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がん在宅療養フォーラム 2025 東京
いつでも頼れるがんの情報と相談先 探す、選ぶ、そして活用する

変わるがん医療とケア 変わらない情報とコミュニケーションの大切さ

渡邊 清高さん(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授)
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渡邊 清高さん

児玉先生、ありがとうございます。では、早速、本日のプログラムを始めさせていただきます。本日は170名を超える皆さまにお申し込みいただいています。現時点で、会場で20名ほど、オンラインでは100名近くの方にご参加いただいています。
では、まず「変わるがん医療とケア 変わらない情報とコミュニケーションの大切さ」ということでお話をさせていただきます。この財団の理事長を拝命いたしております帝京大学の渡邊と申します。

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ご参加の皆さまは、申し込みの時点で女性の方が若干多く、40~60代の方をはじめ、多くの皆さまにご参加いただいています。

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いただいたコメントです。「大量の情報が得られるようになった反面、信頼できる情報はどれか判断するのが難しくなってきたのでアドバイスをいただきたい」「信頼できる情報を得られたとして、全ての希望者が受けたい医療を平等に受けられる状況にあるのでしょうか」「希望している在宅療養が実現するための、訪問医療をしてくれるクリニックが存在しない現在の状況を打開できる方法」や、「がんのリハビリテーション」「緩和ケア」についてキーワードをいただいております。

信頼できる情報源と相談先を絞って活用する

情報というのはあるだけではなくて、実際にそれが患者さん、それを必要とする方に届いて初めて役に立つものになります。そのためにいろいろな関係の方が話し合ったり、議論したりして、よりよい医療を、在宅での療養を実現するというのがとても大切だと改めて感じます。
実は鍵は2つありまして、情報が「なくて困る」というよりも、むしろ「たくさんあり過ぎて、それも困る」ということが明らかになってきています。どれが正しいのか、あるいは誰に相談をすればよいのか、そして何が信頼できる情報なのか、ほかにももしかしたらよい情報があるのではないかと、また別の情報源を探すことがあるかもしれません。
結論を先に申し上げると、「あれこれ見にいかない」というのが非常に大事だと思っています。信頼できる情報源を、ある程度絞り込んだ上で、そこをしっかりと活用します。情報源と相談先を絞るわけです。担当医はあなたを知る情報源であり、そして支えとなる場を活用していきます。情報のための情報ではなくて、それを役立てて、ご自身の治療や療養に活用すること、行動につなげることが非常に大切だと思うわけです。

「2人に1人ががんになる」がん医療の現状

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がん医療の現状について、簡単に触れていきたいと思います。これは先ほどもお話がありました年間38万人の方ががんで亡くなっていて、最新のデータが公表されておりますが、年間およそ100万人の方ががんと診断されています。「2人に1人ががんになる」とよく聞くフレーズですが、男性ではおよそ3人に2人が何らかのがんにかかると言われていますし、女性ですと49%と見積もられています。

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その中で、こちらはがんの生存率と言われるものですが、がんと診断されている方のうち5年後、存命されている方の割合を示したものになります。最新のデータは、10年以上前の2014~2015年に診断された方の生存率です。ちょうどこの頃、免疫チェックポイント阻害薬がそろそろ使えるようになる時期ですし、分子標的治療薬も肺がんなどで実用化されつつある時期ですので、今の医療よりも随分前だと、がん治療をしている者は感じます。おそらく今はもっとよくなっていると期待されますが、比較的予後がよいとされている胃がん、大腸がん、乳がんはその時点でも5年生存率が6割を超えています。

がん医療の進展に伴い、治療の考え方も変化

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がんの治療は組み合わせです。手術、抗がん剤(薬物療法)、放射線治療の3つを組み合わせて、それを下支えするようにがんの支持医療(副作用や後遺症に対するケア)、痛みや心のつらさに対する全人的なアプローチということで緩和ケアが行われます。
手術についてもこのように、ロボット手術や低侵襲の体の負担が少ない治療もいろいろと開発されています。放射線療法も、病気とそうでない部分を当て分けるという技術が進歩していますし、抗がん剤については分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬、がんのゲノム医療など、日々、新しい医療や治療が開発されていて、患者さんにも適用されています。「チーム医療」や「集学的医療」で、よい治療を最適なタイミングで患者さんに適用する、ということが可能になってきています。

