全身性抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性の臨床像、診断、及び治療

序文
抗悪性腫瘍薬による薬物有害反応(adverse drug reactions: ADR)は医原性損傷でよくみられるものであり、肺が標的となることが多い[1-4]。一部の抗悪性腫瘍薬に起因する副作用(特に累積投与量に関連するもの)は予防できる可能性があるが、多くは特異体質性があり、予測できない。

本稿では、抗悪性腫瘍薬に関連する肺毒性の臨床像、病因、診断、及び治療について概説する。個々の薬剤で認められた肺損傷の特異的パターン(1)を別々にレビューする。(抗悪性腫瘍療法に伴う肺毒性: 細胞傷害性薬剤、及び「ブレオマイシンによる肺傷害」並びに「ブスルファンによる肺傷害」及び「クロラムブシルによる肺傷害」、「シクロホスファミドによる肺毒性」及び「メトトレキサートによる肺傷害」並びに「マイトマイシン肺毒性」及び「ニトロソ尿素による肺傷害」及び「タキサンによる肺毒性」の項参照。

疫学情報
一部では、抗悪性腫瘍薬の投与を受けた全患者の1020%に何らかの形で肺毒性が発現すると推定されるが、発現率は薬剤、用量、及びその他の要因により異なる[5-9]。ある集団ベースの試験では、薬剤性肺障害に起因する呼吸不全の発現率は100,000患者・年あたり6.6[9]であり、53%は化学療法剤と関連していた。肺毒性の発現率が高いのは、肺が血液供給全体を受けているためであり、他の臓器に対する有害な抗悪性腫瘍薬の曝露が増大する可能性がある[10]。薬剤性急性呼吸窮迫症候群は、薬剤起因性のものでない場合[11]と比較して、経過が良好である可能性があることを示すエビデンスがある一方で、抗悪性腫瘍療法に起因する肺毒性(少なくとも進行非小細胞肺癌の場合)を認める患者の予後は不良であり、生存期間の中央値は3.5ヵ月(95% CI2.37.2ヵ月)である[8]

抗悪性腫瘍薬起因性肺障害の発生機序はほとんど解明されていない。大部分の毒性作用は直接的な細胞毒性によると考えられる。以下の病態生理学的機序が提唱されている[12-14]:

肺細胞又は肺胞毛細血管内皮細胞への直接的な傷害とそれに続くサイトカインの遊離及び炎症細胞の動員

サイトカインの全身性放出(例、ゲムシタビンによる)は、内皮機能不全、毛細血管漏出症候群、及び非心原性肺水腫を引き起こす可能性がある。(「抗悪性腫瘍療法に伴う肺毒性: 細胞傷害性薬剤」の項参照)

リンパ球及び肺胞マクロファージの活性化による細胞性肺障害(「薬物過敏症: 分類及び臨床的特徴」の項参照)

遊離酸素ラジカルによる酸化的損傷(例、ブレオマイシン関連肺損傷)(「ブレオマイシンによる肺障害」の項参照)

免疫系の意図しない調節不全と免疫チェックポイント遮断によるT細胞の活性化。(「チェックポイント阻害剤免疫療法に関連する毒性」の「肺臓炎」の項参照)

上皮細胞増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)型肺細胞で発現し、肺胞壁の修復に関与する。また、EGFRを標的とする薬剤は肺胞の修復機構を障害する可能性がある。(抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬を参照)

放射線照射想起性肺臓炎は、別の肺傷害(すなわち、細胞傷害性化学療法)が後日遭遇したときに明らかになる無症状の累積的実質放射線誘発性損傷の存在によって媒介される。(「放射線性肺障害」の項参照)

また、癌患者によくみられる高濃度の吸入酸素への曝露が、肺毒性を起こしやすい原因となっている可能性も考えられ、ブレオマイシンの曝露を受けた患者での発現率が最も高いことが報告されている[15]

