靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

荊カウタク水

『黄帝内経明堂』新校正に,「荊巫滀水」を説明して,「荊は古九州の一つで,今の湖北、湖南、四川、貴州四省の交界の処に位置する。荊巫は巫水を指し,今の湖南省城歩県に在る」と言うのは,まあ妥当だろう。しかし,永仁本の巫の右にカウ,滀の右にタクと注記が有るのはどうしてくれる。滀は『広韻』に丑六切だから,似ているとは言える。しかし巫は武夫切であって,カウとは違いすぎる。按ずるに,長江上流には古来航行の難所として知られる三峡が有る。その一つを巫峡とする。あるいは抄者は,巫を夾と誤ってないか。夾なら『広韻』に古洽切,まあ似てはいるだろう。峡なら侯夾切。ところで,前田尊経閣の文永本にもこれらの注音は有るけれど,肝腎の巫は,一の下に从,その下に工という,妙な形に書いている。ひょっとすると,抄者はこの文字を,単純に音工の文字と考えたのかも知れない。工は『広韻』に古紅切である。まさかとは思うけれど,これが夾の異体字ということはないよね,と。ところが,この妙な字形,『異体字字典』(李圃主編・学林出版社1997年)に巫の異体字として載っていて,敦煌歌辞総編507頁と注記が有りました。やっぱり,抄者の誤解のようですね。「荊峡滀水」の夢はついえました。

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