がん医療フォーラム 出雲 2017/がん患者さんと家族を支える在宅療養について考える
【第2部】ディスカッション
ディスカッションの様子1
渡邊:皆さまからいろいろご質問をいただきました。山﨑さんからお話いただきました在宅療養とか在宅医療、そして在宅での看取りがなされるときには、どのようなやりとりがされるのか。具体的に出雲地域でどのような課題があるのか、仕組みがあるのかについてのご質問をいただきました。
患者さん、ご家族の意思決定
渡邊:花田さんから現場のお話をいただきましたが、実際に在宅医療ですること、あるいはやらないことをどのように考えていくのか。そういったことを専門的な言葉で「意思決定」と言います。ここで何かするとか、しないとかを決めるときには、意思決定をする、という言い方になります。医療者あるいは介護者、支援者が、患者さん、ご家族が決めるときにサポートすることを、意思決定支援と言います。この意思決定について、ご家族との関わりも含めて、島根県立大学看護学部・在宅看護論講師の加藤典子さんからお話いただきたいと思います。
加藤:山﨑さんのお話をうかがって、ご家族と在宅のケアチームが素敵な時間を過ごされたのだと思いました。私は看護職なので在宅のチームの中で在宅医療に関わる立場です。山﨑さんのお話から、本当にその人の生活を豊かにするための支援を中心に考えられて、支援をされていたのだろうと感じました。ご本人が当たり前の生活を送れるということ、日常生活を大事にされた。またご本人が自分自身であること、自分がやりたいことをできるようにということ。さらに確定診断されたときから、医療者とどのような最期を迎えたいかということを考えながら、ご家族と在宅のケアチームと一緒に考えてきた結果ではないかと思っています。
もちろんつらいこと、身体が苦しいこともあったと思いますが、それを医療という形で軽減する支援をされたからこそ、安楽に過ごすということができたと思います。苦痛がないということで、やりたいことを考えられたりとか、生きることも大切な支援だと思っています。ご家族への支援もあったと思うので、そのあたりで安心感があったから、最期までやりきったということもあると思います。
病気になったときに私たちは医療従事者として関わりますが、病気になった方の生きてきた日々を知ることが、人生の最期に関わる医療従事者として、とても大事ではないかと思いました。在宅療養、在宅医療をするにあたって、ご家族とご本人はいろいろなことを決めなければいけない。家に帰るか、どんなふうに生活するか、どんなサービスを受けるか、最期をどこで迎えるのか。その意思決定に関して、希望とか考えとかはあるでしょうが、やはり気持ちも揺らぐと思います。入院のままでいいのではないか、自宅のほうがいいのかなと。その気持ちの変化を受けとめて、寄り添っていくことも大事ではないかと思いながらお話を聞きました。
大切にしたいのは、在宅の看取りというのは死への援助ではなくて、最期まで生きる力を支えるということが大事ではないか、ということです。「生きることを支える」のが在宅での看取りと考えています。私たちもそうですし、ご家族もそうですし、一緒に考えられたらいいと思います。
先日、聖路加国際病院の日野原重明先生が亡くなりましたが、日野原先生は「命というのは自分たちの持っている時間の証」だとおっしゃっていました。時間の証をどんなふうに大切にできるかというのも、一緒に考えていけたらいいだろうと思います。人生の最期というかけがいのないステージで、そこに立たれた療養者とご家族が少しでも和らいで、心温まる時間を過ごすことができるように、私たち医療従事者、介護スタッフ、ご家族の方や地域で一緒に過ごしておられる方も含めて、一緒にできることは何かというのを考えられるといいのではないかと思います。
ディスカッションの様子2
在宅医療の最初のステップ
渡邊:皆さんからのご質問について、登壇いただいた方たちにお話しいただきます。在宅の看取りや在宅医療を考えているときに、どのようなやりとりが最初にされるのか。ご家族なのか、ご本人なのか、あるいは医療者なのか。どういうふうに話をすればいいのか。いつ、誰が、誰に話をすればいいのかという、やりとりに関するご質問が多くありました。在宅医療のとっかかり、最初のステップについて伺います。
