を障害する可能性がある。(抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬を参照)

放射線照射想起性肺臓炎は、別の肺傷害(すなわち、細胞傷害性化学療法)が後日遭遇したときに明らかになる無症状の累積的実質放射線誘発性損傷の存在によって媒介される。(「放射線性肺障害」の項参照)

また、癌患者によくみられる高濃度の吸入酸素への曝露が、肺毒性を起こしやすい原因となっている可能性も考えられ、ブレオマイシンの曝露を受けた患者での発現率が最も高いことが報告されている[15]

抗悪性腫瘍薬起因性肺疾患の臨床像は様々であり、複数の臨床症状が報告されている(1)[12]。これらの臨床症候群は、しばしば異なる規準および用語が用いられるため、その正確な定義は不明である。大部分の臨床試験は肺毒性の詳細を報告していないため、文献報告では臨床的あるいはX線学的基準(例、急性肺損傷、肺臓炎、非心原性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)あるいは病理学的所見(例、びまん性肺胞損傷、器質化肺炎、好中球性肺胞炎)に基づいて肺毒性を記載している(1)

症状と徴候これらの症候群の大部分は非特異的であり、咳嗽、呼吸困難、微熱、及び低酸素血症がある。悪寒と痰の産生が報告されることはまれであるが、体重減少などの全身症状がみられることもある[13]。肺の聴診では、両肺底部の断続性ラ音が明らかになることがあるが、しばしば正常である。喘鳴はまれであるが、喘鳴が認められる場合は、気管支収縮の一部を伴う過敏性機序が示唆される。麻疹様発疹は、好酸球増加症及び全身症状を伴う薬疹(drug resensitivity: DRESS)としても知られる、薬剤性過敏症(drug-induced hypersensitivity: DIHS)のように、ある薬剤に対して過敏症のエビデンスを示すものである。(「好酸球増多症及び全身症状を伴う薬物反応」の項参照)

臨床症状の発現時期は様々であり、治療の第1cycle初期又はその後の治療コース早期に発現することがある。免疫療法で観察される遅発性の線維症[16]又は遅発性の肺臓炎[14]を除き、肺毒性は通常、治療開始後数週間から数ヵ月以内に発現する[12](Nitrosourea-induced pulmonary injury」及び「checkpoint inhibitor immunotherapy」の「肺臓炎」の項参照)

現代の抗腫瘍療法のプロトコールは複数の薬剤から構成されているため、肺毒性の原因となる特定の薬剤を特定することは困難であると考えられる。呼吸器症状は、ある薬剤を別の薬剤と比較して疑わせるほど特異的であることはほとんどない。

評価

肺機能検査抗悪性腫瘍療法による肺臓炎の患者では、肺機能検査(pung function testing: PFT)により、一酸化炭素拡散能(diffusing capacity for carbon monoxide: DLCO)の低下がしばしば認められるが、これがPFTの最初の異常であり、唯一の異常と考えられる[17-22]。拘束性のPFTパターン(すなわち、総肺活量(total lung capacity: TLC)及び努力肺活量(forced vital capacity: FVC)は、進行例又は急性肺損傷後の長期追跡調査時に認められることがある[21](成人の肺機能検査の概要及び「一酸化炭素拡散能」の項参照)

また、異常なガス移動は、安静時又は労作時の酸素飽和度の低下として発現することがある。

プラチナ製剤のひとつであるブレオマイシン、ゲムシタビン、パクリタキセル、シクロホスファミド、又はドキソルビシンを含む化学療法レジメンは、DLCOの有意な低下と関連するが、小さな変化は症状又は手術可能性と相関しない[17,23,24]

(「ブレオマイシンによる肺障害」の項参照)、肺静脈閉塞性疾患(シクロホスファミド、ゲムシタビン、マイトマイシンなど)は、推定55%未満のDLCO減少などのガス導入異常と関連しており、スパイロメトリー又は肺気量の異常は最小限であるか、又は全く認められない。

