がん医療フォーラム2017 がん患者さんを地域で支える 市民が望むがん医療と福祉のかたちとは
【第2部】フォーラム がんになっても安心して住み続けることのできるまちづくり
2)各職種からのメッセージ
モデレーター: | 古田 達之さん(柏市医師会理事) 松倉 聡さん(柏市医師会副会長) |
石橋 正樹さん(柏市医師会在宅プライマリケア委員会委員長)
古賀 友之さん(柏市医師会在宅プライマリケア委員会委員)
黒滝 義之さん(柏歯科医師会専務理事)
餅原 弘樹さん(柏市薬剤師会)
大熊 智子さん(柏市訪問看護師ステーション連絡会会長)
西田 恭子さん(柏市在宅リハビリテーション連絡会会長 理学療法士)
梅津 直美さん(柏市介護サービス事業者協議会事務局 介護福祉士)
坂本 はと恵さん(国立がん研究センター東病院 がん相談支援センター 医療ソーシャルワーカー)
小林 弘幸さん(柏市介護支援専門員協議会会長 ケアマネジャー)
小野田 光芳さん(柏西口地域包括支援センター センター長)
今田さん(千葉県立東葛飾高等学校医歯薬コース 3年)
フォーラムの様子1
古田:第2部の2番目「各職種からのメッセージ」に移ります。本日のテーマであります「がんになっても安心して住み続けることのできるまちづくり」ということで、歯科医の先生をはじめ、さらに多くの職種の方を本日お呼びしております。皆さんにご登壇いただき、普段患者さんにどのように接しているかを、インタビュー形式でお聞きしたいと思います。松倉先生お願いします。
松倉:実は柏市では7年前から訪問医療の先生やいろいろな訪問看護師さん、薬剤師さん、中には訪問の栄養士さんなども含めて会議をやって、本当に顔の見える関係です。それぞれの責任者だったり、いろいろ思いを持っていらっしゃる方々にお集りいただきましたので、ご意見を聞いていきたいと思います。
柏市医師会の中に在宅プライマリケア委員会というものがありまして、月に1回、在宅に関わっている先生方が集まって協議をする場があります。そこには当然、行政も入ったりして、制度上の問題とかも話し合っています。その委員会の委員長で、お仕事としては外来診療と往診、両方やっておられる石橋正樹先生、よろしくお願いします。
石橋:柏市医師会在宅プライマリケア委員会は、訪問診療とか、おうちにうかがって診療を行うことをやっている医療者たちが集まっている委員会です。その中で委員長という立場でやらせていただいています。実際、開業医のほとんどは、がんという今回のテーマで言えば、発見して、しかるべき医療施設に紹介をするということで役割は終わります。しかし、残念ながら治療が継続できなくなった患者さんたちが戻る場所として自宅を選択されたときに、訪問診療、昔で言う往診ですが、療養を継続できるように受け皿になる往診医が必要です。
実際のところ、受け皿となる医療機関が非常に少なくて、それで7年前に「柏プロジェクト」という、在宅医療推進のプロジェクトが立ち上げられました。私も第1回に参加して以来、訪問診療を継続しています。1人の患者さんから始めましたが、現在では平均して月に30人から40人くらいの往診患者さんを受け持たせていただいています。
外来と往診の違いは何か。病院や診療所と自宅とではまったく違って、患者さんのテリトリーに私たちが踏み込むという形なので、医療というよりも、もう少し生活に密着した部分に踏み込むことが多いです。病院でたくさん出たお薬が大量に残っているのを見て、自分の日常の診療でも薬を減らしたりとか、こちらも勉強になることがたくさんあります。
松倉:先生がずっと外来で診てこられた患者さんが、帰れなくなったときにということから在宅を始められたのですか。
石橋:往診というか、在宅に関連する病気としてはがんだけではなく、認知症であったり、骨折であったりと、本当にいろいろな方がいます。私はもともとがんを見つける立場にいましたので、患者さんがもし通院が困難になった場合は往診もできますということで、ご本人に紹介の段階で往診に行きますと伝えてしまうと、非常に悪いということを伝えてしまうことになりかねません。病院に紹介するときに、必要な際には訪問診療にうかがいますということを、最近はお伝えしています。
