靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

喜忘苦怒善恐

井上雅文先生の『鍼灸師の医学を目指して』に紹介されているということで、上海の段逸山教授の『古医籍詞義弁別法』をぱらぱらとやっていたら、第八章・詞語関係の弁別の三、詞語の同異に:
狂始生,先自悲也,喜忘苦怒善恐者。得之憂飢。(『霊枢・癲狂』)
「喜」、「苦」、「善」は何れも「多く」と解釈する。……何れも形容詞に属する。
とありました。別にこの説明に文句をつけるわけではないけれど、これに相当する仁和寺本『太素』巻三十の驚狂は下の画像のようなんです。

驚狂.jpg
これって「憙忘喜怒喜恐」じゃないですかね。『太素新新校正』では「憙忘」をうっかり見逃して「喜忘」にしてしまったけれど、楊上善注中は「喜忘」の可能性が高いから、見逃して正解だったのかも知れない。それに「喜忘」は『太素』にしばしば出てくるが、「憙忘」は他には無さそう。そもそも「憙」字の用例が無いんじゃないか。
文字は異なるけれど、同じ意義に解す例というより、むしろ「喜」と「善」はしばしば書き誤られる例とするに相応しいような気がする。
また、『文語解』には:
善(よく)古文の法この字を動(ややもすれば)の意に用ゆ……岸善崩 師古注言憙崩也……倭語の「よく」にて能通ず動の意毎の意屡の意を含めり詩の女子善懐も同義なり猶多也の注は的當ならず
喜(よく このんで)通じて憙に作る……「このむ」の義よりして「よく」の義となる故に上の善崩を憙崩と注せり

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