「疫学、病因、臨床評価、及び成人の肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の診断」の「低拡散能及び低酸素化」を参照。
画像診断片側性又は両側性の網状紋理、すりガラス様陰影、又は硬化など、様々なX線像パターンを記載する[12, 25, 26]これらのパターンは、個々の患者において混合され得る。胸水および腫瘍浸潤に似た限局性の結節性硬化がみられることもある(画像1)

胸部高分解能コンピュータ断層撮影(high resolution computed tomography: HRCT)で最もよくみられる異常は、スリガラス陰影、硬化、小葉間中隔肥厚、及び小葉中心性結節である[26]HRCTの異常のパターン、分布、及び範囲は、診断及び予後の価値が限られている[25](「肺の高分解能コンピュータ断層撮影」の項参照)

ブレオマイシンによる肺障害のX線像は様々である(2)。初期の肺線維症の典型的なパターンには、両基底膜下の網状およびすりガラス様陰影があり、体積減少および肋骨横隔膜角の鈍化を伴う;細かい結節性の密度も存在することがある。これらの初期の所見は、進行性の硬化と蜂巣状像を示す。(「ブレオマイシンによる肺障害」の項参照)

放射線性リコール肺臓炎は、カルムスチン、ドキソルビシン、エトポシド、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、パクリタキセル、及びトラスツズマブで報告されている[12]。胸部画像検査では、肺陰影の分布は過去の放射線療法用ポータルと正確に同一であるが、このパターンは特有である。

肺静脈閉塞性疾患のCT像には、中心動脈の拡張、小葉中心性スリガラス陰影、中隔の肥厚、及び胸水がある。

薬剤性肺門リンパ節腫脹は、メトトレキサート誘発性肺疾患の場合を除き、まれである(「疫学、病因、臨床評価、及び成人の肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の診断」の「コンピュータ断層撮影」の項参照)

心機能評価は間質性肺疾患(Interstitial lung disease: ILD)の初期評価時に行うことが賢明であり、心不全、肺高血圧症、及び肺静脈閉塞性疾患がILDの鑑別診断に用いられることがある。評価には通常、心電図、血清脳性ナトリウム利尿ペプチドまたはN末端プロBNPレベル、および心エコー図を用いる。

(「成人間質性肺疾患への対処法: 診断的検査」の項参照) 気管支鏡検査及び気管支肺胞洗浄気管支鏡検査又は気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)で薬剤性肺毒性に特異的な所見は認められない。通常、BAL液細胞数は増加する。リンパ球増加症、好中球増加症、又はまれに好酸球増加症がみられることがある[12]。細胞密度のパターンも、他の所見も薬物性肺毒性の診断を特異的に確立することはできない。気管支鏡検査の主な役割は、感染、特に日和見微生物、又は再発性悪性腫瘍を除外することである。

病理組織学的検査通常の間質性肺炎、非特異的間質性肺炎、剥離性間質性肺炎、好酸球性肺炎、過敏症性肺炎、器質化肺炎、びまん性肺胞損傷、肺胞出血、及びまれに非壊死性肉芽腫症、肺静脈閉塞性疾患、及び肺胞蛋白症[27]を含む、抗悪性腫瘍薬に関連した肺毒性を有する患者において、肺損傷の実質的な全ての病理組織学的パターンが報告されている。

診断なしの特異的検査では、治験薬の投与中止後に当該薬剤の投与を再開しない限り、抗悪性腫瘍薬による肺毒性の診断を確定する(「特発性間質性肺臓炎: 分類及び病理」並びに「びまん性肺胞出血症候群」及び「疫学、病因、臨床評価、及び成人肺静脈閉塞症/肺毛細血管血管腫症の診断」を参照)。代わりに、診断は通常、適合する臨床パターン(1)、既知の又は疑わしい原因である薬物、及び基礎疾患である悪性腫瘍からの感染症又は肺病変の除外を組み合わせて実施する。

ルーチンの検査臨床検査(例、全細胞数、凝固検査、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、血液培養、喀痰培養、ウイルス血清学的検査)は、他の疾患が患者の呼吸器系障害の原因となっているかどうかを判定するために用いられる。

肺機能検査は、特定の診断を下すよりも肺機能障害の程度を評価する上で重要である。X線検査で診断を確定できるほど特異的な所見が得られることはまれであるが、疾患の重症度の測定や他の疾患(例、肺塞栓症)の除外には有用である。(下記「鑑別診断」の項参照)