松倉:実際にそのまま訪問診療に入る場合もあれば、病院に紹介していただいて病院から帰るときに、もともと診てもらっていた先生がまた診てくれることで、患者さんはすごく安心されます。病院から帰るときに、石橋先生にご連絡してあります、来てくださるからと言うと、すごく喜ばれる。同時に、病院に入院されているときに石橋先生とか、古田先生が、病院に来てくださったりするんですね。患者さんは我々、病院の医師が部屋に行って「どうですか」というときと違って、ふだん診てくださっている在宅の先生が病室に来てくださると、すごく喜ばれます。そういう関係を、僕らも一緒につくりながら、患者さんの安心を考えていきたいと思います。
一般的な診療所としての、ないしはこの委員会の責任者として石橋先生にお話しいただきましたが、在宅を専門にしておられる診療所の古賀先生にもお願いします。
フォーラムの様子2
古賀:僕も外来と訪問診療をやっていた時期があって、本来であれば、ずっと昔から外来に来ていただいて、具合が悪くなれば病院に行って、帰ってきたらまた家で診るよというのが理想だなと思っています。ただ、これからのがん患者さんが増える時代にあっては、どうしてもそれだけでは済まない。やはり外来を抱えて忙しい先生たちが働いている中で、僕たちみたいな、家で暮らすことを専門的に支えるクリニックも必要ではないかと思って、在宅を専門としてクリニックを開いています。
石橋先生もそうですけれども、僕たちの特徴としては24時間、夜中でも祝日でも、いつでも連絡がとれる体制、夜でも往診ができる体制をとっています。今ここにも電話がかかってきて、「後で行きます」と言ったのですけど。ひとりひとり、患者さんがおうちで過ごすというのはとっても不安なときもありますが、その不安を少しでも和らげるという役割を僕たちはしなければいけないと思って、訪問診療をしています。
ちょっといやな話をしますけど、元気なときには、「本当は家で死にたい」という人は6割くらいいる。もちろん「心配だから私は絶対に病院に行く」という方もいて、その人は病院に行くのはごく当たり前だと思う。それはそれでいいのですが、6割くらいの人は「本当は最期まで家にいたい」と思っている。でも、現実は日本全体としてはまだ1割くらいの人しか、最期まで家で過ごせる人はいないのです。
柏市では在宅療養の支援にがんばっていて、だんだん増えて、今は2割弱の人が最期まで家で過ごせるようになっています。ただ、まだ2割弱なんです。僕は、皆さんが自分の思った場所、もし安心できる場所が自宅であれば、自宅を選択できるような、自宅でいいと思っていただけるような医療をやっていきたいと思っています。
松倉:在宅医療で何か苦労される点はありますか。
古賀:一番大事なのは、患者さんが何を希望しているのかを聞くことです。本当は家にいたい、でも家族に遠慮して、病気だから病院にと言っている人。家族も、私は絶対無理ですと言っている人。でも、よくよく話を聞いていると、やっぱり家にいたい、最期は娘さんたちにみてもらいたい、奥さんに手を握ってもらって過ごしたいと。それをご家族に説明し直して、またご本人と話し合って。そうすると1時間、2時間が過ぎて、次の患者さんのところにうかがうのが遅れたりして。それが苦労かなと思っています。
松倉:古賀先生から歯科の病気は在宅ではとても重要だというお話がありました。ふだんは歯科診療所として診療されていますが、在宅診療もしておられる黒滝義之先生です。
黒滝:私も今、お話を聞いていて思い返せば、大学生のときに母をがんで亡くしています。最後の2日間だけ家で一緒に過ごすことができました。そのときに母が言ったのが「やっぱり家がいい」ということでした。それがずっと心の中にありました。
外来だけの歯医者から訪問をやるようになって思ったことは、最期までお口で食べる。食べる量が減ってきてしまうのですが、昨日食べたアイスクリームがおいしかったと。歯科は生活を支える医療なのだとつくづく感じます。
ただ、食べさせる医療とは何かといえば、食べる機能が落ちてしまったり、口の中がどうしても痛くなったりしてしまって、ちゃんと磨けない。第1部で出てきましたが、死因で肺炎が非常に増えてしまっている。その中に誤嚥性肺炎があります。口の中のばい菌が原因で肺炎になってしまう。がんでただでさえ苦しいのに、肺炎がそこにのっかってしまう。そういうことを少しでも減らしてあげたいということで、お口の機能の維持、回復、衛生状態の向上ということをやっております。
