がん在宅療養フォーラム 2025 東京
いつでも頼れるがんの情報と相談先 探す、選ぶ、そして活用する
開会あいさつ

児玉 龍彦さん
皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました、在宅がん療養財団の会長をしております児玉と申します。本日は多くの方にご参加いただき、心より感謝申し上げます。
在宅がん療養財団では、がんに関わる情報を一般の方に伝えるということを進めたいと思って、今、鋭意努力をしております。

がんの情報の難しさについて、これは実際に事務局で、私どもの「ランタン」というサービスに関わっている女性の方の書かれていたことなのですが、がんになって体験されたのは、これでもか、これでもかとがんの様相が変わってきます。「早期がん」と言われたあと「進行がん」になり、「進行がん」と言われたら「転移」と言われ、「転移」と言われたら「薬剤耐性」になったと。そういうことが次々に起こってまいります。彼女の場合は、当初は、余命が「あとこれくらい」と厳しく言われていたのが、実際にはいろいろな治療をやりながら、驚くほど効果が上がっています。実際に今日ご説明する「ランタン」という情報サービスのお手伝いを、ここ2年ほど日常的にやってくださるほど生活の質が改善されています。そういう方もいらっしゃいます。
このようにがんが次々と変わり、治療もケアも進化している時に、私どもでは生成AI(人工知能)を用いた相談サービス「ランタン」できめ細かく答えたいと思っております。今、一番苦労しているのは「生成AIの一番の問題である、ハルシネーション(事実に基づかない情報や、真偽が確認できない情報を生成する現象)を克服しよう」ということです。信頼できる情報を集め、提供しようと努力しております。今日、会場と全国でご覧の方も、一番新しく出来上がったβバージョン(試作版)をお試しいただけますので、よろしかったらこの二次元コードを読み込んでください。次に、左上にあるカワウソのロゴをクリックしますとサービスページに入れて、プロジェクトのβというのでLINEでログインしていただき、「許可する」をタップしていただくと、一番新しい「ランタン」を使うことができます。
今までの「ランタン」のαバージョンは、質問が1つずつ切れていました。それがβバージョンになると、連続して質問でき、より正確な答えを得ていただくことができます。ただ、連続した質問に、連続して答えていくには、大量のデータがダウンロードされ計算機代が非常にかかってしまいます。現在は日本財団にご支援いただいて、テスト実証試験ということで計算機代金を助成していただいております。

今、がんになって難しいのは、突然、「手術にしますか。放射線にしますか。薬剤にしますか」と聞かれることです。その選択肢の意味もわからず、何を相談してよいかわからない、というところから始まります。対話型の「ランタン」というサービスの名前は、がんと言われた時の実際に感じている気分が、夜の森の中で道に迷って足がすくんでしまっているようなもので、そうした時に、足元を照らすように相談できるということで「ランタン」と名付けられています。スマートフォンから何回でも相談できますので、こうした疑問にいつでも気軽に相談できる、ということを重視しています。
「ランタン」は、がんと言われて、最初にどうしようとすくんでしまっている時というよりは、少し時間が経って自分の向き合っていることについて「情報が欲しい」と思いだした方に一番向いているのではないかと私自身は感じております。患者さんや周りの方が情報を得たいが、「何が信頼できる情報かわからない」という時に、「ランタン」が目指しているのは、各専門の専門家の協力のもと、「ランタン」で答える情報が信頼できるものに限られるように、人力で年末年始もなくコンテンツを充実するという作業をやっております。
私も臨床医になって47年目になりますが、治療法は確実に進歩し、驚くほどがんで死ななくなっています。ところが、そうは言っても年に38万人の方が亡くなっていまして、その多くの方がきちんとした情報にたどり着くことができていないという課題があると思っています。よく「標準治療」と言われますが、今、日本とアメリカの標準治療を比べて、どちらがよいかを見ていくと、やはりかなりの違いがあります。

どのようなところが違うかと言うと、標準治療で、昔、外科手術で切除することが最大の目標だと言われていた時代がありました。目いっぱい切り取るという方向が一つの標準でした。それに対して、外科手術のあとで再発が心配な場合に、再発を防ぐ目的で行われる抗がん剤治療「アジュバント治療」というのがガイドラインで入ってまいりました。さらに最新の、アメリカのNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインと日本のガイドラインで見ますと、アメリカのガイドラインのほうは「ネオアジュバント治療」ということで、術前から化学放射線療法などを行って、当初は手術できない場合でも手術できるように、「コンバージョン」(もともと切除不能な進行がんと判断されたがんが薬物療法などにより縮小・消失することで、方針を切り替えて根治切除を目指した手術を行う治療)を行うというようなことがどんどん出てきています。
それが日本ではガイドラインで、まだトータルネオアジュバント(術前に強力な薬物療法や放射線療法を行う)治療などについて、日本での例が少ないから「推奨できません」と書かれています。しかし、例えばがん研究会有明病院のホームページで見ますと、「私たちの施設ではwatch and wait(経過をみて待機する)として、見ながら手術方針を決める専門家が大勢いる」ということが書かれています。標準治療の中でもこのようないろいろな取り組みが生まれているということで、「ランタン」は患者さんのためになる情報をいち早く提供したいと考えています。
最後に、最善の治療を提供するには、このようなフォーラムで渡邊先生を中心に全国で進めていただきたいと思っております。実際の医療として提供するのには、その地域での人と施設がなくては提供できません。地域ごとの実情に合ったものを提供するために、今日のこのフォーラムも開かせていただこうと思っております。これからさまざまなご議論があるかと思いますが、積極的にご意見をお寄せいただいて、議論に参加いただけたら幸いだと思っております。それでは渡邊先生、よろしくお願い申し上げます。