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がん医療フォーラム 2023 活用しよう!相談と支え合いの場
【第2部】パネルディスカッション
ディスカッション(2)

モデレーター: 渡邊 清高さん、鈴木 雄一さん
パネリスト: 髙山 智子さん、山口 博弥さん、橋本 久美子さん、村上 利枝さん、村本 高史さん、轟 浩美さん
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患者さんの「わからない」を相談支援室につなぐ

渡邊:轟さん、いかがですか。患者会や患者支援団体、家族会もそうですが、そういった方が拠点病院とつないだり、あるいはより信頼できる相談先とつないだりという活動もあると思いますけれども、そういった点はどうでしょうか。

轟:まず、がんと診断されたら「がん患者」という人生を生きていくわけではないのですよね。その人の人生に「がんになった」という要素が加わっただけの話で、その人は、社会的にも人生の中でいろいろな心の痛みがあったり、経済的なこともあったりします。けれども、日本の教育の影響でしょうか、どうしても優等生の患者にならなくてはと思うと、「わからない」ということが言えなくなってしまうのですよね。
ですから、先ほど私は、「口に出すことが取り掛かりになる」と申し上げたと思うのですが、全国「胃がんキャラバン」というのを数年前に開催した時に、そこで一番大きなショックを受けたのは、実はがん治療医でした。それは、診察室の中で、その患者さんやご家族の心や生活は見えなかったのです。患者さんたちもご家族も、話す場所がありませんでした。その話す場所ができたことで、「そういうことだったら」という情報をがん治療医が得て、それで患者さん・ご家族の話を聞くようになり、患者さん向けガイドラインにつながったということがあるのですが。

その中間になるものが、おそらく相談できるピアサポーター(当事者の視点で患者さんを支える支援者)や相談支援室だと思うのです。ですから、「わからない」でもよいので、そういうことを話してみると、おそらく何がわからないのか、なぜそう思うのかが相手に伝わるということを伝えて、セカンドオピニオンや相談先につなげています。
希望の会は、臓器別の患者会ですから、胃がんのことについて、この患者さんにわかるように説明してくださるだろうと思う方が浮かべば、「お話を聞きに行かれたらいかがでしょうか」などと、相談支援室には必ずつなげるようにしています。それが私の「つなぐ」活動でしょうか。

渡邊:ありがとうございます。やはり、つなぐきっかけがなかなかないと、誰も困っていないように、見た目は見えてしまいますが、実は聞いてみると多くの方が困っていらっしゃるということ、ありますよね。

具体的なアドバイスより相談者の心持ちや治療状況を受け止めて

村本さん、企業の中での相談はいかがでしょうか。

村本:ありがとうございます。サッポロビールのCan Starsのメンバーは、基本的に秘密保持の誓約書に署名をした上で参加しております。ただ、そういう人たちでも、活動しているうちに、自分の経験を社内に発信したいということで「顔出し・名前出し、いいよ」と、オープンにしていく人たちもいます。
そうすると、社内から、Can Starsのメンバー以外でがんになった人から相談を受けることがあるのですね。そういう時には、具体的なアドバイスというよりも、がんになった社員の心持ちや治療の状況などを聞きながら受け止めて、投げかけをすることで、少し勇気づけになっている部分もあると思っています。ですので、Can Starsの中での相談というだけではなく、社内からの相談内容も含めて適切なかたちにつなげていけるとよいと考えております。

渡邊:ありがとうございます。特定のがんの種類や病期、進んでいる程度や治療内容について詳しく知りたいという場合には、診療ガイドラインなど、いろいろな信頼できる情報が整備されつつあるのですが、治療への向き合い方や病気の受け止め方、その時の心の揺らぎに対して、どういうふうに経験されたということは、山口さんも先ほどお話をされていたと思います。そういったところは、交流し情報共有することで、そのまま受け入れるというよりは、一つの考え方が参考になり、支えになりますよね。山口さん、いかがでしょうか。

山口:少し話が変わるかもしれないのですが、轟さんがおっしゃった「わからない」から「言えない」という、これが非常に大事で、むしろ、「『わからない』と言いましょう」というのが極めて大事なことだと思うのですね。
実は新聞記者は、本当にわからないことだらけなのです。取材する相手というのは、必ずその道の専門家で、自分よりもはるかに知識が多いので教えを乞うわけです。もちろん、準備して、勉強しては行きますが、知らないことを聞くのが当たり前です。
ですから、患者さんも、医療の素人がほとんどですので、まず「わからない」ことは遠慮せずに言って、ただ、お医者さんも忙しいので、いろいろな質問事項をあらかじめ箇条書きにして効率的に質問していったほうがよいと思うのですね。

