がん在宅療養フォーラム 2025 東京
いつでも頼れるがんの情報と相談先 探す、選ぶ、そして活用する
【第2部】パネルディスカッション
知ってみよう！　利用してみよう！　あなたの身近ながん相談相手！
～日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビゲーター～

皆さま、こんにちは。ご参加いただきありがとうございます。日本癌治療学会認定がん医療ネットワークシニアナビゲーターの村上利枝です。本日は「知ってみよう！　利用してみよう！　あなたの身近ながん相談相手！」ということで、今までお話にあったように、なかなか正しい情報に結びつかない中、そこをナビゲートする、ナビゲーター役のお話をさせていただきます。

私は、子宮頸（けい）がんと乳がんの2つの婦人科がんを体験いたしました。2007年に東京都のモデル事業のピアカウンセラーとしてお声をかけていただき、これを地元、神奈川県にと思い、相模原協同病院をはじめ、ほかの施設でもがん体験者によるピアサポートを行っております。
病院から質の担保を求められていることもあり、2017年に日本癌治療学会認定がん医療ネットワークシニアナビゲーターを取得したことをきっかけに、日本癌治療学会と共に、ナビ制度の広報に努めております。また、コロナ禍でピアサポートの活動が中止になったので、なかなか学ぶことができなかった創薬や育薬の勉強をしたいと思い、JI4PE（医療開発基盤研究所）で学び、そのご縁で生命倫理を学ぶ機会をいただき、医のバイブルと言われている「『ヘルシンキ宣言』を患者・市民が考える」というテーマで、シュプリンガーで2023年11月に本を出版させていただき、また2024年、ヘルシンキ宣言の改訂に向けても提言し、続編を出版できることになりました。

2025年2月1日には「テレビ朝日ライブシンポジウム」にも出演させていただき、日本癌治療学会のナビゲーター制度についてもお話しさせていただきました。
また、2月25日には、公衆衛生事業功労賞もいただけることになり、大変ありがたく身の引き締まる思いです。こうして多くの人に支えられながら生きていることに感謝し、がん啓発活動をさせていただいております。

先ほど申し上げた相模原協同病院は、がん拠点病院で、ピアサポートは2009年からですから15年ぐらいさせていただいております。
ピアサポートは、患者さん・ご家族をがん診療連携拠点病院に「つなぐ」ということも目的の一つとして行っております。ピアサポーターは、3人とも日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビゲーターで、私はシニアナビゲーターで、3人ともその勉強をしております。 ピアサポートの実施場所ですが、人通りが多く、敷居を低く、窓口を広くして相談しやすい環境に努めております。

がん患者さん・ご家族には多くの悩みや不安があります。それを抱えながら生きていくことが、がんとともに生きること、がんとの共生です。相談内容は、治療法や医療者とのコミュニケーション、家族の関係、心の問題や不安など、多くのご不安や問題がございます。それを私たちは、適切な医療や生活情報につないだり、精神的な支援をするというかたちで対応しております。
第4期がん対策推進基本計画は、皆さん、もうご存じの方も多くおられると思いますが、全体目標として「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」と掲げられています。
しかしながら、相談支援や情報の提供には課題があります。適切で正確であっても使いこなせない情報ツールや、偏った助言、病院との高い壁などです。

私は、ピア相談をしてわかったことがあります。がん患者さん・ご家族は本当に多くの不安や悩みを抱えながら、一生懸命、治療に向かっております。そして、そうやって生きているのにもかかわらず、今までの轟さんや髙橋先生、橋本さんのお話にもあったように、正しい情報や適切な情報にたどり着けない状況です。また、がん相談支援センターの活用と言われておりますが、相談窓口のハードルが高く、不十分な活用状況になっております。
それには、がん患者さんやご家族の周りに、サポートする人やつなぐ人が必要だと思います。がん相談支援センターにナビゲートする、つなぐ人の存在が必要です。そのためには、きちんと養成されたナビゲーターやピアサポーターが必要です。日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビゲーターがそれに対応できるのではないかと思います。

周りには古い情報、あるいは甘い言葉の誘いや不安につけ入る情報などがあふれており、「誰一人取り残さないがん対策」を実現するには、正しい情報にたどり着けない人たちを、がん相談支援センターにつなぐ役目が必要です。それには、今までお話ししたように、日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビゲーター制度があるのではないかと思います。この制度の目的として、「日本のがん医療の発展と進歩を促進し、国民の福祉に貢献することを目的とし、認定がん医療ネットワークナビゲーター・シニアナビゲーターを育成する」としております。