そうした中で、早期がん、進行がん、そして末期がんとかつては言われていました。ただ、最近はあまり「末期がん」という言葉を聞くことも少なくなってきて「高度進行がん」と言うようになってきています。それは、必ずしも「がんが進行していること」=「末期」ではないということと、集学的治療、緩和ケア、支持医療の進歩によって、生活の質(クオリティー・オブ・ライフ:QOL)が改善し、治療の有効性や安全性が証明されることで、いろいろな戦略が取られるようになってきていることが背景にあります。

患者さん・ご家族の生活の質を維持・向上させる医療やケアが進歩

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こちらはがんの治療と副作用を図示したものですが、例えば吐き気やかゆみ、だるさはご自身が自覚できる症状です。一方で、検査しないとわからない副作用も中にはあります。自分でわかる副作用は、ご自分で声に出して発しないと人に伝わりません。不安や心配ごとも同じです。言わなければ「なかったこと」にされてしまいます。そうした意味で、言わないと伝わりませんので、「傾聴」という言葉がありますが、医療者として聞き出す、引き出すという技術も大事ですし、しっかりと耳を傾けることも重要です。一方で「言うと何かうまくいっていないのではないか」「心配されるのではないか」「先生が怒るのではないか」と心配して話せなくなってしまうことがないように、患者さん・ご家族が言葉に出して言っていただきやすい環境を整えることも大事だと感じます。

「支持医療」は、がんの治療に伴う副作用や後遺症をなるべく軽減させるためのさまざまな医療やケアを指します。こういった医療が進歩することによって、ただ後遺症や副作用が軽減できるだけではなくて、治療そのものを安全に行ったり、効果的に実施できたりします。例えば抗がん剤を効果的に、十分な必要量を使うことによって、治療成績や生存期間が改善したという研究成果も出てきています。
副作用を軽減することは、しばしば「守りの医療」と考えられます。一方で、例えば食事がおいしく食べられるようになったり、必要以上に安静にしていたり、運動機能を十分使うことができなくて体が弱ってしまうことがないように、リハビリテーションをしっかりすることで体力や筋力を付けて、運動ができたり、より社会的に健康に暮らすというようなこともできるかもしれません。そういった「攻めの医療」に変わってきていると言えると思います。いろいろながん医療の場面で、診断された初期の段階から進行した段階、あるいは終末期も含めて、患者さん・ご家族の生活の質、生命の質を維持・向上させる医療やケアが進歩していることをぜひ知っていただきたいと思っています。

療養の場も随分変わってきました。診療所や病院、そして、ケアを支える在宅療養の訪問看護ステーションなど、そういったさまざまな事業所も連携しながら、患者さんと手を携えて、いろいろな場面を下支えすることが非常に大切になってきています。そうした中で、さまざまな専門性を持った医療スタッフ、そして、介護や福祉を支える関係者の方が、患者さん・ご家族の方と共に医療やケアをよりよくしていく「チーム医療」が非常に大切になってきています。

多職種が治療前から治療後のフォローアップまで関わる

続いて、「情報が大切」というお話に移ります。これは、一つの事例です。65歳の男性で、血圧やコレステロールが高いなど、さまざまな合併症を持っていらっしゃる方が、何となく最近食欲がなくて、咳(せき)が増えてきて、検査を受けたところ、肺がんと診断され、近くのがん診療連携拠点病院にかかられて、手術と抗がん剤治療を受けました。「大変だったけれど、これで家に帰れる。そろそろ一服もしたいし、しょっぱいものも恋しい」ということですが、実は治療を受けておしまいではなくて、結構、患者さんは忙しいです。治療の前も事前に準備をしたり、手術が終わったあとも、しばらく横になって安静ということはなくて、翌日から「さあ、動きましょう」とリハビリテーションをしたり、「塩分は少ない食事にしましょう」と栄養指導を受けたり、「たばこはそろそろ卒業ですね」と禁煙の説明を受けたり、というように忙しく過ごされるわけです。
その後もリハビリテーションに移行して、普段の生活がより健康的に過ごせるようにと、はたらきかけられます。治療の間だけではなくて、治療の前、あるいは治療のあとにも、いろいろな職種の方が、この患者さんの普段の生活のこと、治療後に何か在宅での不安なところはないか、お薬の治療はそのまま続けられるのかなどについての評価やフォローアップがされることになります。