抗悪性腫瘍薬起因性肺疾患の臨床像は様々であり、複数の臨床症状が報告されている(1)[12]。これらの臨床症候群は、しばしば異なる規準および用語が用いられるため、その正確な定義は不明である。大部分の臨床試験は肺毒性の詳細を報告していないため、文献報告では臨床的あるいはX線学的基準(例、急性肺損傷、肺臓炎、非心原性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)あるいは病理学的所見(例、びまん性肺胞損傷、器質化肺炎、好中球性肺胞炎)に基づいて肺毒性を記載している(1)

症状と徴候これらの症候群の大部分は非特異的であり、咳嗽、呼吸困難、微熱、及び低酸素血症がある。悪寒と痰の産生が報告されることはまれであるが、体重減少などの全身症状がみられることもある[13]。肺の聴診では、両肺底部の断続性ラ音が明らかになることがあるが、しばしば正常である。喘鳴はまれであるが、喘鳴が認められる場合は、気管支収縮の一部を伴う過敏性機序が示唆される。麻疹様発疹は、好酸球増加症及び全身症状を伴う薬疹(drug resensitivity: DRESS)としても知られる、薬剤性過敏症(drug-induced hypersensitivity: DIHS)のように、ある薬剤に対して過敏症のエビデンスを示すものである。(「好酸球増多症及び全身症状を伴う薬物反応」の項参照)

臨床症状の発現時期は様々であり、治療の第1cycle初期又はその後の治療コース早期に発現することがある。免疫療法で観察される遅発性の線維症[16]又は遅発性の肺臓炎[14]を除き、肺毒性は通常、治療開始後数週間から数ヵ月以内に発現する[12](Nitrosourea-induced pulmonary injury」及び「checkpoint inhibitor immunotherapy」の「肺臓炎」の項参照)

現代の抗腫瘍療法のプロトコールは複数の薬剤から構成されているため、肺毒性の原因となる特定の薬剤を特定することは困難であると考えられる。呼吸器症状は、ある薬剤を別の薬剤と比較して疑わせるほど特異的であることはほとんどない。

評価

肺機能検査抗悪性腫瘍療法による肺臓炎の患者では、肺機能検査(pung function testing: PFT)により、一酸化炭素拡散能(diffusing capacity for carbon monoxide: DLCO)の低下がしばしば認められるが、これがPFTの最初の異常であり、唯一の異常と考えられる[17-22]。拘束性のPFTパターン(すなわち、総肺活量(total lung capacity: TLC)及び努力肺活量(forced vital capacity: FVC)は、進行例又は急性肺損傷後の長期追跡調査時に認められることがある[21](成人の肺機能検査の概要及び「一酸化炭素拡散能」の項参照)

また、異常なガス移動は、安静時又は労作時の酸素飽和度の低下として発現することがある。

プラチナ製剤のひとつであるブレオマイシン、ゲムシタビン、パクリタキセル、シクロホスファミド、又はドキソルビシンを含む化学療法レジメンは、DLCOの有意な低下と関連するが、小さな変化は症状又は手術可能性と相関しない[17,23,24]

(「ブレオマイシンによる肺障害」の項参照)、肺静脈閉塞性疾患(シクロホスファミド、ゲムシタビン、マイトマイシンなど)は、推定55%未満のDLCO減少などのガス導入異常と関連しており、スパイロメトリー又は肺気量の異常は最小限であるか、又は全く認められない。

「疫学、病因、臨床評価、及び成人の肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の診断」の「低拡散能及び低酸素化」を参照。
画像診断片側性又は両側性の網状紋理、すりガラス様陰影、又は硬化など、様々なX線像パターンを記載する[12, 25, 26]これらのパターンは、個々の患者において混合され得る。胸水および腫瘍浸潤に似た限局性の結節性硬化がみられることもある(画像1)

胸部高分解能コンピュータ断層撮影(high resolution computed tomography: HRCT)で最もよくみられる異常は、スリガラス陰影、硬化、小葉間中隔肥厚、及び小葉中心性結節である[26]HRCTの異常のパターン、分布、及び範囲は、診断及び予後の価値が限られている[25](「肺の高分解能コンピュータ断層撮影」の項参照)

