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がん在宅療養フォーラム 2025 東京
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【第2部】パネルディスカッション
知っているのと知らないのでは大違い!「がん相談支援センター」

橋本 久美子さん(聖路加国際病院 相談支援センター AYAサバイバーシップセンター医療連携室 がん相談支援室)
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橋本 久美子さん

皆さん、こんにちは。オンラインで見ていただいている方もよろしくお願いいたします。私は聖路加国際病院の相談支援センターで、普段、がんの患者さんたちの相談を担当しております看護師の橋本と申します。現場で感じるのは、がん相談支援センターを知っているのと知らないのでは、だいぶ違うのではないかということで、何とかがん相談支援センターを皆さまにご紹介できればと思っております。よろしくお願いいたします。

がん治療に関するインターネット情報は4割が「信頼できない」

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まず、これまでのお話にもありましたように、もしがんと言われたら、おそらく皆さん、当然ですが、「治るのかな」「家族や周りにどう伝えよう」「治療費はいくらかかるのだろう」「どのような治療をすればよいのだろう」「仕事や今までの生活はどうなるのだろう」というようなことが、誰もが思い浮かぶと言われております。
そういう中で、どのような情報があるかについて、まずスマートフォンで探される方たちが今、多くいらっしゃるかと思います。これまでの轟さんのお話や髙橋先生のお話にもありましたが、とにかくいろいろな情報が多くて、どれが自分に合うのかわからなかったり、治るのかどうかが不安で、治したいという気持ちがあれば、アンコンシャスバイアス(無意識の認知の偏り)のように、どうしても自分の関心事にどんどん引かれていってしまったりします。また、何とか助かりたいという気持ちで、体験談や高額な医療にもどんどん飛びついてしまうということがずっと言われてきています。
そういう中で、がん治療のインターネットの情報が、どのぐらい正確なのかを研究した先生たちがいて、本当に科学的な根拠のある信頼できるサイトは10%程度で、40%近くは信頼できない、非常に注意しなければいけないデータだということも言われていました。では、私たちは、どうやって情報にたどり着けばよいのでしょうか。

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これは令和5(2023)年に東京都が、がんの患者さんおよびご家族、1,000人近い方にアンケート調査をしているのですが、やはりこの時も63%の人が「インターネット」で情報を集めていて、インターネットの中でも、「がん専門病院や治療実績のある病院」などをいろいろ調べたという報告がありました。続いて多かったのが、「医師などの医療従事者」で、「友人・家族」「出版物」という順番でした。私たちの所にも、最近はやはりテレビやYouTubeなどを見て相談に来られる方が増えております。
髙橋先生もおっしゃっていましたが、実際、同じ病院の職員でも、家族がどうも病気らしいとなると、「どの病院がよい」「どの先生がよい」というふうに、やはり皆、同じ気持ちで正しい情報を必死で探しているという日常がございます。

がん相談支援センターではさまざまな不安・悩みを相談できる

これは、本当に今でもあるのですが、「30年前ぐらいに肺がんで手術した人の話を聞いて、手術を受けるのが怖くなっちゃいました。どうしたらよいでしょうか」という相談が実際に来ます。そのような時には、「30年前の手術と今では、同じでしょうか」というところから話を聞いていくこともあります。また、「胃がんの手術を受けたのですが、ホスピスの医師が書いた本に『手術はしないほうがよい』と書いてありました。後悔しています。どうしたらよいでしょうか」という相談の時には、「本当にご自分の病状に合っていますか」と対応することもあります。「主治医は『何を食べてもよい』と言うけれども、同じがんの仲間が『乳製品は食べないほうがよい』と言うから、一切やめています。再発が怖いから」という場合は、「その根拠が何か言っていましたか」と対応します。それから、「食事で免疫力を上げたら、がんが小さくなったというブログを見たので、私、抗がん剤治療をやらずに、がんを治します。それでよいですよね」という相談を受けることもあります。そのような場合には、「誰を信じて大丈夫なのか」というところから問い掛けることもあります。
また、「○○病院のホームページに、乳がんは全摘ではなく部分切除をしていると載っていて、私は部分切除がよいので、その病院に移りたいです」というふうな相談も本当に来ています。それには、「その病状、本当に共通の見解で合っていますか」というように、私たちのがん相談支援センターではいろいろな相談に乗っております。