がん相談支援センター間のネットワークで相談の質を支える

髙山先生がおっしゃった「中立性」というのを伺って、大変心強いと思いました。セカンドオピニオン先を選ぶ時も、絶対出身医局が違うほうがよいというのは、私も思っていて、自分自身もそれを確認して、出身大学が違う慈恵医大病院を選んだのですが。
ただ、例えば、放射線治療が得意な病院など、セカンドオピニオンを取るならここがよいなど、いろいろな相当深い情報を持っていないと対応できないような気もするのですけれども、がん相談支援センターによって、職員さんなどに質の差などがないのかを、少し髙山先生にお伺いしたいのですが。

髙山:そこは本当に難しいところで、均質を目指す、よりよい質が高い対応ができるようにということで、教育研修をずっとやってきているのですが、現実問題として、実際に差はあるのではないかと思います。
一方で、院内がん登録、がんの各病院での対応件数や、読売新聞社さんが出している病院の実績ももちろんそうですけれども、その病院の実績を客観的に見ることができるデータも、かなりそろってきているのですよね。

あと、がん相談支援センターの全国のネットワークもあるのですが、特に、各都道府県でのがん相談支援センター間のネットワークは、結構充実してきました。そのがん相談支援センターで困ったら、別のがん相談支援センターとの相談員同士で、「このような相談が寄せられたけれど、どういう対応をしたらよいか」「どこがよいか」などということを、結構密に協力し合っています。例えば、子どもの相談だとすると、「ここの病院の相談室の人が強い」というようなことを、かなり蓄積してきているので、そういう意味では、ネットワークでその質を支えるようなことは、かなり進んできているのではないかと思います。
「それ、ほかにも聞いていただいてよいですか」というようなことを、相談者の方から言っていただいてもよいと思うのですね。そういうことで、確かな情報を「自分が手に入れる」というような気持ちで、どうぞ使ってくださいというところなのではないかと思います。

渡邊:確かに、相談いただくことで、同じように悩んでいらっしゃる方はほかにもいらっしゃるので、がん相談支援センターの相談先のようなかたちで情報を共有したり、ネットワークで何かよい知恵が出てきたら共有したりするというのは、相談をよりよくする仕組みにもつながってくると思いました。ありがとうございます。

まだまだ、本当はディスカッションをしたいテーマは多くあるのですが、時間が参りました。今回のがん医療フォーラムのテーマとしては「活用しよう」「支え合いの場」というのが、一つのキーワードと思っていて、いろいろな立場の方が、ご自身の困りごとをお伝えいただくことが、実はほかの方を支えることにもつながっているというところが、特になかなか対面の機会がなかったコロナ禍の時期を経て、本当に重要なのではないかと思っています。
最後に一言ずつ、「活用しよう!相談と支え合いの場」ということで、ご参加の皆さま方に、今日の感想やメッセージなどをいただければと思います。では、また髙山さんからお願いしてよろしいですか。

患者さんから声を発していただくことの大切さ

髙山:「知らない」ということを言えることが大事というのが出ていましたけれども、おそらく、医療者も目の前の医師も、「知らない」というのは、さらに非常に不得意なのではないかと思うのですね。
「がん相談支援センターを使ってください」。本当は医療者から、医師から紹介されるのがよいということは、もう随分長く言われてきて、頑張っているところなのですが、なかなか進まないです。進まないからこそ、今日ご紹介した冊子をつくったり、動画をつくったりしてきました。少しずつ、医師から紹介いただけるような取り組みも出てきています。
短時間の中で、医師・医療者も苦労しているのですね。伝えなくてはいけないし、「きちんと伝えなくては」と思っていたのに、目の前の診断を、丁寧に伝えなくてはと思っているあまりに忘れてしまう。心がある先生でもそういうふうになってしまうのですね。限りある時間の中で頑張っている医療者もいますけれども、それだけでは不十分です。
そのため、ぜひ患者さんからも、「これ、どうでしょう」と言っていただくことが、その突破口になってくると思います。医師・医療者を支えるためにも、皆さんからもぜひ声を発していただけるとよいと思っております。一緒に、暮らしやすい、安心して医療を支えるような仕組みができたらと思っております。本日はありがとうございました。

がん相談支援センターや患者会で情報を積極的に集めた上で選択する

山口:がん治療というのは、情報戦だと思うのですよね。いかにその情報を得るか。頼れるものは全て頼るという貪欲な姿勢が必要ではないかと思います。私が試みた、海外の論文をGoogle翻訳して読むなど、そのようなことは全然しなくてよいと思うのですよね。今、がん相談支援センターが、ネットワークで質を高める努力をしているというお話を伺って、大変心強いと思いました。しかも無料で相談ができます。
ですので、がん相談支援センターなど相談できる所には相談して、患者会も年3,000円などピンキリだと思うのですが、それほど年会費などは高くないので、とにかく情報をできるだけ収集して、どんどん知恵をつけていって、自分なりの死生観や人生観と照らし合わせて、最終的に治療を選択する。生活のことも、とにかくいろいろな方に相談する、そういう姿勢が大事ではないかと、今日の皆さんのお話を伺って、改めて思いました。どうもありがとうございました。