松倉:実は病院でも歯科がない場合、慈恵医大とか我々のところもそうですが、歯科医師会の先生に来ていただいて口腔ケアとかやっていただいて、治療につながることがあります。本当に口腔ケアというのは患者さんにとって重要なことです。
黒滝:病気になりたくて病気になっている人はいないのですが、急性期の病院に行くと、歯科を受診する機会があったはずだという方が多くて、すごくかわいそうになってしまうことがあります。皆さん、日頃から歯科を受診して歯と口腔内の健康を維持してください。
松倉:次は柏市薬剤師会の餅原弘樹さんです。先ほども言いましたが、在宅療養で医師、看護師が来るのはイメージがわくと思いますが、薬剤師さんまで来てくれるとは、なかなか思わないでしょう。いろいろなアドバイスをしてくださる、とても心強い存在です。
餅原:一般的に皆さんと薬剤師の接点というと、例えば薬局でお薬をもらったり、病院の中でお薬をもらったり、そういうところが多いのかなと思います。その裏で、実は薬剤師はお薬を渡す前と、処方の後にいろいろな仕事をしていることを知っていただきたいと思います。
まず、お薬を渡す前。どの薬剤師もするのですが、そのお薬が患者さんに合っているのかを確認する作業があります。もうひとつは、在宅医療ならではと思いますが、その人がおうちで出されたお薬を正しく使えるかどうか。あるいは「本当は坐薬はいやだ」といった思いを聞きながら、先生に、これは坐薬でなくてもこういうお薬の使い方もあります、といった提案をするという仕事もやっています。
お薬をお渡しした後にできることは何か。在宅医療の中では、おうちで点滴をすることもできれば、医療用の麻薬を使うことも、もちろんできます。ただ、こういったお薬を使った後、どうやって捨てればいいのかといったことにお困りの方もいらっしゃいますので、そういった指導をさせていただいたりします。あとはお薬を使った後、その効果を連携している職種の皆さんにお知らせしたり、こうしたことに注意して皆さんで支援していきましょうとか、そういった情報のやりとりをさせていただいています。
がんということでは特に医療用の麻薬について、麻薬という言葉から、こわいと思う方もいらっしゃると思います。多くは誤解ですが、例えば麻薬を使うと寿命が短くなるとか、中毒になってしまうのではないかとか、そういった不安を多くの皆さんからできるだけ聞き取って、誤解を解いていけるアプローチができればと思っています。
こういった医療用麻薬とかお薬に対する誤解というのは、実は皆さんだけでなく、在宅医療に関わる医療職とか介護の皆さんにとっても、心配の種だと思っています。ケアをする側の医療職や介護職の方がお薬に不安を持った状態で接してしまうと、その不安は患者さんやご家族に伝播してしまうと思います。そういったことがないように、正しい情報を患者さん、ご家族、あるいはケアを提供する方たちにも出していくというのは、私たちの在宅医療における大事な仕事だと思っています。
松倉:薬剤師会でも訪問は増えているとお考えですか。在宅に出られる先生方は、薬剤師会の中でどんな思いを持っておられるのでしょうか。
黒滝:柏市薬剤師会の中でも、在宅医療に関する研修会を積極的に行っています。1件とか2件、小さな施設とか、そういったところから、皆さん少しずつ経験を重ねていきながら、薬剤師もきちんと地域医療の輪に加われるようにやっているところです。
松倉:先ほども申し上げましたが、訪問診療においては訪問看護師さんはとても大きな役割を担っています。ほぼ主役と言ってもいいくらい。柏市の訪問看護ステーション連絡会の会長をされている大熊智子さんです。
大熊:松倉先生がおっしゃってくださったように、私たち訪問看護師は皆さまの身近にいたいといつも感じています。ご病気になられると、ご本人さまだけでなく、ご家族の方も不安になって当たり前だと思います。そういう皆さんに寄り添えるように、私たちは支援していきたいと思っています。
例えば抗がん剤治療で通院中の方、不安がいろいろあると思います。副作用とかも出る。訪問看護師がおうかがいして医療的な視点で把握すること、必要なときには病院の先生と連携して、不安のひとつひとつを潰すということが、私たち訪問看護師の仕事だと思っています。
