がん在宅療養フォーラム 2025 東京
いつでも頼れるがんの情報と相談先 探す、選ぶ、そして活用する
生成系AIを活用した対話型がん相談サービス「ランタン」の可能性

佐藤 修さん
私は、一般財団法人在宅がん療養財団、システムエンジニアをしております佐藤修と申します。私のバックグラウンドからまずお話ししますと、情報系、情報システム部などの仕事をしてまいりまして、がんなどのいろいろな医療情報に関わるのはここ4~5年で、まだまだ若輩者でございます。ご指導、ご鞭撻(べんたつ)のほど、今後ともよろしくお願いいたします。
本日の内容です。まず簡単に「在宅でのがん療養を取り巻く課題」、その後、ウェブサイトの「在宅がんウィット」の紹介をして、「LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)」といって、生成AIといったり、AIといったり、いろいろ呼び方がありますが、AIと思っていただいて大丈夫です。このお話の中ではLLMとしておりますが、その概要をお話しし、その後、「ランタン」の話をして、「ランタン」で使っている技術、「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」の解説をします。「がん情報でのLLM活用のメリットとデメリット」をお話しし、あと「『ランタン』の可能性と展望」をお話しして、まとめに移りたいと思います。
患者さん・ご家族が抱える疑問を多角的にわかりやすく解説

在宅でのがん療養を取り巻く課題について、このあたりの話は先のご講演でのお話にもあったと思います。在宅療養のニーズが非常に拡大してきているという話です。多様な悩みや不安を抱えますが、情報不足とコミュニケーションの問題があり、特に不確かなインターネット情報に振り回される問題があります。例えばウェブの検索で「がん ステージIV」と入れると、もう恐ろしい検索結果になってくる状況です。

これらに対抗するというわけではありませんが、「在宅がんウィット」という、がん患者さんやご家族が抱える疑問を多角的にわかりやすく解説するウェブサイトを運営し始めました。これが2021年ごろです。
医療・看護・介護の各専門家が執筆・監修をしておりまして、結構、多岐にわたるテーマについてQ&A形式で表示して、あいまい検索ですぐに回答にたどり着けるようなシステムを取っております。読み進めていって、結局、最後にたどり着いたのは「商品を売るページだった」などということがないように、きちんと中立的なかたちで運営しております。
個別性への対応の難しさや心理的負担への配慮が課題
この「在宅がんウィット」を運営していて感じることは、やはり個別性への対応の難しさです。例えばがんの種類や進行度、年齢、生活、経済状況など人によってさまざまで、Q&A形式で文章化することで内容が一般化されやすく、どうしても自分に当てはまらないというような受け取り方をされることがあると思っています。また、利用者の医療情報の理解度には差があり、さらに、デジタルデバイド(インターネットやパソコンのような情報通信技術を使える人と使えない人の間に生じる情報格差)のお話もあります。
そのほか、心理的負担への配慮も非常に重要だと思います。例えば統計データです。センシティブな情報は、店頭にいろいろな情報を並べておいても、この情報は今のタイミングでよいけど、こっちの情報はこのタイミングで見ると少し心理的に負担が大きいということがどうしても出てきてしまうので、その辺の出し方というのが肝かと思っております。
求められる解決策としては、やはり個別の状況に合わせた内容の提示と、電話相談などに代表される対話、このあたりではないかと考えておりました。
そして、2022年11月にChatGPTが公開されて世界的な話題になりました。これには私も飛びついて、情報を伝える手段としては非常に画期的だと最初から感じたところです。
LLMについて簡単に概要を説明しますと、大量のテキストデータから言語パターンを学習したAIモデルで、とても自然な文章生成や質問応答が可能です。また、文法や特に意味を理解することが可能です。本来の、何となく人間の考える意味を理解するというよりも、本当にテキストのどのような表現でも、その中身の意味をわかっているところが非常に新しいのではないかと思います。
活用が広がる背景としては、やはり技術の急速な進歩もありますが、これまで知的労働分野は、なかなかコンピュータでは入り込めない分野だったので、そこに入り込める点でかなりニーズがあったと思っております。
機能としては、キーワード検索や文章の要約、翻訳など多彩なタスクが可能ですし、文脈を理解し利用者に合わせて応答するところが非常に素晴らしいポイントだと思っております。
回答の真偽や偏りという生成AIの課題
課題としては、やはり「ハルシネーション」という、AIがうそをついてしまう、本当ではないことをあたかも本当のことのようにしゃべってしまうことを、今のところどうしても防ぐことができていないということを前提で、考えていかなくてはいけないことだと思います。
あとは学習データによりAIの応答内容に偏りが生じることです。差別や偏見、誤情報などがあります。例えば、その国の人間の価値観に合わせた学習をさせることで、ディープシークが話題になりましたが、あれはやはり中国で学習させたので、中国の価値観が反映されており、その学習データの学習させる時の価値観のようなものがどうしても偏りとして出てきてしまう点が課題だと思います。
24時間いつでも質問できる「ランタン」

