ご挨拶

小さな信頼をつないで、ひとりひとりの成長と家族の回復を支える社会をつくる。

得られるはずだった愛情や信頼、大切な他者を喪失し、時には「なりたかった自分」すら手放さなくてはならない。そんな時は、少し時間をかけてもいい。大切なのは、夜が終わることを信じること。

虐待や貧困、孤独などの経験は、私たちの人生に長期的な影響を与えます。特に、児童思春期に反復するトラウマを経験した人たちは、人を信じることや支援を求めることに困難を抱えやすく、トラウマの影響は仕事や大切な人間関係など、大人になってからの生活にも大きな影響を与えます。親のうまくいかない子育ての背景にも、このようなトラウマの影響があるかもしれません。一方で、心の痛みの中で見いだした光は、新しい人生の意味へと導いてくれることもあります。保健医療の支援者ができることには限りがありますが、心の痛みにとどまるとき、「ちょっと信じても良い」大人が面で子どもの成長と家族の回復を支える社会をつくりたい。見える世界や感じ方が違っても、共感できる人がいなくても、誰一人として孤立しない社会をつくりたい。そのために、私たちは研究を続けています。

研究の手法は、時代とともに変化します。私たちの分野では、既存の問いやアプローチに囚われずに自由に発想し、難しい社会課題に新しい選択肢を示そうとチャレンジしています。看護学、健康科学においては、ビッグデータの解析による実態解明や健康事象の予測、AIやVirtual Reality、Digital Twinなどの技術活用が進んでいます。子どもたちの生活環境も、これらの技術なしには成り立たない時代に突入します。私たちは、科学技術が、人と人とのリアルなつながりを深め、身体・心理・社会のすべてにおいて、人間性を発揮するためのツールになる未来を描いています。

時に、自分の中にある常識と闘いながら、難題の中にとどまり続ける。その中でしか開けない扉があります。看護学、医学にとどまらず、社会工学や情報工学など、東京科学大学にある様々な学術分野と交流しながら、思いもしなかったアイディアに出会える。心躍る瞬間があるから続けられる。皆さんも、一緒に挑戦しませんか?

当研究室は、看護援助に関する研究にとどまらず、精神保健看護に関する幅広いテーマで研究を行っております。看護ケアに関する尺度開発、インタビュー調査、精神保健領域でのプログラム開発およびその効果検証などをはじめ、幅広いテーマで質的・量的な研究を行い、精神看護や精神保健の質の向上に貢献することを目指しております。精神保健看護は、医療施設や地域だけではなく、職場、学校、行政機関などにおいても展開されます。心のケアに対する人々のニーズに応えられるよう、研究と教育を進めてまいります。

2026年2月10日
分野長 谷口 麻希