がん医療フォーラム 2023 活用しよう!相談と支え合いの場
【第2部】パネルディスカッション
ディスカッション(1)
モデレーター: | 渡邊 清高さん、鈴木 雄一さん |
パネリスト: | 髙山 智子さん、山口 博弥さん、橋本 久美子さん、村上 利枝さん、村本 高史さん、轟 浩美さん |
渡邊:第1部でお話しいただいた皆さま方も含めて、皆さんに事前の参加申し込みの時にいただいたアンケートやご質問の中から、いくつか取り上げさせていただいて、ぜひいろいろな議論や意見交換ができればと考えております。
がん患者さん・ご家族に相談できる場を知っていただくために
初めに、がん相談支援センターなど、その情報を得るためにどこにたどり着けばよいのか、わからずに困っていらっしゃるお声が非常に多いと思いました。「治療の現状について知りたい」「利用できるいろいろな制度について知りたい」「主治医以外に聞いても大丈夫なのか」など、そういったことについてのご意見を大変多く伺いました。それは、この数年、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、なかなか対面での面談が難しかったり、対話の機会が限られたりしていることによるものだと思いますが、よろしければ、ぜひ、髙山さんからお話しいただいてよろしいでしょうか。
髙山:ありがとうございます。私のお話の中でも紹介しましたが、がん相談支援センターは、どのような方でもご利用いただける場として、先ほど渡邊さんからお話がありました、がん対策が大きく動いた2006年に、患者さんの声でつくられたものです。
がん相談支援センターは、たいてい大きながん診療連携拠点病院の中にあるということで、非常にいろいろな部門があってわかりにくいところもあるのですが、ホームページでも「できるだけトップページに置いてください」というようなお願いをこれまでもしてきました。病院に立ち寄っていただくと、地図があります。その中で、「がん相談支援センター」や「医療相談室」など、若干違う名前で書かれている場合もありますが、必ずありますので、わからなければ受付で聞いていただく、あるいは電話でもつないでいただくことは可能ですので、まずはそういったところから利用いただくことができると思います。
渡邊:ありがとうございます。橋本さんは、聖路加国際病院でがん相談の取り組みをしていらっしゃって、ご自身でも、もちろん相談にも携わっていらっしゃいますし、拠点病院のがん相談支援センターの旗振り役というかたちで、いろいろな相談員の方の支援もされていらっしゃるということで、いかがでしょうか。
橋本:今、髙山先生がおっしゃったように、私たちの病院も、病院のメイン通り、必ず受付をすればわかる通り沿いにきちんと「がん相談支援室」と表示があるのですが、ドアに名前が表示されているだけなので、見た感じでは、「目に入りにくくわかりにくい」とよく言われてしまいます。病院の入り口や病院案内にも表示がありますし、パンフレットにも案内があり、入院時の皆さんへのご案内にも記載されています。いろいろちらしなども入れています。本当にがんと診断されたばかりの方は、皆さん、下を向いて歩くので、ポスターや掲示に目が行かないというお声は多くいただいております。
2023年から、各診療科の医師が、がんと診断した時に、「がん相談支援室に立ち寄って、いろいろなことを聞いて帰ってください」と、医師からそこに立ち寄る案内を、ようやく始めました。
病院の電話もなかなかつながりにくいと思いますが、「がんに関する相談窓口の人に電話をつないでください」とおっしゃっていただくと、病院の代表電話からつながることが多いと思っています。
渡邊:ありがとうございます。病院では窓口があっても、利用するのに少し気後れするなどして、最初の取っ掛かりについて、「きっかけがなければ難しい」という声もあると思います。まずはお声掛けしていただく、「がん相談支援センター」というキーワード、そちらを聞いていただくとそこにつないでいただけるようなこともできると思っておりました。
今後の生活やセカンドオピニオンなどの相談もがん相談支援センターへ
先ほど山口さんから、ご自身の体験で、特に治療に関しては主治医やセカンドオピニオンで、いろいろな情報を集められたというお話でした。もちろん、主治医も貴重な情報源だと思います。いろいろな方から情報を得たり、相談されたりしてよかったことや、逆に困ったことなど、そういった体験がございましたらお話しいただけますでしょうか。