あとは入院中の方の、「おうちに帰りたい」をかなえてあげたいと、私たちは思っています。かなえるために、先ほどもお話がありました退院カンファレンスに、私たちが病院に出向き、入院中から関わらせていただきます。そういったことで、皆さんの「帰りたい」を支援して、自分らしく生きられるように、過ごせるように支援していきたいと思っています。
柏市の訪問看護ステーションは、27ステーションに増えました。どのステーションも、皆さんの「帰りたい」を支援しながら、知識と技術と心と、皆さんを支えるパワーが十分にあります。必要なときには、私たちは24時間365日つながることができますので、安心して私たちを頼ってください。
松倉:すごく説得力があるお話でした。患者さんが困ると、看護師さんに本音のところをかなり相談される。先ほどの患者さんも、困ったときにドクターだけでなく、看護師さんもいろいろ答えてくれる、「それが一番いいんです」とおっしゃっていました。最近、病院ともけっこう連携を始めています。
大熊:そうですね。退院前共同指導で、看護師が患者さんのために在宅のチームと一緒にうかがうのもそうですし、病棟の看護師さんと在宅の看護師さんが情報を共有しながら連携をしていくという面では、12の病院さんを回って、いろいろなセミナーを開いたりしています。
松倉:柏市では病院と在宅の垣根をなくすいろいろな取り組みをしていて、大熊さんも尽力してくださって、看看(看護師・看護師)連携をとっているのも、ひとつの特徴だと思います。
フォーラムの様子3
続いて柏市在宅リハビリテーション連絡会の会長をしておられる西田恭子さんにお願いします。リハビリについて、病院や医院から指示がないと動けないというのが一般的ですが、柏市はステーションだけで独立して動けるという特区の制度を持っています。その中で中心的にがんばっておられます。
西田:リハビリといいますと、どちらかというと元気を出しましょう、力を入れる練習、歩く練習で、ひょっとしたら、つらいと思っている方もいらっしゃるかもしれません。よくなるためにやるものだというお考えをお持ちの方も多いかもしれません。
先ほどのDVDの方もそうですけれど、おうちでこんなふうに暮らせたらいいなというお気持ち、患者さま並びに家族の皆さまのお気持ちがあって、より楽に、あるいはより安全に何かができるようにお手伝いします。私たちはお体の状態を見させていただきながら、「こういう形だったらうまくいくのではないでしょうか」といったアドバイスをしたり、福祉用品の導入とか、そうしたことを一緒に考える。ご本人の自立のために、何か身体機能を活かせるようなことをご提案するのを得意としている職種になります。
一般的な制度では、訪問リハビリテーションは病院とかクリニックさん、あるいは老人保健施設といった医療機関、福祉機関からしか出られません。柏市は地域活性化特別区域として、日本で唯一、訪問リハビリステーションという形で訪問リハビリを提供できる地区になっています。現在、4か所のステーションが稼働しています。訪問リハビリのステーションだけでなく、訪問看護ステーションとか、病院から出ているリハビリ専門職とか、そういったところと連携しながら、患者さんのおうちにうかがって活動しています。
松倉:がんに限らず、ご高齢になってくるとだんだん動けなくなる、できていたことができなくなる。これは大きなストレスですね。それを支える。特にがんの患者さんの場合はどうですか。
西田:がんの患者さんは、ある程度のところまでは動くことができるのですが、急激に、残念ながら衰えていく場合があります。その症状が進むときに、なるべく早くといいますか、適切にそのときの状態を把握させていただきながら、合ったものをご提案する。例えば今までは杖であったものが、車椅子かもしれないですし、車椅子ヘの移動も難しくなったときにはスライディングボードといったようなものを使うとか、いろいろな形でご提案をする。あるいは楽な姿勢のとり方をご提案することもあります。