ブレオマイシンによる肺障害のX線像は様々である(2)。初期の肺線維症の典型的なパターンには、両基底膜下の網状およびすりガラス様陰影があり、体積減少および肋骨横隔膜角の鈍化を伴う;細かい結節性の密度も存在することがある。これらの初期の所見は、進行性の硬化と蜂巣状像を示す。(「ブレオマイシンによる肺障害」の項参照)

放射線性リコール肺臓炎は、カルムスチン、ドキソルビシン、エトポシド、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、パクリタキセル、及びトラスツズマブで報告されている[12]。胸部画像検査では、肺陰影の分布は過去の放射線療法用ポータルと正確に同一であるが、このパターンは特有である。

肺静脈閉塞性疾患のCT像には、中心動脈の拡張、小葉中心性スリガラス陰影、中隔の肥厚、及び胸水がある。

薬剤性肺門リンパ節腫脹は、メトトレキサート誘発性肺疾患の場合を除き、まれである(「疫学、病因、臨床評価、及び成人の肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の診断」の「コンピュータ断層撮影」の項参照)

心機能評価は間質性肺疾患(Interstitial lung disease: ILD)の初期評価時に行うことが賢明であり、心不全、肺高血圧症、及び肺静脈閉塞性疾患がILDの鑑別診断に用いられることがある。評価には通常、心電図、血清脳性ナトリウム利尿ペプチドまたはN末端プロBNPレベル、および心エコー図を用いる。

(「成人間質性肺疾患への対処法: 診断的検査」の項参照) 気管支鏡検査及び気管支肺胞洗浄気管支鏡検査又は気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)で薬剤性肺毒性に特異的な所見は認められない。通常、BAL液細胞数は増加する。リンパ球増加症、好中球増加症、又はまれに好酸球増加症がみられることがある[12]。細胞密度のパターンも、他の所見も薬物性肺毒性の診断を特異的に確立することはできない。気管支鏡検査の主な役割は、感染、特に日和見微生物、又は再発性悪性腫瘍を除外することである。

病理組織学的検査通常の間質性肺炎、非特異的間質性肺炎、剥離性間質性肺炎、好酸球性肺炎、過敏症性肺炎、器質化肺炎、びまん性肺胞損傷、肺胞出血、及びまれに非壊死性肉芽腫症、肺静脈閉塞性疾患、及び肺胞蛋白症[27]を含む、抗悪性腫瘍薬に関連した肺毒性を有する患者において、肺損傷の実質的な全ての病理組織学的パターンが報告されている。

診断なしの特異的検査では、治験薬の投与中止後に当該薬剤の投与を再開しない限り、抗悪性腫瘍薬による肺毒性の診断を確定する(「特発性間質性肺臓炎: 分類及び病理」並びに「びまん性肺胞出血症候群」及び「疫学、病因、臨床評価、及び成人肺静脈閉塞症/肺毛細血管血管腫症の診断」を参照)。代わりに、診断は通常、適合する臨床パターン(1)、既知の又は疑わしい原因である薬物、及び基礎疾患である悪性腫瘍からの感染症又は肺病変の除外を組み合わせて実施する。

ルーチンの検査臨床検査(例、全細胞数、凝固検査、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、血液培養、喀痰培養、ウイルス血清学的検査)は、他の疾患が患者の呼吸器系障害の原因となっているかどうかを判定するために用いられる。

肺機能検査は、特定の診断を下すよりも肺機能障害の程度を評価する上で重要である。X線検査で診断を確定できるほど特異的な所見が得られることはまれであるが、疾患の重症度の測定や他の疾患(例、肺塞栓症)の除外には有用である。(下記「鑑別診断」の項参照)

気管支鏡検査気管支鏡検査及び気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)の主な役割は、感染、びまん性肺胞出血、及び腫瘍のリンパ管炎性転移などの他の過程を除外することである。

洗浄液を採取し、細菌、真菌、及びマイコバクテリアの塗抹標本、特殊染色、及び培養検査を実施する。また、ウイルス培養及び細胞学的検査のために検体を採取し、ウイルス封入体を調べることもある。(発熱及び肺浸潤を伴う免疫不全患者へのアプローチ)