山口:ありがとうございます。がん相談支援センターについては、存在は知っていたのですが、医師からもお話がありませんでしたし、私の頭の中にもまったくありませんでした。先生方のお話を伺って、もし今のお話について知っていたら、絶対に行ったと思います。ただ、私の前立腺がんの治療は、かなり複雑で難しい部分はあったとは思うのですが、やはり生活のことや、これからどうなっていくのかということ、あと、セカンドオピニオンはどのようにして取ればよいのかなど、そういうことについては、相談窓口に相談したほうがよいと思いますので、本当にがん相談支援センターについて詳しく知っていればよかったと思いました。
あと、全然知らなかったのですが、その病院の患者さんではなくても相談ができるというのは、本当に安心材料です。例えば、自分がかかっている病院は遠いかもしれないけれど、自宅のそばにがんの拠点病院があれば、そこに相談することもできるわけで、それは、非常に心強いと思うので、私自身、よい情報を得られたと思っています。以上です。
がん相談支援センターにつなげるために背中を押してあげることが大事
渡邊:ありがとうございます。なかなか相談といっても、何を相談すればよいのか、「何か困ったことがありますか」と聞かれると意外と出てこないものです。普段から悩んでいることは、結構いろいろとありますが、それを言葉にするのも難しいところがあって、困っていることを話し合っているうちに、いろいろな問題が整理されて、例えば、「優先順位の高いものから解決していこう」「次の診察の時に主治医の先生にこんな話をしよう」のように、次のステップにつなげるようなお手伝いもできます。
村上さん、いろいろな地域でのご相談ごとや、拠点病院以外でそういった相談やサポート、そして病院の中でのピア活動、いろいろな所で相談に対応していらっしゃると思いますが、いかがでしょうか。
村上:ありがとうございます。患者さんにとって、がん相談支援センターは、治療を受けている先生と同じとまではいかなくても、やはり壁があります。お話を伺っていて、私は、がん拠点病院や保健所などの公的な所で相談に対応しているせいもあるのですが、「がん相談支援センターでは、認定を受けた看護師さんやソーシャルワーカーさんが、お金や在宅のことなど、いろいろと相談に乗ってくれます。おつなぎしましょうか」というと、「お願いします」とおっしゃるので、少し背中を押してあげることが大切だと思います。
もう1点は、「誰でも・どこでも」ということに加えて、「無料」ということをお伝えすることが大事です。がん患者さんは、治療や思いがけないところで、お金がかかっています。それで、「お金がかかるのではないか」と心配されていて、「無料で、どのようなことでも、何回でも、気軽に相談に乗ってくれます」とお伝えすると、「つないでほしい」というお声を聞きます。
やはり皆さん、少し背中を押してあげると、「利用したい」というお気持ちがおありだと、現場にいて思います。
渡邊:ありがとうございます。相談できる場所が身近にある、相談できる方が身近にいらっしゃる、そういった場合、非常に心強いです。そういった方に背中を押していただくことはとても大事だと思いました。
同じ経験をしたから打ち明けられる企業内コミュニティーの役割
村本さん、企業の中での相談というと、先ほどご紹介いただいたCan Starsには、治療のことや仕事のこと以外の相談も、いろいろなことを寄せられていると思いますが、いかがでしょうか。
村本:ありがとうございます。サッポロビールはビール会社なので、一般社員を含めて明るくて元気な人が多いです。社内コミュニティー、Can Starsの中も、治療に一区切りついた人もいれば治療中の人もいますが、明るい人が結構多いと思います。ただ、その中でも、治療中でモヤモヤした感情を抱えている人もいて、そういう感情も、同じ経験をした、同じ会社の仲間同士だからこそ打ち明けられるという安心感もあるなど、やはり同じ環境、同じ制度・風土の中にあるからこそ、ホッとできるという役割はあると思っております。
渡邊:ありがとうございます。場合によって医療者と患者さん、患者さん同士でもなかなか共有しづらい部分があるかもしれません。視点や立場、境遇が近いからこそ共感できるものがあって、そういった場が、少しでも多くあったほうが、機会があったほうが、すぐには解決には結び付かないかもしれませんが、それにヒントを与えていただけるようなきっかけがあると思いました。
ご家族の「わからない」「つらい」「悲しい」を伝えることが相談のきっかけに
轟さんの「ご家族の視点」ということで、ご本人はある程度周りの方に話しやすくても、ご家族は誰にその不安やつらさを打ち明ければよいのか、ということもおっしゃっていましたが、患者会として、ご家族の方が困っていらっしゃる、悩んでいらっしゃるとき、どのような困りごとがあるのか、また、それに対する対応はいかがでしょうか。