松倉:ここまでは医療職の方たちでした。ここからは介護職と言われる、そういう区別をするつもりはないのですが、どちらかというと、ご本人の言葉を借りると「患者さんの生活を支える」、そういうお立場です。単にヘルパーさんに来てもらうのではなく、患者さんの生活そのものを支えるというところで活躍されています。柏市介護サービス事業者協議会の梅津直美さんです。
梅津:介護はヘルパーさんが来る、ヘルパーさんは何をしてくれるんだろう、幅が広くてよくわからないとおっしゃる方が多いです。何となく家事援助の延長かと思うところもあるでしょうけれど、実は身体的なお手伝い、食事介助、着替え、ご自宅での入浴のお手伝い、移乗介助など、ヘルパーは幅広いお手伝いをすることができます。
私たちは医療職の方たちのような専門的なことはできませんが、患者さまがご自宅に戻られて過ごしていく時間は生活なので、生活を24時間365日、どういうふうに支えて時間を過ごしていただくかを考えています。医療職さんたちの隙間、ご本人、ご家族たちの隙間をどういうふうに支えていくのかを考えながらやっていくのが介護の仕事になります。
ヘルパーさんは、曜日が決まっていて、時間が決まっていて、この時間に何々をしてくれる介護だよねというイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。今は定期巡回・随時対応訪問介護看護というサービスがあります。これは1回ごとの報酬ではなく、1か月まとめて定額の報酬になります。例えば病気をお持ちの方、進行性の病気の方、がんの患者さんは元気なときもあれば具合の悪いときもある、波が大きいと思います。そのときのリズムに合わせて、毎日訪問するか、1日に5回訪問するか、お元気になられているので1日1回の安否確認でいいのか、というように随時対応しながら、皆さまを支える。こういうサービスも今はあります。サービス、制度が変わっていきますので、いろいろ知って、私たちを使い尽くしてほしいと思っています。
松倉:打ち合わせでほかの先生とお話ししたのは、独居の方、ないしは二人とも高齢者の家庭には、やはりこういう介護の人たちがいないと、僕らも行けないよねということです。独居の方とかで、こんな工夫をしたとか、そういったことが何かあればお聞かせいただけますか。独居だと在宅は難しいと皆さん思っているので。
梅津:そうですね。正直、介護からするとお一人暮らしの方のほうがよほど対応がスムーズです。ご本人の気持ちをすごく尊重できる、それだけに私たちはどーんと向き合えるというか。ご家族がいれば、私たちができないときにやっていただけるとかいうのはあるのですが、いろいろな思いがある。お一人だと、私たちができることを取り上げないですむし、なんとか一人でいられるという本人の自信につながって、たとえ病気をしていても何をしていても、自分で過ごしたい所に最後までいたいという気持ちをちゃんと持ったまま過ごしていただける。一人暮らしだから、がんになったらどうしようという心配がほとんどいらない柏市ですよね。
松倉:心強い言葉、ありがとうございます。
先ほどもご講演いただいた、坂本はと恵さんです。
坂本:繰り返しになるかもしれませんが、この場をお借りして私が伝えたいことが2つあります。ひとつは病院の中でお金のことや生活のこと、それから家族のことをお話しするのは当たり前の時代になりました。皆さん、遠慮せずにおっしゃってください。
今までのお話で十分おわかりになったと思いますが、柏市医師会の皆さん、また柏市の行政の方々の働きによって、関係者同士の役割とか、その方たちがどこで何をしているのか、どの地域にどんなサポーターの方たちがいらっしゃるのか、熟知できるような時代になりました。「あなたの住んでいる地域にはこういうサポーターがいますよ」とお話できるようになっていますので、遠慮なくお声かけいただければと思います。
2つ目は相談の時期です。よくうちの緩和ケア医が講演するときに用いている「最善を祈りつつ、最悪に備える」という言葉があります。在宅療養のサポーターを利用するというのは、自分たちの役割が失われるような気になったり、何か悪い方向に行っているような感覚にみまわれるかもしれません。最善を祈るのはみんな同じで、私たちお手伝いする側もいい方向に行けばいいなと、すごく願っています。でも、がんの痛みとか呼吸苦が出てから、皆さんがそれまでの人生ですごく大事にしてきたこと、ご家族が大事にしたい、できると思っていることを聞くのは、とても大変なのです。
