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がん医療フォーラム 2023 活用しよう!相談と支え合いの場
【第2部】パネルディスカッション
治療の選択の根拠になる正しい情報を知っていただくために

轟 浩美さん(認定NPO法人希望の会 理事長)
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轟 浩美さん
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夫がスキルス胃がんステージ4の告知を受けて

皆さん、こんにちは。今、ご紹介いただきました、認定NPO法人「希望の会」(胃がんの患者・家族会)の理事長をしております、轟浩美と申します。よろしくお願いいたします。

思い起こせば、ちょうど10年前になります。12月4日、忘れもしません。その日に、夫がスキルス胃がんステージ4という告知を受けました。その日まで、今はカウントダウンに入っているのですが、私は、幼稚園の先生でした。
私が家族の立場であったこと、そして、皆さんのお話にありました、がんになった時知っておきたかったことをまったく知らないまま、夫のがんの治療に入ってしまったということで、ここにいる意味があるのではないかと思います。
スキルス胃がんは普通の胃がんとは違って、胃壁の中に、砂に水がしみ込むように広がってしまうため早期発見が難しいこと、そして、AYA(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])世代と言われる若い方、特に30歳前後の女性の罹患(りかん)が多いことが特徴になります。

相談できる場所もわからず夫婦で引きこもりがちに

講演の画面01

夫は、毎年検診を受けていました。ただ、今、申し上げたスキルス胃がんの早期発見の難しさから、やはり検診を受けても、そして要再検査になって検査を受けても、診断は変わらず胃炎でした。いくつかの医療機関に行きましたが、「バリウムも胃カメラもしているのだから、あなたの不調は精神的なものだ」と言われ続けました。
そして1年後、検診の読影会会場の医師から直接自宅に電話がかかってきて、「すぐに病院に来てください」と言われました。行った先で治療に入ることになるのですが、実はそこは、がん診療連携拠点病院ではありませんでした。

そこで言われた「ステージ4で、治療法はありません。手術は不適応。治療は延命の意味です」というのは、先ほど山口さんのお話の中で出てきたイラストの、まさに「ガーン」のほうです。頭が真っ白になりました。そして、相談支援室があることも、私は知ることができませんでした。それと、やはり手術不適応ということで、「どうしてここまで放っておいたのか」というような質問を受けることが多くなり、相談できる場所があることもわからないまま、夫婦で引きこもってしまいました。それが、大きな起点になっていると思います。

自分にとっての「やさしい」情報を選んでいた

講演の画面02

家族の立場として、「何とかして私がこの人を助けなくては」という必死な思いで検索をしました。インターネットの検索窓に、私は、「がん・治る」「がん・消える」と入力してしまいました。この言葉を重ねることによって、誤った情報にますます引きずられてしまいました。
そして、先ほど、国立がん研究センターが図書館にギフトをしていらっしゃるというお話があって、これは本当にうれしいことだと思うのですが、10年前は、図書館に行っても、そこにあるものはほとんどが体験談でしたし、新聞を読んでも、どうしても書籍の広告が目に入ってしまって、そうすると「これでがんが治った」というタイトルが多かったので、それも私が情報に振り回されてしまった原因になっていると思います。
今から思えば、私は、自分の気持ちに優しいことを言ってくれる「Kind」の優しいと、例えば食事など、自宅の中で、自分でも取り入れられる「Easy」の易しいの、2つの情報をただ選んでいたのだと思います。

正確な情報の見極めにつながる3つのキーワード

講演の画面03

先ほど、「インフォデミック」のお話がありました。本当に情報があふれている中、この3つのキーワードを知っておくことが、正確な情報の見極めに少しでもつながるのではないかと思っています。
1つ目は「アンコンシャスバイアス(無意識の認知バイアス)」です。例えば、「自然や天然というものが体によさそう」「この立場の人が言うことは確かだろう」と思うことはないでしょうか。私は、まさにこれでした。
2つ目は「エコーチェンバー」、エコーは「こだま」です。いつも同じ考えや言葉に接することになると、そのことが正しいと思い込んでしまって、「これが効く」と言っている人の話ばかり聞いていると、それが正しいと思ってしまう心の動きです。
3つ目は「フィルターバブル」です。皆さまも検索している先に、SNSを見ていると、なぜか突然、頼んでもいないのに、何か自分の関心があるような情報が出てくる経験がないでしょうか。私の場合、アンチエイジングやダイエットなどの情報が自然と上がってきます。
つまり、インターネットの上では、自分の興味のある情報だけしか見えなくなっている可能性があるのです。

情報格差をなくしたい思いから「希望の会」を発足

私は、医療を信じていました。そのため、医療者が発信するものは、どれも正しいのだと思っていたのです。しかし、玉石混交の情報があるというのを知ったことが、この10年間の活動につながっています。そして、2023年、19年ぶりになりますが、日本胃癌学会は、『患者さんのための胃がん治療ガイドライン』を発行しました。私も作成委員としてかかわりました。
やはり、これほど多くある情報の中から、「これは誤っている」というものを取り除くのは無理です。選択の連続である治療の日々の中、その選択の根拠になる正確な情報が、どこにあるのかを知っていただきたいと思って活動しております。今日のこのフォーラムも、その力になることを願っております。よろしくお願いいたします。

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掲載日:2024年02月13日
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