地域で取り組むがん患者支援 がん医療従事者研修会 広島 2023
がん相談支援センターの活用法
がん相談支援センターの活用法についてご紹介いたします。
先ほどもお話がありましたが、「がん対策推進基本計画」では、「相談支援および情報提供」「サバイバーシップ支援」等について述べられています。これらを実現するために、がん相談支援センターをどのように活用したらよいかをご紹介します。
がんと診断されると、治療や経過観察を経て病状が寛解される方や、残念ながら進行し、死を迎える方など、経過はさまざまです。その間患者さんは、診断時の心理的衝撃を受け、病気によって生じたさまざまな問題に向き合い、折り合いを付けながら生活をしています。医療の現状として、急性期病院でのかかわりには限界があり、まさに患者さんを点で支えなければならない状況です。高度化する医療と、高齢化や家族関係が変化する地域社会の現状の中で、どのように支援をしていったらよいでしょうか。
がんと共に自分らしく生きる
「がんサバイバーシップ」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。1980年代にアメリカで提唱された概念で、診断時から命の終わりまで、がんと共に自分らしく生きることを指します。がんという困難な状況でも、自己のコントロール感覚を取り戻し、自分らしく生きていくというプロセスを重視した考え方です。私たち相談員は、がんサバイバーが抱える問題そのものを解決するだけでなく、患者さん自身が持つ力を自ら発揮できるよう支援していくことが必要です。
サバイバーシップには、「急性期」「生存が延長された時期」「長期に安定した時期」「人生の終焉(しゅうえん)の時期」の4つの段階があるといわれています(1。急性期病院では、このオレンジの部分、「急性期」や「人生の終焉の時期」でかかわることが多いですが、退院し、がん治療を終えたらそれで終わりではなく、その後もサバイバーとして生きていく患者さんやご家族をサポートする体制を、医療的にも社会的にも整備していかなければいけません。
がん相談支援センターの役割
現在利用できる、がん患者さんの経過に沿ったサポート体制をお示しします。がん患者指導管理やがん地域連携パス、緩和ケアチームなど、診療報酬にかかわるものもありますが、がんの診断前から亡くなったあとのご家族に対するケアまで、誰でもいつでも何度でもかかわれるのが、「がん相談支援センター」です。
がん診療連携拠点病院整備指針では、がん相談支援センターの設置が定められており、「がん患者や家族等が持つ医療や療養等の課題に関して、病院を挙げて全人的な相談支援を行うこと」とされています。広島県内には13病院に窓口が設置されており、がんに関することなら誰でも匿名で何度でもご相談いただけます。
主な業務についてはご参照ください。
相談の例をご紹介します。相談内容は、治療法や制度、お金、仕事に関すること、セカンドオピニオンや緩和ケア、在宅医療やゲノム医療など多岐にわたっています。
これは令和3(2021)年度の相談内容です。複数選択の集計ですが、1つだけの相談ではなく、がん治療や不安に対する相談をベースに、それに加えて具体的な相談をされる方が多いように思います。
中でも意外と多いと感じる、コミュニケーションの悩みについての相談事例をご紹介します。「すい臓がんとわかって、あっという間に手術が決まった。頭が真っ白でベルトコンベヤーに乗せられているみたいだった。再発した今となっては、もっと慎重に治療法を選べばよかったんじゃないだろうか。治療法をいろいろ調べたら、重粒子線とか免疫療法とか、最新の治療がいろいろあるでしょ。でも、こんなこと聞いたら治療してくれている先生に悪いかなと思って言い出せない」という相談でした。
相談員は、窓口へ来られた、あるいは電話をかけてこられた相談者に、カルテ情報がない状況で対応します。ご本人から状況を伺い、相談者の立場に寄り添い、アセスメントを繰り返しながら問題を明確化していきます。この事例の場合は、自分がこれまでやってきた治療が間違っていなかったのだという保証が欲しかったこと、そして、これからの治療を納得して受けていただくための支援が必要と考え、ガイドラインを共に確認し、主治医に今の思いを伝えられるよう支援していきました。このように、疑問に思っていることがあっても、主治医になかなか言い出せないケースというのは意外と多いと思いますので、主治医への伝え方を共に考えることもしていきます。
最善の意思決定を支援
治療方針の決定の場面で、一般的にインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)が行われていますが、同意書にサインをもらうことを前提で話をすると、患者さんやご家族は本当に納得した治療方針の決定ができていたのだろうかと、疑問に感じることがあります。「Shared decision making(共同意思決定)」という考え方をご存じでしょうか。医療上の決定をするために、医学的判断だけでなく、患者さんの価値観やライフスタイルを考慮し、患者さんと医療職間で対話をすることで情報や目標を共有し、最善の意思決定につなげていくという考え方です。私たち相談員は、患者さんやご家族が思いを伝え、納得した意思決定ができることを支援していきます。