先ほどの患者さんのときは、先生が「背中を拭くのを看護師さんにやってもらったら」とおっしゃっていました。サービスとしてあるけれど、それを利用するかしないかは、皆さんが決めていいのです。ご家族でできること、ご家族では難しくてできないことをある程度聞きながら、サービスでお手伝いできるところは何なのかを一緒に考えて、いろんな職種の方々をおつなぎするのが我々の仕事なので、ぜひ皆さんのお声を早い段階で聞かせていただければと思います。
担当の医師が、ちょっと相談室に行ってみたらと言っても、いやがらずに来てください。皆さんの通われている病院、ほとんどの柏市内の病院には相談部門があります。どうしても相談部門がやっているような時間に行けないという場合とか、もっと身近なところはないかということでしたら、豊四季台団地の中に柏市医療連携センターというものがあります。そういったところもぜひご利用いただければと思います。
フォーラムの様子4
松倉:先ほどもありましたが、「相談したいと思ったときが、相談の時期」ですね。次は、医療であったり介護であったり、いろいろなサービスの調整をしてくださるケアマネジャー、柏市介護支援専門員協議会の会長の小林弘幸さんです。
小林:正式名称を介護支援専門員といいます。ケアマネジャーについて、すでに知っておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、軽く説明させていただきます。今までお話しされたような専門職の方を、家で療養が必要な方々に対して、入るタイミングとか、組み合わせとかを常に考えています。直接、治療に加わったり、介護をするわけではありません。組み合わせを考えて、その方がその人らしく家で生活できるように、プランをつくる人間です。
在宅医療に関しては、その地域でどのくらい在宅医療が進んでいるのかというバロメーターのひとつが、お一人暮らしの方ががんになったときに家で暮らし続けられるかどうかです。柏市の場合は、医療的には訪問診療の先生、あるいは訪問看護ステーションの数が増えました。介護の側でも定期巡回型訪問介護という切り札ができました。それがただあるというのではなく、このような形で連携して情報を共有しながら、利用者を支えるような環境になっています。
そういった地域でケアマネジメントできる幸せを感じながら毎日仕事をしているわけですが、この状況が全国的に同じような均一な状況になっているわけではありません。私はほかの市でも利用者さんを担当していますし、温度差は十分あるわけで、東葛北部地区、千葉県、全国へとこの形が広がっていけばと願いながら、毎日仕事をしています。
松倉:本当にいろいろなことでコーディネートされる、さまざまな情報を持っておられて、法律も含めて詳しい方です。
次は柏西口地域包括支援センターのセンター長をされている小野田光芳さんです。最近はかなり馴染みの言葉になってきた地域包括支援センターですが、柏には9か所あります。
小野田:地域包括支援センター、名前がちょっとわかりにくいですけれど、主に介護保険を使った介護に関する相談の窓口ということです。特に行政機関の窓口という位置づけもあるので、そこで介護保険の申請手続きをすることは知られているかもしれませんが、なぜこのフォーラムにいるのかということも含めて、お話しさせていただきます。
私たち地域包括支援センターは、まず地域で身近な存在でありたいということで、地域に根差した活動をしていきたい、またわかりやすい説明をしていきたいと思っています。今はインターネット上で情報がいろいろあふれていて、「その中でどれを選んだらいいのか」という相談があったり、「今日、がんと診断されて緩和ケアと言われて、よくわからないけど、地域包括支援センターに行ってくださいと言われて来たのですが、私はどうしたらいいんでしょう」とか。さまざまな情報とか、悩みを抱えた方が私どものほうにいらっしゃいます。
私どもは少なくとも、各センターの担当地域で今できることは何なのか。東京でできても柏でできないことは、情報としてあっても意味はありません。柏で何ができるのかということを皆さんにお伝えするのが、まず私たちの役割なのかと思います。相談のときに、今どんなことがしたいのか、いろいろな思いがあって、それでも制度の限界とか、できないことが、正直言ってあります。でも5年前にできなかったことが、今できるようになったりしています。