信頼できる情報をまとめた「がん情報サービス」

信頼できる情報源をいくつかご紹介していきます。まず、国立がん研究センターの「がん情報サービス」です。緑の色調の落ち着いたデザインのページですが、こちらはがんと診断された時、いろいろな情報が多くある中で信頼できる情報をまとめたサイトになります。
例えば、吐き気や嘔吐についてまとめたページは、吐き気・嘔吐について知識として知っていただく情報だけではなく、実際にご家族・ご本人が活用していただけるようなヒントや、それに対する対応について、「ご自分でできること」「こうなったら医療者に相談しましょう」、あるいは「医療機関に連絡したほうがよいかもしれない」と背中を押していただけるような情報をわかりやすく、そして温かみのあるかたちでまとめられたサイトです。ぜひご覧いただければと思います。

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こちらは、在宅や療養の時に活用していただきたい情報ということで、開設してちょうど10年になりますが、「がんの在宅療養」というサイトがあります。こちらの『がん患者さんとご家族をつなぐ 在宅療養ガイド』も2024年にリニューアル版をつくったところで、本でも入手できますし、インターネットで全文、無料でご覧いただくこともできますので、ぜひご覧いただければと思っております。

先ほど児玉会長からもご紹介いただいた「在宅がんウィット」、あるいは「ランタン」は、こういった情報を信頼できる情報源として活用して、皆さんにわかりやすいかたちでご質問に対してお答えするという仕組みになっています。

こういった情報の中で大事なことは、情報がそこにあるというだけではなく、どのようにそれが届くかということも、アンケートの中で非常に強調されてお教えいただいたところです。つまり、情報がインターネットで多くあるということではなく、例えばその情報が医療者から紹介されたり、あるいは病院の中に情報が置いてあって、手を添えて勧められたり、あるいは薬局や訪問看護ステーションで、その情報について相談に乗れたりするといったことも非常に大切だと、情報の「中身」に加えて「届け方」についてのご意見、ご提案もありました。 こういった情報が日々、活用できることと、身近な情報が整っていることも非常に大事です。

「情報をつくる」「つながる」「皆で支える」

10年以上前、私が国立がん研究センターにおりました時に、いろいろな都道府県の皆さま方と情報づくりをさせていただいています。こちらは43道府県、残念ながらまだ東京ではつくられておりませんが、ぜひ身近な地域での情報で「どのような情報があるのか」、あるいは「このような情報があって役に立った」、あるいは「このような情報がなくて困った」などがうまく地域の方や相談の関係の方に届き、よりよい情報につながり、実際の患者さんがそれを活用して、サポートそのものも充実していくといったサイクルを回していくことが大切だと思います。

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情報をつくる、そしてつながって、皆で支えるというサイクルがうまく回ることによって、情報が実際に目に見えるかたちで、患者さん・ご家族に届いていくというサイクルが非常に大切だと感じています。

情報を知ることは、下痢に関する知識として下痢で起こる現象や、それに対するお薬などの治療の情報は比較的わかりやすいのですが、当事者の方として知りたいことは「では、そのための、おむつはどこで手に入るのか」「そのための何か受けられるサービスはないか」「介護スタッフにどのように伝えればよいのか」、そのようなことが出てくるかもしれません。こういったことを「よくある質問と答え」というようなかたちでお届けできるサイトを準備しておりますし、先ほどご紹介いただいた生成系AI(人工知能)を使った情報発信、がん相談も技術的に可能になっています。ぜひ今日も、ぜひ目に見えるかたちで患者さんのサポートにつながる、そのような仕組みについて議論できればと考えています。

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がん医療の今と情報の大切さについて、ご紹介をさせていただきました。早い時期のほうが対応の選択肢は広がります。必要な人に届けるためには情報と、それに加えてコミュニケーションが非常に大切になります。私からは冒頭、がん医療とケアについてお話をさせていただきました。では、これから基調講演ということで、順番に情報やコミュニケーション、そしてサバイバーシップについて、一緒に皆さま方と考えてまいりたいと思います。
後ほどのディスカッションでも引き続き議論をしてまいりたいと思います。ご清聴いただきありがとうございました。

それでは、髙橋都先生からお話をいただきたいと思います。髙橋都先生、ご発表をお願いいたします。

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掲載日:2025年03月10日
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