気管支鏡検査気管支鏡検査及び気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)の主な役割は、感染、びまん性肺胞出血、及び腫瘍のリンパ管炎性転移などの他の過程を除外することである。

洗浄液を採取し、細菌、真菌、及びマイコバクテリアの塗抹標本、特殊染色、及び培養検査を実施する。また、ウイルス培養及び細胞学的検査のために検体を採取し、ウイルス封入体を調べることもある。(発熱及び肺浸潤を伴う免疫不全患者へのアプローチ)

肺出血を同定するためのBAL法には、1つの部位に3回連続で洗浄する方法がある。流出液は通常、各連続サンプルで次第に出血性の体液が増加する。このことはヘモジデリンを含むマクロファージを示す細胞学的検査により確認される。

(「びまん性肺胞出血症候群」の項参照)、悪性細胞の細胞学的分析も実施すること。急性肺損傷及び急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)における気管支肺胞細胞異形成は悪性腫瘍に類似することがあるため、形態学的検査は慎重に解釈し、可能であれば細胞系譜を確認する免疫組織化学的又は分子的検査と組み合わせる必要がある[28]

特定の禁忌がない患者では、経気管支肺生検は、BAL単独よりもリンパ管炎性の腫瘍の拡がりや侵襲性の真菌感染を同定する可能性を改善すると考えられる。さらに、生検により、真菌(又はウイルス)感染におけるコロニー形成と侵入の区別が可能となる。

生検肺生検は、抗悪性腫瘍薬による肺損傷が疑われる患者の評価において、役割は限られている。(発熱及び肺浸潤を伴う免疫不全患者へのアプローチ、及び成人における軟性気管支鏡検査: 適応及び禁忌」の項参照)。主な役割は、侵襲性の低い手段で除外できない場合に他の過程を除外することである。特徴的な所見がなく、薬剤性肺疾患の組織学的基準が確立されていないため、肺生検が肺損傷の決定的な原因として抗腫瘍薬となることはまれである。

(「間質性肺疾患の診断における肺生検の役割」の項参照)、抗悪性腫瘍薬による肺毒性の鑑別診断は困難であり、主に除外診断の1つである。抗悪性腫瘍薬誘発性の肺毒性を有すると思われる呼吸器症状及び/又は肺浸潤を認める患者の大半は、鑑別診断が広範囲に及ぶ:

癌患者では、肺浸潤及び呼吸器障害の一般的な原因は感染である。化学療法を受けている患者は、治療と原疾患の両方で免疫抑制状態にあることが多く、様々な日和見肺感染症及びより一般的な肺炎の非定型的症状を発現しやすい。(「免疫不全患者の肺感染症の疫学」及び「発熱及び肺浸潤を伴う免疫不全患者へのアプローチ」の項参照)

放射線誘発性肺障害は、化学療法と放射線療法の同時併用又は逐次併用投与を受けた患者において、抗悪性腫瘍薬起因性肺毒性に対して相乗効果を示す可能性がある。(「放射線誘発性肺障害」及び「タキサン誘発性肺毒性」の項参照)

抗悪性腫瘍薬の投与を受けた患者では、ときに心原性及び非心原性の肺水腫が発現することがある。例として、ドキソルビシンは心不全として発現する可能性のある用量依存性の心筋症と関連している。ドセタキセルへの累積曝露は、胸水を伴う又は伴わない非心原性肺水腫の臨床像をもたらす毛細血管漏出症候群と関連している。

また、肺水腫は抗悪性腫瘍薬の投与とは無関係であると考えられる。(「タキサンによる肺毒性」、「毛細血管漏出及びドセタキセル」並びに「アントラサイクリンによる心毒性の臨床症状、モニタリング、及び診断」及び「アントラサイクリンによる心毒性の予防及び管理」の項参照)。肺水腫の病因を評価する際に、心エコー図が左室機能不全を示唆し、血清B型ナトリウム利尿ペプチド(serum B-type natriuretic peptide: BNP)が上昇している場合には、心原性の原因が示唆される。(成人の急性非代償性心不全の診断及び評価方法を参照)

