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学会誌

論文抄録

『医学教育』46巻・第3号【抄録】2015年06月25日

INDEX
特 集 女性医師のキャリア教育
1. 序 文
…北村 聖
特 集 女性医師のキャリア教育
2.1 女性医師キャリア教育における学習目標
…女性医師キャリア教育検討委員会報告
木下 牧子,小林 志津子,清水 貴子,石黒 直子,榊原 秀也,江頭 正人,守屋 利佳
特 集 女性医師のキャリア教育
2.2 学習時期に対応した到達目標の設定とその学習方法及び評価の一例
…女性医師キャリア教育検討委員会報告
石黒 直子,木下 牧子,小林 志津子,清水 貴子,榊原 秀也,江頭 正人,守屋 利佳
特 集 女性医師のキャリア教育
3.1 21世紀の医師キャリア教育の実践
秋田大学での低学年からの必修講義キャリア教育プログラムの構築
…蓮沼 直子
特 集 女性医師のキャリア教育
3.2 東京女子医科大学における取り組み
…岩﨑 直子
特 集 女性医師のキャリア教育
3.3 横浜市立大学附属病院での取り組み事例
多様な価値観をもつ職場文化の形成
…榊原 秀也
招待論文 ハーバード・メイシー・インスティチュート
「Program For Post-Graduate Trainees: Future Academic Clinician-Educators」から見た次世代の医学教育におけるリーダー育成の展望
…加藤 大貴
委員会報告 医学生イベント・シムリンピックについて
シミュレーション教育の理解と臨床能力客観評価のための教員連携
…日本医学教育学会第17期 教材開発・SP委員会
石川 和信,首藤 太一,小松 弘幸,諸井 陽子,阿部 恵子
吉田 素文,藤崎 和彦,羽野 卓三,廣橋 一裕
女性医師のキャリア教育
1. 序 文

北村 聖*

2012年7月27日慶應義塾大学で開催された日本医学教育学会の懇親会の際に,木下牧子先生にお会いして,医学教育学会としても女性医師が働きやすい社会の構築に取り組まねばならないと意気投合したのが「女性医師キャリア教育検討委員会」設置に向けての最初の第一歩であった.その時は,女性が人生を通して生きがいと働きがいを持って働けるそんな社会と職場の構築が大事だよねというところから始まり,女性だからできる医療,女性医師に向いている仕事も多いよね,などアイデアを出しているうちに,日本医学教育学会として最初に取り組むべき課題は女性医師のキャリア教育プログラムかなといった方向性まで話が及んだ.その後,学会理事会に諮り「女性医師キャリア教育検討委員会」が設置され,熱心な委員会活動の結果,この特集にあるような到達目標を始めとした成果を公表することになった.
そもそも,日本に西洋医学が採り入れられて以降,比較的早期に女性医師が誕生している.医術開業試験は明治8年に始まり,女性医師第1号の荻野吟子は明治18年に後期医術開業試験に35歳で合格し,本郷に産婦人科を開業している.また,シーボルトの娘,楠本いねも西洋医学を修めている(医術開業試験は高齢のため受験していない).東京女子医大の創始者である吉岡彌生は明治25年に医術開業試験に合格し,27人目の女医となり,教育者として東京女医学校を設立し,女性医師の社会的地位の確立に貢献している.東京女子医大は女性だけの医科大学で世界でも極めてまれであり評価されている.このように,我が国でも女性医師は社会から賞賛される風土がないわけではなかった.しかし,帝国大学を中心とした医科大学の整備が進み,我が国特有の制度である医局制度のもと医療が行われるようになると,医学界・医療界は男性社会になり,その中で活躍する女性医師はいわゆる「男まさり」の女性とされてしまった.
現代日本において,医師国家試験の受験者中女性が占める割合は優に30%を超えている(平成20年合格者の34.5%が女性,その後徐々に減少しており,平成26年は31.8%).その中で,未だに戦前の医局制度の名残のような男性社会の医療界と言っても過言ではないような状態が長く続いていた.女性医師が結婚・出産・子育てをし,医師としての人生を全うしようとすると,ものすごい努力を必要とした.あるいは,家庭か医学かのどちらかのパフォーマンスを下げるより仕方がなかった.「女医の子供は女医の母が育てる」と言われる時代が続いた.
21世紀になり,我が国は未曾有の超高齢少子化社会になり,社会的環境も女性の力をフルに発揮できる社会へと変貌しようとしている.その中で,医学界,医学教育界も女性の力が十分発揮し,生きがいを持って働ける社会の構築のために医学教育に新たに女性医師のキャリア教育を取り入れる必要があり,本号の特集が組まれた.女性が,過剰なエネルギーを必要とせずに生涯を通じて医師としての職務を継続するため,女性のみならず,男性にも女性医師のキャリアデザインに対する理解を深め,ともに社会を変革していく第一歩となれば幸いである.