まず、私自身は大学病院で診療していますが、患者さんには、ある日突然急に言われたということではなく、なるべく早い時期に、例えば診断された時期から今後のことについて、少し頭の隅に入れておいていただくような話をすることがあります。それは、看取りということだけではなく、これから治療をやって、もちろん最大の治療効果を期待するのだけれど、治療の効果がないということも起こりうる。いろんな選択肢を考えるということをお話します。そこで患者さんから不安があれば、今後のことについて、在宅での緩和ケアについてもお話します。
河原:さきほど、こうしたいことより、したくないことが重要だとお話しましたが、まず自分の病気がどういう状況なのか、どう思っているのかを確認します。がんの末期だと思っているのか、まだ治療があると思っているのか、まだ余命があると思っているのかを確認してから、今後どう過ごしたいのかを聞きます。そういう会話のキャッチボールをしていきます。どう過ごしたいですかと言うと、元気になりたい、治るのが一番だと言われれば、そうですねとしか言えません。もう一つ、これだけは避けたいとか、これだけはしたくない、そういうことはありませんかと、変化球ですが、そういうことを質問しながら、ニーズというか、患者さんの考えを聞き出すことが多いです。
花田:在宅医療に移行するきっかけはいろいろあると思いますが、がんの方の場合は、最初は病院で診断を受ける。私は在宅医なので依頼を受ける立場ですが、病院の先生が最初に診断をされたときから、今後のことはどうすればいいのか、少し考えておいてくださいねとお話しいただいていると、ありがたいと思います。というのは、在宅医療の依頼を受けるときによく思うのですが、もっと早く在宅につないでくれたら、もっと家で過ごす時間が長くとれて、もっと家でいろんなことができることを支援してあげられたのにと思うことが多いのです。
元気なときから、診断されたときから、ご自身のこととして、例えばトイレに自分で行けなくなったらどこで過ごしたいのかということを聞いてみるのもよいかもしれません。最期をどこで過ごしたいですか、どこで死にたいですか、みたいな聞き方をすると生々しくて、すごく拒否感を示される方が多いです。そうではなくて、ご自分で動けなくなったとき、ご自分でトイレに行けなくなったときにどこで過ごしたいですかというふうに、病院の先生にも聞いていただきたい、ご自分でも考えてほしいなと思います。
今田:病院の医師の立場から発言させていただきます。河原さん、花田さんのお話にもありましたが、がんの場合は最期、病状の変化が早くなるという一般的な経過を頭に入れておくことが重要かなと思います。心不全とか腎不全とか老衰とかいう場合は、低くなってから最期までが緩やかなので、準備する時間があるかもしれません。がんの場合は最後まで歩けたり食べられたりしますが、最後の3週間とかでぐーっと早くなっていきます。そのスピードの最初の頃をとらえて、最期を家で過ごしたいかということを、いいタイミングでご本人に伺うことが重要だと思います。
ご本人がそのときにどのように過ごしたいのかは、いよいよその場になった時に決めるのは難しかったりします。ですからその前の段階で、できれば元気なときから、こういうふうに過ごしたい、あるいは河原さんがおっしゃったように、こういうふうには過ごしたくない、と何かのタイミングで話しておくのがいいのではないかと思っています。
森口:行政からはなかなか答えづらいところはあるのかなと思いますが、やはり本人の選択と希望、本人とご家族の心構えというのが非常に重要なのだろうと思っています。在宅医療に移行する際にはいろいろと相談することがあると思います。病院で治療していて、今後在宅につなげていくというような話であれば、病院には地域連携室のようなところがあります。そういったところには、医療ソーシャルワーカーや、看護師さんがいらっしゃいますので、ご相談いただければと思います。通院中であれば、かかりつけの先生にご相談していただければと思います。
いろいろと症状があると思いますが、介護保険などの申請などが必要であれば市役所のほうでも受け付けますし、ケアマネジャーさんという、在宅医療を行う上ではキーとなる方がいらっしゃいますので、そういう方に相談していただく。そして在宅医療に移行することを相談しながら、ケアマネジャーさんをきっかけにして、いろいろな職種の方々が在宅医療を受ける上で支えていただけると思っています。そうした形でいろいろな場面に応じて、相談していただければと思います。