ここにいるメンバーもそうですけれど、柏のいろいろな関係者の人たちが知恵を出し合って、今できないことをできるようにと、すごく努力をしています。地域包括支援センターと名前はかたいので、堅苦しいところだと思われがちですけれど、ぜひ気軽に立ち寄っていただければと思います。例えばがんのような病気がある方ですと、センターまで来られないという方もいると思います。ご連絡をいだたければ、電話一本で私たちがおうちまで行って、ご相談をさせていただきます。迷ったとき、ぜひお気軽に地域包括支援センターにご連絡いただければと思います。
松倉:すごくいろいろな情報をお持ちで、この地域にはどのくらいの高齢者の方たちがいらっしゃる、この地域にはこういう在宅のいろいろなアクセスがあるとか、独居の方がどのくらいの割合なのかとか、全部知識を持っているんです。僕ら医療者もいろいろなことで相談しています。
最後に11人目の参加者として、東葛飾高校の医歯薬コース3年生の生徒さんに来ていただきました。なぜ、今回来ていただいたのか。柏市医師会や多職種の皆さんで東葛飾高校の医歯薬コースをいろいろサポートしていることもありますが、今回のタイトルを思い出してください。「がんになっても安心して住み続けることのできるまちづくり」。住み続けるということは、我々も年を取ります。柏の将来を支えてくださる生徒さんたちがつながっていかないと、この柏の地域が、がんになっても住み続けることができないのではないか。そういうこともあって、我々は東葛飾高校と指導も含めてやってきました。3年生の今田さん、緊張しているかもしれませんが、今日の話を聞いての感想とか、ご自身の夢とか、そういうことをお聞かせください。
今田:症例の紹介にもありましたが、患者さんが本当に在宅でも安心して幸せそうに生活していらして、このようなことが実現できるのは、医療職の連携での心強い支援によるものだと思うので、私自身も将来そのような患者さんを安心させられるようなケアをしていけたらいいなと思います。
私は看護師になることを考えているのですけれど、中学生のときに通っていた病院の看護師の方が「大丈夫だよ」という一言をかけていただいたのがきっかけでした。その当時は、学校を転校したばかりということもあって、体調のことも、周りの人間関係のことも悩みが多くて、とても不安だったのですけど、その看護師の方にそのように声をかけていただいて、とても救われた思いがしました。そういったことがあって、私自身も病気を治す上で、病気をみていくこともとても大切ですけれど、同時に精神的にサポートしていくことも大事だと考えています。将来、そのようなケアができたらいいなと思っています。
松倉:僕は授業に行っていて、自分が柏で命絶えるときに、この人たちに脈をとって「がんばりましたね」と一言、言ってもらえたらどんなに嬉しいかなと。やっぱり彼らはこれからの時代を担っていく人ですからね。ぜひ、がんばってください。
会場の方たちからいろいろご質問いただいたので、いくつか専門職の方にお答えいただきたいと思います。先ほども触れられたことで、「一人暮らしでがんになった場合どうなのでしょうか」「どの段階までうちで過ごし続けられるでしょうか」というご質問について、いかがでしょうか。
梅津:最期まで。最期までいられます。ご自宅で看取られた方がいらっしゃいました。ヘルパーさんに「私はここで死にたいんだ。私をここで看取ってくれなかったら化けて出てやる」と言われて、実際に第一発見者は訪問したヘルパーさんでした。きちんと連携が取れていたので、落ち着いて事業所に電話をして、訪問看護師さんに電話して、訪問看護師さんが先生に連絡して、先生がちゃんと来てくれて、そこでいろいろ処置とか手続きとかしてくれて、その方はきちんと家に最期までいることができました。すごいのは、電気屋さんが来たんです。どうしてかと思ったら、その方は前日にクーラーの調子が悪いから見に来てくれと電話をかけていた。そのくらいお元気だったんです。近くの民生委員さんもひょっこり現れて、前日の夕方に、明日遊びにこいと言われたから来て、そういう状況に遭遇された。すごいなと思いました。その方は本当に独居でした。最期までいたいと思えば、いられます。