先ほど轟さんからもご紹介がありましたが、「標準治療」と言われる、がん医療の根拠に基づく情報をまとめた「診療ガイドライン」が、今、患者さん向けにもどんどん出るようになってきています。私たち、がん相談員たちも、根拠が明確であって、出典元は何に基づいて情報をお伝えするかはきちんと研修を受けて学んでおりますので、こういうガイドラインをご紹介することがあります。最近は、図書館などにも置かれるようになって、私たちの病院がある京橋図書館「本の森ちゅうおう」にも、こういったがんに関する専門のコーナーが置いてありますので、こういったものをうまく利用することをお伝えすることもあります。

本・情報を選ぶ「いなかもち」の5つの視点

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ただ、やはり本やインターネットの情報を選ぶには5つの視点が大事です。これは、聖路加国際大学の情報に関する専門の中山和弘先生がよくおっしゃっているのですが、「いなかもち」という言葉で情報の5つの視点を案内しています。
「い」いつの情報か。なるべく新しいもののほうが、やはりよいということです。「な」何を目的とした情報か。自分が探している目的と本当に合っているかを確認します。「か」書いた人は誰か。医療情報であれば、その領域の専門家なのか、どのような立場・所属の人かを確認します。「も」元の情報は何か。いつ、どのような根拠でその情報が書かれているかを確認します。「ち」違う情報と比較して判断します。この5つの「いなかもち」という視点が非常に大事になると言われております。
これはコロナ禍で、先ほど轟さんのお話でもありましたが、インフォデミック(流行時に発生する正確・不正確なものを含めた情報の氾濫)が起きた時に、中山先生はお団子の順番を変えて、「かちもない」と言い変えていました。「一体書いた人は誰だ?価値もない情報が実はたくさんあるので、『いなかもち』の視点は大事だ」とおっしゃっています。

がんと診断されたら頼りになる「がん情報サービス」

こうした情報の中で、どんどんガイドラインや新しいデータが更新されていくので、なかなか情報の更新が間に合っていなくて、タイムラグはあるのですが、やはりこちらの「がん情報サービス」は、この5つの視点がきちんと網羅された安心できるサイトとして、私たちも頼りにしてよく使っております。この内容は、先ほど渡邊先生が冒頭でご説明してくださっていたかと思います。

患者さん・ご家族の療養生活での不安や困りごと、疑問

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少し見にくくて大変申し訳ないのですが、東京都ががんの患者さんやご家族に「どのようなことに療養生活で困っていますか」と調査したことをいろいろと書いたものです。ピックアップしてしまうと私の価値観が入ってしまうといけないので、そのまま一覧表にしました。やはり患者さんご自身は、治療について「大体のタイムテーブルがわからない」「この治療が一体何年、どれぐらい続くのだろう」という先の見通しがわからない不安や、治療の副作用や後遺症の症状についての悩みがあります。予後に関しては「どのぐらいまで病気がよくなるのかわからない」であったり、終末期・緩和ケアに関しては「どの段階でホスピスに入れるのか」「終活に向けて準備しておくべきことは何か」であったり、経済的なことでは、今後の医療費について「今は仕事をしているが、退職後に一体いくらかかるのか」というような不安があります。日常生活については、やはり食事や家事のことがありますし、ご家族の介護をしながら、ご自分が治療していることの不安など、やはり体に起きていること以外にも、生活の中でのさまざまな悩みを書いておられました。