山﨑:患者の側からしますと、さきほど花田さんがおっしゃいましたが、早くつなげてほしいというのが実際にあります。自宅に帰ってから、本当にがんというのはどんどん悪くなるので、足がまだ立つうちに、病院に車椅子で行くようになった時点でそういうお話が聞けていたらと思います。最後、父の希望は家のお風呂にザブンと入りたい、ということでした。そういうことをかなえてあげるために、もう少し早い段階で帰ることができ、そういう態勢ができていれば。私たち受け入れ側がそこまでわかっていませんでした。病院に行くのすら大変になるので、在宅で家に診療に来ていただいて、レントゲンも受けられたし、酸素ももちろんできたので、在宅につないでいただけるのが早いとありがたいなというのは感じます。
加藤:私は前職が訪問看護ステーションですのでその立場から話をさていただきます。やはり花田さんと同じように訪問看護も、看取りの時期にきたから訪問看護を入れてくださいという形で、本当に凝縮した形で5日とか1週間とか、一緒に支援をしたりということがあります。その前の段階、在宅に移す前にまだ動けて外来に通っておられるときに、「そろそろおうちでどういうふうに過ごすか考えませんか」とお話してみる。まだ病院の先生にかかりたいというのであれば、病院の先生から指示書をいただいても構わないのです。在宅療養の中で、一番一緒に考えることができるのはたぶん訪問看護ステーションの看護師だったり、ケアマネジャーだったりします。けっこう元気な、身体が動かなくなる前のところでつないでいただけると、きっとより豊かな生活を送れるための在宅が過ごせるのではないかというように思っています。
渡邊:在宅といっても、例えば在宅での生活のイメージですね。例えは、お風呂にザブンと入りたいとか、温泉に入りたいとか、野球の観戦がしたいとか、お孫さんと一緒に過ごしたいとか。先ほども山﨑さんにたくさんの写真で在宅のイメージをお示しいただいたのですが、おそらくご自身、ご家族がどんな在宅のイメージを抱いていらっしゃるのかということを、やりとりをしていく中で、お医者さんや看護師さんにお話をしたりとか、ケアマネジャーさんにお話をされたりとか、あるいは行政の方に相談するとか。そういった中で、ご自身あるいはご家族の方ともやりとりをしていただくと、そこから実際のサポートにつながることがあると思います。まず最初のとっかかりを持っていただくのがとても大切ではないかと思います。
本日の資料の中に島根県立大学看護学部の阿川啓子さんがつくられた「こどもに迷惑をかけない!幸せな在宅介護」という、漫画を交えてわかりやすく、がんに特化したものではなくて、在宅についてのイメージをお示しいただいている冊子があります。これについて阿川さんにご紹介いただきます。
阿川:私は島根県立大学で在宅看護論の講師をしております。このフォーラムの前段として、「いきかたカフェ」とか一般の人たちと集まってお話をする機会をつくって、毎月お話をしていました。その中で、がんには限らず、もう少しいい看取りの仕方だったり、見送りの仕方ができるんじゃないかというお話を聞きました。また、家族に迷惑をかけないためにどうしたらいいかわからなかったとか、私の友だちからも子供に迷惑をかけたくないとか、出雲市のアンケートの結果と同じようなことが語られていました。
そのことを踏まえて、在宅介護を考える入り口として、漫画仕立てでみんなにわかってもらえるようにと、この冊子をつくりました。医療従事者の方が見られたら簡単すぎるかなと思うところがあるかもしれませんが、私は皆さんの話を聞いて、まずケアマネジャーさんのところにつながったら、いろいろな案を出してくれると強く思っています。ですので、ケアマネジャーの役割も紹介しています。この冊子を参考にして活用してもらえたらと思います。
渡邊:皆さんからのご質問で、在宅医療とか在宅介護とかについて、なかなかイメージがわかないというご意見をたくさんいただきましたし、出雲地域での現状の課題についてたくさんご質問いただきました。時間が限られていて、すべてのご質問にお答えできませんでしたが、がんの在宅医療や在宅療養について、本日の講演やディスカッションから、具体的なイメージを持っていただけたのではないかと思います。知りたいこと、わからないことがあったら、まずはきっかけをつくっていただくことが大切だということを知っていただけたと思います。医療関係者の方、そして将来を支える学生さんたちと一緒にやりとりができたということで、5年後、10年後の出雲地域における在宅療養について考えるきっかけになればと考えております。