北見地域のがん患者さん支援の充実に向けたセミナー 2023
【実践報告】
在宅看取りを支える事業所の垣根を越えた連携の必要性
よろしくお願いいたします。オホーツク勤医協北見病院院長の菊地と申します。本日はこのような発表の場をいただいて、本当にありがとうございました。
当院は、2022年10月から在宅療養支援病院となりました。外来通院が困難となった方、自宅や施設で人生の最期を迎えたいと希望されている方、人生最期の時をどこで過ごすか答えを出すことができず悩んでいる方、さまざまな患者さんやご家族のニーズに応えるべく、法人内外の訪問看護ステーションと手を携え、入院ベッドを持つメリットも生かしながら訪問診療を展開しております。
初回訪問が看取り往診に
2022年度に経験しました、初回訪問が看取り往診となった一例を報告いたします。80歳代のAさんは、他院で乳がん、多発全身転移と診断されました。前医でご家族と治療方針について話し合われており、積極的な治療は行わず、ご自宅での緩和治療方針となっていました。Aさんは病院には行きたがらず、「入院をしたくない」と常々お話しされていたそうです。しかし、同院では訪問診療は行われていませんでした。
ご家族から訪問診療のご相談をいただいたのは、Aさんが亡くなられる4日前のことでした。当院での訪問診療開始までの流れは、まず患者さんとご家族に当院の外来を受診していただき、病状把握や患者さん・ご家族の今後の療養に関するご希望、緊急時の対応方法の確認などを行い、初回訪問診療日を設定するといったものです。
ご家族からご相談をいただいた5日後に、Aさんの当院外来初回受診日を設定できました。訪問診療相談のために予定されていた当院外来初回受診日の前日、Aさんが動けなくなり、食事も取れず、声掛けにも反応が乏しくなっているとご家族からご連絡が入りました。
急きょ電話診療を行い、Aさんの病状を聴取し、訪問看護ステーションに訪問看護開始を依頼しました。同日、訪問看護師の初回訪問が実施され、黄疸(おうだん)が出現していることや臀部(でんぶ)に褥瘡(じょくそう)があること、当日から発語も聞かれなくなっていたとの報告が入りました。病状は予断を許さず、当日中の臨時往診をスタッフと相談し始めました。
その日の夕方に再度、訪問看護師からAさん心肺停止の報告があり、臨時往診を行い、ご自宅でお看取りをさせていただきました。刻々と悪化していくAさんの容体を目の当たりにしながら、それでもAさんの意に沿うことができた安堵(あんど)もあったのかもしれません。ご家族から涙ながらに何度も感謝の言葉をいただきました。
「在宅看取り難民」が生まれている
この事例から私が感じたことは、「在宅看取り難民」が生まれ始めているということです。どの医療機関が訪問診療を担っているのかわからない、訪問診療にかかる医療資源の乏しさなど、課題はさまざまあるかと思います。「人生最期の時を住み慣れた場所で」と希望する時、その後の訪問診療がどのように展開されるのか、医療・介護従事者のみならず市民とも事例共有を行うことは有用であると考えます。
また、そのような時に誰もがここに相談すれば大丈夫といった相談窓口を、各医療機関あるいは北見市としてつくっておくことも必要だと考えます。地域で共に働く仲間の顔も見えやすい北見市です。困った時に電話一本で「助けてほしい」と声を上げることができる関係性を普段からつくっておくことも大切なことです。
事業所の垣根を越えた連携が必要
ACP(アドバンス・ケア・プランニング:今後の治療・療養について患者さん・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス)の取り組みが進められている昨今、その対話の中で「人生最期の時をご自宅で」と希望される方もいらっしゃるでしょう。その願いを受け止め実現するためには、事業所の垣根を越えた連携が不可欠です。当院もその一助となるべく、微力ですが、尽力してまいります。何かございましたら当院地域連携相談室まで、まずはお電話で結構ですので、お気軽にご相談ください。ご清聴ありがとうございました。
関:菊地先生、ありがとうございました。続きまして、「在宅医療におけるがん診療と多職種連携の課題と必要性」、本間内科医院理事長・院長、本間栄志先生からご報告をしていただきます。