腫瘍形成過程による肺の直接浸潤(例、肺転移、リンパ管炎性癌腫症、又は肺腫瘍塞栓症)が発現する可能性がある。これは典型的なX線像(例、リンパ管炎性癌腫症)、悪性細胞の細胞学的証拠、または肺生検(画像2A-B)により診断される。(成人の肺腫瘍塞栓症及び癌性リンパ管症: 診断と管理、及び「癌性リンパ管症」の項参照)

肺出血(薬物療法又は薬物との関連性なしと判断される場合がある)肺胞出血は、抗血管内皮細胞増殖因子(anti-vascular endothelial growth factor: VEGF)モノクローナル抗体ベバシズマブ(anti-vascular endothelial growth factor: VEGF)モノクローナル抗体であるベバシズマブ、スニチニブ、及びソラフェニブ(VEGFチロシンキナーゼ受容体の低分子阻害薬[29])の投与を受けた進行肺扁平上皮癌患者、並びにゲムシタビンの投与を。(抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬及び「抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 細胞毒性薬剤」の項参照)

これらの潜在的な病因は、いずれも抗悪性腫瘍薬誘発性の肺毒性と類似した臨床像及びX線像を示すと考えられる。医薬品の毒性を推定する前に、これらの事象を注意深く考慮し、除外する必要がある。

臨床で重要な意味をもつ可能性があるため、薬物毒性の診断を確立することは重要である。臨床的シナリオによっては、疑わしい場合に薬剤を中止すると、患者から延命処置(例、HER2陽性の早期乳癌に対してトラスツズマブによる術後補助療法中に肺浸潤を発現した患者)を奪われる可能性がある。(抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬を参照)、「トラスツズマブ」の項参照。

治療一般、抗悪性腫瘍薬による肺損傷の治療は、証拠に基づくものではなく経験的なものである。主な要素として、治験薬の投与中止、グルココルチコイド療法、及び支持療法がある。

薬剤の投与中止抗悪性腫瘍薬の大部分は、疑われる薬剤の投与中止の他に有効であると証明されている特異的治療はない。一般に、重篤な肺毒性が疑われる場合には、投与を中止する必要がある。しかし、意思決定に関わる臨床医は、薬剤の投与を中止すると効果の高い薬剤がなくなる可能性があるため、リスクとベネフィット、並びに代替治療の利用可能性を注意深く比較検討しなければならない。

この原則の例外は、分化誘導剤(すなわち、オールトランスレチノイン酸または三酸化ヒ素)で治療される急性前骨髄球性白血病患者にみられる分化症候群である。鑑別症候群では、グルココルチコイドによる治療を速やかに開始する限り、通常は分化誘導薬の投与を継続する[30]。しかし、重症の呼吸器障害が発現した場合は、鑑別診断薬の投与を中止すべきである。(「急性白血病の治療に伴う分化症候群」の項参照)

グルココルチコイドグルココルチコイド療法の開始の決定は、通常、肺障害の重症度及び悪化の速さに依存する。薬剤起因性の肺毒性が発現した場合に、グルココルチコイドのベネフィットを裏付けるエビデンスは、大部分が観察的なものである[27]。さらに、肺生検を受けた急性又は亜急性の肺毒性の発現患者では、グルココルチコイド反応性と一致する病理組織学的パターン(例、非特異的間質性肺炎、器質化肺炎、好酸球性肺炎)がしばしば認められるという所見から、裏付けが得られている。しかし、臨床医はしばしば、病理組織学的診断が得られる前に全身性のグルココルチコイドを開始するかどうかを選択することに直面する。

肺臓炎が安定又は軽快している患者では、上述の鑑別症候群を除き、肺毒性の消失に薬物の投与を中止することが多いため、自然改善を観察しながらグルココルチコイドの投与を控えるのが一般的である。

