膠原病グループ

 膠原病グループでは、当教室の開講時より呼吸器疾患の研究に取り組んできた経験を生かし、膠原病の病態を免疫異常と炎症という観点から捉え、領域における課題克服に向けた研究に取り組んでいます。特に、膠原病の重要な臓器病変である肺線維症は、当講座の主要な研究テーマであり、また、関節リウマチにおいて、肺をシトルリン化蛋白に対する自己免疫誘導の場の一つと考えるモデルが提唱されていることを踏まえ、従来の肺線維症研究に自己免疫という視点を加えた新たな展開を目指しています。
 具体的には以下の事を重点テーマとしています。
1. 滑膜細胞研究
 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)では、滑膜細胞は腫瘍様の増殖を示し、血管新生とリンパ球や形質細胞の浸潤を伴う特徴的な病理像が認められます。増殖した滑膜は、リンパ濾胞形成を伴った慢性炎症性肉芽組織であるパンヌスとなり、軟骨を覆うように浸潤していき、骨軟骨移行部ではRANKLを発現して破骨細胞の分化誘導を促進し、骨破壊をもたらします。
 RA滑膜線維芽細胞は侵襲的な形質を獲得し、病態形成に重要な役割を果たすため、RA滑膜線維芽細胞のさらなる機能解明、制御法の開発は、新たなRA治療法の確立に欠かせません。
 (1)RA滑膜線維芽細胞の形質規定因子の探索
 変形性関節症(osteoarthritis:OA)患者の滑膜線維芽細胞を対照にして、RA患者の滑膜線維芽細胞の遺伝子解析をマイクロアレイ法にて行っています。特に滑膜線維芽細胞の増殖、炎症増幅、破骨細胞分化誘導に関わる因子の発現の違いに注目しており、サイトカインに対する反応性と合わせて研究を進めています。
 (2)RAにおけるthymidine phosphorylase
 チミジンホスホリラーゼ(TP)は、thymidineをthymineと2-deoxy-D-ribose 1-phosphateに分解する酵素ですが、RAにおける高発現と病勢との相関が報告されています。私たちは、RAの疾患病態におけるTPの役割について検討するため、TP遺伝子を導入した滑膜細胞における遺伝子発現をマイクロアレイにより比較検討することにより、TPによって発現が誘導される遺伝子群を同定しました。その中で、CXCL10はTNF-αやIFN-γ処理によりTPとともに遺伝子発現が亢進し、その発現はTP siRNAにより抑制されることから、TPはTNF-αとCXCL10の間に介在してCXCL10発現を調節することが明らかとなりました(Toyoda Y et al. Arthritis Rheum. 2014)(下図)。
TPによって誘導される遺伝子群

2.線維細胞と関節リウマチの関わり
 近年、肺線維症における新たなエフェクター細胞として、線維細胞の存在が報告されました。 線維細胞は骨髄由来のCD14陽性単球系細胞より分化し、高い抗原提示能をもつと同時にコラーゲンT、ビメンチン、フィブロネクチンなどの産生能を有する間葉系前駆細胞とされます(Reilkoff et al. Nat. Rev. Immunol. 2011)。
 当教室では、良性肺疾患、癌グループを中心に肺線維症及び肺癌の病態と線維細胞の関連性について研究を推進し、その成果を報告してきました。膠原病グループでは、線維細胞がRAにおける関節炎や合併する間質性肺疾患にどのように関与するかについて関節炎モデルを利用して検討しています。
 その際、線維細胞には特異的な細胞表面マーカーが見つかっていないため、生体内での解析が困難でしたが、最近私たちは、collagen I(α)2-green fluorescent protein (Col-GFP) レポーターマウス肺由来のCD45+CD11b+CD11cintermediateGr-1intermediateGFP+細胞が線維細胞の定義を満たすことを見出し、肺線維細胞を高純度に単離する方法を開発しました(Kawano H et al. Immun Inflamm Dis. 2021)(右図:Col-GFPレポーターマウスを用いた肺繊維細胞の同定)。
3.膠原病関連間質性肺疾患に対する新規治療法の開発
 膠原病では呼吸器疾患の合併頻度が高く、中でも間質性肺疾患は予後に影響を及ぼす重要な病態です。既存の免疫抑制療法に抵抗性を示す慢性進行性線維化を伴う間質性肺疾患は、呼吸器領域の中でも特に重点が置かれており、私たちもその克服に向けた研究を進めています。
 臓器線維症では、臓器に加わった傷害で誘導された炎症が免疫系により適切に終息せず、過剰な修復機転が持続した結果、線維化へと至るプロセスが複雑な悪循環サイクルをもたらし、進行性病態が形成されます。この進行を食い止め改善させるためには、悪循環サイクルにおける複数の作用点を制御する必要があると考えられており、線維化のエフェクター細胞として線維芽細胞のみならずT細胞をはじめとした免疫細胞の重要性が再認識されています。
 このような視点に基づき、私たちはJAK阻害薬の肺線維症に対する有効性についてブレオマイシン誘発肺線維症モデルを用いて検証し、膠原病関連間質性肺疾患の新たな治療法としての可能性を見出しています(第61回日本呼吸器学会学術講演会)。

今後も関節リウマチ、膠原病関連間質性肺疾患の疾患病態に多角的な検討を加え、新たな分子標的の探索とともに、診断・治療への展開へとつなげたいと考えています。
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