靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

五志穢神

『太素』巻二十一・諸原所生(『霊枢』九針十二原)
猶汗也
楊上善注:五志藏神 其猶汗也
 上は缺巻覆刻『太素』の飜字だが、「汗」が「汙」の誤りであり、つまり『霊枢』の「汚」と同じとは、言うまでもないことだと思う。
 今、問題にしたいのは楊上善注中の「藏」、この字は「穢」の誤りである。画像の上はこの部分の文字であり、下は巻二・陰陽大論「故壽命無窮,與天地終,此聖人之治身也」に対する楊上善注「虚無守者,其神不擾,其性不穢」の「穢」である。上の字には若干の剥落が有るが、両者は同じ字と見て良いだろう。
 日本人の感覚、知識では、ここで「五志藏神」は理解しがたい句だと思う。中国人が気にしないのは何故か。現代中国語音で、声調は異なるものの、同じくzangと読む「脏」(髒)という字が有って、「不潔である、汚い」という意味であることが、すぐに頭に浮かぶからではなかろうか。しかし、ここは「穢」という文字が使われた可能性に気付くべきだと思う。
 『黄帝内経太素校注』で、「汙」は「汚」と同じであると縷々説明し、『説文』の「汙,薉也」を引いて、薉の後にわざわざ(穢)などと示しながら、「藏神」が「穢神」であることにふれないのは、むしろ滑稽に思える。
 とは言うものの、私にしても「穢神」であることに気付いたのは、杏雨書屋の原本を目にした後のことである。やはり、原本からの影印は有らまほしきものである。

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