対照的に、経験的グルココルチコイド療法は通常、急速に進行するか、あるいはより重度の肺毒性を有する患者で開始されるが、この治療法を支持する無作為化試験からのエビデンスは十分ではない。重篤な肺毒性は、安静時の呼吸困難、90%未満の酸素飽和度の低下、又はベースラインからの4%を超える低下、臨床状態の悪化、又は換気補助の必要性を特徴とする。肺臓炎/肺浸潤の重症度分類に用いた米国国立癌研究所の共通毒性基準(NCI-CTC)によれば、この重症度はグレード3又は4の毒性を示す(3)

グルココルチコイドの経験的使用を除き、グルココルチコイドに対して強い禁忌を示す患者、及び静脈閉塞性疾患又は進行性の通常の間質性肺炎など、グルココルチコイドに反応する可能性が低い疾患経過を示す患者を含む可能性がある。(成人の肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の疫学、病因、臨床評価、及び診断)、及び「特発性間質性肺炎: 分類及び病理」の「通常の間質性肺炎」及び「特発性肺線維症の治療」の項参照。

全身性グルココルチコイド療法の選択肢を考慮する場合、しばしばBALを含む適切な染色および培養を用いて感染性の原因を除外することが必須である。診断手順と培養を実施しながら、病原体に対する経験的抗菌療法がしばしば適応となる。(前述「気管支鏡検査」及び前述「生検」参照)

グルココルチコイド治療スケジュールは確立されていないが、重度の呼吸不全はしばしばプレドニゾン4060mg/日で治療される。切迫した呼吸不全または機械的人工換気を必要とする患者には、グルココルチコイド(例、メチルプレドニゾロン1g/日を3日間まで)の静脈内投与が行われている。反応があれば、12ヵ月間かけて経口投与量を漸減する。グルココルチコイドの全身投与は、日和見感染症など、多くの副作用を伴う。併用薬による免疫抑制の程度に応じて、造血細胞移植、悪性腫瘍、又はエイズの発症予防が必要となる場合がある。Pneumocystis jiroveciiの予防投与の適応については、別途考察する。(「全身性グルココルチコイドの主な副作用」及び「HIV非感染患者のニューモシスチス肺炎の治療及び予防」の項参照)

支持療法支持療法として、酸素補給、気管支収縮(例、喘鳴、肺機能検査で気流閉塞)の証拠がある場合の吸入気管支拡張薬(例、β作動薬)、及び臨床的適応があれば機械的人工換気[12,31]がある。

特にブレオマイシンの投与を受けた患者では、高濃度の吸入O2を用いた酸素補給は避けるべきである。酸素飽和度が89%未満の場合にのみ追加し、次いで8993%の酸素飽和度に調整する。(「ブレオマイシンによる肺傷害」の項参照)

治験薬の投与再開薬剤性肺毒性から回復した患者に同一薬剤を再投与するか否かは、状況に応じて判断しなければならない。さらに、個々の薬剤、反応の重症度、及び他の治療法の有無に応じて判断する必要がある。抗悪性腫瘍薬による症候性の肺毒性の診断が確実であると判断された場合は、一般に再導入は実施しない。ただし、例外もある。例えば、分化誘導剤(すなわち、オールトランスレチノイン酸又は三酸化ヒ素)、ダサチニブ、及びおそらくテムシロリムス又はエベロリムスによる再投与が成功したと報告されている。(急性白血病の治療に関連する分化症候群、及び抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的薬」の「Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤」及び「抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的薬」の「ラパマイシン及び類薬」の項参照)

スクリーニング検査では、呼吸困難の初期所見を発見するために、呼吸困難の有無、断続的な聴診、連続的な胸部X線検査、及び連続的な肺機能検査を実施する。しかしながら、主に利用可能な検査に特異性がないため、肺毒性の早期証拠に対するスクリーニングの役割は依然として不明である。

多くの施設で、ブレオマイシンの投与を受けた患者、特に累積投与量が400単位に達した場合に、一酸化炭素拡散能(diffusing capacity for carbon monoxide: DLCO)の連続モニタリングが実施されている。数名のレビューアが、DLCOがベースライン値の60%未満に低下した場合、ブレオマイシンの投与を中止することを推奨している。米国食品医薬品局承認の添付文書では、ブレオマイシンの投与を受けている患者に対して胸部X線検査を頻回に実施することを推奨している。また、DLCOが治療前の値の3035%未満に低下した場合には、DLCOを任意に月1回測定し、投与を中止することを推奨している。しかしながら、他の多くの施設ではブレオマイシン療法中にDLCOをルーチンにモニタリングしていない。

