がん在宅療養フォーラム 2025 大阪
いつでも頼れるがんの情報と相談先 探す、選ぶ、そして活用する
開会あいさつ

児玉 龍彦さん
今日は寒い中お集まりいただきましてありがとうございます。今、ごあいさついただきましたが、私ども在宅がん療養財団でも、情報の「格差」にどう応えていくかということを非常に考えております。

実際に、私どもの今日従事しております事務局スタッフにも、がんの療養中の方が参加されていらっしゃいまして、その方の言葉を紹介しますと、「私はステージ4の大腸がんです。がんになって3年がたちました。大腸内視鏡で検査した当日にがんと告げられ、その10日後には手術、3日後には放射線治療と化学療法が始まり、3カ月後には肺転移のための手術、6カ月後には肝転移のための手術と、過酷な日々を送ってきました。がん発覚から1年半後、新たな転移が見つかり、医師からは余命宣告を受け、現在は延命のための化学療法を受けています。
がんになって感じたことは、がん治療は情報戦だということです。手術か、抗がん剤か、放射線か、あるいは何もしないのか、それを決めるのは医師ではなくて自分です。抗がん剤の副作用や体調不良に対応するのも自分です。もちろん医師からもさまざまなアドバイスはありますが」。これが実際に事務局で今日の準備をやってくださっている方の言葉です。

このようなことにどう対応したらよいかということで、今日のご報告する中身で、皆さま、もし可能でしたら、スマートフォンで二次元コードを読み込んでいただきますと、LINEに入れるようになっています。承認申請を求められますので「許可する」をタップしていただくと、「ランタン」を使うことができます。これは女性の患者さんの命名でして、がんになった時に足元を照らすような明かり、こういうのがよいということで「ランタン」という名前をいただきました。
それで、今LINEで入っていただくと、project lantern βバージョンという画面が出てきます。今までの「ランタン」のαバージョンは、1回ごとに質疑が切れてしまっていたのですが、βバージョンでは連続して質問ができるようになりました。これが今朝出来上がって、ここで発表するのが最初なのですが、そういうものができてきています。
音声でも入力できますし、文字でも入力できますが、例えば「卵巣がんのネオアジュバント治療とは?」と入れますと、ネオアジュバント治療に対する答えが出てまいります。さらに、「アジュバント治療とネオアジュバント治療はどういうふうに違うか」と質問すると、それもすぐに答えが出てくるようになります。いつでもどこでも誰でも、スマートフォンから何回でも相談できる仕組みというのを考えてつくっています。
もう一つキーワードとして考えていますのは、信頼できる情報をどう集めるかということです。これに尽力をかけて、いろいろな医師や看護師、薬剤師、ヒト研究者、情報科学者が集まって、渡邊理事長の財団でチェックした情報だけを入れるようにしました。また、著作権の問題もありまして、「がん情報サービス」は、国立がん研究センターの方に許諾を得て使っております。それに対してアメリカのNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインは、元々の原文をそのまま使うことはできないので、日本の実情に合わせて書き直したものを入れることで、著作権上クリアできるということを確認いただいております。そういうものを入れて、新たな希望をもたらせるようなものになればよいと思っております。

というのは、私も医師になって47年間、がんの患者さんを診てまいりましたが、驚くほどがんで死ななくなっています。特に最初は、白血病や悪性リンパ腫、血液のがん、これが薬と骨髄移植でかなり治療ができるようになりました。それから、早期に発見できるがんで、内視鏡などで取れるがん、こういうのもかなり治療ができるようになりました。そうすると進行がんの問題になった時に、よく「標準治療」という言葉が言われますが、これがガイドラインごとに難しい問題があります。昔は外科で、「拡大手術で取るか」「取り切れずに再発したら手がない」と言われた時代もありました。
それから、外科手術後に再発が心配な場合に、再発を防ぐ目的で行われる抗がん剤治療「アジュバント治療」というのが出てきました。ところが、そのアジュバント治療をやっていくと、手術のできない例にも術前の化学療法「ネオアジュバント治療」というのが出てきて、それがさらに進んでいくと、「ネオアジュバント治療」で術前に治療すると消えてしまっているような例もあります。
これはがん研究会有明病院のホームページから引用させていただきましたが、術前の、例えば食道がんや結腸がん、これは直腸がんですが、肛門近くのものに対して、こういう治療で消えてしまったらwatch and wait(経過をみて待機する)と。手術を前提にしたものではなしにいくということが書かれています。
それで日本のガイドラインとアメリカのガイドラインを比べてみますと、アメリカのガイドラインは雪崩を打ってネオアジュバント治療に移っていっています。卵巣がんや直腸がん、食道がんなどでは、ネオアジュバント治療が30~60回出てくるようなガイドラインに変わっています。ところが、日本では、現在の大腸がんのガイドラインでも、トータルネオアジュバント(術前に強力な薬物療法や放射線療法を行う)治療について、日本での治験成績がないからwatch and waitのようなことは「推奨できません」と記載されています。
ガイドラインというのは非常に大事なもので、国別のガイドラインというのは大体臨床の証拠をしっかり見ています。ですから、今、われわれがガイドラインの標準治療の枠を外してしまうことは、いろいろな怪しげなものがいっぱい入ってくる危険もかなりあるのです。ただ、世界のガイドラインを比べていくと、ガイドラインというのが劇的に変わっていって、日々新しいものが入るようになってきています。
今日の在宅療養フォーラムでは、「がんの療養」が2010年代以降、劇的に入院から外来へ変わって、「家での療養」になってきています。家で療養する際にどういう情報を手に入れるかということを、皆さまと共に考えていきたいと思っております。
多くの演者の方々に日本中から集まっていただいて感謝申し上げていますとともに、会場を提供していただき、準備していただいた大阪医科薬科大学の皆さまに深く感謝申し上げて、まず会を開始したいと思います。どうもありがとうございます。