松倉:希望されている方たちの気持ちがかなうということですね。
古賀:梅津さんのお話があまりに力強い言葉だったので、それ以上コメントすることはないかなと思いますけど、最終的にはご本人の気持ちです。「化けて出るよ」というくらいの気持ちがあれば、おうちで過ごすことができます。ただ、みんながそういう気持ちではないと思います。ご自身が決めていくことですので、家にいなければいけないということでは、もちろんないです。ただ「家にいたい」という強い気持ちがあれば、一人暮らしでも、これだけのサポーターがいますから可能です、ということです。
松倉:あとご質問を2つばかり。お父さまが胃がんで抗がん剤治療をされているという方から「精神的にかなり負担がかかっている。調不調がかなり厳しくて」ということ。ご自身ががん治療中で「再発が常に心配」という内容。精神的な部分だと思いますが、訪問看護師さんにうかがいましょう。
大熊:病気になられたということだけで不安、がんの治療の副作用で不安、不安だらけだと思います。どうぞ、そういったときには言葉にして出していただけたらと思います。言葉に出していただけると、私たちはいろいろな耳を持っています。いろいろな立場で助言をすることができます。ただ、言葉に出していただけないと、何を考え、何を苦しんでいるのかというのが見えない。坂本さんもおっしゃいましたけど、どうぞ私たちを信じて、何でもいいです、一言、何でもいいので言葉に出して話してください。私たちは支える力があります、こうやって連携もしていますので。
松倉:最後にひとつだけ。「訪問医療はどこに相談すればいいのですか」というご質問や「医療機関中心の相談の制度について」といったご相談があります。
小野田:豊四季台団地に柏市地域医療連携センターがありますので、そちらに相談していただく。あるいは地域包括支援センターに相談いただいても、地域医療連携センターとかと連携をとりながら、今どういう治療をしたいのかとか、疑問があると思いますので、そこに合わせて先生を紹介するお手伝いしています。そういう仕組みが柏市にあります。
松倉:地域包括支援センター、豊四季台団地の柏市地域医療連携センターでいろいろな、すべての職種のコーディネートもやっているようですから、ぜひご利用いただければと思います。
最後と言いましたが、もうひとつ。胃がんの患者さんから「治療に必要な点滴で副作用が出てきている」ということ。別の方からも、抗がん剤でしょうね「副作用で口内炎のトラブルとかが増えている」ということです。薬剤関係と、歯科のご質問ですね。薬剤師の先生からお願いします。
餅原:やはり抗がん剤に副作用はつきものになってくるかなと思います。抗がん剤に関しては、よく出る副作用があらかじめわかっている場合が多いので、抗がん剤をする前に支持療法といって、なるべく副作用を軽減するような方法がありますので、そういったものを事前にご相談いただくこともいいと思います。まさに口内炎というようなことがあれば、病院の先生とか薬剤師にご相談いただきたいと思いますが、お食事などはなるべく刺激のないものや、口当たりのよいものにする。あるいは、つらいのであれば思い切って1回治療をお休みしてみるとか、そういう対応が必要かと思います。
松倉:我々医師も、けっこう薬剤師さん、看護師さん、介護士さんからこういう状態ですという情報をもらって、逆に薬の治療を一旦休もうか、ということもあるようです。では歯科から黒滝先生。
黒滝:たまたま昨日の夜、古賀先生の別の患者さんから診てくれないかということで訪問しました。柏市のシステムで、夜のうちに連絡したら、今日、処方しますということができました。普通に白くなるような口内炎じゃないような口内炎だったり、白く口の中にカビがはえてしまうような口内炎だったり、赤くただれてしまったり、乾燥して痛くてしょうがないということは多いので、そうした痛みを緩和するためにうかがっています。
松倉:これだけ、それぞれの専門家の方が集まって一人の患者さんをみるという態勢をとっていますので、少し安心していただけるかなというのが、本音のところです。