肺出血を同定するためのBAL法には、1つの部位に3回連続で洗浄する方法がある。流出液は通常、各連続サンプルで次第に出血性の体液が増加する。このことはヘモジデリンを含むマクロファージを示す細胞学的検査により確認される。

(「びまん性肺胞出血症候群」の項参照)、悪性細胞の細胞学的分析も実施すること。急性肺損傷及び急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)における気管支肺胞細胞異形成は悪性腫瘍に類似することがあるため、形態学的検査は慎重に解釈し、可能であれば細胞系譜を確認する免疫組織化学的又は分子的検査と組み合わせる必要がある[28]

特定の禁忌がない患者では、経気管支肺生検は、BAL単独よりもリンパ管炎性の腫瘍の拡がりや侵襲性の真菌感染を同定する可能性を改善すると考えられる。さらに、生検により、真菌(又はウイルス)感染におけるコロニー形成と侵入の区別が可能となる。

生検肺生検は、抗悪性腫瘍薬による肺損傷が疑われる患者の評価において、役割は限られている。(発熱及び肺浸潤を伴う免疫不全患者へのアプローチ、及び成人における軟性気管支鏡検査: 適応及び禁忌」の項参照)。主な役割は、侵襲性の低い手段で除外できない場合に他の過程を除外することである。特徴的な所見がなく、薬剤性肺疾患の組織学的基準が確立されていないため、肺生検が肺損傷の決定的な原因として抗腫瘍薬となることはまれである。

(「間質性肺疾患の診断における肺生検の役割」の項参照)、抗悪性腫瘍薬による肺毒性の鑑別診断は困難であり、主に除外診断の1つである。抗悪性腫瘍薬誘発性の肺毒性を有すると思われる呼吸器症状及び/又は肺浸潤を認める患者の大半は、鑑別診断が広範囲に及ぶ:

癌患者では、肺浸潤及び呼吸器障害の一般的な原因は感染である。化学療法を受けている患者は、治療と原疾患の両方で免疫抑制状態にあることが多く、様々な日和見肺感染症及びより一般的な肺炎の非定型的症状を発現しやすい。(「免疫不全患者の肺感染症の疫学」及び「発熱及び肺浸潤を伴う免疫不全患者へのアプローチ」の項参照)

放射線誘発性肺障害は、化学療法と放射線療法の同時併用又は逐次併用投与を受けた患者において、抗悪性腫瘍薬起因性肺毒性に対して相乗効果を示す可能性がある。(「放射線誘発性肺障害」及び「タキサン誘発性肺毒性」の項参照)

抗悪性腫瘍薬の投与を受けた患者では、ときに心原性及び非心原性の肺水腫が発現することがある。例として、ドキソルビシンは心不全として発現する可能性のある用量依存性の心筋症と関連している。ドセタキセルへの累積曝露は、胸水を伴う又は伴わない非心原性肺水腫の臨床像をもたらす毛細血管漏出症候群と関連している。

また、肺水腫は抗悪性腫瘍薬の投与とは無関係であると考えられる。(「タキサンによる肺毒性」、「毛細血管漏出及びドセタキセル」並びに「アントラサイクリンによる心毒性の臨床症状、モニタリング、及び診断」及び「アントラサイクリンによる心毒性の予防及び管理」の項参照)。肺水腫の病因を評価する際に、心エコー図が左室機能不全を示唆し、血清B型ナトリウム利尿ペプチド(serum B-type natriuretic peptide: BNP)が上昇している場合には、心原性の原因が示唆される。(成人の急性非代償性心不全の診断及び評価方法を参照)

腫瘍形成過程による肺の直接浸潤(例、肺転移、リンパ管炎性癌腫症、又は肺腫瘍塞栓症)が発現する可能性がある。これは典型的なX線像(例、リンパ管炎性癌腫症)、悪性細胞の細胞学的証拠、または肺生検(画像2A-B)により診断される。(成人の肺腫瘍塞栓症及び癌性リンパ管症: 診断と管理、及び「癌性リンパ管症」の項参照)

