地域で取り組むがん患者支援 がん医療従事者研修会 広島 2023
質疑応答とディスカッション
パネリスト: | 渡邊 清高さん、西岡 典幸さん、橋本 美千代さん |
モデレーター: | 篠崎 勝則さん |
篠崎:それではディスカッションに移りたいと思います。今日お話を聞いて、やはり「情報を患者さんにいかに伝えていくか」のみならず、「医療者にも伝えてつながっていく必要性」を十分に感じた次第です。
そこで、「地域医療をつくっていく」というテーマでディスカッションしたいと思います。渡邊先生は、「医療・地域のチームづくり」「地域包括ケアチーム」といった2つのテーマ・枠組みでお話しされたと思います。その中で、地域チームは、例えば医者であれば医者同士でつながるといったところで、つくりやすいかと思うのですが、その地域のチーム、医療者、医者をつくっていく上で何かよい方法、コツについていかがですか。
皆で意見を出し合えるチームづくり
渡邊:とても難しいご質問だと思います。ベストのチームというのが、やはり地域や患者さんの状況によって時々刻々と変わるので、そこは患者さんやご家族の状況に応じて、皆で意見を出し合えるチームが、おそらくベストなチームだと思います。少し曖昧な答えになってしまうのですが、場所によって、患者さんの状況によって、最適解が変わってくると感じているところです。うまくいっている所は、やはりお互いに話しやすいです。ヒエラルキー構造にしばしばなりがちなのが医療の世界、というのではなくて、やはりお互いに話せる、心理的安全性という言い方を最近しますけれども、そういったものは、結構共通したキーワードとしてあげられるのではないかと思います。
篠崎:そうですね。コロナ禍では、顔を合わせる機会もかなり少なくなっておりましたが、まず「顔の見える関係から」といったところで、このような研修会や顔を合わせる機会が、今後また盛んになって交流が構築できればと思う次第です。
渡邊先生、もう1つの地域包括ケアチームですが、主に訪問看護師さんや介護士の方とのチームづくりに関してはどのように考えていったらよろしいでしょうか。
渡邊:やはり連携しながら、チームも患者さんのニーズに沿ってできていくようなかたちで、運用されている部分が多いのではないかと思うのですが、ただ、地域によってはある程度、こういった病態あるいは状況の患者さんであれば、チーム編成は固定して運用している所もあるし、いろいろな組み合わせがあり得ます。
したがって、在宅や介護となると、やはり患者さんが利用できる資源やサービスも、ある程度限定されるので、それに合わせて皆が集まってきて、また組み合わせを変えて活動できるというのは、一番フレキシブルで、なおかつ、参加の組み合わせが変わっても、やはり「顔が見える関係」が維持できるというのは非常に重要な仕組みだと思います。
訪問看護ステーション等と連携してケアの質向上を
篠崎:橋本さん、がん相談支援センターとして患者さんからいろいろな相談を受ける時に、例えば療養の生活支援についても、結構相談を受けておられますよね。
私たちは、訪問看護の方など、なかなか顔が見えないです。実際に医療、あるいは在宅をやっておられる医師の顔は見えて、コミュニケーションを取れるのですが、生活の質や工夫などの医師の見えないところでは、なかなかわからないことがあります。そういった時に、私ががん相談支援センターの方々と一緒に仕事をしていて非常にやりやすいと感じるのは、看護師さんとしてそういったところに入っていって、また患者さんにアプローチしていただくことで、私たちは大変助かっています。今後、訪問看護ステーションや地域包括ケアチームと意見交換などをする機会があるのでしょうか。
橋本:当院では、がん相談支援センターが地域連携室と同じ部署になっていますので、地域連携室の機能として意見交換をする場はあると思います。ただ、やはり個別性の高い相談が多いので、電話でやりとりする時などに、患者さんの情報をなるべく詳細に伝え、先方の訪問看護ステーションができるところなどを、電話で何度もやりとりをして、お互いのニーズを把握しながらやっていくようにしています。
また、訪問看護ステーションの方なども、病院にいらした時にあいさつに寄ってくださって、私たちも、相手の顔がわかっているととても頼みやすかったり、「この人にお願いしてよかったな」と思うこともありますので、やはりそういった機会をもっとつくっていけたらよいのかなと思っています。
篠崎:都道府県がん診療連携拠点病院である広島大学病院を中心に、広島県の地域がん診療連携拠点病院で構成される広島県がん診療連携協議会の中に、「情報提供・相談支援部会」があり、それ以外の部会もあるのですが、その部会の活動が一番活発で、いろいろと情報も共有できていて活動的だと感じております。そういったところが、今後また地域包括ケアに入っていって、地域の訪問看護ステーションなどを巻き込むことで、よりケアの質の向上が図れるのではないか、そうあってほしいと個人的には考えています。私たち医者としてはなかなか踏み込みにくいところですから、ぜひお願いしたいと思います。