また、ご家族も同じです。治療や副作用に関しては「単調な毎日の中でフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)がどんどん進んでいくのではないか」と心配したり、患者さんご本人が抱えているさまざまな後遺症や副作用に対しては「一体、どうやって自分たちはサポートしたらよいのだろう」と悩んだりすることがあります。また、介護に関しても「老老介護になるので、先が心配」であったり、経済的なことに関しては「治療費と通院にかかる費用が高額で不安」であったり、情報に関しては「何かあった時にすぐに病院で診てもらえるのか」という心配があります。これは在宅療養の方が多く書かれていました。「すぐに病院に入院できるのか」「どのような医師が来てくれるのか」、こういった抱えている悩みには、治療のことだけではなく、実は暮らしや周囲の人とのコミュニケーションのことが多く報告されています。

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特に、40歳未満の若い方たちは「家族へ負担をかけてしまうことが気がかり」と回答した人が半数近くいらっしゃいます。また、「いろいろな介護サービスはあるが、経済的な負担が大きい」「そもそもどのような制度があるのか知らない」「相談する場所がわからない」ということも回答されていました。

がん相談支援センターを利用する人はまだまだ少ない

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実際に困りごとや悩みを相談できたかについては、6割の方が「相談できた」と答えています。これはがんの疑いの時から治療中、治療のあと、髙橋先生のお話にもありましたが、非常に長い期間にかけて、ずっとその悩みを抱いています。
こういう相談の中に、実際にがん相談支援センターを利用した人たちがどのぐらいいたかというと、900人ぐらいの中で200人余りの方しか利用されていないです。ご家族になるともっと少なくて、150人ぐらいの方の回答だったようです。これはほかの調査でも言われています。
ただ、利用した方の8割超の方は「非常に満足している」ということで、リピート率は非常に高いという報告もあります。がんの治療や検査、副作用、食事、お金、制度、セカンドオピニオン、在宅医療、介護サービス、こういったことを利用している方たちは上手に使ってくださっております。

患者さんにとって情報は「手段」ではなく「希望」である

これは患者さんのお話ですが、「情報は、手段ではなくて希望だ。ちゃんと知りたいと思った」とおっしゃいました。これは髙橋先生も先ほど「きちんとわかりやすく説明してくれたことが本当にありがたかった」とおっしゃっていました。「がんになった自分だけではなく、『何ができるかを探している自分』もいる。そして、それを探して、見つけて、今をこうして歩いている自分を信じていたい。その選択をした自分を信じられる自分でいたい」とおっしゃっていました。
家族に迷惑をかけたくない、周りに心配をかけたくないと、専門的な知識が十分ではないまま、いろいろな選択を迫られているがん患者さん・ご家族の状況がございます。また、実際の使えるサービスを利用しないまま、ご自分で問題を抱えている人もいます。これまでの先生方のお話にもありましたが、「相談と対話」「解決とつながり」が大切で、情報はそれを支える人や場所を上手に使うことで知ることができ、問題の解決策や答えは、やりとりの「お互いの間」にあると言われています。

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今、どんどんITが導入されてきていますので、付き合っていかなければいけない時代に、ご自分で操作ができなくても、「どうもそういう情報があそこの中にあるらしいから、それを一緒に調べてほしい」と、そのような場所でも十分だと思っておりますので、全国にこのがん相談支援センターはあります。実は国民の半分は、がん診療連携拠点病院ではない所で治療をしており、1人で、あるいは家族たちとともに戦っています。どうか全国の人たちにこのがん相談支援センターが、多くの情報の中で使っていける場所であることを今日はお伝えできればと思っております。ご清聴ありがとうございました。

渡邊:橋本さん、ありがとうございました。がん相談支援センター、全国にあるがん診療連携拠点病院に設置されている、だれでも利用できるがんの相談窓口ということでご紹介をいただきました。
それでは続いて村上利枝さんから、認定がん医療ネットワークナビゲーターについてご紹介いただきたいと思います。村上さん、よろしくお願いいたします。

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掲載日:2025年03月27日
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