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がんサバイバーシップとは何か ~“その後”を生きるための情報と相談~

髙橋 都さん(NPO法人日本がんサバイバーシップネットワーク代表理事、岩手医科大学客員教授、東京慈恵会医科大学客員教授)
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髙橋 都さん

皆さまこんにちは。オンラインの皆さまもご参加ありがとうございます。NPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの髙橋都と申します。今日はこのがん在宅療養フォーラムの中で、「情報と相談窓口」をキーワードに「がんサバイバーシップとは何か」についてお話しさせていただきます。実は8年前に私は在宅で夫を看取っておりまして、その時の経験も踏まえて情報と相談にも言及したいと思います。また、情報をつくることの大変さも前職の国立がん研究センターで経験しておりますので、そこも踏まえて、第2部のディスカッションにもつなげられたらと思っております。

がんが始まっても人生は終わらない

私は元内科の臨床医ですが、どうしても社会的な視点から医療を考えたくなり、途中からサバイバーシップの研究のほうに軸足を移した経緯がございます。30年ほど前にニューヨークに情報収集に行った時、印象深い言葉に出会いました。ソーシャルワーカーさんたちが中心になっているCancer Care Inc.という非営利専門家団体のスローガン「がんが始まっても人生は終わらない」というものです。本当にそのとおりだと思いました。

「サバイバル」という言葉をがんと関連付けて初めて使ったのは、32歳の時に縦隔胚細胞腫と診断されたアメリカ人の医師、フィッツヒュー・モランという人です。彼の短いエッセーが1985年にニューイングランド医学雑誌(New England Journal of Medicine)に掲載され、大きな反響を呼びました。
彼は「医師として、がんのことを『治癒したかしないか』という二分法で考えていたけれども、自分がなってみたら全然違った。がん体験は『診断後を生きるプロセス』と捉えるほうが実感に近いし、治るか治らないかにかかわらず、結局、体験者がその途中で共有する課題がある」と書いています。

サバイバーシップケアは“その後”を生きていくこと全般に対する多角的なケア

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エッセーのタイトルは「Seasons of Survival」です。彼は「その後を生きていくには季節がある」と書き、診断を受けて驚きながらも治療に立ち向かう「Acute survival、急性期の季節」、そして、その治療が一段落したあと様子を見ていく「延長期の季節」、さらに、もう治ったかと思われるような「永続期の季節」と季節を分けました。その後、彼の仲間が「治らずに人生の締めくくりを迎える、そういう季節もあるだろう」と述べて、「サバイバルの最期のステージ~死にゆくこと」を付け加えています。

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このように、その後を生きていくサバイバーシップには時間経過があります。「サバイバーシップケア」というのは、がんになった“その後”を生きていくプロセス全般に対する多角的なケアだと私は考えています。少し前には、サバイバーシップケアとは、治療終了後から人生を締めくくる時期までの、「間の時期」とよく言われていました。この「間の時期」に患者さんは病院に来ないことが多いので、彼らの暮らしに一体何が起きているのかよくわからず、いわばブラックボックスだったわけです。オーストラリアの学会でも「補助療法や初期治療を終えた時がサバイバーシップケアの出発点である」と言われていました。

診断後の経過の多様化により生じるさまざまな問題

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ですが、昨今は治療が長く続くようになりました。診断後の経過も多様化して、慢性がんや、治らないけれども長く生きられる長期生存難治がんをより意識する必要性が生じています。先ほど渡邊先生から「高度進行がん」という表現もご紹介がありました。このように、サバイバーシップは決して「間の時期」だけの問題ではない、最初から最後までがサバイバーシップなのではないかと、最近では言われてきています。

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診断後を生きる過程では本当にさまざまな問題があります。長く生きられるようになったからこその長期的なフォローアップケア、5年も10年もたってから出てくる循環器障害や認知障害などの併存疾病。さらに健康格差、就学・就労、経済困難。がんになったあとによく食べ、よく運動するための健康行動など、対応すべき課題はさまざまです。

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学術団体の動きもここに挙げたように、がんと生殖、サポーティブケア、研究グループ、腫瘍循環器学会、世代別ではAYA(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])がんなど、いろいろ出ています。本当は、これらは全部サバイバーシップに関連する学会なので、横串を刺して「日本がんサバイバーシップ学会」というのがあればよいと私は思いました。国立がん研究センターにいた頃にそれを立ち上げられないかと画策したこともあったのですが、あまりにも広くて無理でした。これらの学会の中心になっている方々が「これはサバイバーシップだ」と考えて動いているのかどうかがよくわかりませんが、これはサバイバーシップケアなのです。

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世界的によく読まれている『Handbook of Cancer Survivorship』というテキストがあります。上にいる男性はMichael Feuerstein先生という著名な計量心理学者ですが、脳腫瘍のサバイバーです。ご自身の発病をきっかけにして、サバイバーシップケア、特に就労問題に取り組んだ方です。下はLarissa Nekhlyudov先生、ハーバード大のプライマリケア(普段から何でも診てくれ相談にも乗ってくれる身近な医師による総合的な医療)医です。彼らが中心になって第2版が出ました。それの翻訳を2022年に出しておりますので、お手に取っていただければと思います。

