靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

日に従い 之の声

旧鈔本の『難経集註』が届きました。
いや,「異体字や俗字が甚だ多い」です。『太素』もすごかったけれど,これもそれに劣らず夥しい,すさまじい。
例えば一難の呂註「其時自春分節後到夏至之前九十日」云々の「時」字は,左が月,右が之に見えます。さらにフリガナが有ります。だから,今は台湾の故宮博物院に蔵されて,最近まで黄龍祥さんが最善といっていた影古鈔本では「脉」に誤っています。「夏」も上半分が「丶」に省略されています。

でもね,この月に之の字,案外と由緒正しいのかも知れない。月はまあ日が筆の勢いで変形してしまったのだろうが。
「時」は『説文解字』では,「日に従い,寺の声」です。そして「寺」は「寸に従い,之の声」です。また,「時」の古文に「旹」というのが有って「之と日に従う」けれど,徐鍇の繋伝には「日に従い,之の声」なんです。寺の上部の土も,旹の上部の㞢も,之も元々の形は同じなんです。だから,「時」も「旹」も,日から構成され,之が音という点で,結局は同じなんです。で,大多数の漢字では,構成要素が上下に重なろうと,左右に並ぼうと同じなんです。だからここの日に之の字も,デタラメじゃなくて古文なのかも知れない。残念ながら,そうした実例は見つけてませんがね。
それにしても,中国の簡体字は,どうして「寸と日に従う」ことにしたんだろう。『竜龕手鏡』に載ってはいますがね,その少し前に誰かが間違っただけのこと,じゃなかろうか。

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菉竹
異体字字典に載っています。『難字・異体字典』(有賀要延 編輯)

具体的には、「異体字研究資料集成」第五巻所収の『省文纂攷』(松本愚山編、享和三年刊)にあるようです。

ちなみに「日+寸」も『難字・異体字典』に収載。
2010/08/16

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