18‐フルオロデオキシグルコース(FDG)陽電子放射断層撮影(PET)スキャン上の取り込みのモニタリングは、別の潜在的スクリーニング法として評価されている。いくつかの異なる抗悪性腫瘍薬で肺臓炎のある患者で、PETスキャンによる取り込みの増加が報告されている[32-36]。しかし、PETではリンパ管炎と薬剤性肺臓炎を鑑別できない。

要約及び推奨事項

抗悪性腫瘍薬に起因する肺毒性は比較的頻度が高いため、日和見感染、放射線療法に起因する肺障害、又は肺への転移を含む他の原因を入念に検討し、診断を確定する必要がある。(前述「序文」参照)

肺胞、間質、又は混合型の陰影、胸水、及び腫瘍浸潤に似た限局性の結節性硬化を含む、薬剤性損傷の様々なX線像パターンを記述する(1)(前述「画像診断」参照)

気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)の主な目的は、感染症、肺胞出血、及び基礎疾患である癌の転移性進展などの他の過程を除外することである。肺生検は、患者が進行性または重症の疾患を有し、肺臓炎の原因が不明の場合に適応となる。薬剤性肺疾患は、様々な組織学的パターンを引き起こしうる。(前述「診断」及び前述「病理組織学的検査」の項参照)

化学療法に起因する肺臓炎は、治療開始直後に肺臓炎が発現した場合に確信をもって診断することができる。呼吸器系への影響についての別の説明は得られておらず、推定薬剤の投与中止後に肺臓炎が消散したと考えられる。診断を確定することは、患者に劇的な結果をもたらし、非常に効果的な薬剤の投与中止につながる可能性がある。(前述「診断」及び前述「鑑別診断」参照)

抗悪性腫瘍薬による肺毒性を有する患者の大半は、治療選択の際に薬剤の投与を中止するが、代替治療のリスク、ベネフィット、及び有効性を注意深く比較検討しなければならない。例外は分化症候群であり、呼吸不全が切迫していない限り、分化誘導剤(すなわち、オールトランスレチノイン酸または三酸化ヒ素)を通常継続できる。(上記「投与中止」及び「急性白血病の治療に関連する分化症候群」の項参照)

支持療法として、注意深く滴定される酸素補給、気管支収縮(例、喘鳴、肺機能検査で気流閉塞)の証拠がある場合の吸入気管支拡張薬(例、β作動薬)、肺リハビリテーション、及び一部の患者での換気補助などが考えられる。被疑薬の投与中止以外に有効であると証明された特異的治療はない。(前述「治療」参照)

急性又は亜急性の重篤な肺毒性(例、安静時呼吸困難、酸素飽和度のベースラインからの低下率が90%以上、又は4%以上であること、又は臨床状態の悪化)が発現した患者に対しては、経過観察及び支持療法単独(グレード1B)ではなく、グルココルチコイドの全身投与を開始することを推奨する。我々は一般にプレドニゾンを4060mg/日で経口投与するが、切迫した呼吸不全の患者には最初にグルココルチコイドの静脈内投与を行ってもよい。(前述「グルココルチコイド」参照)

それほど重症でなく急速に進行する呼吸器障害を有する患者、及びグルココルチコイドに反応する可能性が低い肺の疾患経過(肺静脈閉塞性疾患又は通常の間質性肺臓炎など)を示唆する臨床像又は病理所見を示す患者については、グルココルチコイドの全身投与(グレード2C)を行わないことを提案する。(前述「グルココルチコイド」参照)

臨床効果が認められた場合は、グルココルチコイドの漸減を12ヵ月かけて実施する。(前述「グルココルチコイド」参照)

 

REFERENCES

  1. Camus P. Interstitial lung disease from drugs, biologics, and radiation. In: Interstitial Lung Disease, 5th, Schwarz M, King TE Jr (Eds), People’s Medical Publishing House-USA, Shelton CT 2011. p.637.

 

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