靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

『太素』に「炅」字が登場するのは8度ほどであるが,楊上善は5度にわたって音義を注記している。彼にとっても,あまりなじみのない文字だったということだろう。
 02九氣「炅則腠理開氣洩」楊注:炅,音桂,熱也。
 16脈論「炅至以病皆死」楊注:炅,音桂,見也,此經熱也。
 23雜刺「盡炅病已也」楊注:炅,音桂也。
 24虚實所生「乃爲炅中」楊注:炅,熱也。
 27耶客「得炅則痛立已矣」楊注:炅,熱也。
いずれも音はケイで,『太素』においては熱の意味だという。脈論の注に「見也」(新校正は「兒也」に作るが,「兒也」などという字書は無さそうである。「兒」は,実際の原抄では目を横倒しにした「見」にも見える。)とするのは,字書などに拠った常識ではそうだというに過ぎない。こうした一般的な訓詁と,その場での意味を併記する例は,巻2調食にも「涘,音俟,水厓,義當凝也。」というのが有る。
『説文』には「見也」とあるが,段玉裁は「考えてみると,この篆義はよくわからない,『広韻』に光也に作るのがこれに近いようだ」という。おそらくは「光」が正しい。異体字の「灮」は,確かに「見」に誤りやすかろう。
それにしても熱の意味の「炅」でも,音桂なんだろうか。
今まで『太素』における「炅」は,実は「熱」の六朝ころの異体字で,だから音はネツだと思っていたけれど,そうでもないのかも知れない。岩波文庫『老子』第45章「躁勝寒靜勝熱」の蜂屋邦夫氏注に,
「熱」は、楚簡は「然(ぜん)」、帛書甲本は「炅(けい)」とする。意味は同じであるが、次句の「正(せい)」と押韻する点からいえば「炅(けい)」がよい。
とあった。

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