轟:私は、家族の立場で、やはりすごく背負ってしまいました。「私がこの人を支えなくては、助けなくては」と思いましたし、治療のことが生きる日々の全てになってしまって、夫婦でも会話がギクシャクしてしまい、本人は結構治療に向き合っているけれども、家族としてはもっともっと深いものを背負っていました。
その時に、やはり今、お話に何度も出てきましたけれども、自分のかかっていない病院でも、がん診療連携拠点病院にある相談支援センターに相談してよいということだけではなく、何を質問してよいかわからなかったのです。けれども、「わからない」「つらい」「悲しい」だけでも、それだったら電話で言えそうではないですか。それが取り掛かりになって、何で悲しいのか、何がつらいのかを聞いてくれると、自分の気持ちを話していけるのですよね。患者会としても、自分の経験を通じて話してよいということをお伝えしていますので、そういう使い方ができるとよいと思います。
渡邊:ありがとうございます。患者会、患者支援団体ということになると、場合によっては少しハードルが高いと思われるかもしれません。ご本人でも、ご家族の方でも、一緒に相談される方もいらっしゃいますよね。一緒に相談されることで、ちょっとした対話のきっかけになることもあるし、そういった意味では、本当に身近な相談できる場というのを活用できるとよいと思いながら伺っていました。
鈴木さん、何か質問やコメントがありましたら、ぜひお願いいたします。
情報が偏らないようにアドバイスするがん相談支援センター
鈴木:ありがとうございます。がん相談支援センターが非常に大事であるというお話が、繰り返しあったかと思うのですが、髙山先生の講演の中で、がん相談支援センターというのは「中立」の立場でアドバイスするという話でした。例えば、橋本さんは聖路加国際病院の中の相談員をされているわけですけれども、中立というのは、どういう意味で中立というふうに説明されるのでしょうか。
橋本:ありがとうございます。中立というと、決して医師の立場、医師をサポートする立場というわけでもなく、患者さん側にもバランスよくという言い方になってしまうのですが、医師からの説明に補足しながら、その人が今起きている状況を最大限イメージできるようなサポートを主にしています。
そのため、私たちに相談されることは、匿名性ももちろん守りますし、決して医師に合った、医師側の立場に立った話だけをするわけでもなく、医師側の立場と患者さん側の立場に立った気持ちも両方尊重しながら、今この人に必要な情報なのか、どのような心の整理が必要なのかを一緒に考えるというようなことをしております。
髙山先生、もし足りないようでしたら補足をお願いします。
鈴木:橋本さんも聖路加国際病院の職員でありスタッフでいらっしゃるわけですよね。そこに患者さんがやってきたという場合、「聖路加の先生の言うことを聞いてください」ということにならないのでしょうか。
橋本:大事なことは、もちろん最終的には、「主治医に聞いてください」ということになる場合はあります。あくまでもその方の情報を整理していくということになります。
髙山:なかなか「中立」というのは、説明が難しいのですが、もちろん、そこの病院に雇われているということでは、そこの病院の職員ということにはどうしてもなってしまいます。これは、がん対策の中でつくられた仕組みの中のがん相談支援センターであるということが、一つの前提にはなっているのですが。
例えば、病院によっても、手術に強い病院、放射線療法に強い病院、薬物療法に強い病院があります。東京都は比較的大きい病院があるので、どれも満遍なく得意とする病院もあるのですが。やはりその地域の中で、その病院が得意とする診療というのもあるわけですね。先生から聞いたのは手術療法だけだったけれども、実は治療法の中にはいくつかあって、ほかの治療法も参考になる場合には、あえてそこの病院ではなく、「ほかの放射線療法に強い病院もあるから、そこでセカンドオピニオンを聞いたらどうでしょう」というアドバイスをするとか。
その患者さんが、ご相談の中で置かれている状況で足らない、聞いていない情報は何なのかをある程度見極めて、そういったところに「セカンドオピニオンという手段もある」というような情報をお伝えするとか。
あと、セカンドオピニオン先を選ぶ時にも、なかなか見えにくいのですが、その先生の出身の医局に引っ張られるということもあるのですよね。そのため、「異なる大学出身の先生に、あえてお話を聞きに行くと、また違った視点からの意見が得られるのではないか」ということをお伝えするとか。