がんと診断される前にがん相談支援センターを知っていただくことが大事

橋本:山口さん、村上さん、村本さん、轟さんのお話を伺いながら、情報戦とおっしゃいましたけれども、病気になる前からきちんと知っているというのも、この情報戦と相談に向き合っていく時の大事なことの一つかと改めて思いますと、私たち、がん相談支援センターも、寄せられる相談を受けるという受け身でいましたが、まず一歩を出て、病気になる前の皆さんにという意味では、まさに地域やさまざまな場所とつながりながら、この場をしっかり伝え、支え合える場になりたいと思っております。本日は、ありがとうございました。

相談の場を利用してがんと共にその人らしい人生を

村上:がん患者さんは、がんと共に生きなければなりません。たくさんの悩みごとなど、抱えることが多くあります。そのような中で、やはりその人らしい人生を歩むには、1人で抱えていくのはとてもつらいし、大変なことだと思います。
今日、お話にあったように、気軽にがん相談支援センターや、私たち日本癌治療学会の認定がん医療ネットワークナビゲーターや患者会など、そういうものを利用していただきつないでもらって、その人らしい人生を歩んでいけるよう、一緒になって頑張っていけたらよいと思っています。
本日はありがとうございました。皆さん、本当にこれから大変なこともあるかもしれませんが、皆で歩いていけば必ず道が開けると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

不安や混乱を抱えた方たちと同じ目線に立って

村本:私は、変えていかなければいけないことと、変わってはいけないことがあると思っています。コロナ禍を経て、以前は対面だったものが完全にオンラインになり、今は対面とオンラインを組み合わせるなど便利になり、相談を受け入れる仕組みや風土というのも少しずつ広がっていって、今すぐにこれはどんどん変えていかないといけない、よい方向に変えていく、そのような気持ちが必要であると思っています。
一方で、忘れてはいけないことがあると、私は思っております。5年たっても10年たっても、初めてがんになった人、大病を経験した人が、不安や混乱でいっぱいだということは、きっと変わらないのではないかと思っています。それを前提にして、そうした方々と同じ目線に立って向かい合うこと、これは決して忘れてはならないと、私は思っております。
この、変えてはいけないことを忘れず、そして変えていかなければいけないことは変えていくということで、よりよい、私であれば会社をつくり、皆さんと一緒によい社会になっていければと思います。そうなると、相談もいろいろな所に、よりしやすくなるのではないかと願っています。本日は、ありがとうございました。

伴走してくれる人を見つけることが生きる力に

轟:先ほど、夫の告知から10年たったとお話ししましたが、もし今、また別の近しい人ががんと言われたら、私は、変わらずうろたえると思います。でも、10年前にうろたえた時と何が違うかというと、うろたえてよいということを知っていることです。それから、映画やテレビなどを見て、どこかに何か魔法のように治してくれる人がいるのではないかと信じてしまいましたが、何を信じたらよいのかを知ったことというのが、やはり10年前と違うのだと思うのですね。
真実は、時に厳しいです。幻を追いかけても、甘い言葉を追いかけても、真実は変わりません。ですから、がんに限らず「悲しい」「つらい」、どのような時でも「助けて」と言うことによって、伴走してくれる人を見つけることが、生きる力になるのではないかと思っています。これからも、自分の立場でいろいろできることを頑張っていきたいと思います。今日は、貴重な機会をありがとうございました。

鈴木:本日は記事のネタを多くいただきましたので、部員にも伝えて、早晩、記事として反映させていただきたいと思います。とにかく、がん相談支援センターに行くことは大事だということを刻んで帰りたいと思います。ありがとうございました。

目に見えないつらさや痛みを伝えることによって、よりよい医療につながる

渡邊:本日は、本当に多くの相談と支え合いの場が、少しずつ広がりつつあるということも共有いただいたとともに、課題もあるということも、お聞きいただいたかと思います。
まずは、がんの副作用もそうですが、目に見える副作用と目に見えない副作用があります。つらさや痛みなど、そういったものは検査ではわからないです。ご本人が伝えることによって、皆でこれを何とかしようという、解決に向かった支援の出し合いというのが始まります。今回の相談と支え合いの場も、声に出す、伝えることによって、「皆でつながろう」、そのための「情報をさらによいものにしていこう」「役立つ場を育てていこう」ということにつながります。
相談される方、情報を探す方も、一緒にその場に参加していただいている、これからの医療をよりよくしていくというところで、ぜひ、共に手を携えてよりよい医療ができればと思いながら、ディスカッションに参加させていただきました。
ご参加いただきまして、ありがとうございました。以上で、第2部のパネルディスカッションを締めさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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掲載日:2024年02月26日
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