肺出血(薬物療法又は薬物との関連性なしと判断される場合がある)肺胞出血は、抗血管内皮細胞増殖因子(anti-vascular endothelial growth factor: VEGF)モノクローナル抗体ベバシズマブ(anti-vascular endothelial growth factor: VEGF)モノクローナル抗体であるベバシズマブ、スニチニブ、及びソラフェニブ(VEGFチロシンキナーゼ受容体の低分子阻害薬[29])の投与を受けた進行肺扁平上皮癌患者、並びにゲムシタビンの投与を。(抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬及び「抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 細胞毒性薬剤」の項参照)

これらの潜在的な病因は、いずれも抗悪性腫瘍薬誘発性の肺毒性と類似した臨床像及びX線像を示すと考えられる。医薬品の毒性を推定する前に、これらの事象を注意深く考慮し、除外する必要がある。

臨床で重要な意味をもつ可能性があるため、薬物毒性の診断を確立することは重要である。臨床的シナリオによっては、疑わしい場合に薬剤を中止すると、患者から延命処置(例、HER2陽性の早期乳癌に対してトラスツズマブによる術後補助療法中に肺浸潤を発現した患者)を奪われる可能性がある。(抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的治療薬を参照)、「トラスツズマブ」の項参照。

治療一般、抗悪性腫瘍薬による肺損傷の治療は、証拠に基づくものではなく経験的なものである。主な要素として、治験薬の投与中止、グルココルチコイド療法、及び支持療法がある。

薬剤の投与中止抗悪性腫瘍薬の大部分は、疑われる薬剤の投与中止の他に有効であると証明されている特異的治療はない。一般に、重篤な肺毒性が疑われる場合には、投与を中止する必要がある。しかし、意思決定に関わる臨床医は、薬剤の投与を中止すると効果の高い薬剤がなくなる可能性があるため、リスクとベネフィット、並びに代替治療の利用可能性を注意深く比較検討しなければならない。

この原則の例外は、分化誘導剤(すなわち、オールトランスレチノイン酸または三酸化ヒ素)で治療される急性前骨髄球性白血病患者にみられる分化症候群である。鑑別症候群では、グルココルチコイドによる治療を速やかに開始する限り、通常は分化誘導薬の投与を継続する[30]。しかし、重症の呼吸器障害が発現した場合は、鑑別診断薬の投与を中止すべきである。(「急性白血病の治療に伴う分化症候群」の項参照)

グルココルチコイドグルココルチコイド療法の開始の決定は、通常、肺障害の重症度及び悪化の速さに依存する。薬剤起因性の肺毒性が発現した場合に、グルココルチコイドのベネフィットを裏付けるエビデンスは、大部分が観察的なものである[27]。さらに、肺生検を受けた急性又は亜急性の肺毒性の発現患者では、グルココルチコイド反応性と一致する病理組織学的パターン(例、非特異的間質性肺炎、器質化肺炎、好酸球性肺炎)がしばしば認められるという所見から、裏付けが得られている。しかし、臨床医はしばしば、病理組織学的診断が得られる前に全身性のグルココルチコイドを開始するかどうかを選択することに直面する。

肺臓炎が安定又は軽快している患者では、上述の鑑別症候群を除き、肺毒性の消失に薬物の投与を中止することが多いため、自然改善を観察しながらグルココルチコイドの投与を控えるのが一般的である。

対照的に、経験的グルココルチコイド療法は通常、急速に進行するか、あるいはより重度の肺毒性を有する患者で開始されるが、この治療法を支持する無作為化試験からのエビデンスは十分ではない。重篤な肺毒性は、安静時の呼吸困難、90%未満の酸素飽和度の低下、又はベースラインからの4%を超える低下、臨床状態の悪化、又は換気補助の必要性を特徴とする。肺臓炎/肺浸潤の重症度分類に用いた米国国立癌研究所の共通毒性基準(NCI-CTC)によれば、この重症度はグレード3又は4の毒性を示す(3)

