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生成系AIを活用した対話型がん相談サービス「ランタン」の可能性

佐藤 修さん(一般財団法人在宅がん療養財団 システムエンジニア(SE))
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佐藤 修さん

在宅がん療養財団システムエンジニアの佐藤修と申します。よろしくお願いいたします。本日は「生成系AIを活用した対話型がん相談サービス『ランタン』の可能性」についてお話をさせていただきます。

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まず、先ほど先生方からもご説明があったように、在宅でのがん療養を取り巻く課題があります。治療の長期化によって在宅のニーズが拡大し、さまざまな悩みや不安が出てきます。特に問題なのは、不確かな情報に振り回されてしまう機会が非常に多いことが挙げられます。

個別性への対応の難しさや心理的負担への配慮が課題

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これらの課題に対応するため、先ほど渡邊先生からご紹介いただいた「在宅がんウィット」というWebサイトを作りました。Q&A形式で専門家が情報を提供するサイトです。
このサイトを運営して感じた課題は、個別性への対応の難しさです。Q&AはFAQ(Frequently Asked Questions:よくある質問)のように一般化されやすく、細かい部分が自分に当てはまらないと感じるケースが多いようです。
また、固定された文章のため、利用者の理解度によってわかりにくい場合があります。
情報の提示の仕方では、検索すると治療から終末期までの情報が一緒に表示されるケースもあり、心理的な負担になることへの配慮も必要です。さらには、情報の受け取り方が、その人の状況や状態、時間軸で変化するため、がん相談支援センターなどの人による対応が最善ですが、気軽さや24時間対応にはこうしたWebサイトも役立ちます。
そのような中、2022年11月にChatGPTが世界的に話題になり、私もこれを情報伝達のツールとして活用できないかと考えました。

LLM(大規模言語モデル)とは

ここで生成AIと「LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)」について簡単に説明します。これはAIの一種で、文章の意味や文脈を理解して対話できるものです。2022年に一気に実用レベルに達し、オフィスワークや研究開発など、さまざまな知的作業分野で効果を発揮しています。電卓やパソコンの出現に匹敵するレベルのインパクトがあります。
用語の関係性についてご説明します。
「AI」、「生成AI」、そして「LLM」という言葉が出てきますが、AIについては皆さんすでにご存じだと思います。かなり以前から使われている言葉で、SF小説などにも登場していました。今回は特にLLMについてお話しすることが多いのですが、これらの言葉の関係性としては、生成AIが2022年にAIの一分野として登場し、AIの下位に位置づけられます。生成AIには、画像や動画を生成するものも含まれます。そして、LLMはその生成AIの中でも、特に言語処理に特化したもの、という位置づけになります。
ですから、一般的に説明する際には、すべてを「AI」と呼ぶことが多いと思いますが、もう少し詳しく説明する場合には、「生成AI」という言葉を使った書籍なども出てきています。「LLM」という言葉は、主にプログラミングに携わっている方々の間でよく使われる言葉かもしれません。ただ、これらの3つの言葉は、ほぼ同じものと考えていただいて構わないと思います。

LLMを使う際の現時点での注意点として、「ハルシネーション」(誤った情報)が発生することがあります。また、学習データによっては偏った回答をすることもあります。例えばディープシークは、中国の文化的背景を反映した回答を生成することが最近話題になりました。これは人間の価値観を反映した結果ではありますが、偏った回答には注意が必要です。また、技術進歩のスピードが非常に速く、最新の動向についていくのが一苦労だと実感しています。

「いつでも」個々に合わせ医学的に正しい最新情報の提供を目指して

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「在宅がんウィット」のデータを使ってAIで回答する「ランタン」を作りました。現在はテストバージョンを公開しています。これは冒頭で児玉先生が紹介されたものです。開発途中のため、サービスが断続的に止まることがありますが、「そのうち動くだろう」と長い目で見ていただければと思います。
このサービスが目指すのは、「いつでも」質問でき、その人の「個別の内容に合わせた」回答が得られ、「医学的に正しい最新の情報」を提供することです。
アクセス方法については先ほど児玉先生からご説明がありました。LINE版α、βとWeb版があり、αバージョンはLINEのインターフェースをそのまま使用しています。αバージョンの一問一答方式は児玉先生が示されたとおりです。詳細なアクセス方法は財団のホームページに掲載する予定です。