渡邊:私も橋本さんにお伺いしたいのですけれども、広島県の相談員の方全体をつなぐネットワークのような、情報共有や何か困ったことに共有できる、そういった仕組みはあるのですか。
橋本:広島県がん診療連携協議会の「情報提供・相談支援部会」というのがあって、県内の16病院で集まって話をする機会を年数回持っています。最近はオンライン開催で行っていますが、以前は1つの会場に集まって研修会と会議をしていました。広島市内の拠点病院の中でも情報交換会を設けていまして、先ほどお話にあった広島大学病院が中心になって会を進め、在宅支援に関する問題や相談支援にかかわるいろいろな課題をあぶり出して議論をするようにしています。
渡邊:県の中やいろいろな地域の広さを変えながら問題を共有できるのは、非常によい仕組みだと思います。ありがとうございます。
篠崎:ありがとうございます。地域連携室とがん相談支援センターで、役割が重なる部分もあるのですけれども、まったく向いている方向が違うところもあるので、ぜひその辺を、また精力的にがん相談支援センターとしてもやっていくことが必要だと感じています。応援したいと思います。よろしくお願いします。
より多くの患者さん・ご家族に情報を届けるために
篠崎:あと、県のほうで「広島がんネット」のお話が出ておりました。広島がんネットは、今日の渡邊先生のお話でも、患者さんあるいは医療者に情報を伝える目的で、インターネットのメディアとして必要であって、また、価値の高いものではないかと感じています。実際に県で、広島がんネットの運用に関して、さらにいろいろな一般の市民の方々にも見ていただけるような、そういった取り組みはいろいろと考えておられるのでしょうか。
西岡:そうですね。先ほどご説明いたしましたけれども、「がんに関する情報提供・相談支援」ということで、広島がん情報サポートサイト、いわゆる「広島がんネット」を平成21(2009)年から開設していまして、年々アクセス件数も増えているところです。医療の情報や相談支援関係の情報など、そういったところの情報を随時更新して、よりがん患者さんやご家族の方に情報発信できるように、取り組んでいるところです。
篠崎:私もよく利用させていただくのは、やはりウィッグの助成です。私の診察室の前に二次元バーコードが貼ってあるので、患者さんに脱毛のことをお話しする時にその情報を伝えて、がん相談支援センターの情報も提供させていただいたら、患者さんがとても元気になられて「脱毛と言われたけれどショックじゃなくて」とおっしゃいます。ご高齢の方の場合もあるので、「もう1回若返ってちょっと頑張ってみようや」と声を掛けると、とても喜ばれます。助成も今1件当たり上限5万円までですので、大変安心される様子を目の当たりにします。私たちも協力して情報を伝えていくので、そういった情報普及をよろしくお願いしたいと思います。
渡邊:私からもお伺いしたいのですが。非常に多くの患者さん向けのサポートメニューがあることに感激したのですが、結構国の仕組みに先駆けて導入されていらっしゃるものもあって、それはどのようなきっかけで施策に取り入れようとされたのでしょうか。例えばアンケートや患者さんからの声、医療従事者の声など、いろいろなきっかけがあったかと思います。もし差し支えなければ、教えていただければと思いますが、いかがでしょうか。
西岡:もう10年以上前の話ですので、私は導入に至った経緯を存じ上げないのですが。先ほど篠崎先生からお話があったアピアランスケアのウィッグの関係で言いますと、新しく制度ができた時に、周知を図るべく情報発信をしたり、実際いろいろながん患者さんから、ウィッグ助成制度についてご質問があった場合には、Q&Aも作成して随時更新していったり、2022年は、ウィッグ購入費への助成をさせていただいた患者さんに、どのようなことが今後望ましいか、いろいろな要望など、そういったアンケートを行い、結果を取りまとめて、この広島がんネットで随時更新して載せているところです。
渡邊:そういったところの改善活動につなげていらっしゃるのは、大変素晴らしいことだと思って伺っておりました。ありがとうございます。
篠崎:ありがとうございました。
今日は、渡邊先生、西岡さん、橋本さんにご講演いただいて、皆さまに情報を発信できたのではないかと思います。今日渡邊先生のお話にもありましたように、私たち医療者も、そういった情報を共有する必要があって、それは私たちだけではなくて、患者さんにも情報を共有化させることで、私たちが医者同士でつながる、そして、患者さんと医者・医療者がつながる、そういったものがかなり必要ではないかと思います。そういった意味での情報発信を、また積極的に考えていかなければいけない、そのような機会になったと思います。
それでは、最後にクロージングリマークスとしまして、県立広島病院の病院長の板本敏行先生にメッセージをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。