*東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター,Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, The University of Tokyo
女性医師のキャリア教育
2.1 女性医師キャリア教育における学習目標

女性医師キャリア教育検討委員会報告
木下 牧子*1 小林 志津子*2 清水 貴子*3 石黒 直子*4
榊原 秀也*5 江頭 正人*6 守屋 利佳*7

要旨:
女性医師の継続的社会貢献のためには,育児支援,復職支援などの様々な取り組みと同時に,医師という職病の使命を正しく認識し,その責務を果たすための教育が重要である.女性医師キャリア教育検討委員会は,この目的のためにすべての医師が修得すべき能力を検討し,以下の5つの学習目標を設定した.1) 医師の社会的使命(プロフェッショナリズム),2) キャリアデザイン立案能力,3) 職業に対する多様な価値観を受容する能力,4) 支援に対する姿勢(支援は継続的社会貢献のための医師集団の責務であることの自覚),5) 社会的性差の認識とその対応能力.この5つの学習目標は医学教育にかかわるすべての組織が共有すべきものである.
キーワード:女性医師,キャリア教育,社会的性差,プロフェッショナリズム


*1 光風園病院,Kofuen Hospital
[〒752-0928山口県下関市長府才川2-21-2]
*2 東京医科大学総合診療医学分野,
*3 聖隷浜松病院,Seirei Hamamtsu General Hospital
*4 東京女子医科大学皮膚科,Department of Dermatology, Tokyo Women's Medical University
*5 横浜市立大学市民総合医療センター,Department of Gynecology, Yokohama City University Medical Center
*6 東京大学医学部教育・研修部,Department of Education and Staff Development, University of Tokyo Hospital
*7 北里大学医学部医学教育研究部門,Department of Medical Education, Kitasato University School of Medicine
女性医師のキャリア教育
2.2 学習時期に対応した到達目標の設定とその学習方法及び評価の一例

女性医師キャリア教育検討委員会報告
石黒 直子*1 木下 牧子*2 小林 志津子*3 清水 貴子*4
榊原 秀也*5 江頭 正人*6 守屋 利佳*7

要旨:
女性医師キャリア教育検討員会は,女性医師の継続的社会参加のためにすべての医師が修得すべき5つの学習目標を設定した.次のステップとして,それぞれの学習時期に応じた到達レベルを検討し,ロードマップを作成した.さらに目標到達のための学習方法と評価の案を作成したので提案する.
キーワード:女性医師,キャリア教育,ロードマップ


*1 東京女子医科大学皮膚科,Department of Dermatology, Tokyo Women's Medical University
*2 光風園病院,Kofuen Hospital
[〒752-0928山口県下関市長府才川2-21-2]
*3 東京医科大学総合診療医学分野,Department of General Medicine and Primary Care, Tokyo Medical University
*4 聖隷浜松病院,Seirei Hamamtsu General Hospital
*5 横浜市立大学市民総合医療センター,Department of Gynecology, Yokohama City University Medical Center
*6 東京大学医学部教育・研修部,Department of Education and Staff Development, University of Tokyo Hospital
*7 北里大学医学部医学教育研究部門,Department of Medical Education, Kitasato University School of Medicine
女性医師のキャリア教育
3.1 21世紀の医師キャリア教育の実践
秋田大学での低学年からの必修講義キャリア教育プログラムの構築

蓮沼 直子*

要旨:
秋田大学では2009年からキャリア教育を必修講義として導入してきた.本稿では自己理解を目的にワークを取り入れた初年次ゼミ,シナリオに基づくグループディスカッションやロールモデルの提示など3年生の参加型キャリア講義の実際について述べる.
さらに,実際にこのカリキュラムを導入する際に重要だと思われることについても触れたい.医療の現場で男女医師が協働し,それぞれのキャリア形成を尊重していけるような環境整備が重要であり,そのために必要な21世紀の医学部におけるキャリア教育の在り方について展望する.
キーワード:キャリア教育,男女共同参画,ワークライフバランス,ロールモデル


*秋田大学医学部総合地域医療推進学講座,Department of Community Medicine and Primary Care Development, Akita University School of Medicine
[〒010-8543 秋田県秋田市本道1-1-1]
女性医師のキャリア教育
3.2 東京女子医科大学における取り組み

岩﨑 直子*

要旨:
本学は建学の精神に基づき,社会に貢献する女性の医療人を育成してきたが,2001年には新たなアウトカムロードマップとして「MDプログラム2011」が整備された.この新プログラムにおいては,過去の良い点を踏襲しつつ,プロフェッショナリズムやキャリアに関連するカリキュラムが平易なレベルから高度なレベルへと累進的かつ縦断的に設計されている.中でも女性医師キャリア教育を個別行動目標とするカリキュラムとしてワークショップ2回,実習1回,講義1回が実施されている.これら4種類のカリキュラムの概要の報告により,本学における女性医師キャリア教育の取り組みの紹介とする.
キーワード:キャリア開発,プロフェッショナリズム,女子医学生,女性医師 