無料で相談できる「がん専門医よろず相談所」
しかし、なかなか時間をかけて話をすることが難しく、患者さん側も何度も何度も繰り返して質問をしづらいこともあります。当院では、医師が無料でがんに関する相談に応じる「がん専門医よろず相談所」を設けています。これは全国的にもまれな取り組みで、相談者の方からも大変好評をいただいています。当院に通院していなくても相談可能で、現在はオンラインでの相談も承っています。
そのほかに、さまざまなライフステージ、病気の段階に応じた、具体的な相談にも対応していますのでご紹介します。
その一つが、先ほどもお話がありました「治療と仕事の両立支援」です。治療によって仕事の中断を余儀なくされるケースがあります。当院では両立支援コーディネーターが相談に応じ、がん治療を継続しながら仕事と両立する方法を共に考え、産業保健センターやハローワークとの連携を図っています。仕事の中断は、経済的な問題だけでなく、生きがいや自己価値の低下、孤立にもつながります。仕事は個人的なことと考え、病院で相談できることを知らない方もいらっしゃいますので、病院でできる支援があるということを知っていただく必要があります。
AYA世代(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])の支援にも取り組んでいます。全がん患者さんに対するAYA世代の割合は少ないですが、進学や就職、結婚、出産など、人生の大きなライフイベントに差し掛かる年齢のため、複雑な問題が生じやすくなっています。特に先ほどもお話がありました妊よう性の問題は、がん治療によって将来妊よう性が低下する可能性について、主治医や生殖医療科と連携し、助成金等の支援も含め情報提供を行うようにしています。
「がんサロン」コロナ禍を経て徐々に活動を再開
また、がんを経験したからこそわかり合えることもあります。当院では毎月1回、がん患者さんとご家族が集まる「がんサロン」を開催しています。コロナ禍前のがんサロンは、1回の参加者が30名を超えることもあり、学習会やコンサート、交流会などを行っていました。しかし一転、新型コロナウイルスのまん延により病院に集まることが難しくなり、オンラインでの開催になっていました。現在は徐々に活動を再開させ、会場参加とオンラインのハイブリッドのかたちで開催しています。サロンでは、私たち医療者も、がんと共に生きる患者さんの生きざまから多くのことを学ばせていただいています。がんサロンでは6名の「がんピア・サポーター」が活動していて、現在は、がんサロンの進行や参加者との交流等を行っています。
では、院内でどのようにがん相談につなげているか、当院の体制についてご説明します。まず、当院では、がんと診断された時や再発がわかった時などに、がん相談支援センターのリーフレットを渡すようにしています。その時は必要でなくても、必要な時に必要な支援を提供するためです。病棟や外来では、苦痛のスクリーニングである「生活のしやすさ質問票」を活用し、チェックが入った内容で現場での対応が難しいものについては、がん相談支援センターに依頼をしてもらっています。また、現場のスタッフの気付きや「がん看護リンクナース(専門チーム等と各部署の看護師をつなぐ役割を持つ看護師)」の存在が、支援につながる重要な鍵となっています。院内ではこのようなシートを各部署に配布し、対応部署を一目でわかるようにしています。
地域全体でがん患者さん・ご家族を支援していくために
急性期病院では在院日数が短く、外来薬物療法が中心になっています。短いかかわりの中でアプローチすることには限界があり、生活者としての患者さんにかかわっている地域の関係者との連携が不可欠です。地域全体でがん患者さんやご家族を支援していくために、よりよい連携をしていきたいと思っています。がんに関する問題を抱えている方がいらっしゃれば、ぜひがん相談支援センターをご紹介ください。利用方法はご参照ください。以上になります。ご清聴ありがとうございました。
篠崎:橋本さん、端的にわかりやすくまとめていただきました。今日お聞きになっておられる方にも十分な情報が伝わったのではないかと感じます。ありがとうございました。
1)国立がん研究センターがん対策情報センター編(2020)『がん専門相談員のための学習の手引き~実践に役立つエッセンス~』第3版、67ページ
https://ganjoho.jp/med_pro/training/consultation/pdf/gakushu_guide03.pdf(国立がん研究センターがん情報サービス)