「ランタン」に質問する際のコツをいくつかご紹介します。まず「簡潔かつ必要な情報をバランスよく提供する」ことです。シンプルな内容はシンプルに、複雑な内容は詳細に質問することで、的確な回答が得られやすくなります。
シンプルな質問例では、DCF療法(食道がんに対してシスプラチン、5-FU、ドセタキセルの3種類の抗がん剤を併用して行う術前化学療法)の概要を知りたい場合は「DCF療法とは何ですか」があります。詳細な質問例は「50歳女性、進行性乳がんでホルモン療法を受けていますが、治療に伴う具体的な副作用とその管理方法について、生活面の具体例も交えて教えてください」といったものです。自分の年齢や性別、職業、ステージなども入れてもよいでしょう。また、期待した回答が得られなかった場合は、別の角度から質問してみることも有効です。
「ランタン」に固有の現象ですが、「月が綺麗ですね」という返答があります。これはサービスの趣旨と異なる質問(がん関連以外の質問など)に対する「エラー表示」です。例えば「明日の天気は?」と質問すると、このメッセージが返ってきます。

回答の真偽や偏りという生成AIの課題

LLM(生成AI)使用における重要な課題として、ハルシネーションの問題があります。これは誤った内容や創作的な回答を生成する現象で、もっともらしい回答が返ってくるため問題となります。原因は学習データの中で根拠の薄い情報をAIが補完してしまうことにあります。専門的な論文の引用を求められた場合や、最近の出来事について質問された場合に起こりやすくなります。また、言語間の表現の違い(英語の専門用語の日本語訳やカタカナ商品名など)でも誤りが生じることがあります。
これらハルシネーションを減らすため、専門家の監修とデータの信頼性向上に取り組んでいます。
また「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」という技術も導入しています。RAGは、LLMの学習データに含まれていない情報にも対応できる手法です。仕組みとしては、質問内容をLLMに渡す前に関連情報を検索し、その情報を質問に追加して処理する形です。これはカンニングペーパーを作ってLLMにカンニングさせるようなイメージです。この技術により誤った情報の出力を減らし、最新情報への対応も可能になるため、業界では広く使われています。

がん情報でのLLM活用のメリット・デメリット

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がん情報でのLLM活用には多くのメリットとデメリットがあります。デメリットもご覧のとおり多いです。ですが、リスクが完全に無くなるのを待っていたら永久に活用できません。LLMの活用は学びにもなり、さまざまな可能性があります。多くの場合、最終的には主治医への相談や診察があるため、その段階でヒューマンチェックが入ります。そのような特性から、0.1秒を争う金融分野よりは、比較的安全に活用できる可能性があるのではないかと考えています。

さまざまな専門機関との連携強化など-「ランタン」の今後の展望

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「ランタン」の今後の展望として、地域情報や治験情報、ゲノム医療への対応など、データソースの拡充を進めていきます。 また、各種専門機関や団体との連携強化や、デジタルデバイド(インターネットやパソコンのような情報通信技術を使える人と使えない人の間に生じる情報格差)対策も重要です。例えば、私の母親はペットロボットとよく会話していますが、そのようなデバイスに「ランタン」を搭載できればと考えています。

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まとめといたしましては、情報不足の中で、LLMやRAGを活用した「ランタン」はその解決の一助となり得ます。がん患者さんの相談相手として、また医療従事者の支援ツールとしての役割が期待できます。現在βバージョンを公開していますので、ご意見やご要望などをぜひお寄せください。
開発運営資金確保のためクラウドファンディングも実施しています。ご協力いただければ幸いです。お問い合わせは財団のホームページの「お問い合わせフォーム」から、またはEメールでも受け付けています。例えば「ランタンの回答で気に入らない点があった」「こういう点がよかった」など、どのようなご意見もお待ちしております。どうもありがとうございます。

渡邊:佐藤さん、ありがとうございます。それでは、第2部パネルディスカッションということで進めてまいりたいと思います。今回のフォーラムのテーマとなっておりますが、「いつでも頼れるがんの情報と相談先 探す、選ぶ、そして活用する」ということで、初めに、大阪国際がんセンター がん相談支援センターの池山晴人さんからお話をいただきたいと思います。池山さん、よろしくお願いいたします。

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掲載日:2025年03月25日
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