先ほど申し上げたように、私はピアサポートとしての質の担保を維持するために、認定がん医療ネットワークシニアナビゲーターを取得いたしました。目覚ましいがん治療（手術療法や放射線療法、薬物療法）の進歩で、本当に10年前では考えられなかった医療が進んでおります。また、がんと共に生きる時代の環境や体制も変わってきております。就労や医療費制度、妊よう性、介護制度の知識も必要です。もちろんピアサポート・ナビは、傾聴や気持ちの共有が大切です。しかしながら、がんの正しい知識や適切な情報提供が求められております。この相談はどこにつないだらよいか、がん相談支援センターや保健所など、適材適所につなぐことが必要となっております。最良のがん治療を安心して受けられるように手助けする「相談支援ネットワークづくり」が必要だと思います。

例えばAさん、76歳男性のすい臓がんと告知されたばかりの方です。糖尿病の持病がありました。親思いの息子さんがインターネットで「体にやさしい治療があるから」と、がん免疫療法を見つけてくれて、Aさんは、「最近ノーベル賞をもらった免疫療法かな」と思いました。非常に高額な治療費で保険が利かないのですが、「今まで頑張ってくれたお父さんのために、少しぐらい（本当はだいぶ）無理してでも何とかしてあげたい」と息子さんは言ってくれています。「そのことを主治医に言ったら、頭から『駄目』と言われた。何でだろう」ということでした。
そこで、がんの告知の不安な気持ちを傾聴し、情報を提供し、橋本さんのお話にもありました国立がん研究センターの「がん情報サービス」の免疫療法のページを一緒に見て、お話ししました。また、病院の中におりますので、「ここの角を曲がった所にがん相談支援センターがあるから、おつなぎしましょうか」と同意を得て、がん相談支援センターに予約を入れ、がん専門看護師におつなぎいたしました。

私は相模原市でもがんピア相談をしているのですが、そこでの事例です。Cさん、84歳の女性で肺がんを告知されました。87歳の夫は、3年前に脳梗塞を患い、認知症があり、Cさんが夫をサポートしながら2人で暮らしてきました。「自分のがんも心配だけれど、この脳梗塞で認知症がある夫は残してはいけない。誰が夫の面倒を見てくれるのだろう。子どもたちはいるけれど、遠距離だし、それぞれの生活があるから迷惑はかけたくない。でも、これから治療も始まるし、どうしたらよいのだろう」という相談でした。市役所でしたので、保健所を経由し、高齢・障害者支援課や地域包括支援センター、介護保険課といった介護関係担当におつなぎいたしました。それと同時に、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター（医療に関してはがん専門看護師、社会的支援はソーシャルワーカー）におつなぎいたしました。
また、ピアなので、喜びの共有や心の不安、自分探しなど、聞いてもらいたいことも含めて対応しております。

神奈川県知事と、先ほど髙橋先生のお話にもありました書籍を翻訳された北里大学の佐々木治一郎先生の「がんになったら誰に相談すればいいの」という対談動画の中で、相談先として神奈川県のホームページに日本癌治療学会が認定するナビゲーター制度が紹介されています。

また、2024年4月に、がん患者さん・ご家族のための道しるべとして「防がんMAP」という地図状のもので、二次元コードをそこに置けば、いろいろな情報が得られるようなシステムをつくりました。私も制作者の一人として参加し、相談先としてナビ制度の案内を入れていただきました。
ただ、「こういうのがある」というのをお示しするだけでは、なかなか高齢者などはツールが使えないこともあります。そういう方には、一緒にがんサロンや患者会でマップを使って案内しています。
そして、その時に正しい情報の活用として、渡邊先生からもお話がございましたが、「がん情報サービス」をご案内しております。これからは「ランタン」も情報先の一つとして加え、ただ「ここにある」と言うだけでは、なかなかその情報にたどり着けないと思いますので、皆さんと一緒になってご案内したいと思います。

現在、独居や老老介護、医師の働き方改革、医療費問題など、多くの課題を抱えています。がん医療ネットワークナビゲーターは、それらの医療が抱える課題の一筋の光になるように、その人らしく地域で安心して暮らせる社会づくりのために存在しています。先ほど渡邊先生のお話にありましたように、地域でがん患者さん・ご家族をこのように囲んで、行政やがん相談支援センター、がんサロンなど、適材適所につなげるように、また本日「ランタン」のお話を伺いましたので、24時間このようなかたちでお話ができるよう、「つなぐ」をキーワードにご案内したいと思います。
ピアサポーターやがん医療ネットワークナビゲーター、シニアナビゲーターは、がん医療に必要な医療関連情報・生活支援情報を提供し、がんになっても安心して暮らせる社会へとご案内し、よりよいがん支援のお手伝いをしたいと思います。ぜひ皆さん、ナビ制度を知って、活用していただきたいと思います。詳しくは日本癌治療学会のホームページやお電話で問い合わせください。ご清聴、ありがとうございました。

渡邊：村上さん、ありがとうございます。村上さんからは日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビゲーターについてお話をいただきました。