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在宅医療を支える多職種連携研修会/板橋サバイバーシップ研究会 2018
患者さんが安心して住み慣れた地域で暮らすために【第1部】導入と事例提示

グループワークのオリエンテーション:多職種で臨床倫理を考える

山田 陽介さん(東京都保健医療公社豊島病院 緩和ケア内科)
山田 陽介さん写真
山田 陽介さん

臨床倫理を考える

皆さん、こんばんは。タイトルに「臨床倫理」と、結構大仰に感じられますが、難しく考えていただく必要はないかと思います。今、大変考えさせられる症例提示がありました。臨床倫理というのは別段難しいことではなくて、皆さんが今この症例を聞いて感じた、「何でこんなことになったのだろう?」という、そういう疑問、まさにそれが重要です。

質の高い医療、質の高い介護には倫理的な側面への配慮が欠かせないという前提があります。私たちは、何も考えないで仕事をすることはできません。その中で、質の高い医療を提供するためには、日常で見逃されがちな倫理問題に気が付く感受性が必要だと思っています。今の症例を見聞きして、「ああ、別にこれはいつもこんなものじゃない?」と思う人もいれば、「いやいや、これはちょっとおかしいんじゃない?」と思う人もいるから、この症例を提示されたと思うのですが、その部分ですね。感受性はみんな違うということです。

倫理的な問題の葛藤から、共有と話し合いへ

感受性を磨いて、さらにこれを議論する方法を学ぶことが非常に重要なわけです。われわれはケアを提供するのが仕事ですので、仕事としてどうやって議論したらいいのでしょうか。皆さん、職業倫理も微妙に違いますし、考え方も違います。用語の使い方も違うかもしれません。職業倫理の違いは、ぱっと言うと難しいですけれども、例えば医師が考える入浴清拭の重要性と看護師さんが考える入浴清拭の重要性は違うわけです。看護師さんは何としてでも体をきれいに保ちたいと考え、医師は、こんな手術をしてこんな熱が出ているのに疲れるからやめようよと考える。そこで、共通で議論するにはどうしたらいいのかという工夫をしなければいけない。

実際の臨床現場では大きな問題よりも、実はプチ疑問のほうが多いのです。そうした疑問がいっぱいあって、それ自体は本当に些細なことですが、実は大きな倫理問題をはらんでいます。この症例もそうかもしれません。日々の細かい疑問が解決されないと、葛藤が生まれます。この葛藤がみんなでしっかり共有できていればいいのですが、そうでないと不全感がうまれます。「本当はこうなのにな。何であの先生、やらないんだろう」といった具合です。どうやって伝えたらいいのだろう、どう共有したらいいのだろうといったことが分からないのです。

講演の様子写真
講演の様子

患者さんの尊厳を守る

話は変わりますが、「患者の尊厳を守る」ということが医療ではとても大事な仕事です。心身を病んでいても常に一人の人間として尊重されるべきです。この症例の場合、どうでしょうか。生きることの質、生命の質、生活の質、QOLといいますが、これをなるべく維持できるようにサポートするのが医療の役割の一つでもあるのです。これは尊厳とつながってくる話です。

人間というのは、生活の質、QOLが落ちると尊厳が損なわれると感じます。でも、立場が変わると、そこには、倫理原則・価値の対立があります。倫理原則とは何かというと、倫理問題を話すときに話をしやすくするためのツールです。自律尊重原則、善行原則、無危害の原則、そして公正原則の四つです。

例えば、患者の意向、自律尊重原則を尊重しつつ、より危険が少ない、無危害の原則にのっとった方法はないのか。社会的に考えてどうなのだろう、という公正原則。そもそも医学的にどうなのだろう、薬による改善の余地があるのかないのか。善行原則にとってはどうだろう。より良いQOLを保つためにはどうしたらいいのだろうか。倫理問題は尊厳に関わるので、QOLをどうやって向上させたらいいかという問題が常に関わってきます。

多職種で議論するための4つの視点

そこで、どうやって議論したらいいのでしょうか。アメリカを中心とした議論から、Jonsenさんという方の考えた4分割表を使います。医学的適応、患者の意向、患者を巡る状況、QOLに分けます。要するにこれは多職種で議論しやすくするための便利なツールです。ツールに過ぎません。この表に当てはめたら何か答えが浮かび上がってくるというそういう便利なものではありません。でも、こういうもので問題を整理して俯瞰(ふかん)して見ると、議論しやすく、いろんなことが分かってくるという、そういう便利なツールです。

今日は皆さん自由に書いていただいて、俯瞰して見ていただき、どういうことがQOLを維持・向上させるのか、させるためにはどうしたらいいのかを議論していただきたいと思います。これは別に順番で埋めていく必要はありません。ランダムに、思い付いたところをぽんぽんと埋めていって俯瞰して見てどうだろうと考えるのがいいと思います。

あえて説明しますと、それぞれの枠の中で「分かっていること」「分かっていないこと」を書き入れます。さらに必要な情報は何だろう、枠ごとに対処の仕方などを入れながら自由に議論していきます。絶対の正解はありません。医療職だけではなくて家族も本人も議論に参加してもらうことも、ACPを考えたら非常に重要なことではないかと思います。

ポイントをまとめます。日常に潜む倫理問題に気がつく感性を磨いていただきたい。解答の出ない臨床倫理問題を、多職種を交え、使いやすいツールを使って議論する。そのプロセスをしっかり記憶に残していただきたいと思います。

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掲載日:2019年1月15日
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