地域で取り組むがん患者支援 がん医療従事者研修会 広島 2023
広島県の取り組み
広島県健康福祉局健康づくり推進課の西岡と申します。広島県の取り組みについてご説明いたします。
広島県におけるがんの現状
まず、広島県におけるがんの現状について簡単にご説明いたします。広島県で新たにがんと診断された方は年間2万人を超えています。ある統計によれば、2人に1人はがんに罹患(りかん)しており、まさに国民病といえるのではないかと思います。がんの罹患状況を部位別に見ると、男性は、前立腺がん、胃がん、肺がんの順に多く、女性は、乳がん、大腸がん、胃がんの順となっています。
広島県では年間8,000人を超える方ががんで亡くなっており、年間死亡者の約3割を占めています。右のグラフを見ていただくと、県内では昭和54(1979)年から悪性新生物が死亡原因のトップとなっています。
「がんの予防・検診」「がん医療」「がんとの共生」を3本柱に
次に、「第3次広島県がん対策推進計画」についてですが、県では平成30(2018)年3月に策定し、全体目標を「がんで死亡する県民の減少」としました。具体的には、「75歳未満のがんによる年齢調整死亡率、全国1位を目指す」こととしています。第3次計画の目指す姿としては(1)から(3)のとおりですが、重点的に取り組む課題として、「がんの早期発見・がん検診」「在宅緩和ケアの充実」「治療と仕事の両立支援」を掲げています。 第3次計画では、「がんの予防・検診」「がん医療」「がんとの共生」を3本柱に取り組みを進めています。これからは、この3本柱に沿って、広島県のがん対策の取り組みをご紹介したいと思います。
がんの予防・検診
まずは、1つ目の「がんの予防・検診」の予防についてですが、がんは、アルコールを適量にとどめる節酒や、禁煙、減塩、適正なBMI(Body Mass Index:体格指数)値の維持、適度な運動といった、健康的な生活習慣を送ることで、ある程度防げることがわかっています。
時間の関係で全ての取り組みはご紹介できませんが、広島県では、受動喫煙防止対策の取り組みとして、平成27(2015)年に制定した「広島県がん対策推進条例」の中で、国や他県に先駆けて、施設の種類ごとに受動喫煙を防止する対策を講じるよう定めました。その後、国において「健康増進法」が改正されましたが、本県の条例も同様の改正を行い、その上で、広島県独自の上乗せ規制として、子どもが主たる利用者である学校および児童福祉施設等では、法律では許される屋外への喫煙場所の設置も不可とする、敷地内完全禁煙としました。
次に、「がんの予防・検診」の検診についてですが、広島県では、次の5つのがん検診について勧めています。肺がん、大腸がんは、40歳以上の方に年1回。胃がんは、50歳以上の方に2年に1回。また、女性の方には、乳がんについて40歳以上の方に、子宮頸(けい)がんは20歳以上の方に、どちらも2年に1回の受診をお願いしています。 広島県では、がんの早期発見のためのがん検診を浸透させる取り組みとして、「普及啓発の推進」「個別受診勧奨の推進」「受診しやすい環境づくり」を3つの柱として、対策を進めてきました。
しかし、がん検診の受診率は伸び悩んでいます。令和元(2019)年度の5つのがん検診受診率は全国平均を下回り、40%台にとどまっています。
こちらは、がん検診を受けない理由について、県が独自に調査を行ったものです。その結果、「後回し」や、「手続きが面倒」「経済的に負担」といった理由が明らかとなりました。後回しにさせない、もう一押しが必要と考えています。また、各種調査などから、大企業に比べて中小企業の従業員の受診率が低いことや、被扶養者の受診率が低いこと、女性の受診率が低いことがわかってきました。こういった課題を克服して、受診率を高めていく必要があると考えています。
すい臓がん早期発見を目的にプロジェクトを開始
すい臓がん「Hi-PEACE(Hiroshima Pancreas Cancer Early Diagnosis with Collaboration and Examination)プロジェクト」をご紹介します。早期発見が難しく5年生存率も極めて低い、すい臓がんの早期発見体制を構築するため、広島県医師会、広島大学、広島県、広島市で「Hi-PEACEプロジェクト」を立ち上げ、県内全域で展開しています。プロジェクトの流れは、かかりつけ医のもとで問診や画像検査を行い、異常があれば各医療圏の中核病院へ紹介して精密検査を実施し、がんが見つかれば治療するというものです。
リスクファクターとして、糖尿病や肥満等を含む「Low-grade危険因子」を6つ、腫瘍マーカーの上昇等の「High-grade危険因子」を3つ設定し、「Low-grade危険因子」に3項目以上、「High-grade危険因子」に1項目以上該当する場合は、かかりつけ医から中核病院に紹介していただくことを基本としています。このプロジェクトは令和4(2022)年度から本格的にスタートしたところであり、効果検証はこれからとなっています。
「広島県がん医療ネットワーク」を構築
広島県の取り組みにおける3本柱のうち、2つ目の「がん医療」についてご説明します。本県独自の取り組みとして、検診から、精密診断、治療、経過観察までを切れ目なくつなぎ、県民の皆さまへ適切で安全ながん医療を提供するため、患者数の多い5大がんについて、一定の医療基準を満たす施設が参加した、「広島県がん医療ネットワーク」を構築しています。医療ネットワークの参加医療機関は、県のホームページ上の「広島がんネット」に掲載し、県民の皆さまに公開しています。現在、この5大がんについて、参加施設総数で約1,100の医療機関からなる、全国随一のネットワークを構築しています。こちらは、今ご説明したがん医療ネットワークと、がん診療連携拠点病院、地域のかかりつけ医などの連携を図にしたものです。