そういうかたちでお話を聞く中で、何が、その人が判断するのに足りていない情報なのかを見極めてご紹介する、情報をお伝えするということもあります。
あとは、そこでお話をされた内容については、主治医に伝えることはまずしないということ。あくまでも、患者さんが「伝えてもよい」と言うことであれば、それは補足のようなかたちで伝えることはありますが、「匿名で伝えるようにする」だとか、「聞いた内容全てを、ご了解なしに医師やほかの医療スタッフに伝えない」ということを、研修トレーニングの中では対応しています。
できるだけその人が、安全に安心して何でも話せる環境をつくっていくというのが、「中立」の一つの説明になるのか、なかなか、説明が難しいところがあるのですが。
がん相談支援センターの活用が問題の解決につながることを期待できる
渡邊:ありがとうございます。がん診療連携拠点病院制度というのは、例えば、その病院が国立でも私立でも、あるいは大学病院でも、あるいは自治体立でも、いろいろな団体によって設立される母体でも、相談支援ができる体制や、質の高いがん医療ができる体制という、国の定めた要件に合致しているということで指定されているところがあります。そのため、かかっている患者さん以外で、地域に暮らしていらっしゃる患者さんに対して説明責任を持っている、活動をしていく必要があり、それもあって、「その病院にかかっていない人でも、どなたでも相談できる」というのが、一つのキーワードになっているのです。
ですから、そういった意味では、主治医との関係性や、あるいは今回の質問の中にもありましたが、「主治医に聞きにくいことを相談してもよいのか」というのは、もちろん相談していただいてよいのですね。カルテに記載しない場合も、もちろんあります。それはあくまでも患者さんの同意のもとで、必要があれば主治医への連絡はする。あくまでも主体は、真ん中にいらっしゃるのは、患者さんや相談されていらっしゃる方なので、そういった方とのやり取りの延長線で必要があればもちろん支援はするけれども、あくまでも背中を押す、必要な情報を提供するというような立ち位置なのです。
逆に、そういったことを活用していただくことで、解決に、より早く結び付くような、つながるようなことも期待できるのではないかと思いますし、相談を受ける方も、よりスキルが上がってくるのではないかと思います。
電話やオンラインでの相談や夜間の相談への対応もある
鈴木:渡邊先生、例えば、遠方に住む親が、がんと診断された場合に、子どもが相談することもできるのでしょうか。
渡邊:それもできますね。病院の中には予約が必要な場合が多いですけれども、電話やオンラインで相談に対応している所もあります。あとは、私は帝京大学医学部附属病院のがん相談支援室の責任者をしていますが、「夜間がん相談」というのがあり、お仕事をされていらっしゃるご家族の方が、夜間に電話で相談されることもあります。あと、国立がん研究センターには、「がん情報サービスサポートセンター」があり、電話での相談を受けていらっしゃいます。それも全国から電話がかかってくることもあります。橋本さん、いかがですか。
橋本:そうですね。付け加えさせていただくと、やはりその地方の情報は、その地方にある拠点病院の方たちが、周りの情報に詳しいので、必要があれば、地方にあるがん相談支援センターを紹介しながら、こういった相談ができるというところでしっかりおつなぎしています。時々、海外からもご相談が寄せられることもありますので、できるだけつなぐことはしております。
渡邊:相談員同士がつなぐとか、相談員の方をきっかけにして、また次の相談先につなぐということもあると思います。
よろしかったら村上さん、認定がん医療ネットワークナビゲーターも「つなぐ」という役割は、これからどんどん発展させていくことが必要かと思いますが、いかがですか。
村上:ありがとうございます。先ほどスライドでもお示ししましたが、患者さん・ご家族を適材適所、がん相談支援センター、あるいは保健所、介護の機関、そういう所にやはり「つなぐ」役目が、日本癌治療学会の認定がん医療ネットワークナビゲーター制度かと思います。皆さんが迷うことなくそちらに行けるように、手をつないでおつなぎするというのが私たちの役目だと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
渡邊:相談を投げかけていただくことによって、よりパイプが太くなる、連携がスムーズになるというところもありますので、活用していただくことも一つの手助け、大事なドライブになると思っていました。