病院の選択から在宅療養を決めるまで

さて、わが家の場合のその後の情報と相談なのですが、いろいろ山がありました。
まず、夫は胆管がんになる前に一度、甲状腺がんを患っておりまして、それは典型的な「切れば治る」がんでした。ですが、病院の選択には非常に迷いまして、その時に私が取った行動は、信頼できる医師に相談するというものでした。甲状腺がんの手術はどこでもできます。ですが、「どこがよいですか」と言ったら、皆がいろいろと「ここがよい」と教えてくれました。加えて「ここはよしたほうがよい」と教えてくれた人もいました。人によって物事の評価は違いますから、私はそれまで人からそういう相談を受けた時に「自分はここがよいと思う」というアドバイスをしないほうだったのです。でも、友人たちの助言に助けられたので、その後は同様の相談を受けたら自分なりの意見を伝えるようにしました。それから、医療者とのコミュニケーションですが、これもいろいろありました。「え、そういうことする?」と思うような医師もいましたし、それをカバーしてくれる医師もまたいました。

夫は大学の教員をしていたのですが、年度を通して機能できるかどうかを考えた時に「来年度一年間を通して働けるでしょうか」と率直に主治医に聞きました。それに対して主治医は、非常にはっきりと、かつ配慮をもって「いや、来年一年は通して仕事はできません。こんなこと、あんなことがあると思います」と正直に言ってくださいました。状況を予想するのは必ずしも簡単ではないのですが、はっきり言っていただいたおかげで夫はかばんを置く決心がつきました。さらに治療をやめる時も、「延命のための治療は限界に来ました」と、非常に配慮をもって明快に言っていただきました。そのため、家に帰る決心がつきました。「治療しないのであれば、病院にいる必要がない」。本当にシンプルだったのです。

さらに、在宅療養のクリニックと契約したわけですが、それを決める時もまた友人に聞きました。信頼する緩和ケア医に「うちまで往診してくれるクリニックでいいところがあるかな」と聞いて、いくつか挙げてもらったのですが、その時にその友人が非常に強く言ったのは「とにかく先方の医師に早く会いに行ったほうがよい」ということでした。その時点ではまだ治療をしていましたので、会いに行く気は全然なかったのですが、「とにかく一度会って、話をしたほうがよい」と強く言われたのです。帰宅の数か月前でしたが、会いに行っておいて正解でした。治療をやめようと決めたその日、お会いしていたクリニックのドクターに連絡をしたら、翌日には病室に来てくださって、退院後の段取りをつけることができたのです。ですので、単に医療機関の情報があればよいということではなく、その情報をどう使うのか、どうコミュニケーションをとるかが重要だと私自身は思っています。

情報はいろいろな所で手に入りますし、相談もいろいろな所でできます。「どこで相談したらよいですか」と言われたら、やはり私も「まずはがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに行きましょう」とお伝えすると思います。

地域で利用できる「第三の場」

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その一方で、病院でも自宅でもない第三の場というのが最近かなり、街の中にできてきました。民間だとマギーズ東京さんや、暮らしの保健室さんなどがあります。たとえば、私は港区立がん在宅緩和ケア支援センター「ういケアみなと」に非常勤で勤務しているのですが、博物館も入っている複合施設の5階の一角にあります。

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「ういケアみなと」のメインの活動は、看護師やソーシャルワーカーによる個人相談なのですが、プラスαでいろいろな活動をしています。コンサートやアピアランス教室、栄養セミナー、運動教室など、いろいろです。情報を得たり、勉強会で学んだり、集ったり。そして、何もしないでただ休んでほっとすることもできます。そういうこともまた必要ではないかと思います。

NPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの取り組み

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私と仲間が立ち上げた小さなNPO法人、日本がんサバイバーシップネットワークの話も少しさせてください。この団体は、専門家が非専門家を一方的に助けるのではなく、さまざまな人が集まって、それぞれの立場から活動を生み出し、自らの力を蓄える交流の場をつくることを大切にしています。さまざまなテーマの講演会で学んだり、レクリエーションで自然観察会などを楽しんだり、情報発信をしたりしています。

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これは「サバイぶらりー」といって、サバイブとライブラリーを掛けたのですが、療養に関連するおすすめ本を会員が数行で紹介している仮想図書館です。

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それから、「がん患者さんが使える全国地方自治体補助金等ガイド」にも取り組んでいます。全国の地方自治体は、都道府県と市区町村をあわせて1,700以上あります。これらの自治体が提供する10種類の補助金を検索してまとめていまして、今、1都8県まできました。あと3年で全国を網羅しようという壮大な計画を立てています。3月15日には「時代が回るその中で~時が癒してくれるもの、くれないもの」というセミナーを開催します。会場の皆さま、後ろにちらしがありますので、お取りいただければと思います。

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最後のスライドです。“その後”を生きていく時にはさまざまな山があります。情報や相談先を調べ、最適なものを見つけだすことは楽ではないと思います。相談できるのは「相談してもよい」と思う問題ですし、相談する相手も選びます。
私も医療者ですから、相談されたこともありましたし、これからもあるでしょうし、情報もつくるわけです。職業的な相談者の大変さ、正確な情報をつくる大変さもあると思います。相談を受けることは感情労働だし、共感疲労もあるでしょう。医者には怒れなかったことをがん相談支援センターに行って怒る患者さんは山ほどいらっしゃいます。ですから、情報や相談場所はあればよいというわけではなく、難しさもあると思います。それでも、情報や相談場所があることの尊さ、ありがたさを感じます。情報や相談がよりよくあるためにはどうしたらよいか、みんなで考えていかねばなりません。これは決してがんだけの問題ではないと考えております。以上です。

渡邊:髙橋都先生、ありがとうございます。それでは続きまして、がんの当事者の視点ということで、轟浩美さんからお話をいただきたいと思います。では、轟さん、よろしくお願いいたします。

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掲載日:2025年03月11日
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