グルココルチコイドの経験的使用を除き、グルココルチコイドに対して強い禁忌を示す患者、及び静脈閉塞性疾患又は進行性の通常の間質性肺炎など、グルココルチコイドに反応する可能性が低い疾患経過を示す患者を含む可能性がある。(成人の肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症の疫学、病因、臨床評価、及び診断)、及び「特発性間質性肺炎: 分類及び病理」の「通常の間質性肺炎」及び「特発性肺線維症の治療」の項参照。

全身性グルココルチコイド療法の選択肢を考慮する場合、しばしばBALを含む適切な染色および培養を用いて感染性の原因を除外することが必須である。診断手順と培養を実施しながら、病原体に対する経験的抗菌療法がしばしば適応となる。(前述「気管支鏡検査」及び前述「生検」参照)

グルココルチコイド治療スケジュールは確立されていないが、重度の呼吸不全はしばしばプレドニゾン4060mg/日で治療される。切迫した呼吸不全または機械的人工換気を必要とする患者には、グルココルチコイド(例、メチルプレドニゾロン1g/日を3日間まで)の静脈内投与が行われている。反応があれば、12ヵ月間かけて経口投与量を漸減する。グルココルチコイドの全身投与は、日和見感染症など、多くの副作用を伴う。併用薬による免疫抑制の程度に応じて、造血細胞移植、悪性腫瘍、又はエイズの発症予防が必要となる場合がある。Pneumocystis jiroveciiの予防投与の適応については、別途考察する。(「全身性グルココルチコイドの主な副作用」及び「HIV非感染患者のニューモシスチス肺炎の治療及び予防」の項参照)

支持療法支持療法として、酸素補給、気管支収縮(例、喘鳴、肺機能検査で気流閉塞)の証拠がある場合の吸入気管支拡張薬(例、β作動薬)、及び臨床的適応があれば機械的人工換気[12,31]がある。

特にブレオマイシンの投与を受けた患者では、高濃度の吸入O2を用いた酸素補給は避けるべきである。酸素飽和度が89%未満の場合にのみ追加し、次いで8993%の酸素飽和度に調整する。(「ブレオマイシンによる肺傷害」の項参照)

治験薬の投与再開薬剤性肺毒性から回復した患者に同一薬剤を再投与するか否かは、状況に応じて判断しなければならない。さらに、個々の薬剤、反応の重症度、及び他の治療法の有無に応じて判断する必要がある。抗悪性腫瘍薬による症候性の肺毒性の診断が確実であると判断された場合は、一般に再導入は実施しない。ただし、例外もある。例えば、分化誘導剤(すなわち、オールトランスレチノイン酸又は三酸化ヒ素)、ダサチニブ、及びおそらくテムシロリムス又はエベロリムスによる再投与が成功したと報告されている。(急性白血病の治療に関連する分化症候群、及び抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的薬」の「Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤」及び「抗悪性腫瘍療法に関連する肺毒性: 分子標的薬」の「ラパマイシン及び類薬」の項参照)

スクリーニング検査では、呼吸困難の初期所見を発見するために、呼吸困難の有無、断続的な聴診、連続的な胸部X線検査、及び連続的な肺機能検査を実施する。しかしながら、主に利用可能な検査に特異性がないため、肺毒性の早期証拠に対するスクリーニングの役割は依然として不明である。

多くの施設で、ブレオマイシンの投与を受けた患者、特に累積投与量が400単位に達した場合に、一酸化炭素拡散能(diffusing capacity for carbon monoxide: DLCO)の連続モニタリングが実施されている。数名のレビューアが、DLCOがベースライン値の60%未満に低下した場合、ブレオマイシンの投与を中止することを推奨している。米国食品医薬品局承認の添付文書では、ブレオマイシンの投与を受けている患者に対して胸部X線検査を頻回に実施することを推奨している。また、DLCOが治療前の値の3035%未満に低下した場合には、DLCOを任意に月1回測定し、投与を中止することを推奨している。しかしながら、他の多くの施設ではブレオマイシン療法中にDLCOをルーチンにモニタリングしていない。

