靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

不可説

大戶自從收用金蓮之後,不覺身上添了四五件病症。端的那五件?
第一,腰便添疼;第二,眼便添淚;第三,耳便添聾;第四,鼻便添涕;第五,尿便添滴。
還有一樁兒不可說,白日間只是打盹,倒晩來噴涕也無數。
 このとき張大戸は年約六旬之上で、潘金蓮は年方二八だったから、この病症の原因はまあ想像がつくけれど、こうしたまとめがどの書物によるものかは分からない。『水滸伝』にはなくて『金瓶梅』にだけ有る段落だから、笑笑生の見ていた書物なんだけれど、その笑笑生の正体が分からない。さらに分からないのは「還有一樁兒不可說」、そんなに意味深長な話かねえ。

 この他にも、金蓮の艶姿を描写した文章に似たようなことが有る。
但見他:黑鬒鬒賽鴉翎的鬢兒,翠彎彎的新月的眉兒,清泠泠杏子眼兒,香噴噴櫻桃口兒,直隆隆瓊瑤鼻兒,粉濃濃紅豔腮兒,嬌滴滴銀盆臉兒,輕嬝嬝花朶身兒,玉纖纖葱枝手兒,一捻捻楊柳腰兒,軟濃濃白麵臍肚兒,窄多多尖趫脚兒,肉奶奶胸兒,白生生腿兒,更有一件緊揪揪、紅縐縐、白鮮鮮、黑裀裀,正不知是什麽東西!
 この朱にした二十四字を、中国図書刊行社の戴鴻森新校点本ではわざわざ刪去しているけれど、そんなにやばいこと書いてありますか。やっぱり我々の感受性が鈍くなったんですかねえ。

 『金瓶梅』はポルノのように言われるけれど、こんな程度なんですよ。今読んで楽しいのは、描写の細部だと思うんです。どんな衣装を着て、どんな御馳走を食べて、どんな酒を酌み交わす。いや、細かいこと細かいこと。清代文人の趣味生活の教科書として『長物志』というのが有るけれど、これは明末のそれの、しかも小説版という感じも有るんです。小説としても勿論おもしろい。ときに房中の些事にもわたるけれど、なにせ何かにつけて精力旺盛な西門慶の行状をこと細かに描写するんだから、それはたまにはそっち方面にもふれる必要が有ろうというものです。

 医者も結構よく登場し、ひょっとすると作者の医学知識もそこそこ以上なのかも知れない。これは『紅樓夢』の場合も同じですが。蒋竹山という医者が李瓶児の脈を診て、「娘子肝脈弦出寸口而洪大,厥陰脈出寸口久上魚際,主六欲七情所致。陰陽交爭,乍寒乍熱,似有鬱結於中而不遂之意也。」中ってますよ。問題は岩波文庫にも入っている著名な学者による日本語訳のほう。「奥さまは肝脈の弦が寸口にあらわれ、そのうえ洪が大きくなり、またその陰脈が寸口にあらわれ、それが魚際まで伸びております。これは主として六欲七情から起こるもの。陰陽たがいに争い、そこで寒かったり暑かったりいたします。どうやら、中に結ぼれて遂げられぬ思いがおありのご様子。」ね、酷いもんでしょう、特に「その陰脈」なんて噴飯ものですよね。専門外の翻訳というのは恐ろしいですね。でもね、厥陰の経脈って、どうして厥陰なのかと考えると、ひょっとすると「その陰」なのかも知れないんです。足厥陰経脈の是動病が陰疝であり、つまり足厥陰経脈は前陰の脈であるというのは、黄龍祥さんの考証によってほぼ決まりでしょう。とすると、厥陰ということばは、大小便を前後と言ったりすると同様に、はばかって「その陰」と言ったんだ、という可能性も有るわけです。

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