さて、これら「在宅がんウィット」とLLM(生成AI)を統合したような感じでこの「ランタン」をつくりました。「在宅がんウィット」と「がん情報サービス」などをデータソースにRAGを実装しました。RAGについてはこのあと、ご説明いたします。
イメージとしてはチャットです。ユーザーが悩みを文章で入力して、システムが検索して、LLMが回答を生成します。効果としては、やはり24時間いつでも質問できて非常に便利です。また、個別の状況に合わせた回答が可能です。これは相手の理解度に合わせた文章が出力できるということでもあります。医療従事者への相談準備としての活用が、私が一番期待しているところです。
先ほどありましたRAGとはどういうことかと言いますと、簡単に言ってしまうとLLMが学習しているデータ外のことを対応可能にするということです。
RAGの動作としては、まず質問文があり、通常はその質問文がそのままLLMのほうに渡るのですが、それを横取りして、取りあえず質問内容で検索を掛けて、関連情報を持ってきて、質問内容に関連情報を添えてLLMに渡します。要はカンニングペーパーをつくって、問題にカンニングペーパーを添えて渡すので、カンニングペーパーの出来がよければ、非常に優秀な答えが返ってくるというものです。
RAGの利点としては、ハルシネーションのリスクを低減できることや、独自の文書や資料を参照することで、特定分野での回答の正確性が向上すること、簡単に最新情報が更新できることがあります。
がん情報でのLLM活用のメリット・デメリット

がん情報でのLLM活用のメリット・デメリットをまとめてみました。メリットとしては、やはり個別性の高い応答で、質問者の状況に合わせた回答ができるようになります。また、24時間いつでもどこでも質問できるので、相談のハードルが非常に低くなります。さらに、専門用語を避けて理解しやすい言葉で医療情報を説明できます。そして、最新の情報を提供できることです。治療のアドヒアランス(患者さんが自分の病気を受け入れ、納得して治療方針に賛同して治療に臨むこと)向上については、患者さんが治療内容を質問することで理解し、積極的に治療に参加することで治療効果の向上や副作用の軽減が期待できます。あとは主治医へ質問する時の事前準備として、疑問点をまとめることができると思っております。
一方で、デメリットと注意点もありまして、これは医療行為ではないということです。医療行為の判断は絶対不可能なので、医師の診断が必須になります。また、誤情報のリスクがあるという認識のうえで利用していただくことが必要です。個人情報管理はやはり、システムをつくっている側が信用できるかできないかに尽きますが、質問内容に、熱中してくるといろいろな内容をどんどん入力してしまい、気付かないうちに個人情報を入力してしまうこともあり得ると思っております。あと、学習データによるバイアスは、先ほどご説明したとおり偏見を反映させる可能性があります。
いろいろデメリットや注意点はありますが、やはりリスクを完全に排除できる日を待っていたら、永久にその技術が生かせないのではないかということで頑張っていきましょう。
幸いにも主治医によるヒューマンチェック、いわゆる診察と診断が、がん情報の場合にはほぼ入るので、その段階でハルシネーションのリスクをかなり抑えることができるのではないかと思います。これはほかの金融の分野などでLLMを活用することに比べたら、比較的安全に運用できる可能性があります。
私の考えている応用例としては、どうしても医師との診察、会話はチャンスが限られているので、それをいかに有効に使えるか、LLMでシミュレーションをし、有意義な診察にできたらと思っております。
さまざまな専門機関との連携強化など―「ランタン」の今後の展望

「ランタン」の今後の展望としては、まずデータソースの拡充を児玉先生を中心にどんどん進めております。地域情報や治験情報、ゲノム医療への対応は近々に頑張っていきたいと思っております。最新情報の迅速な取り込みはもちろん、いろいろな専門機関と今後は連携を強化していけたらと思っています。
あとデジタルデバイド対策としては、私の母がいつもペットロボットと話しているので、あのようなものに実装できたら、非常によいと思っています。スマートスピーカーでもよいですが、何となく個人情報を抜かれそうなので、やはりペットロボットあたりがよいと思っております。
そして、システムの強化としては、RAGのヒット率の向上というのが結構、私のメインのタスクです。
また、質問内容をLLMに聞く時は、やはり入力する文章のつくり方でかなり回答が変わってきます。ですので、その人が本当に疑問に思っていることをなるべくAI側にも簡単に伝えられるような入力補助というのが求められていくと思っております。
さらに、推論型などのより高度なLLMの利用もやっていきたいと考えております。

まとめといたしまして、多くの不安や情報不足があることに対して、LLMとRAGを活用した「ランタン」が、その課題解決の一助になればと考えております。
先ほど児玉先生に、冒頭でお示しいただきました二次元コードはLINE版でしたが、こちらはウェブ版の二次元コードです。
これらをお使いいただきまして、どんどんご意見やご要望をお気軽にお寄せいただけたらと思っております。私どもの財団のウェブサイトに「問い合わせフォーム」がありますので、そちらから、またはメールで送っていただければと思います。メールは直接、私のほうに届きますので、例えば少しまずいと思うような回答や、「もうちょっと気の利いた言葉はないのか」など何でもよいので、感想があればいつでも送ってください。どうぞよろしくお願いいたします。