続いて、「広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC[Hiroshima High-Precision Radiotherapy Cancer Center])」をご紹介します。平成27(2015)年10月、広島駅北口の二葉の里に県が設置し、県医師会が指定管理者として運営しています。HIPRACの治療方針の概要ですが、先ほど説明しました4基幹病院などから紹介された患者さんの治療や、(入院施設がないので)外来通院可能な患者さんの治療などとしています。HIPRACのこれまでの7年6か月の治療実績ですが、合計4,516名の患者さんを治療しています。高精度治療の割合は6割近くとなり、全国平均を上回っています。
患者さん・ご家族の希望に応じた緩和ケアを支援
広島県の取り組みにおける3本柱のうち、3つ目の「がんとの共生」についてご説明します。まず、緩和ケアですが、県として、がんと診断された時から、患者さん・ご家族の希望に応じた緩和ケアが提供できる体制づくりを支援しています。具体的には、「在宅緩和ケアの充実」「施設緩和ケアの充実」「緩和ケアに携わる人材育成の充実」に取り組んできました。在宅緩和ケアの推進について、希望に応じた緩和ケアを安心して受けられる全県的体制づくりを、がん診療連携拠点病院等と連携して進めています。
情報提供・相談支援に向けたさまざまな支援
「がんに関する情報提供・相談支援」について、「広島県がん情報サポートサイト『広島がんネット』」を平成21(2009)年から開設しています。がんに関する信頼できる情報が集まっており、アクセス数も年々増えています。
先ほど渡邊先生からもご紹介がありました、『がん患者さんとご家族のためのサポートブックひろしま』についてです。インターネットの利用が難しい患者さんやご家族の方への対応として、療養生活に役立つ身近な相談窓口など、県内の情報を取りまとめた冊子を作成しています。がん患者さんやご家族の方に手渡していただくよう、県内のがん診療連携拠点病院や主な医療機関などにおいて無料で配布しています。こちらは最新版が令和2(2020)年度のものですが、現在改訂版を作成中で、2023年度中に改訂された『がん患者さんとご家族のためのサポートブックひろしま』を発行する予定となっております。
がんの具体的な相談先として、「がん相談支援センター」が、県内13のがん診療連携拠点病院に設置されています。患者さんやご家族の方、それ以外の方、どなたでも無料で相談していただけます。下段は「がんピア・サポーター」の取り組みです。平成26(2014)年度から、がん患者さんやそのご家族と同じような立場で相談に応じられるがん経験者などを「がんピア・サポーター」として養成し、がん診療連携拠点病院等でご活躍いただいています。
治療と仕事の両立に向け企業等とも連携して支援
「治療と仕事の両立支援」について、就業中のがん患者さんのうち約20%が退職するといわれる中、治療と仕事の両立が社会的課題となっています。広島県では社会保険労務士会などと連携して、院内における両立支援体制の整備を進めています。
また、治療と仕事の両立支援のみならず、総合的ながん対策を企業と連携して取り組む、「Teamがん対策ひろしま登録企業制度」を平成26(2014)年から実施しています。こちらは全国初の取り組みとなっています。この取り組みは、社員の方のがん検診受診率向上や就労支援、地域の皆さまへ向けたがん検診啓発やがん患者団体支援などのがん対策に、目標を持って積極的に取り組んでいただく企業の方々に、「Teamがん対策ひろしま」として登録いただくものです。現在168社の企業にご登録いただき、総合的ながん対策に積極的に取り組んでいただいています。
小児・AYA世代のがん対策
続いて、「ライフステージに応じたがん対策」についてです。小児・AYA世代(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])のがん患者さんへの支援として、平成30(2018)年度から、全国で3番目に、「がん患者の妊孕(にんよう)性温存治療への助成」を始めました。具体的には、原疾患の治療により妊よう性が低下したり失われたりする可能性のある方など、一定の要件を満たすがん患者さんの、精子、卵子等の凍結等にかかる経費を一定額の範囲で助成するものです。令和3(2021)年度から国が事業を始めたため、国に準じた内容で事業を変更しました。また、2022年度から、国の事業の助成対象拡充に伴い、妊よう性温存療法による凍結保存後に実施した「温存後生殖補助医療」についても、費用の一部を助成しています。
次に、「アピアランスケア」についてです。広島県では、令和4(2022)年度から、がん患者さんへウィッグ購入費の助成を始めました。がん治療により脱毛が生じ、ウィッグを購入した場合、購入費用の5割を上限5万円まで助成する事業で、令和4(2022)年度の申請件数は、年度当初の見込件数を上回る945件の実績となっています。
最後に、県では、令和6(2024)年度から6年間の「第4次広島県がん対策推進計画」の素案を現在策定中です。次期計画の策定に当たっては、国の基本計画等を踏まえつつ、これまでお話ししてきたように、「がんの予防・検診」「がん医療」「がんとの共生」を3本柱に、がん対策推進委員会などでご意見をお伺いしながら、策定に向けて取り組んでいます。 以上です。ありがとうございました。
篠崎:西岡さん、ありがとうございました。「広島県の取り組み」として、全てのことを網羅してお話しいただきました。
続きまして、3演題目は、「がん相談支援センターの活用法」と題しまして、県立広島病院がん相談支援センターのがん看護専門看護師でいらっしゃいます橋本さんにお話をいただきたいと思います。橋本さんには、当院のがん相談支援センターにおける情報提供のあり方等について、お話しいただけることになっております。
それでは橋本さん、よろしくお願いいたします。