*東京女子医科大学内科学三(糖尿病・代謝内科),Tokyo Women's Medical University,
Department of Internal Medicine Ⅲ (Diabetes and Metabolism)
[〒162-8666 東京都新宿区河田町8‐1]
女性医師のキャリア教育
3.3 横浜市立大学附属病院での取り組み事例
多様な価値観をもつ職場文化の形成

榊原 秀也*

要旨:
慢性的な人手不足により逼迫していた産婦人科を取り巻く環境下で,平成19年に横浜市立大学の医学部生へのアンケートが行われ,過酷な労働環境を理由に産婦人科を志望しないことがわかった.
そこで,労働環境を整える取り組みを始めた.まず,平成18年度に文部科学省の補助金で「長期専門医コース」を設立し,育児中のシニアレジデントを補助金で雇用し,週1〜2回の外来勤務から緩やかにフルタイムへ移行させた.さらに,平成21年度に文科省の「周産期医療環境整備事業」を得て,育児支援プログラムを継続した.その結果,当科の入局者は平成20年度から増加した.
育児支援を支えるフルタイム勤務の医師のインセンティブの確保などが今後の課題である.
キーワード:育児支援プログラム,多様な価値観,インセンティブ


*横浜市立大学附属市民総合医療センター婦人科,Formation of culture with diverse values in the workplace
[〒232-0024 横浜市南区浦舟町4-57]
ハーバード・メイシー・インスティチュート
「Program For Post-Graduate Trainees: Future Academic Clinician-Educators」から見た次世代の医学教育におけるリーダー育成の展望

加藤 大貴*1

要旨:
医学教育は著しいパラダイムシフトの荒波にさらされている.米国では,教育に関する活動が一層重要視かつ評価されるようになり,専門にかかわらずAcademic Clinician-Educatorsというキャリアを積むことが可能となっている.Harvard Macy Instituteは1994年の設立以来,20年以上にわたり医療におけるリーダーの発達を促すためのプログラムを提供してきたが,2012年度からレジデントやフェローを対象に,将来の医療・医学教育を担うリーダー育成を目的としたプログラム「Program For Post-Graduate Trainees: Program For Future Academic Clinician-Educators」を立ち上げた.
今回,2014年12月6日から8日にかけて,ボストンのマサチューセッツ総合病院関連施設で開催されたこの3日間の密なプログラムに参加する機会に恵まれたので, プログラムの紹介と共に,Academic Clinician-Educatorsのキャリアに関する著者の考えを述べる.
キーワード:医学教育,臨床教育医,卒後教育


*1 マウントサイナイ・ベスイスラエル内科,Mount Sinai Beth Israel, Department of Medicine
医学生イベント・シムリンピックについて
シミュレーション教育の理解と臨床能力客観評価のための教員連携

日本医学教育学会第17期 教材開発・SP委員会
石川 和信*1,8 首藤 太一*2,8 小松 弘幸*3,8 諸井 陽子*1,9 阿部 恵子*4,8
吉田 素文*5,8 藤崎 和彦*6,8 羽野 卓三*7,9 廣橋 一裕*2,8

要旨:
シミュレーション教育への理解と普及をはかり,医学生の臨床能力の客観的評価システムを全国の医学部教員が連携して確立することを目的として,第46回日本医学教育学会大会の開催翌日に,医学生イベントとして,.シムリンピック2014を開催した.全国公募した12チーム36名の医学部5,6年生が参加し,シミュレータや模擬患者を活用した6つのステーション課題に挑戦した.各課題の構成,難易度,妥当性を臨床研修医の協力で検証し,実行委員会でブラッシュアップした.企画の構想,実行委員会組織,開催準備,当日の概要,参加者アンケート結果に考察を加えて報告する.
キーワード:シミュレーション医学教育,客観的臨床能力評価,シミュレータ,模擬患者,臨床推論


*1 福島県立医科大学 医療人育成・支援センター, Center for Medical Education and Career Development, Fukushima Medical University
[〒960-1295 福島市光が丘1番地]
*2 大阪市立大学大学院医学研究科 総合医学教育学, Department of Medical Education and General Practice, Osaka City University Graduate School of Medicine
*3 宮崎大学医学部 医学教育改革推進センター, Center for Medical Education, Faculty of Medicine, University of Miyazaki
*4 名古屋大学医学系研究科地域医療教育学, Department of Education for Community-oriented Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine
*5 九州大学大学院医学研究院医学教育学部門医学教育学講座, Department of Medical Education, Faculty of Medical Sciences, Kyushu University
*6 岐阜大学医学教育開発研究センター,Medical Education Development Center, Gifu University
*7 和歌山県立医科大学 教育研究開発センター Center for Educational Research and Development, Wakayama Medical University
*8 委員 Committee member, Educational Materials' Development Committee
*9 協力者 Collaborator

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