18‐フルオロデオキシグルコース(FDG)陽電子放射断層撮影(PET)スキャン上の取り込みのモニタリングは、別の潜在的スクリーニング法として評価されている。いくつかの異なる抗悪性腫瘍薬で肺臓炎のある患者で、PETスキャンによる取り込みの増加が報告されている[32-36]。しかし、PETではリンパ管炎と薬剤性肺臓炎を鑑別できない。

要約及び推奨事項

抗悪性腫瘍薬に起因する肺毒性は比較的頻度が高いため、日和見感染、放射線療法に起因する肺障害、又は肺への転移を含む他の原因を入念に検討し、診断を確定する必要がある。(前述「序文」参照)

肺胞、間質、又は混合型の陰影、胸水、及び腫瘍浸潤に似た限局性の結節性硬化を含む、薬剤性損傷の様々なX線像パターンを記述する(1)(前述「画像診断」参照)

気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)の主な目的は、感染症、肺胞出血、及び基礎疾患である癌の転移性進展などの他の過程を除外することである。肺生検は、患者が進行性または重症の疾患を有し、肺臓炎の原因が不明の場合に適応となる。薬剤性肺疾患は、様々な組織学的パターンを引き起こしうる。(前述「診断」及び前述「病理組織学的検査」の項参照)

化学療法に起因する肺臓炎は、治療開始直後に肺臓炎が発現した場合に確信をもって診断することができる。呼吸器系への影響についての別の説明は得られておらず、推定薬剤の投与中止後に肺臓炎が消散したと考えられる。診断を確定することは、患者に劇的な結果をもたらし、非常に効果的な薬剤の投与中止につながる可能性がある。(前述「診断」及び前述「鑑別診断」参照)

抗悪性腫瘍薬による肺毒性を有する患者の大半は、治療選択の際に薬剤の投与を中止するが、代替治療のリスク、ベネフィット、及び有効性を注意深く比較検討しなければならない。例外は分化症候群であり、呼吸不全が切迫していない限り、分化誘導剤(すなわち、オールトランスレチノイン酸または三酸化ヒ素)を通常継続できる。(上記「投与中止」及び「急性白血病の治療に関連する分化症候群」の項参照)

支持療法として、注意深く滴定される酸素補給、気管支収縮(例、喘鳴、肺機能検査で気流閉塞)の証拠がある場合の吸入気管支拡張薬(例、β作動薬)、肺リハビリテーション、及び一部の患者での換気補助などが考えられる。被疑薬の投与中止以外に有効であると証明された特異的治療はない。(前述「治療」参照)

急性又は亜急性の重篤な肺毒性(例、安静時呼吸困難、酸素飽和度のベースラインからの低下率が90%以上、又は4%以上であること、又は臨床状態の悪化)が発現した患者に対しては、経過観察及び支持療法単独(グレード1B)ではなく、グルココルチコイドの全身投与を開始することを推奨する。我々は一般にプレドニゾンを4060mg/日で経口投与するが、切迫した呼吸不全の患者には最初にグルココルチコイドの静脈内投与を行ってもよい。(前述「グルココルチコイド」参照)

それほど重症でなく急速に進行する呼吸器障害を有する患者、及びグルココルチコイドに反応する可能性が低い肺の疾患経過(肺静脈閉塞性疾患又は通常の間質性肺臓炎など)を示唆する臨床像又は病理所見を示す患者については、グルココルチコイドの全身投与(グレード2C)を行わないことを提案する。(前述「グルココルチコイド」参照)

臨床効果が認められた場合は、グルココルチコイドの漸減を12ヵ月かけて実施する。(前述「グルココルチコイド」参照)

 

REFERENCES

  1. Camus P. Interstitial lung disease from drugs, biologics, and radiation. In: Interstitial Lung Disease, 5th, Schwarz M, King TE Jr (Eds), People’s Medical Publishing House-USA, Shelton CT 2011. p.637.

 

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